マーケターが「よくやっているけど意味のない業務」と「成果を出すためにやるべきこと」って?WACUL垣内氏インタビュー

マーケターが「よくやっているけど意味のない業務」と「成果を出すためにやるべきこと」って?WACUL垣内氏インタビュー

Mako Saito

Mako Saito

みなさんこんにちは、まこりーぬ(@makosaito214)です。

マーケティングに関わるみなさまへおすすめしたいTwitterアカウントNo.1のWACUL垣内さん(@yuikakiuchi)にまたまた貴重な取材の機会をいただきましたっ……!!!

▼前回の記事はこちら

デジタルマーケティングにおけるノウハウを惜しみなく発信することで、「車輪の再発明」の撲滅に取り組まれている垣内さん。そこで今回はその取り組みを微力ながら後押しすべく(少々刺激的なテーマですが(汗))「マーケターがよくやっているけど意味のない業務」についてズバリお話をうかがってきました!

※ 車輪の再発明…すでに確立されている手法を知らずに、または無視して、再度一から作り直すこと。

あわせて「マーケターが成果を出すためにやるべきこと」についてもありがたいお言葉をたくさん頂戴してきました。全マーケターのみなさん、お時間のある際にぜひご一読ください!!!

株式会社WACUL 取締役CIO 垣内勇威 さん東京大学経済学部卒業後、株式会社ビービット入社。大手クライアントのWeb改善コンサルティングに携わる。2013年株式会社WACUL入社。AIでWebコンサルをSaaS化したWebマーケティング改善ツール「AIアナリスト」を生み出し、現在は取締役CIO(Chief Incubation Officer)兼WACULテクノロジー&マーケティングラボ所長として、さらなる新規プロダクトの創出を担当。
備考:山手線ゲームがめちゃめちゃ強い。

マーケターがよくやっているけど意味のない業務

まこりーぬ:垣内さんはよく取材記事やTwitterにて「○○(マーケティング施策)には意味がない!」とズバリ断言されていらっしゃいますが、本日はあらためて、意味ない度合いの高い施策から順に教えていただけないでしょうか……!

垣内:成果には影響がないし、やっていてつまらない施策には意味がないですよね。しいて序列をつけるとすれば、よく実施されがちな「ABテスト」「アトリビューション」あたりが最悪で、時間はかかるし一番やってはいけないです。

まこりーぬ:(出ました垣内節……!)しょ、詳細を聞かせてください……!

代表例1:ABテスト

まこりーぬ:ABテストについては前回の取材でもお話しいただきましたね。「細かなABテストで成果が劇的に変わることはない」という言葉は当時とても印象に残りました……。

垣内:ヒートマップを一度でも使ったことがあれば、ページの下の方なんてぜんぜんユーザーに見られていないってみんなわかってるじゃないですか。なのにそんな場所でABテストをしている人がいたり、あとはサイゼリヤの間違い探しのようにAとBの違いが細かすぎてパッと見わからないABテストを真面目にやる人もいたりする。

何度でも言いますが、サイトをちょっと変えたぐらいでは成果は上がりません。成果を上げたいのなら、コンバージョンに寄与するページでPDCAを回せばいい。

ちなみに大規模なサイトリニューアルをおこなったとしても、デザインなど見た目だけの変化ではコンバージョン率が上がる確率は低いです。このことは研究レポートとしてまとめています。

まこりーぬ:成果を上げるために重要なのは、細々したABテストや見た目だけのサイトリニューアルではなく、コンバージョンに近いポイントの集中改善ということですね。ちなみにちょっと素朴な疑問なんですが、ABテストってどうしてみんなこんなにやりたがるのでしょうか……?

