アドフェスの受賞作品からみる、デジタルマーケティングの最先端

アドフェスの受賞作品からみる、デジタルマーケティングの最先端

Kaede Ayaka

Kaede Ayaka

みなさん、こんにちは。メディアコンサルティンググループマネージャーの楓です。日々、企業さまのオウンドメディアやデジタルマーケティングの支援をしています。

突然ですが、映画にアカデミー賞やカンヌ映画祭などがあるように、広告にも広告賞と呼ばれるものがあるのをご存知ですか? 広告業界における優れたクリエイティブな仕事やキャンペーンを称えるために授与される賞です。

世界三大広告賞と呼ばれるものはカンヌ、クリオ、ワンショーがあり、アジア圏だけのものではアドフェススパイクスアジアなどがあります。

私は仕事柄、そして個人的な興味で毎年受賞作品をウォッチしておりまして、もうコロナ前になりますがアドフェスとスパイクスアジアには実際お仕事で何度か参加させていただいたことがあります。

そこで今回はアドフェスをピックアップして、気になる受賞作品をご紹介するとともに、最先端のデジタルマーケティングに触れていきたいと思います!

アドフェスとは何か

会場の外観▲カンファレンスホールのあるホテルで行われる。

アドフェスとは、2023年で22年目を迎える、アジア太平洋地区(中東を含む)最大級の広告賞です。毎年3月にタイで開催され、アジアの優れた広告を選出する審査や様々なセミナー、ワークショップがおこなわれます。

NPOによって運営されていることから、収益を次世代育成などに当て、アジアのクリエイティビティのレベルアップを図っています。

会場図▲2019年のときの場内はこんな感じ。

4日間を通じて、主にカンファレンスホールで数々のセミナーを実施。予約式・参加型のワークショップ会場も常設されています。コンテスト出品作品は常時展示されており、自由に見学でき、最終日には授賞式をカンファレンスホールにて開催。

会場の雰囲気は華やかで、事業側担当者や制作スタッフ、代理店の人間などさまざまな人種がネットワークングに勤しんでいる光景を見ることができます。

日中はびっしりと予定されたセミナーから吟味したセッションを聴講したり、夜は横のつながりを作りたい会社がそこあそこで自社主催のパーティーを開催したりと、本当に広告“祭”にふさわしい祭りが数日間が繰り広げられます。名刺が一箱じゃたりません。大げさじゃなく、本当にすっからかんになります笑。

会場内ランチ会場▲周りに何もないのでランチはホールに用意されている。連日ビュッフェだがアジアの色んな国の料理がブースごとに用意されていて飽きない。

 

アドフェス会場のあるホテルからの眺め▲受賞者にはご褒美的なロケーション

余談。アドフェスはパタヤで行われることもあり、ロケーションは非常にパーリーパーリーしているのですが、会場と市街地が歩きでは難しい距離のため日中はカンファレンスホール兼ホテルに缶詰になりがち。

そして南国あるあるで会場は極寒で、一日中場内にいると体がおかしくなります。ウルトラライトダウン必須。

受賞作品の紹介

それではさっそくWINNERS SHOWCASEを見てみましょう!

ちなみにこちらは23部門あり、それぞれの部門にさらに細かいカテゴリーが設定されています(そのカテゴリーごとにプロジェクトが出品・審査ののちファイナリストが出揃い、グランプリ、ゴールド、シルバー、ブロンズが授与されます)。

数が多いので、今回はWebマーケティング文脈でみておきたい、BRAND EXPERIENCE LOTUS、DESIGN LOTUSから私がピックアップした4作品をご紹介します!

