人の服を勝手に着たら罪になるの?弁護士に聞いてみた
人物紹介:横山弁護士 LIGの顧問弁護士。前に薬事法や医療広告ガイドラインが絡んだ “骨の折れる” 記事広告へ出演依頼をしたところ、文字通り骨折してきた。 |
ーと、いう状況なのですが僕って何か罪に問われるんですかね。
この事案は、「窃盗罪」に問われるかが争点となるのですが、窃盗罪は基本的に故意犯(※自らの行為の犯罪性を自覚した上で行う犯罪)を前提とするため、
本当にフリースをチームの所有物だと勘違いしていたのであれば “過失” となり、本来これに該当しません。指摘されてすぐに謝罪してますしね。あくまで、ツベルクリンさんの言い分が事実であるという前提ではありますが。
ただ、もし、しょごさんや他の誰かのフリースだと認識した上で「あとで返せばいいや」と高を括っていた場合、窃盗罪の可能性が出てきます。
ー??
この場合、窃盗罪の主観的要件として「不法領得の意思」(ふほうりょうとくのいし)の有無が問題となるでしょう。
この不法領得の意思は、裁判例によると
(1)「権利者を排除して他人の物を自己の所有物」と同様に振る舞う意思(排除意思)
(2)「経済的用法に従い利用・処分する意思」(利用意思)
を含むものとされています。
ものすごく簡単に言うと、他人のモノを完全に自分のモノとして使おうと思っていたり、無断で取ったモノを本来の使用方法で使おうと思っていると「窃盗罪」になるということですね。この事案では、(1)の意思の有無がポイントとなります。
一時的に使用して後で返そうと思っているのであれば、自分の所有物として使おうとは思っていないはずなので。
ここまでは分かりますね?
ー???
本来、後に返却するつもりならば、先ほどの(1)の意思がないため窃盗罪は成立しないと考えられます。ただ、(1)の意思の有無というのは、様々な事情を考慮して判断されることから慎重に考えなくてはいけません。例えば、考慮される要素として
ⅰ)財産の価値
ⅱ)使用時間
ⅲ)本来の所有者の妨害程度
ⅳ)所有者との関係
などが挙げられます。状況をお伺いし、まとめると
- ⅰ)財産の価値
→自動車や高価な腕時計などと違い、財産の価値は低い
ⅲ)本来の所有者の妨害程度
→2週間後に初めて紛失に気づいているため、妨害の程度は低いⅳ)所有者との関係
→全く関係のない第三者ではなく会社の同僚であり、関係性も悪くない
以上の状況から、本事案に関して不法領得の意思がないと判断され、窃盗罪が成立しない可能性が高いと言えます。いずれにせよ、ツベルクリンさんが罪に問われることはなかったと思います。よかったですね。
ーありがとうございました。