こんにちは! インハウスデザイナーのまっつーです。
約3ヶ月の制作期間を経てLIGの新Tシャツが完成しました!
完成報告と合わせて、入社半年の新人デザイナーが取り組んだ完成までのプロセス、デザインの考え方、アプローチ方法についてまとめてみました。
デザイン勉強中の方へ、この記事が何かのヒントになれば幸いです。
目次
Tシャツ制作の経緯と目的
デジLIGを卒業し、未経験でLIGに入社して半年が経った頃、社長の大山さんから大きな任務を任されたんです…
まっつーってさ、前職、繊維商社の営業だったよね。そしたらTシャツ作れるよね? 任せてもいいかな?
たしかに前職アパレルでしたが川中(卸売り)のポジションだったので、自信ないです……。ましてやグラフィックデザインなんてやったことないです……。
いきなり重大な任務を課され最初は弱気でしたが「前職の経験と知識を活かしつつ、デザイナーとしての自信がつくかもしれない」と思い、やる気がフツフツと湧いてきました。
課された使命は「チームビルディングの強化」
LIGでは以前もTシャツを作っていました。今回はLIGのPVV(パーパス・ビジョン・バリュー)が刷新されたタイミングで新しいTシャツを作ることになり、チームビルディングをより一層高めていくことが私に課された使命となりました。
制作にあたり、LIGのデザイン顧問であるB&H代表の今村玄紀(genki)さんから怒涛のフィードバックをいただいております!!!
完成までのプロセス
生産背景の確保やTシャツメーカーの選定などディレクターとしての動きもしましたが、今回はデザインの方に焦点を当てたいので割愛します。
1.Tシャツ制作の目的を深掘り
チームビルディングを高めるだけでは、高校行事で作ったクラスTシャツと同じ扱いになってしまいます。Tシャツを作り、着てもらうことで「会社の利益にどうつなげられるのか」を考えました。他社の事例などを参考にしながら、最終的に以下のようにまとめています。
Tシャツを通して、LIGというチームの連帯感が自然と生まれる環境を作り出す。そして部門ごとに持ちあわせている経験・知識・手法などを横断で流通させ、連携させることで既存事業のブラッシュアップをおこなっていく。
つまりチームビルディングを高めることは顧客への還元につながるということを導き出しました。
2.世界観の整理と文脈作り
おしゃれなTシャツを作っただけでは、ただの自己満足で終わってしまいます。そうならないためにもデザインに文脈を持たせることが必要でした。
そこで、デザインから「何を伝えたいのか」「どんな感情を持ってほしいのか」また「どんな課題を解決したいのか」を明確にするようにと、genkiさんからアドバイスを受けました。
LIGの本質を知る
まずLIGの本質を知ることから始めました。デザインをする作業よりも、ここにかけた時間の方が圧倒的に多かったです。
LIGが目指していきたい人格や存在意義について理解を深めるためにCI資料を読み込みました。
▲CI資料を基に作成したイメージマッピング
そして、LIGがインスピレーションを受けている企業・人・街についてリサーチし、公式ウェブサイトはもちろん、SNSや関連記事までチェック。「どんなアイデンティティを持っているのか」「誰に影響を受けたのか」「どんな歴史を辿ってきたのか」についてどんどん深掘りしていきました。
文脈作りとキーワード
ここまでリサーチした内容をまとめて、次のようにデザインの文脈を組み立てていきました。
LIGが今後強みとしていくのは、DXながらもクラフト感にこだわっていくところ。
※ここでいうクラフト感とは人間らしさや、人の温かみ
人としてお客様の課題を真摯に聞き、人間味あるDX支援会社として、クラフト感のあるデザインが良いのではないかと考えました。そして人っぽい温かみ、芯の強さ、仕事へのこだわり(熱量)を表すために、デザインのキーワードを「クラフト感」と「力強さ」と設定しました。
3.思想に合致する参考を選び
デザインの文脈とキーワードを決めたらPinterestで参考を収集していきました。
選んできた参考がLIGの思想と合致するかチェックし、そこからさらに参考を絞り込んでいきました。参考の一部を紹介します。
Anthony Burrill(グラフィックアーティスト・プリントメーカー)
出典:https://www.creativeboom.com/news/work-hard-be-nice-to-people-anthony-burrill-releases-new-editions-for-jealous-gallery/
「最小限のもので最大限のことを伝え、言葉を通して人々とつながる」
