どうも、テクニカルディレクターのなつきです!
入社時の肩書きはブリッジエンジニアでしたが、気付いたらテクニカルディレクターになっていました。
しかし、業務内容は入社当時とほぼ変わっておらず、お客様とセブのエンジニアチームの架け橋となって、開発を円滑に進めることが今でも私の主な仕事です。まさしく世でいうところのブリッジエンジニアというわけです。
私の業務には、日本人とフィリピン人の会議で、日⇔英の通訳を行うことも含まれています。会議通訳はブリッジエンジニアの求人を見てもしばしば業務内容に挙げられているものの一つです。
でも通訳って、普通に生活していたら実際にやる機会は滅多に訪れないですよね。私も通訳経験皆無で、通訳のトレーニングを受けたこともありませんでした。
そんな状態で果たした会議通訳デビュー。持ち前の度胸だけを武器に裸一貫で挑んだのですが、上手くいくわけもなく、あまりの不甲斐なさにヤケ酒したくなるほど落ち込みました。
こんな思いをする人を少しでも減らしたい。
この記事では、
- ブリッジSE(ブリッジエンジニア)という仕事に興味がある方
- 英語×IT人材を目指す方
- 「君英語できるんだよね? 明日通訳やってくんない?」と無茶振りされた方
こんな方々のために、会議通訳デビューをするまえに知っておいてほしいことをまとめました。
前置き
- あくまで多少英語ができる素人が通訳を行う際の話です
- プロの通訳の方とは比較するのもおごかましいレベルの話です
- この記事における通訳は、話し手が発言を終えたあとに訳出を行う逐次通訳を指します
- 筆者の英語力:産まれも育ちも静岡人/海外経験1年半くらい/英検準一級/洋画は字幕ないと無理
筆者の英語力がしょぼすぎるので本当は隠しておきたいところですが、このレベルでも一応なんとかなるよ! ということを伝えたいので恥を忍んで記載しました。
なお、この記事を書くにあたり、参考にした書籍はこちらです。
「英語ができる=通訳できる」ではない
英語ができることと、通訳ができることは、イコールではありません。
もちろん、ある程度英語ができなければ通訳できません。言語が扱えることは、通訳にとっての前提です。通訳にとっての言語は、コックにとっての包丁であり、エンジニアにとってのPCです。必要不可欠な道具ですが、それを持っているだけではだめなのです。
では、「通訳ができる」とはどういうことでしょう。通訳者がやっていることって、話し手の発言を別の言語に変換しているだけに見えますよね。私も自分がやる前はそういうものだと思っていましたが、全然違いました。
実は、通訳者がしていることって見た目よりもずっと複雑なのです。話し手が伝えたいことを正確に理解し、それを聞き手がわかるように別の言語で表現する。このプロセスを自然に行えることが、「通訳できる」ということです。
ちょっとわかりにくいと思いますので、例を一つ。「サーバーを落とします」という簡単な一文で考えてみましょう。「落とす」という単語は、文脈によってさまざまな意味を持ちます。持ち物を落とす、単位を落とす、原稿を落とす……などなど。
私も普段から使っている優秀な翻訳アプリ、DeepLさんの翻訳結果はこうなりました。
- I will drop the server.
これだと「サーバーを物理的に手から滑り落とす」というニュアンスになってしまいます。違う、そうじゃない(これでも通じるかもしれないですけど……)。
上記のように文脈に沿った意味を理解しないまま単に別の言語に変換するだけでは、聞き手に正しい内容を伝えられないのです。
ここでいう「落とす」の正しい意味は、「停止させる」であり、日本のIT業界では当たり前のように使われています。そのことを理解していれば、こんな感じの訳出になりますね。
- I will stop the server.
通訳とは「話し手の発言を正しく理解し、自分が理解した内容を聞き手にわかるように表現すること」というイメージが湧いたでしょうか?
