2022年上半期のマーケティング業界の潮流と今後の動向

2022年上半期のマーケティング業界の潮流と今後の動向

Teppei Maejima

Teppei Maejima

Strategy&Consulting事業部 部長の前島です。

2022年上半期はCookieの規制をはじめとして、マーケティングを取り巻く環境が大きく変化した時期でした。そこで今回は、2022年上半期のマーケティング業界の潮流を振り返るとともに、今後の動向についてもお話します。

マーケティングに関するデータ収集が困難に

2022年上半期のマーケティング業界のトピックをいくつかご紹介しましょう。

まずは何より、3rd party Cookieの規制が活発化していることです。具体的には、Web上のリターゲティングに制限がかかるということになります。すでにEUのGDPRやeプライバシー、米国の消費者プライバシー法(CCPA)が規制を強化していますが、これらはCookieの規制にシビアで、本人同意を求めなければならないというのが現状です。

日本においても、今年の4月に改正個人情報保護法が施行され、Cookieの利用に本人の同意が求められるようになりました。今回の改正ではCookieについて、個人情報に付帯するデータという位置づけになっています。

これらは法規制の話ですが、GoogleやAppleなど企業が提供するサービスにおいても頻繁なアップデートが行われており、Web広告業界は非常に身動きが取りづらい状況になっています。

Cookie規制にはCDPの活用で対応?

このように、マーケティングにおけるデータ収集のあり方が根本的に問われています。では、3rd party Cookieに頼っていた会社は今後どのようにデータを取得し、分析すれば良いのでしょうか。これが次のトピックです。

結論から言うと、CDP(Customer Data Platform:カスタマーデータプラットフォーム)の活用がひとつの解決方法になると考えられます。Treasure DataやRtoasterはCDPのツールをリリースしており、導入事例も増えています。有名なところだと、パーソルホールディングスや資生堂などがCDPを活用してCXを向上していこうという取り組みを進めています。

それ以前には、2015年前後にDMP(Data Management Platform:データ マネジメント プラットフォーム)というものがあって、企業が持っているデータを一か所に集約して営業やCXに活用していこうという動きがありました。ただ、この段階では3rd party Cookieの規制はなかったので、Cookieから得られるデータを使って統計化し、活用されていました。

ただ、その後の規制により、DMPがなかなか使えなくなってきました。そこで、CDPとしてデータを入手して活用する段階にきています。

時代に取り残されないためには「ブランドパーパス」が必要

では、CDPにどうやってデータを集めていくのでしょうか?

これまでは、3rd party Cookieで匿名のデータを集めてきて、「恐らくこの人だろう」という推測をし、コードトラッキングや広告の出し分けをしてきました。これが今後できないとなると、どのようにデータを集めるのか。

そこで3つ目のトピックが、「ブランドパーパス」です。これは、社会においてその企業が存在する意義を考えることです。マーケティングで活用できる1 to 1のデータをCDPに貯めて、アドテクに頼らずに自社のサービスを顧客に訴求してCDPにデータを集めることで、体験価値を見直すことができます。

例えば、巨大なホールディングスのようにいくつか自社に関連する子会社があり、それぞれがホームページやログイン機能を持っていると、特定の子会社にはデータが集まるものの、ホールディングス全体として利用することはできません。

そこで、子会社の縦割りを取り払ってホールディングス自体を入り口にし、会員情報を登録してサービスを体験をしてもらうことを目指します。縦割りをなくすためには、ホールディングス全体のブランドづくりが必要です。

コンサルティングファームの参画

「ブランドの再定義」に関しては、これまで代理店を中心にブランドマーケティングで活用されてきました。ロゴや表題を変えるなどの施策ですね。

ブランドパーパスの再定義という点では、最近コンサルティングファームがこの領域に参画していて、従来のコンサルティングというよりエージェンシー領域に展開してきているという印象です。

例えば、アクセンチュアはDroga5を買収していますし、他のコンサルティングファームもデザインファームやクリエイティブエイジェンシーを買収したり、子会社をつくったりと活発な動きを見せています。

このように、ファームや広告代理店の動きが、顧客体験の変革につながり、CDPを蓄えるという観点でも拡大していくと考えています。

LIGもエクスペリエンスポイント社のデザイン思考を利用して、デジタルチャネルのブランディングや体験変革といった案件もご支援可能ですので、ぜひご相談ください。

データ提供者に正当な対価が支払われるように

これまで主にデータの収集について話してきましたが、収集したデータの活用についても動きが見られます。

CDPを貯めた後のデータの活用も大きなトピックです。「情報銀行」という概念があって、一昨年あたりからマーケティング界隈でも話題になりました。

情報銀行とは、サービス利用者から彼らの意思に基づいて個人情報を預かり、その情報を他の企業に提供する代わりに、その対価としてサービス利用者にポイントやサービス優遇を付与する仕組みです。この仕組みがスタートしてから、三井住友銀行とフェリカポケットマーケティングが認定事業者として認められ、それぞれ事業を展開しています。