彼の作品はいつでもシンプルな英語で表現されています。あえてシンプルな英語で作品を作ることで、すべての人へ平等に考える機会を与えており、言葉を通した人々とつながりを大事にしています。またアナログな手法で表現することで意味をさらに膨らませていることも彼の作品の特徴の一つです。
ATF Alternate Gothic(フォント)
出典:http://atftype.com/atf-alternate-gothic.php
「スペースを取らない明瞭さとバネのようなハリのある力強さ」
1903年、モリス・フラー・ベントンがAmerican Type Foundersのためにデザインしたフォントで活字鋳造メーカーから生まれました。縦長のプロポーションで頑丈・クールな佇まいです。限られたスペースの中でメッセージ性を出したいときに有効で、読みやすさを考慮して丁寧に間隔が取られています。
4.デザインへ落とし込み
まずは言語化する
次に参考からデザインで表現したいことを以下のように言語化しています。
- シンプルで直接的な言葉、力強いメッセージ性
- アナログな手法でクラフト感を出し、意味を膨らませる
- 文字に人っぽいタッチを加え、人らしい温かみを出す
- 歴史をリスペクトし、そこに革新性を加え、新たな作品を生み出す
- 言葉で影響力と信頼性を与える
そして言語化した内容と「クラフト感」「力強さ」のキーワードをもとに、可視化できるようマップを作成し、方向性を確定させました。
具体的にデザインへ落とす
最終的にはLIGの経営理念でもある「Life is good for customer」から一部引用したプリントに決めました。それには以下のような狙いがあります。
- シンプルで直接的な言葉だからこそ、すべての人が平等に「インスピレーション」や「クリエイティビティ」を膨らませられる
- Alternate Gothicをベースに縦長のスタイルでボールドに仕上げることで、顧客の課題を乗り越えていく姿勢を表せる
- アナログな手法で表現することで、人間味溢れるDX支援会社としての柔らかさを出せる
当初「Life is good」と大きくプリントするかとても躊躇しました。簡単な英語なので、子どもっぽく見えてしまわないか不安があったからです。しかし、アンソニー・バーリルさんの作品に出会ったことで、その不安は解消されました。
彼はあえてシンプルな英語で作品を作ることで、すべての人へ平等に考える機会を与え、言葉を通して人々とつながることを大事にしていたからです。彼の思想はLIGに合致すると確信しました。
5.レタリングで文字に人間味を出す
一文字ずつ手書きで描く
人っぽい温かみを出すためにレタリングをおこないました。アナログな手法でクラフト感を出すことで意味を膨らませることができます。
大胆ですが丁寧かつ、クラフト感のあるタッチがコンサルティング会社としての誠実感を打ち出しているかと思います。
デザイン完成
レタリングした文字をパソコンに取り込み、調整を加えてデザインが完成です。
LIGは台東区上野にルーツを持つので、首元のタグには東京本社の座標を刻みました。
6.共感させるプレゼン
次に社内プレゼンのためのスライド作成に入りました。どういうストーリーでこのデザインを伝えていくのか整理しながら作っています。デザインを伝えるためのストーリーがしっかり組み立てられていれば、共感し、デザインに納得してくれるのです。
プレゼンは以下の内容でおこないました。
- Purpose/目的
- Keywords/デザインのキーワード
- References/参考
- Organizng/整理
- Design idea/デザイン案
「目的〜整理」については、この記事でここまでお話しした内容をスライドにまとめています。
あわせて、Tシャツの着用イメージがつきやすいようにモックアップも作成しています。
そして、無事に社内でデザイン案が通り、生産に進むことになりました。
7.サイズ・位置調整
ここの作業はとても気を遣いました。なぜならプリントサイズや位置によってデザインの印象がガラッと変わってしまうからです。
10サイズほど分けて紙に印刷し、実際のTシャツに置いて検証していきました。
Tシャツ全サイズ(S〜XXL)同じサイズのプリントをするため、大きすぎるとSサイズのプリントが極端に大きくなってしまい、小さくしすぎるとXXLサイズのプリントに影響が出てしまいます。
Tシャツサンプルを着てみて印刷した紙を胸に貼り付け、ちょうどいい中間の位置を探っていきました。パンツにインしてもアウトにしても、プリントが綺麗に見えるかどうかチェックしています。自分でずっとみていると感覚がわからなくなってしまうので、他の人に見てもらって意見をもらうのも大事です。
サイズと位置をフィックスさせたら、工場へ依頼するための指示書を作って発注し、無事に納品まで済ませることができました!
