「候補者のポートフォリオを見ても、どう評価すればいいかわからない」
「スキルはありそうだけど、うちの会社に合うだろうか?」
デザイナー採用を検討している企業において、このような悩みを抱える人事・採用担当者の方は少なくありません。近年、あらゆる業界でデザインの重要性が増しており、優秀なデザイナーの採用競争は激化しています。
レバテック株式会社の「ITエンジニア・クリエイター 転職/フリーランス市場レポート(2023年12月)」によると即戦力デザイナーの有効求人倍率は7.4倍、つまり1人のデザイナーを約7社が奪い合っているというデータもあるほどです。
このような状況でミスマッチを防ぎ、自社に最適なデザイナーを採用するためには、明確で解像度の高い「採用基準」を持つことが、何よりも重要になります。
そこで今回は、クリエイター特化のエージェント事業責任者である私が、デザイナー採用を成功させるための具体的な採用基準、ポートフォリオの評価方法など、デザイナー採用のポイントを現場の視点から徹底的に解説します。
デザイナーの採用基準を設けることの重要性
さきほどお伝えしたように、デザイナーはクリエイター採用市場のなかでも特にニーズの高い職種です。経験豊富なデザイナーの需要増加にともない、成功報酬型のエージェントでは年収の50%を手数料と提示される例を聞くこともあります。
そのような状況の中で「自社のカルチャーとフィットしなかった」「求めている業務内容やキャリアパスと違った」といった理由ですぐに離職されてしまうと、採用コストの無駄になるばかりか、事業成長にも影響を与えかねません。
自社の事業やチームに本当にマッチする人材かを見極めるためにも、解像度の高い「採用基準」を設けることが重要です。
最低限決めておくべき採用基準の作り方
「解像度の高い採用基準」と言っても、何から手をつければいいか分からないかもしれません。まずは最低限、関係部署や社員と以下のような項目を定義し、認識を合わせることから始めましょう。
- 採用ポジションと役割を明確にする
- スキル要件を「MUST/WANT」で整理する
- 求めるマインドセットを明確化する
1. 採用ポジションと役割の明確化
「デザイナー」という大きな括りではなく、「誰に」「何を」してもらうポジションなのかを具体的にします。
ポジションと役割の明確化が一番重要で、このあとのスキル要件や経験・実績にも関わるため、関係者・部署にしっかりヒアリングすることをおすすめします。
- ▼ポジション・役割で決めておくべきこと
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- どの事業(どのクライアント)の、どの規模(〇万円単位)のプロダクトを担当するのか?
- チーム構成は? ディレクターやエンジニアとどう連携するのか?
- 日々の具体的な業務は何か?(例:バナー制作、サイト運用、マネジメントもするのか、実際にどれほどの工数でどれほどの制作に携わって欲しいのかなど)
2. スキル要件を「MUST/WANT」で整理する
次に、必要なスキルや経験、実績を「MUST(必須条件)」と「WANT(歓迎条件)」に分けて具体的に洗い出しましょう。たとえば以下のような項目が挙げられます。
- ▼MUSTの要件例
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- Photoshop、Illustratorでバナー制作ができる
- FigmaでWebサイトのデザインができる
- 制作会社or事業会社でのクライアントワークの経験が3年以上ある
- UI/UXデザインの知見や経験
- 要件定義〜ワイヤーフレーム作成〜デザインまで一貫した実務経験
- ▼WANTの要件例
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- 部署間を越えてコミュニケーションを取りながら制作経験がある
- デザインチームのマネジメント経験
- メンバー育成経験
- SaaSやBtoBサービスのデザイン経験
- 評価基準設計経験
3. 求めるマインドセット(人柄)を明確にする
最後に所属する予定のチームや企業としてのカルチャーマッチに該当するマインドセット(人柄)を明確にしましょう。
- ▼マインドセットの例
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- 変化を前向きに楽しめる方:仕様変更や優先度の入れ替わりにも柔軟に対応できる
- 主体的に動ける方:自ら課題を発見し、必要な情報を取りにいき改善提案まで行える。
- オーナーシップを持てる方:担当領域の成果に責任を持ち、最後までやり切る姿勢がある
- 顧客価値を起点に考えられる方:デザインの美しさだけでなく、ユーザー体験や事業貢献まで意識できる
こうした基準を定めておけば、自社が求める人物像、すなわち「採用ペルソナ」が明確になり、ミスマッチを予防するための土台ができるはずです!
