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2013.09.19

プロライターが考える、「デキるメディア担当者」に共通する5つのポイント

森川直樹

LIGブログ読者の皆様、こんにちは。業界歴が二桁以上のライター森川です。

業界歴が二桁以上だからと言って、別に何の自慢にもなりませんが、要するに10年も20年もこの仕事をしてきたので、おかげで膨大な数のメディア担当者と関わってきました。最初は紙媒体ばかりでしたが、今ではWEBが中心になり、様々な場面で活動しています。

今回はそんな「ジジイ」ライターだから感じられることを、お話していきたいと思います。

まずは考えたい。そもそも「メディア担当者」って誰のこと?

デキるメディア担当者の話に入る前に、「メディア担当者」の定義について考えたいと思います。なんてったって「メディア」というものに関わる人が急に増えた今の世の中。一言で「メディア担当者」と表現しても、それが誰なのかがわかりづらくなっているので。

  • インターネット上のWebコンテンツに仕事で関わっている人
  • 雑誌や冊子、チラシ、ポスターなど紙の印刷物に仕事で関わっている人
  • FacebookやTwitterなどの”中の人”を仕事で担っている人

……エトセトラ、エトセトラ。みんな、みんな「メディア担当」と言えますよね。

広告代理店のクリエイティブ室の人、制作プロダクションの人、といった専門家だけじゃなく、一般企業の広告部とか広報部の人も「メディア担当者」。一見、メディアとは無縁に見える人事部の人だって、新卒採用のためのサイト作りとか、志望者に配布する冊子作りを指揮していたりします。企画をするのが本業だった会社や、そういう部署にいた人たちも、最近では「企画プランだけじゃなく、実際のコンテンツも作ってよ」と言われる機会が増えているんじゃないかと思います。もちろん「制作に関わる」というだけならば、昔からあった仕事だけれど、今はその関わり方の深さが違う。

専門家ではない人もメディア担当者になれるからこそ

今やメディアは「専門家集団にしか作れないもの」ではなくなったから。インターネットが進化して、誰にでも簡単にコンテンツを作れるようになった。おかげで、一般企業の人でも直接メディア制作のプロデューサー役をやる機会が増えたのではないかなと思います。少なくとも長年ライターをしている私のところには、一般企業から直接届く仕事の依頼が増えています。ここ数年で急速に増えています。

そこで、最近気になり始めているのが「いいメディアを作る秘訣」ってのを教わる機会が、ないんじゃないのかな?という点です。上に書いたような世の中の変化って、いつの間にか起きていましたから、多くの人がなしくずし的に「担当者になっちゃった」のではないでしょうか?実際、私が関わっているメディア担当者さんの中でも、親しくなった人たちは言います。「何もわかってないから、ドキドキしながら、ビビリながらやってる」と。

そりゃあそうです。

ほんの少し前、テレビ以外のメディアの大部分が「紙」でできていた時代には代理店や新聞社、出版社に「そのための教育を受けてきた」専門家がいた。そういう人がやっているのと同じ仕事をいきなり「やれ」と言われて、すんなり同じクオリティで出来るはずがないのです。「いつの間にかやることになっていた仕事」だけに、「そういう仕事をしなくてもよかった世代」の上司や先輩に「秘訣」を聞いても、答えは得られません。でも……やらなきゃいけない時代なんですよね。プロの水準にならなければいけないんですよね。「じゃあ、なりましょうよ」というのがこのブログを書いた主旨です。

「メディア担当者」と「編集者」

じゃあ、かつて出版社などで教育を受けてきた専門家は、どう呼ばれていたかといえば「編集者」です。

それじゃ、編集者の仕事って何なのか?実はこの問いに答えられる人は案外少ない。ライターなら「文章を書く人」、カメラマンなら「写真を撮る人」というようにとってもわかりやすいのに「編集者の仕事」となると不透明なんですよね。そのワケは簡単。単機能な職種と違って「何でも屋さん」的性質が強いから。やらなきゃいけない仕事が山のようにあるんです。ざっくり並べてみると、こんな感じ……。

