こんにちは、広報室の望月です!
先日、LIGの技術顧問・まつもとゆきひろさんによる勉強会が開催されました。第3回となる今回のテーマは「リスペクト(尊重)されるエンジニアになるには」。
本テーマの背景には、まつもとさんのこんな経験が影響しています。
「日本では、エンジニアは『IT奴隷』、『仕事がきつそう』、『一日中働いている』、『融通が利かない』などネガティブな声を耳にすることもあります。しかし海外では、エンジニアが周囲からリスペクトされている姿をよく見かけるんですよ。この違いは、エンジニアが周囲と適切な関係が築けているか否か、が要因だと思います」
新しい環境で働くときはもちろん、既存の仕事環境でも自分と周囲の関係性を考えることがあると思います。エンジニアは組織や周囲の人とどのような関係を構築し、自分の価値を見出していくべきか。本勉強会を通じて、たくさんのヒントをいただきました!
Rubyアソシエーション理事長 まつもと ゆきひろ プログラミング言語Rubyの生みの親であり、一般財団法人Rubyアソシエーション理事長。株式会社ZOZOやLinkers株式会社など複数社で技術顧問などを務めている。オープンソース、エンジニアのコミュニティ形成などを通じて、国内外のエンジニアの能力向上やモチベーションアップなどに貢献している。 |
目次
「サスティナブルな関係」を目指して
まずはじめに、ビジネスにおける自分と周囲の関係性についてお話をしていきます。
ビジネス書のベストセラーとして、全世界のビジネスパーソンに読まれている『7つの習慣 人格主義の回復』(スティーブン・R・コヴィー著)では、「持続可能な取引」は次の2つだけだと書かれています。
- Win-Win:双方がなんらかの利益を得られる取引
- No Deal:取引をしない・やめること
一方的に不利な条件を押しつけるような取引は長くは続きません。逆に互いに利益を得ることで、サスティナブルな関係を築くことができます。
エンジニアが意識すべき“三大美徳”
では、関係構築にあたって、エンジニア自身はどのような心構えでいるべきでしょうか。
プログラミング言語『Perl』の開発者であるラリー・ウォールは、「怠惰」、「短気」、「傲慢」の3つを「プログラマーの三大美徳」と定義しています。どれも美徳という言葉のイメージとは結びつかないかもしれませんが、それぞれ次のように捉えることができます。
【怠惰】:全体の労力を減らすために手間を惜しまない気質。この気質の持ち主は、役立つプログラムを書いてみんなの苦労を減らしたり、同じ質問に何度も答えなくてもいいように文書を書いたりする。
この気質はソフトウェアを開発するモチベーションになります。そのため、怠惰な人はプログラマーに向いていると言えます。
【短気】:コンピュータが怠慢なときに感じる怒り。この怒りの持ち主は現状の問題に対応するプログラムにとどまらず、今後起こりうる問題を想定したプログラムを書く。少なくともそうしようとする。
短気な人はソフトウェアをより優れたものにしていこうと努力します。エンジニアにとって、怠惰の次に大事な気質でしょう。
【傲慢】:神罰が下るほどの過剰な自尊心。または人様に対して恥ずかしくないプログラムを書き、保守しようとする気質。
傲慢な気質の人は自分が世に出したものが誰かに批判されたときに怒りを感じます。それがモチベーションとなり、改善を進めていきます。
このように、「怠惰」、「短気」、「傲慢」が他人に向けられたもの(外向き)ではなく、自分に向けられたもの(内向き)である場合、これらは“三大美徳”となるのです。この状態が関係構築に重要な役割を果たします。
“上下”を“対等”に変える
三大美徳を持っている人は、次のような思考で行動することが多いといえます。
- 怠惰な人:「仕事をしたくない」のではなく、「“無駄な”仕事はしたくない」
- 短気な人:「怒り散らす」のではなく、「我慢をしない(ストレスをためない)」
- 傲慢な人:「他人を見下す」のではなく、「他人との関係を考え直す」
いずれの思考も、より良い組織を作り、より良い仕事を行っていくうえでは欠かせません。なかでも、傲慢な人の「他人との関係を考え直す」という点は関係構築に重要です。
日本社会では組織のなかで上下関係が存在していることが多く、私たちはそのような環境に慣れてしまっています。しかし、関係性をどう見るかによってその捉え方は異なります。たとえば、雇用関係では経営者と従業員は本来対等であり、給料は労働によって提供した価値の対価であって経営者から恵んでもらっているものではありません。
内心に傲慢さを持っていると、この上下関係を90度回転させて水平にする、つまり対等な関係に変えていくことができます。そうすることでサスティナブルな関係構築につながるでしょう。
リスペクトされるために心がけたい3つのこと
ここまでサスティナブルな関係構築について話をしてきました。続いては「リスペクトされること」についてお話しします。
人から尊重されるためには自分自身の価値や魅力が重要であり、そこには3つのポイントがあります。
(1)「インベントリー」と「コネクティング・ドッツ」