OREO INDIAの”#BRINGBACK2011キャンペーン”

ライブ配信の様子

  • クライアント:OREO INDIA
  • 商材:クッキー オレオ
  • 実施国:インド

BRAND EXPERIENCE LOTUSのGRANDEを受賞したOREO INDIAの”#BRINGBACK2011キャンペーン”です。

この賞は優れたブランドエクスペリエンスをもたらした施策に贈られる賞で、唯一のGRANDE受賞です。

他にこのLOTUSのサブカテゴリになる「INTEGRATED BRAND EXPERIENCE CAMPAIGN(統合ブランド体験キャンペーン)」でGOLD、「GUERRILLA MARKETING & STUNTS(低コストで慣例に囚われない手段を使った広告戦略&メディアや口コミでの拡散力を獲得するために企画された施策)」ではSILVERを受賞しています。

この作品について

圧倒的な認知度を誇る競合に対して、オレオ・インディアは背中を追いかける立場でした。

インド文化の中に溶け込む菓子ブランドになりたい。発売以来オレオは親子で楽しむことを訴求し続けていたため子供と食べるお菓子というイメージが定着しているブランドでした。

しかし今回のキャンペーンでは”ブランドをユビキタスなものにする”という目標のもと、あるスポーツとファンの関係性に目をつけたのです。

Leo Burnett South AsiaのCEO兼チーフ・クリエイティブ・オフィサーであるRajdeepak Dasはこう語りました。

クリケットはインドでは宗教であり、スーパーボウルのような存在です。クリケットの10億人を超える世界中のファンの90%はインド人です。そのため、私たちはTGを子供のいる家庭から、クリケットを見るすべての人に広げました」
「クリケットに関しては、毎回同じ靴下を履くとか、特定の椅子に座るなど、私たち全員が自分の信念を持っています」

人口14億人を誇るインドで圧倒的な人気を誇るスポーツクリケット。クリケットのファンは個人個人がチームの勝利におけるジンクスを強く持っているという特徴がありました。

ワールドカップでインドが優勝したのは2011年が最後。そしてその年はオレオが発売された年でした。

オレオは思いました。「今年オレオが発売されたらまたチームが優勝するんじゃね?」

そこで当時のチームを率いていたキャプテンをインフルエンサーにし、髪型やユニフォームなどで当時を再現、オレオ自体も今回のキャンペーン用にエンボス加工したクッキーや限定パッケージを用意。2011年を再現して今年のワールドカップ優勝を導こうと呼びかけました。

そうしたところ、オレオのキャンペーンに乗っかるブランドが現れはじめ、瞬く間に一大ムーブメントになっていったのです。

具体的な例を挙げますと……

  • ムンバイのブルワリー、Doolallyは、#BringBack2011のために、歴史あるインディア・ペールエールを再現
  • 時代を象徴する名解説者、Harsha Bhogleは自身の著書『The Winning Way』を再発売
  • インドで最も古く、最も大きな新聞である『Times of India』は、2011年の表紙を再掲載
  • 2011年に最もヒットしたボリウッドの代表的な映画も再公開

などなど。

このキャンペーンの結果、オレオ・インディアは売上を22%引き上げる大成功を収めています。

ターゲットの方向転換にあたって、クリケット優勝年とオレオ発売年の共通項を軸に国民性をうまくとらえてキャンペーンに落とし込んだという点が素晴らしいと思います。

このキャンペーンに乗っかればブランドやインフルエンサーもWinWinになるという設計であったことも盛り上がりを大きくした要因の一つでしょう。

企画の段階から他企業を巻き込む想定はされていたのでしょうか? だとしたらすごいですね!!

動画はこちら

BRAND EXPERIENCE LOTUSのGOLDを受賞した日産の”ProPILOT MOP”

RAND EXPERIENCE LOTUSのGOLDを受賞した日産の”ProPILOT MOP”
出典・引用:【自動運転モップ】ProPILOT MOP 日産自動車株式会社 公式チャンネル

  • クライアント:日産自動車
  • 商材:先進運転支援技術 ProPIROT2.0
  • 実施国:日本

サブカテゴリーであるEVENTでの出品で受賞となりました。

日本で行われたNBA JAPAN GAMESの初タイトルパートナーになった日産が、自動運転技術「ProPILOT 2.0」のプロモーションでハーフタイムに行った”ProPILOT MOP”が会場の注目を集めました。