  • 作ろうとしているメディアのグランドデザイン(大まかな企画)を描く
  • いつまでに何をしなければいけないか、という工程をプランニングして管理する
  • この工程を遂行するために、どんなメンバーが必要か考え、キャスティングする
  • そのメンバーを集めて、役割分担をしつつ、企画を細部まで練り上げる
  • どんなデザインにどんな文章とビジュアルを盛り込むか、についても中心になって決めていく
  • 取材や撮影に同行し、企画の意図から外れないように監督する
  • メンバーが持ち寄ったデザインや文章やビジュアルを精査して「これでOKかどうか」を意思決定
  • スケジュールに遅れが出ないように完成までの制作工程を最後まで管理する

ざっと書き上げただけでも、こんなにやるべきことがある。しかも、一般企業で「メディア担当」になった人たちは、複数のコンテンツやメディアを1つの共通の目標のために束ねていかなければいけません。

例えば「いい人材を採用する」を目標にしている人事のメディア担当者ならば、自社の採用サイトの内容を練り上げ、志望者に配る印刷物の内容とも連動させ、就職雑誌に掲載されるインタビュー記事についてもトーンやクオリティ、メッセージ内容を戦略的に揃えていくことが求められます。こうなると、もうただの「編集者」のレベルではありません。そう、「編集長」なのです。

「編集長」はつまり、現場監督とかプロマネ、ディレクターとかプロデューサーってことになりますね。こうした肩書きの人たちと同様の立場ということです。「なくてはならない存在」「中軸」「リーダー」。しかも、「目標が達成できたかどうか」という結果責任も問われます。「結果として自社サイトのビューはどれだけ増えたんだ?」「Facebookページの『いいね』は今どれくらいだ?」「採用サイトを通じて、何人の新人が採用になった?」……その責任者がメディア担当。たいへんですよね。給料上げてほしいですよね。

デキる「編集者」とは、例えばこういう人たち

さて、前置きが長くなりましたが、ようやく本論です。
まずは私がこれまでに出会った、プロフェッショナルな編集者を紹介します。

人気の男性ファッション誌でかつて編集長も務めていた人

有名な雑誌だから、それなりに業界で実力を認められている人たちがスタッフとして集まります。でも、この人が担当する特集ページの現場では、そういう実力者たちがなんともユルいムードでのんびり構えていました。なんでユルい空気になるのかといえば、皆がどういうページにするのかを理解できていたから。撮影当日とかインタビュー当日になったというのに「どうする?」という疑問がいっぱいあればカメラマンやライターはピリピリしがちなんですが、この編集者はそれまでの間にきっちり皆とコミュニケーションをして方向性を共有する人だったので、そうならないわけです。ぱっと見、キレ者には見えない普通のオジサン。偉そうな素振りもしない。くだらないジョークを言いながら現場の作業は淡々と進み、やらしい業界ノリの気取った会話もないまま、さらっと解散。それで毎回面白いページを作っていました。

社会問題に独自の視点で切り込んでいくオピニオン誌のデスクをしていた人

この人も、テレビドラマに出てくるような「オシャレなクリエイター」「眼光鋭いジャーナリスト」的ムードはゼロ。やっぱり普通にどこにでもいるオジサンでした。いわゆる報道系、問題提起系の記事を扱うので、デザインや写真はさほど重要ではなく、この編集者と私の2人でたいていのことをこなしましたが、大きな方向性を話し合った後はすべて任せてくれる人でした。それでも、「ここまでこの話が見えてきたなら、思い切って○○さんにも取材をかけちゃいませんか」みたいなアドバイスを時々くれる。それが、すごく的を射た助言なんです。文章についても、細かなことはゴチャゴチャ言わない。「てにをは(助詞のことです)だけ、ちょっと私がイジっちゃいますけどいいですよね」と言う程度。でも校正刷りを読むと、見違えるほどキレイな文章に変わってる。文章の大部分は私が書いたまま。本当に「てにをは」を変えただけなのに……。後から知って納得しました。この人は年1000冊レベルで本を読破する「読書の鬼」だったのです。「読むプロ」となることで、文章の善し悪しを見分けられるようになっていたのだと思います。