エンジニアのようなクリエイターにとって、自分の市場価値は「自分が作ったものの価値」につながるケースが多いでしょう。そして、自分の市場価値を高めるためには、まず「自分は何ができるのか、何が作れるのか」を把握する必要があります。
私は自分ができること、得意なこと、好きなことを管理する作業を「インベントリー(inventory)」と呼んでいます。インベントリーとは、英語で「棚卸し」のこと。たとえば飲食店では、店長が冷蔵庫をチェックして食材の在庫を確認して、次回の発注内容を決めますよね。それと同じように私たちも「自分の棚卸し」をしてスキルや興味、傾向、他人との違いなどを認識することが大事です。
「インベントリー」のあとにすべきことが、スティーブジョブズの名言にもある「コネクティング・ドッツ」です。ドットは2つであれば「点」になり、2つつなげば「線」になり、3つつなげば「面」になる。そうやって自分ができることや得意なこと(=ドット)をつないでいくことで、“価値”が作られていくという意味です。
私は中学生のころから、プログラミング言語など人工的に作られた言語や人間の心理に興味を持ち、その分野の知見を深めていきました。また、社会人になってからはアサインされた仕事のなかでうまくできたことを新たなドットとして取り込んでいきました。これらを組み合わせることで、「プログラミング言語開発者」になっていったのです。
(2)自分の価値を伝える
インベントリーを通じて自分ができることや得意なことを見つけて、コネクティング・ドッツによって自分の価値が見出されます。しかし、それが他人に評価されるかどうかは別問題です。市場価値は他人からの評価であって、自分で自由にコントロールすることは難しい。それに、他人は私たちの内面を見ることはできないので、誰しも知らない人には投資できないものです。
だからこそ自分を知ってもらうことが大切です。他人の評価はコントロールできなくても、自分の行動はコントロールできるので、魅力的に見せればいい。そのヒントとなるのが日頃の情報発信です。
Twitterやブログなどで発信をすることはハードルが高いと感じる人も多いと思いますが、以下のようなことを続けることでアウトプットの最適化が起こり、結果、自分の魅力・市場価値を伝えることにつながっていくでしょう。
アウトプットを繰り返す
↓
アウトプットが習慣化して苦にならなくなる
↓
アウトプットのクオリティが上がる
↓
発信を見る人が増えていく
↓
見てくれる人に有益な情報を届けようと、他人と差別化するようになる
↓
アウトプットが評価されるようになる
↓
その道のプロフェッショナルになっていく
詳しくは過去の勉強会の記事をご覧ください。 学生と社会人の勉強はここが違う! まつもとゆきひろが語る、リスキリングの極意
(3)相手を尊重しよう
自分が「尊重されたい」と思うのであれば、相手を尊重しましょう。ポイントは次の3つです。
- 相手を侮らない
- 相手を知る
- 相手を選ぶ
私たちは何かを評価するときに、ついつい単純化した基準で考えてしまいがちです。
たとえば、自分よりプログラミング能力が低い同僚がいたとします。でもその同僚は、自分よりお客様が求めていることを把握する能力が高いかもしれません。いろいろな評価軸があって、どのスキルに目を向けるかで人の評価は変わる。自分が苦手な部分を相手がカバーしてくれるかもしれないし、その逆もあり得る。
相手を侮らないことでその人をよく知ることができ、最終的に「Win-Win」になれる(サスティナブルな関係)人を選ぶことができるのです。
また、先入観を取り払うことも大切ですね。先入観を持たないようにするために、「だろう」から「かもしれない」への思考の転換がオススメです。
これは自動車教習所でよく教えられることで、「先の交差点が青信号なら、車が来ることはない“だろう”」と甘い見積もりでいると事故につながります。「信号無視をした車が突っ込んでくる“かもしれない”」と慎重になれば、事故を避けられる可能性が高くなります。
周囲との関係性においても、「相手は自分より優れたところがある“かもしれない”」とまず考えてみる。それを見つけたらそこを褒めましょう。
ゴキゲンでいよう
そして、最後にお伝えしたいのは、「みなさんにはゴキゲンでいてほしい」ということです。
ときどきいつも機嫌が悪く、何かあるとすぐに怒鳴り散らす人っていますよね。周囲はその人を恐れるため、短期的には言うことを聞くかもしれません。ですが長期的に見ると誰もそんな人とは一緒に働きたくないため、だんだんと人が離れていきます。
不機嫌は短期的には相手をコントロールできるかもしれませんが、サスティナブルではありません。だからみなさんには、機嫌のいい人でいてほしいですね。
自分の気分であれば、ある程度は自分でコントロールできるはず。機嫌がいい人は、それだけで魅力的です。機嫌がいいことがみなさんのドットをつなぐひとつの手段にもなるはずです。
まとめ:次回の勉強会も乞うご期待!
今回はまつもとさんに「エンジニアはどのようにサスティナブルな関係性を構築していくべきか」について、たくさんお話しいただきました。
今後も勉強会の様子を発信し、エンジニアのみなさんに有益な情報をお届けしていきます!