この作品について

ハーフタイムにフロア清掃が入るかと思いきや、モップが自動走行し、清掃員と思われたスタッフはダンサーに変身、華麗なるショーを繰り広げるという展開です。

このプロモーションの素晴らしい点は、モップが手を離れて自動走行するという意外性、そして単なる清掃時間だと気に留めていなかった時間がショーの楽しい時間に変換されているというポジティブな裏切りを作り出した点、それらをこのハーフタイムの環境にうまくまとめ上げたことにあると思います。

このお披露目の場所がモーターショーだったらここまでの盛り上がりは作れなかっただろうなと思いますし、モップ以外のロボットやキャラクター、ぬいぐるみなどが自動走行したところでこのような驚きは作り出せなかったはずです。ドローンやロボットなどのショーはSNSなどで目にすることも多いですからね。

そしてショー自体の演出もとても計算されていて、人の手からモップが離れるその瞬間に、後ろの液晶に「手を放すという、新しい運転のカタチ」というProPIROTのキャッチコピーが表示されるので、これが自動運転技術を用いた娯楽ショーなのだということが見ているこちらにも伝わるようになっています。

手を放すという、新しい運転のカタチ
出典・引用:【自動運転モップ】ProPILOT MOP 日産自動車株式会社 公式チャンネル

プロモーションする環境と場所、技術をアピールするためのモップに置き換えるという手段、意外性をちりばめた演出、これらが合致したことにより非常に沢山の露出を実現することができたのだと思います。

公式発表では……

・動画再生回数 41,650,000回以上
・ソーシャルエンゲージメントは2,000,000回以上
・ソーシャルインプレッション数 97,460,000件以上
・世界各国のスポーツ・技術系メディアへの掲載(47カ国、2,581本)。
・約6億1,000万円のメディアへの掲載
・自動運転技術「プロパイロット」のサイトトラフィックが過去最高を記録。

と、日産自動車史上最高の結果を出すことに成功。

話題になってから、日産には世界中のエンターテイメントイベントから問い合わせが殺到しているそうです。

動画はこちら

DESIGN LOTUSのGOLDを受賞した”THE MODEL CITY 1:1 SCALE”

静岡市プラモデル化計画
出典・引用:静岡市プラモデル化計画 公式サイト

  • クライアント:SHIZUOKA CITY
  • 商材:静岡市の観光活性
  • 実施国:日本

サブカテゴリであるEXHIBITIONS, EVENTS & PUBLIC ENVIRONMENTでの出品で受賞となりました。日本各地ますます力を入れている”地域創生”系のプロモーションです。

出品時のBACKGROUND OVERVIEWをもとに要約します。

この作品について

静岡市は、プラモデル愛好家にとって非常に有名な場所で、日本国内外のプラモデルメーカーや模型関連企業の本社や工場が集中している地域です。

それをもとに静岡市は街をプラモデルにする、静岡市プラモデル化計画を企てました。


引用・出典:静岡市プラモデル化計画 | ホビーのまち静岡

郵便ポストや公衆電話など、街のさまざまなものがプラモデル化されました。

模型のようですが、普通の郵便ポストと同じようにハガキを投函することができ、電話ボックスも通話が可能です。他にも、観光案内板やベンチ、街灯、フォトスポットなど、さまざまなものが生まれました。

地元のプラモデルメーカーや工場の職人さんたちと一緒に、安全面はもちろん、プラモデルの細部にまで気を配りながら1つの模型に6カ月をかけて作り上げました。

その結果、COVID‑19で大きな打撃を受けた都市の観光産業は、モニュメントによって多くの観光客が訪れるようになり、観光が活性化したのです。

プラモデルの生産が盛んという点をとらえて、1:1スケールでモデリングし町中に配置するっていうアイデアが楽しいのと、産業の特徴を旅行で大事な映えに落とし込んでいる点がとっても素敵ですね!