こうしたCDPに個人情報を集めていく取り組みも2022年上半期によく見られた傾向です。例えば、ヘルスケア領域では、個人の往診履歴のようなデータを地域に共有し、患者に対価を支払うという取り組みが進んでいます。

内閣府が主導する「Society5.0」のなかでもビッグデータを社会や個人に還元していく仕組みが触れられています。

同様に、マーケティング領域においても、3rd party Cookieをもとにしたパーソナライズ化から1st party Cookieのデータを活用するためのサービスに移行しており、ようやくデータ提供者への対価が考えられるようになりました。

エンドユーザーにどう訴求していくかが問われる時代に

今までのマーケターは割とマスのほうを向いていたように思えます。大勢が見てくれる媒体やキャンペーンは何なのかを常に考えていた。

3rd party Cookieの問題も同様で、これまでマーケターは特定の年齢や性別、嗜好の人にサービスやコンテンツに触れてもらえば良いと考えていました。

しかし、そういったデータ自体がもはや取れなくなってきている中で、今後マーケターが注目しなければならないのは、より個人の細かなデータをどう集めるかという点です。言い換えれば、自社の商品やサービスをエンドユーザーにどう訴求していくかが問われているのです。

まずは、取り扱うモノによって施策も大きく変わってくるでしょう。無形のサービスもあれば、物品もあります。ただ、マーケターが注目しなければならないのは、自分たちの製品やサービスについて、顧客がどういう動機で関心を持っているのか。そして、顧客の行動を変革するための施策を打ち出す必要があります。

例えば、駅で電車を待っているときに流れる広告は、人々にどのように見られているのかを考えるということ。これを従来のようにマスで捉えてしまうと、「特定の時間に特定の広告を流せば帰宅したときに思い出すのではないか」と考えて施策を進めてしまう。

一方エンドユーザーへの訴求を考えるのであれば、特定の人がどんなシチュエーションで、どんな気持ちで見ているのかを考え、そこに訴求する商材を結び付け、体験設計をしていくことになるでしょう。

中小企業も1 to 1のパーソナライズをする施策が肝に

ここまでは大企業について述べてきましたが、一方中規模程度の会社は大企業の動向に全然追いついていないという印象があります。

ただそれは、3rd party Cookieが許されていた時代でも同じようなことが言えます。データは集めるけれど、それが自社のサービス改善に直接的につながっていたかと言うと、難しいでしょう。

もっと広く言うと、SEO対策でインプレッションやPVは稼げても、CVやLTVを上げるためのSEO施策を打てているかと言うとそうでもない。訪問者数が増えたからとりあえず安心する、というところで留まっている。

残念ながら、中規模程度の企業のほとんどは、データを本当の意味で活用するというフェーズまでは至っていないというのが現状です。

CDPは大規模で何億もかかるような仕組みに思えるかもしれませんが、実際に使うツールはエクセルでも良いのです。大事なのは、集積されたデータをどう活用するかを意識しながら自社のデータ整備をすることです。

そうでなければ、3rd party Cookieで自動的に集まってきたデータが今後使えなくなり、施策に困ってしまうでしょう。そういう意味では、考慮すべきことは大企業もそれ以外も一緒です。

ツールに関しては、今年にかけて揃ってくるのではないかと思っています。先に挙げた大掛かりなツールではなくても、活用できるツールはいくつかあります。

中小企業のマーケターはあまり工数が取れないことが多いため、今後ツールが安価なサブスクリプションで使用できるようになったとしても、出口として1 to 1のパーソナライズをする施策を考えないと、データも集まらないし活用もできず、デジタルマーケティングをすることすらできなくなってしまいます。

うまく自社の1st party Cookieのデータを集めて活用する企業がこのDXの中で生き残るでしょうし、そこまで手が回らない会社は、大量のメルマガを送信するような旧世代のマーケティング戦略に戻っていくというのが、2022年の世界かもしれません。

さいごに

3rd party Cookieの規制から派生して、データ収集やブランディング、活用方法まで抜本的な変革が求められるようになった2022年。今回の記事が、今後のマーケティングやブランディングを考える上で参考となれば幸いです。

また、LIGではエクスペリエンスポイント社のデザイン思考を利用して、デジタルチャネルのブランディングや体験変革といった案件をご支援可能です。CDPの導入や活用についてもお手伝いできますので、ぜひお気軽にご相談ください。
 

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Teppei Maejima
Teppei Maejima Strategy&Consulting / Consultant / Partner / 前島 哲平

アクセンチュア株式会社にて、通信・メディア・エンタメ業界を中心に、営業改革(SFA/CRM)、CX(カスタマーエクスペリエンス)、デジタルマーケティング、分析基盤、個人情報の匿名加工、ERP/BPRなど約10年間に渡り、デジタル化戦略 & コンサルティングに従事。LIG入社後は、DX推進によるデジタル化戦略を支援している。

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