衝撃を受けたフィードバックの言葉
ここまでスムーズに制作が進んだかのように書かれていますが、まったくそんなことはありません(笑)。
genkiさんから週に1回フィードバックのお時間をいただいたのですが、その中でも特に衝撃を受けた言葉をここでお伝えします。
案の数は自信の無さの表れ
案はあればあるだけ良いと思っていました。なぜなら多く提案すればその中から選んでもらえる可能性が上がり、提案がスムーズに進むと思ったからです。
しかし、実際はそうではありませんでした。作れば作るほど一つの案に割かれる時間が分散されてしまい、全体的にクオリティが下がってしまう。それに「案の数は自信の無さの表れ」だということも指摘いただきました。
正直なところ、自分のデザインには自信がもてませんでした。プレゼンを振り返ってみると、話す言葉も「ちょっと自信がないのですが」などの前置きが多かったです。
しかし、それは「事前のヒアリングやリサーチをしっかりおこなうことで解決できる」とアドバイスを受けました。
その後ヒアリングとリサーチを再度入念におこなってからデザイン案を1本に絞り、何度もブラッシュアップを重ねていきました。そしてデザインの文脈をしっかり伝えることができるようになり、Tシャツデザインに対しては自信を持つことができるようになりました。
プレゼン資料もデザインの一つ
初回のプレゼン資料はとても酷かったです。案だけをいっぱい並べて「さあどうでしょうか!」という見せ方をしてました……。。喋りでカバーできると思ったのですが、そもそも言葉の整理ができていなかったので根拠がなく、説得力のないプレゼンでした。
そこでアドバイスをいただいたのが「スライドをしっかりストーリー立てて作り込むこと」。プレゼンで話すべき流れがスライドに書かれていれば、「何を話そう」と迷うこともなく、緊張も抑えられる。また何よりもデザイナーとしてスライドが美しく整っていれば提案にも説得力を持たせることができると。
たしかに、服がダサい人が「今年の流行ファッションはこれです!」といっても、説得力を感じないことと同じですよね。
スライド制作にしっかり向き合うと、頭の中を整理することができ、また「これってどういう意図だったんだっけ」と気づくことができるので、提案の質をどんどん上げていくことができました。
デザインの意匠は説明不要
「この“横の線”はLIGが直面するであろう課題を表していて、その課題を乗り越えていく! という想いを込めています」とgenkiさんへ伝えたところ、「デザインの意匠を説明するのは粋ではない」というお言葉をいただきました……。
そのとき私は「説明しないでどうやってわかってくれるんだろう」と動揺を隠せませんでした。そこで大事なことを教えてくださいました。
言葉のデザインをして、見た瞬間にわからせ、共感させること。
どういうストーリーでこのデザインを伝えていくのかコンテクストをしっかり伝えないと見る側はわからない。
つまり、言葉のクオリティがデザインのクオリティになるということ。
今回のTシャツのプレゼン例でいうと、以下のような流れでプレゼンを組み立て直しました。
- 今LIGが抱えている課題は◯◯◯
- 競合と差別化するためにDXも含めてどういったものが必要なのか
- LIGが今後強みとしていくのは、「DXながらもクラフトにこだわっていく」ところ
- 手仕事のクラフトを強みとして、アウトプットに反映させていくことが今後のLIGの強み