写真に撮って投稿したくなるユーザー心理をしっかり捉えています。

サイト:静岡市プラモデル化計画

DESIGN LOTUSのGOLDを受賞した”THE KILLER PACK”

出典・引用:“The Killer Pack” by VMLY&R India for Maxx Flash

  • クライアント:VMLY&R, MUMBAI
  • 商材:蚊取り線香 MAXX FLASH
  • 実施国:インド

サブカテゴリであるPACKAGING DESIGNでの出品で受賞となりました。

この取り組みは、企業が社会問題に向き合いどう実行に移すかのお手本のような施策になっています。正確にお伝えするためにも、出品時のBACKGROUND OVERVIEWを要約します。

この作品について

インドでは、蚊が媒介するデング熱とマラリアの流行が問題になっており、大流行がもたらす医療体制の逼迫は非常に危機的な状況でした。

インド人が家の中で蚊を撃退するために蚊取り線香を使う一方で、疾病管理当局は、家の外のゴミ集積所に新たな繁殖地が出現していることを指摘。1cmでも水が溜まれば蚊の卵が孵化して幼虫になるため、このようなゴミ捨て場は卵を産むのに最適な環境であり、悪循環を引き起こしていたのです。

その問題を解決するため蚊取り線香ブランド「Maxx Flash」は、家庭の外で蚊が生まれないようにするためのアプローチを考えました。

キラーパックは、廃棄時に蚊の幼虫を殺す初めてのパッケージで、WHOとICMRが推奨する天然菌株のバクテリアで作られています。また、環境や他の生物種に害を与えない安全なものとなっています。

ゴミとなるパッケージ自体に殺虫剤の役割をもたせた着眼点も素晴らしいですが、他の環境や生態系に影響を与えないように作られた技術力も素晴らしいですね。商品化するまでにたくさんの苦労があったんだろうなと想像できます。

ソーシャルグッド系の取り組みは10年くらい前から出てきてトレンド化し、一時はトレンドにのっかったキャンペーンが配慮不足で炎上するなんてこともありましたが、その山を乗り越えた現在、地に足の付いたソーシャルグッド(この呼び方も軽くてどうかなと自分でも思いますが……)な取り組みが定着しているなと感じます。

動画はこちら

まとめ

今回取り上げたものはほんの一部で、まだまだご紹介したいものがたくさんあります。

マーケティングに関わっている皆様にはぜひ、「違う世界の話でしょ」と思わずに広告賞をウォッチしてみてほしいと思います。

とくにアジア圏での広告賞であるアドフェスやスパイクスは、人口増加著しいインドなど勢いある国での勢いある広告プロモーションを中心に見ることができますし、施策一つでその国の文化や空気感を感じることができます。

広告賞に関しては2017年から本格的にウォッチしていて、当時の出品作品をまとめたレポートを引っ張り出してきて眺めてみたのですが、今みてもぜんぜん古くないものばかりだなと感じました。

それは広告賞に出されるような施策が最先端の技術を取り入れているため、私達が実際生活の中で実感するのが4〜5年後ということもあるでしょうし、海外のトレンドが日本に入ってくるのが数年かかるからということもあると思います。

少子高齢化をぐんぐん突き進んでいる日本ですから、アジア諸外国のデジタル施策を押さえていくことは今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。

広告賞は、数年後日本に訪れるトレンドやデジタルマーケティングの示唆を与えてくれるきっかけになります。

ぜひ楽しみながらSHOWCASEをご覧になってみてください!

アドフェスト 公式サイト

 

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Web制作会社から広告代理店を経てLIGに入社。デジタルの世界にはまり込んで25年、仕事では15年以上になる。制作ディレクションからプランニング・営業・広告運用まで、ブランディングを含むWebの下から上まで一通り経験してきた変わった経歴の持ち主。デジタルプロモーションの企画やデジタルマーケティング上での課題解決を得意とする。食に貪欲で超愛犬家。
Twitter:@otanukisamayo

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