では、このポイントを踏まえて、通訳デビューする際にやるべき4つのことを具体的に書いていきます。
①事前準備をしよう
通訳するためには、会議で話される内容を理解して、再表現するのに足る専門知識と用語を知っておく必要があります。そのため、少なくとも議題は事前に教えてもらい、会議で話される内容の周辺知識やその訳語などを前もって調べておきましょう。プロの通訳の方々でも、毎回周到に準備を行うそうです。
さらに、会議でどんな話をしたいのか、どんな結論で着地させたいのかもあらかじめ聞いておくと楽です。そうすることで、論点が大きくズレてしまうことは避けられます。
②話し手にも協力してもらおう
通訳されることに慣れている人はそうそういません。そのような方は通訳者の介入によって、話を区切るタイミングが掴めず発言がぎこちなくなったり、好きなタイミングで話せず、フラストレーションを感じてしまったりします。
できるだけストレスなく話してもらいたいですが、通訳を介さない普通の会議と同様というわけにはいかないのです。会議をスムーズに進めるためにも、できれば話し手の方々に以下のことをお願いしましょう。
話は短すぎてもダメ、長すぎてもダメ
どこに話を帰着させたいのかわからないと、文脈が読めず訳しづらいので、結論まで話してもらうのが良いです。逆に、結論が複数入るほど話が長いと、今度は覚えていられません。なるべく一つ一つの結論で区切ってもらいましょう。
発言を被せない
会議がヒートアップすると、どんどん発言したくなってしまう気持ちも大変よくわかるのですが、通訳を介した会議では控えてもらいましょう。通訳者は、発言者の話の筋道を必死に辿っている状態です。これは、発言者の思考回路をトレースしているようなものです。複数の発言者に対してこのトレースを行うことは非常に難しいのです。そして上記に挙げたように、結論が複数あると覚えていられません。
③糖分補給しよう
通訳という作業は、非常に頭を使います。たった30分の会議でもかなり疲れます。ですから、事前に糖分補給しておきましょう。会議が長引いてしまったときのために、サクッと糖分が摂れるチョコレートなどをこっそり用意しておくのもオススメです。脳みそを労りましょう。
周りの人は、もし通訳者が会議中にお菓子を頬張っていることに気づいたら、「疲れてきたんだな」と大目に見ていただくか、休憩を与えてあげましょう。
私の場合、ぶっ通しで通訳できるのは60分が限界だと感じています。以前90分休みなしで通訳を行った際は、途中から集中力が持たなくなり、終了後には疲れ果てて虚無になりました。
通訳会社のHPなどを見ると、プロでも1人で行えるのは3時間程度、それ以上かかる場合は複数名で交代制となるようなので、あまり無理をしないようにしましょう(ちなみに同時通訳の場合は20分おきに交代が必要だそうです、壮絶……)。
④プライドを捨てよう
通訳としてアサインされたあなたの使命は、「話し手の言いたいことを代わりに聞き手に伝え、会議を進行させること」です。あなたがいなければ話し合いが進まないので、ファシリテーターに近い役割を担うことになります(かといって、ファシリテーターと通訳を同時に行うのは経験上お勧めしません)。
その使命の前では、あなたの「英語が間違ってたら恥ずかしい、聞き取れなかったら恥ずかしい」という気持ちは邪魔になるだけです。まずは前述したように、事前に会議の情報をできるだけ共有してもらってください。そして、もし会議中にわからないことがあったり聞き取れない言葉があったら、もう一度聞き直すことを躊躇わないでください。
恥ずかしいから、とそのまま訳してしまうことのほうが会議を混乱させます。もちろん円滑に会議を進めるためには聞き直しが少ないほうがいいですが、わからないものは仕方がありません。上手く通訳できなかった日は不甲斐なくて落ち込むかもしれませんが、そんな日はゆっくりお風呂に入ってよく眠り、翌日から語学の勉強に励んでください。
本来、通訳は専門技術であり、片手間でやれることではありません。プロの通訳になるには、訳す言語を母国語に近いレベルで扱えることが必要であり、そのうえで冒頭で述べた「話し手の発言を正しく理解し、自分が理解した内容を聞き手がわかるように表現すること」の訓練をするそうです。
もし、「本物」の通訳のクオリティを求めるのであれば、ちゃんとそういう訓練を積んだ人を会社は雇うべきです。そうではないあなたに通訳を頼んでいるのですから、「プロの通訳並みにやってやるぞ!」と無謀なことは考えなくてよいのです。
あなたの使命は「会議の進行」であることを念頭に置き、今の自分が持つ最大限の力を発揮できるように肩の力を抜いて臨みましょう。
最後に
ちょっぴりネガティブなことも書いてしまいましたけど、通訳業務はとてもエキサイティングです。「英語使って仕事してるなあ〜!」という実感が一番持てる業務です。
いざ会議通訳が始まると、つねに土壇場の判断が迫られる崖っぷちに立たされた気分なので、火事場の馬鹿力的に脳が高速回転し、普段以上に英語力や瞬間的な判断力、そして度胸が鍛えられると個人的には思っています。
本来私の実力では、通訳をするに足るレベルとはとても言えないのですが、こんな私でも通訳業務の経験が積めるLIGの環境にとても感謝しています。
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