これだけは押さえたい!デザイナー採用基準のポイント5選
ここまではデザイナーの役割について決めてきましたが、自社で活躍できる人材を見極めるためには表面的なデザインスキルだけでなく、コミュニケーション能力やチームで働く協働力など、多角的な視点から評価することが不可欠です。
採用基準は会社により様々ですが、ここでは評価基準として最低限見ておきたい5つの項目と、それぞれがなぜ重要なのかを解説します。
- 💡デザイナー採用基準のポイント5選
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- ポートフォリオから読み解く「課題解決能力」
- デザイナーこそ重要な「コミュニケーション能力」
- 定着率にもつながる「事業・カルチャーへのフィット」
- 変化に対応し続けるための「主体性と学習意欲」
- 定着率にもつながる「事業・カルチャーへのフィット」
1. ポートフォリオから読み解く「課題解決能力」
ビジネスにおけるデザインは、ユーザーが抱える「課題」を解決するための手段として使われます。候補者の方がどのようなアプローチで課題を解決してきたかを確かめるためには、ポートフォリオが最も重要な資料となります。
特に以下3点はぜひ確認してみてください。
- 案件の目的や課題に対して、どんなアプローチをして、どんな効果が出たのか
- ポートフォリオの構成が目的や意図を持って作られているか
- プロジェクトに対して、チームではなく個人としてどれだけ思考し手を動かしてきた実績があるのか
逆に言うと、ここをしっかりと答えられない場合はスキル・経験が不足している可能性が高いといえます。弊社デザイナーからも「読み手のことを考えて、見やすさや構成を工夫しているのが伝わる」と嬉しいという意見もありました。
2. デザイナーこそ重要な「コミュニケーション能力」
デザインを制作するためには、相手の意図を正確に汲み取り、自身の考えを言語化して伝える能力が重要です。そのためクライアントやディレクターとコミュニケーションを取る機会も多く、コミュニケーション能力はデザインスキルの一部といえます。
また、一つひとつのデザイン要素(色、形、レイアウトなど)にどんな意図を持っているか論理的に説明する能力も、デザイナーにとって重要なスキルです。
3. チームで仕事をするために必要な「協調性」
デザイナーの仕事は一人で完結することはほとんどありません。ディレクター、エンジニア、マーケター、クライアントなど、社内外問わず多くの関係者との密な連携の上に成り立ちます。
立場の異なる人たちと仕事をするため、過去にチームで取り組んだ仕事の経験などを聞いて、協調性を確認してみてください。
4. 変化に対応し続けるための「主体性と学習意欲」
生成AIの登場により、デザインのトレンドや関連ツールはこれまで以上にめまぐるしく進歩し始めました。現状のスキルに満足せず、常に新しい知識や技術を主体的に学び、アウトプットし続ける姿勢は、デザイナーが市場価値を維持し、企業に貢献し続けるために不可欠な資質です。
面接では以下のようなことを聞いてみるとよいでしょう。
- 最近、インプットしている情報は何か?(書籍、Webサイトなど)
- スキルアップのために個人的に取り組んでいることはあるか?
5. 定着率にもつながる「事業・カルチャーへのフィット」
スキルが高いデザイナーでも、会社の目指す方向性や自身のキャリアパス、また会社の雰囲気・カルチャーが合わなければ、早期離職のリスクにもなりかねません。
働いてみないと分からない部分が多いのは、企業側も求職者側も同じものです。候補者が自社の事業やビジョンに共感してくれているか、理想のキャリアパスを実現できそうか、面接の際には必ず確認しておくとよいでしょう。
ポートフォリオ評価のチェックリスト
デザイナーの評価基準で重要となるポートフォリオ。いわば作品集ですが、非デザイナーの採用担当者さんや人事の方から「どこをどう見ればいいのか分からない……」という声をお聞きすることもあります。
そこで、クリエイター特化のキャリアアドバイザーとして、採用担当者がポートフォリオで見るべき評価項目をまとめました!
相手のことを考えて作られているか
優秀なデザイナーは必ず「誰に向けて、何を伝えたいか」を明確にしています。デザインの細かい技術の話はわからなくても大丈夫ですので、「このポートフォリオは誰が見るものなのか?」「どういうふうに感じてもらいたいのか?」を意識できているかに注目してみてください。
💡良いポートフォリオの特徴
- チームではなく、個人としての実績が明確にわかる内容になっている
- 要点がまとまっていて、時間がなくても理解しやすい
- 必要な情報をすぐに見つけられる
- 専門用語はあまり使わず、使う場合もわかりやすい説明がある
- 写真や画像がぼやけていたり、粗くなっていない
- 文字の読みやすさまで気を配っている
デザインの基本は「人に伝えること」なので、こうした視点でポートフォリオを見てみることは非常に重要です。もし「このポートフォリオは見づらいな」と感じたら、どんな意図で制作したかを面接で確認してみるとよいでしょう。
制作背景をきちんと言語化できるか
ポートフォリオ自体のクオリティはもちろん大切ですが、ポートフォリオに載っている一つひとつの作品のクオリティに注目してみてください。
特にポートフォリオに載せている一つひとつの作品について、 「なぜこのデザインにしたのか」 を言語化して説明できるかが重要です。
- ⭕️良い説明の例
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- ターゲットが明確(20代女性をターゲットにしたため、親しみやすい丸文字を使ったなど)
- デザインの根拠や理由を説明できる(高級感や信頼感を演出するために濃紺を基調としたなど)
- ❌️注意すべき説明の例
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- 「おしゃれにしたかった」「かっこよくしたかった」など表現が抽象的
- デザインに具体的な根拠や理由がない
このポイントは面接の際にも最重要視していただければと思います。弊社の選考の際にも、この内容だけで30-40分も時間を使うこともあります。
ここを言語化して話せるかどうかによって、個人として貢献を本当にされていたのか明確にわかります。ポートフォリオだけでは見抜けないポイントもあるかと思いますので、面接の際に注視してみてください。
まとめ
本記事では、競争が激化するデザイナー採用を成功させるために、制作会社の視点から具体的な採用基準やポートフォリオの評価ポイント、そして未経験者のポテンシャルを見抜く方法について解説しました。
デザイナー採用で最も重要なのは、 「自社にとっての良いデザイナーとは何か?」という定義を明確にし、その基準に沿って多角的に候補者を評価することです。経験年数やスキルだけにとらわれすぎず、実務を行う部署ともすり合わせながら基準を決めてみてください。
今回ご紹介した内容が、貴社の採用活動の一助となれば幸いです。