- そういったものを表現したためにこういったデザインになった
- これぞ今回LIGが考えるデザイン
以上の流れで話を進めてデザインをお見せした後すぐに、社長の大山さんから「たしかにね。わかるよ。」という言葉をいただくことができました。そのとき「言葉をデザインする」ことの重要性について、身をもって感じることができました。
Tシャツ選びについて
ここでは前職の経験を発揮しました。デザインのプロセスからは少しそれますが「どのような意図で今回のTシャツを選んだのか」について最後に紹介します。
色
コントラストをはっきりつけたかったので、ダークブラックにしています。また、洗濯を繰り返すと色が落ちていくので、その変化を楽しむことが目的でもあります。
LIGのコーポレートサイトも黒なので色選びには迷いはありませんでした。
シルエット
従来はビックシルエットでしたが今回は綺麗めな形をチョイス。CIの刷新に伴い、大人になったLIGを表現するためにも、カジュアルな印象を少し抑え、フィットしすぎず、ゆったりしすぎない形のものをチョイス。一枚で着てもジャケットや羽織の下に着ても邪魔しない着こなしができます。
素材
従来のLIGのTシャツよりも少しだけ薄い中肉タイプにしています。
ちょうどいい厚さなので「通年着られる」ということ、フィリピンとベトナム事務所の従業員にも配布するので、「高温多湿の環境でも着られる」ということ、この2点を考慮して選びました。綿100%の肉厚タイプで作ってしまったら、なかなか洗濯物が乾きませんから……。
また綿素材にしたのも経年変化を楽しんでもらいたいから。綿は毛玉ができづらく強い繊維。着れば着るほど体に馴染み、洗濯すればするほど色が少しずつ落ちてきます。シルクプリントも掠れてきてヴィンテージライクになっていくでしょう。「そういった変化を楽しみながらLIGのメンバーとして長年着用していただきたい」。そんな気持ちも込めています。
LIG社員に着てもらいました
左:Webディレクター/リコちゃん 右:フロントエンドエンジニア/レンツさん
――今回のTシャツ着てみてどうですか?
リコ:チーム感が出ていいですね。誰かと着る日が被ったら会話のきっかけになりそう!
レンツ:「LIFE IS GOOD」と主張できる人生を送らないとって思わせさせられました。プリントが消えるまで着倒したら僕の勝ちです。
自分がデザインしたものを着てもらえるなんて、嬉しいですね……。
このTシャツを着るとLIG社員の一員であるという気持ちが一層高まり、いい意味で緊張感が湧きました。
さいごに
いかがでしたでしょうか?
今回は新人デザイナーが取り組んだTシャツ制作のプロセスについて紹介しました。
デザイン勉強中の方にとって、この記事が何かの気づきにつながると嬉しいです。
今回このような機会を会社から与えてくださったこと、とても感謝しております。最初はTシャツのデザインなんて自信が無かったし、何回も壁にぶつかって「もう無理だ……」なんて考えたことがありました。しかし、genkiさんをはじめ、たくさんの人からのアドバイスをいただきながらやり遂げられたことをとても嬉しく感じます。Tシャツとして形になったときの感情は今でも忘れられません!
このプロジェクトをきっかけにデザイナーとしての自信をつけることができました! これからも LIGのインハウスデザイナーと頑張っていきますのでよろしくお願いします。