主婦向けの老舗総合誌で副編集長をしていた女性

この人は文化と教養に精通した人でした。いい文章とダメな文章、いい写真とダメな写真をちゃんと見分けられるように、日ごろから世界中の雑誌や広告や小説、あるいは映画や舞台や建築にまで触れて感性を磨いていました。「先月観た映画にこういうシーンがあったのね、で、今回の写真にもそのアイデアが使えると思うの」とか、「○○さんの小説読んだことある?あの人みたいな書きクチってわかるかな?ああいうテイストの文章にしない?」とか、「ねえねえ。この記事見てよ。すごくない?見出しとタイトル見ただけでだいたいわかっちゃう感じだよね。今回、これにチャレンジしてよ」とか……。この人と仕事をすると必ずユニークな具体例が上がるから、仕上がりのイメージが明快になっていました。当然、モチベーションも上がります。前向きに喜んでチャレンジすることで、もともとの力以上のものを引き出してもらっていました。

 

デキる人が必ず持っている5つの要素

例として挙げた3人は、それぞれまったく異なる性質のメディアを作っていました。年齢も性格も性別もバラバラ。取り組み方のスタイルも違う。けれども、共通しているポイントはいくつかありました。じゃあ、それは何なのか?5つにまとめてみました。

1、チーム意識

監督でありプロマネである編集者は、チームメンバーたちのモチベーションを上げていく役目も担います。少なくとも旧来の出版社や制作会社の中には、そういうカルチャーが浸透していました。「編集=発注者、ライターなどのメンバー=受託業者」という主従関係を露骨に振り回されれば、チームメンバーのモチベーションは下がります。「一緒にいいものを作ろうね」的な仲間感覚がないと、ライターやらデザイナーやらカメラマンは「はいはい、言う通りにやればいいんでしょ」となります。これ、すごく損します。積極的で創造的なアイデアとかを思いついても、クチに出さなくなります。

2、「感性」を伝達共有できる説得力

「こういうページを作りましょう」という企画意図を参加する皆で共有することは、出来上がりのクオリティアップにも制作のスピードアップにもつながります。大事なのは皆がちゃんと理解するように、編集者が説得力を発揮すること。ただし、もしもこれがITシステムのプロジェクトだったなら、ロジカルに物事を話す能力が重要になりますよね。「ここはこの言語を使うことでこういうメリットが出るよ」とか、具体的に論理的に話していけばいい。でも、メディアはロジック、理屈だけで作れるモノじゃあない。「どういうデザインがいいか」とか「どういう写真が正解か」とか「文章はこうあるべき」てのを論理的に決定づけるのはほぼ不可能。感覚でしか評価できないものが多すぎる。みんなで好き嫌いを言い始めたら収拾がつかなくなります。じゃあ、手の施しようがないかというと、そうではなくて、優秀な編集者は具体例を用意しています。よそのサイトで見つけたデザインをサンプルとして用意したり、雑誌の広告で見つけた写真を持ってきたり。「今回のページでは、こういう写真がいいと思うんだけど、どう思う?」となれば、関係メンバーも理解・判断しやすくなります。感性や、曖昧な評価基準を共有するには、常に魅力的なサンプルを用意できるだけのアンテナを張り巡らせる必要があると思います。

3、お絵かきの習慣

すごく曖昧で感覚的なものを共有するには、サンプルを用意するのが有効だけれども、いざ「作りましょう」ってことになったら、ちゃんと設計図を作ろうよ、という話です。紙メディア全盛時には、ラフとかコンテなどと呼ばれているお絵かきが当たり前になっていました。描くのはデザイナーじゃありません、編集者です。方向性を決めて共有するためのツールなのだから、やっぱりリーダーが描くべきなのです。文字だけの企画書なんて、メディア作りの現場ではほとんど役に立ちません。「どこにどういうビジュアルをどのくらいの大きさで置いて、その横にどういう文章をどれくらい書いて……」というのを簡単な完成見本にして絵にしていく。私の場合、この習慣を持っているだけで、その編集者をかなりの水準で信頼します。熱意も感じるし、方向性も理解できるからです。

4、任せる勇気

最初のモチベーションの話にも通じる要素ですが、「任せる」というアクションを覚えて、上手に活用できたら「鬼に金棒」です。プロのクリエイターというのは、ビジネスマンに比べて「妙な自信」「根拠なきプライド」を持っている確率の高い人種です(笑)。ちょっと扱いづらくてウザいわけですが、私自身の編集者としての経験で言わせてもらうと、「理由のない自信」を持っているくらいのクリエイターのほうが優秀であるケースは多い。「言われた通りにやります」などという指示待ち従順人間では、気の利いた写真やデザインや文章は作れない、とも思っています。もちろん、アーティスト気取りでやりたい放題をされては困りますから、程よくバランス感覚を心得ていて、「編集者」の意図や目的を達成するために動いてくれる人を選ばなければいけませんが、そのうえで「任せてみる」ことができれば、クリエイターは「やるぞ」と思います。上手に手綱を操作しつつ、適度にプライドをくすぐって、モチベーションを上げる……こういう人心掌握術を心得ていけば、期待した以上のものを作れる可能性は上がります。クリエイターは面倒くさい人種のようでいて、反面、単純な生き物だったりするのです。先に具体例で挙げた3人のプロフェッショナルな編集者には、何人ものファンがついていました。「この人の仕事ならば、ギャラは度外視。他の仕事を断ってでも引き受ける」というクリエイターがたくさんいたのです。

5、面白がるポジティブさ

映画やドラマに登場する「クリエイティブな仕事の現場」って、アンニュイでダルそうな感じで演出されていることが多いですよね。「それがカッコイイ」かのように(笑)。「ハシャぐなよ、ダセエな」的なシニカルなムード(笑)。あれ、ウソです。少なくとも私はそう思いますし、私が敬意を払っているデキる人たちも皆、現場ではポジティブです。もちろん、地味な仕事も多いです。面白く作りたくても何らかの制約があって思うようなものを作れない場面もあります。グチをこぼしたりもします。それでも、いざ写真を撮る瞬間、インタビューを始める瞬間、デザインを徹夜で考えている時間……は、ポジティブで素直で前向きな空気に変わります。演技でそうする、というよりも、ある意味で自己催眠的にそういう方向に自分を持っていきます。そうしないと、ろくなものが作れないことを経験上知っているからです。では輪の中心にいる編集者・編集長はどうするべきか?誰よりも前向きで、面白がっていることが大切です。デキる人は皆、あきれるくらいにポジティブです。でも、おかげで場の空気全体が変わります。プラスの波動を備えたムードメイカーであることも大切な要素です。

メディア担当は面白い。ホントです

長々と書いてきましたけれど、ぜひわかって欲しいのは、メディアを作る仕事も、結局、基本はヒトということ。人間関係や信頼関係をしっかり作ることができる人ならば、「鋭い感性」やら「きらめくようなクリエイティビティ」やら、そういうものがなくたって、良いメディアを作ることが出来るんです。

そして、メディアを作るのはとても面白い仕事です。時代がどう変わろうと、メディアやデバイスがどう変化しようと、魅力を失って欲しくない。そのためには「一緒にやろう」の輪の中心にいて、人一倍面白がっている人間が不可欠。それはデザイナーでもライターでもカメラマンでもなくて、やっぱり編集者やディレクターや制作責任者なんです。どんなに若くても、どんなに経験が少なくても、クリエイターたちは今回の5つのポイントをおさえただけで、あなたのことが好きになります。保証します。

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