垣内:結果が数字で出るので周囲に説明しやすいし、仕事した感を得やすいからじゃないですかね。ABテスト実施の目的が、成果を上げることじゃなくて “成果を証明すること” になってしまっていると思います。

でも実は証明ができているわけでもないんですよ。化学のように厳密な実験はできないので、ABテストの結果をもとに本番へ実装したら数字が落ちましたなんてことはザラに起こります。短い期間で繰り返しABテストをやれば意図的に結果を操作することだってできなくはない。……ABテストの結果ってもはやその程度のデータなんですよね。

成果を上げるためにサイトを改善したいのであれば、ABテストなんかしなくても前後比較で十分です。サイトに手を加えてみて、結果数字が改善すればOKだし、数字が落ちれば元に戻せばいい。弊社が提供しているマーケター・エンハンスメントツールである「AIアナリスト」にも、WebマーケティングのPDCAの推進支援のために、改善施策の実装前後比較を行う「効果検証機能」を搭載しました。PDCAのCheckにあたる機能ですね。

まこりーぬ:プロダクトにもABテスト撲滅の思想が反映されたのですね! すごい!

代表例2:アトリビューション

まこりーぬ:続いて「アトリビューション」についても聞いてまいります! 最近こんなツイートもされてましたよね。

※ アトリビューション…コンバージョン直前の接触点だけでなく、コンバージョンに至るまでのユーザーとの接触点すべてを評価対象として、コンバージョンへの貢献度を評価すること

広告運用に携わる人間としてこの主張にはドキドキしてしまいました……(汗)。

垣内:ちょっと補足説明します(笑)。前職で広告におけるアトリビューションのデータは山ほど見てきましたが、直接コンバージョンがとれないのに間接コンバージョンだけある広告は存在しないです。つまり直接コンバージョンだけで評価した場合と、間接コンバージョンも含めて評価した場合とで広告の良し悪しは変わりません。だったら直接コンバージョンだけ見ればいいじゃん……っていうのが僕が言いたいことです。

まこりーぬ:なるほど、そういう意味だったんですね。

垣内:あとは、広告ではなくリアルとデジタルをまたぐようなアトリビューションも別の理由で意味がないです。お金をかけてDMPを導入し、なんとか分析しようとする企業もいますが、分析したところで、複数のメディアを横断するユーザー行動を企業側が意図的に操作することなんて絶対にできないんですよ。

ユーザー行動を理解することにはもちろん意味がありますが、それは5人ぐらいにインタビューすれば済む話です(笑)。

まこりーぬ:そのデータを一生懸命追いかけたところで成果につながる施策が導き出せるのか?出せないのなら無駄だ!ということですね。

※ DMP…「Data Management Platform(データマネジメントプラットフォーム)」の略。ユーザー属性やアクセスログなどのビッグデータを蓄積し、管理する仕組みのこと。

細かすぎる・こだわりが強すぎる業務たち

まこりーぬ:上記の他にも、日々多くのマーケターとお仕事されるなかで「この業務はあまり意味がないなぁ」と感じたエピソードがあれば教えてください!

垣内:そうですね、細かいですがたとえば「検索順位が4位から5位に落ちちゃったんですよ……」と落ち込むSEO担当者から相談されたときや、しっかり作り込まれているのに残念ながら誰にも見られていないキャンペーン動画を見つけたときですかね(笑)。それって気にする必要ありますか? やる意味ありますか? って、ついついツッコんでしまいます。

まこりーぬ:作り込まれているのに誰にも見られていないコンテンツ、ツラいですね……(自社にも思い当たるものがチラホラ……)。

垣内:「ブランディング」という隠れ蓑を着てSEO目的でも拡散目的でもない謎のコンテンツを作る人たちは一定数存在しますからね……。

まこりーぬ:ブランディングという隠れ蓑!(笑)

垣内:会社のブランド作りって、サービスや社員に一定の尖りが必要で、且つ全社を挙げてかなり意図的に取り組まなければならないものだと思います。ちょっとやそっとのコンテンツで、絶対にブランドは作れない。……にも関わらず、ブランディングという言葉で自分の仕事(コンテンツ作り)を正当化しようとする人っていますよね。

コンテンツを作るときにしいて意識すべきなのは「今あるブランドを壊さないこと」でしょうか。といってもよほどヤバいことをしない限りはそう簡単に崩れないので大丈夫だと思いますよ(笑)。

まこりーぬ:一つひとつのコンテンツの質にどこまでこだわるべきかけっこう悩ましかったのですが、「今あるブランドを壊さない」という指針はとてもしっくりきます。ありがとうございます。

マーケターが成果を出すために取り組むべきこと

まこりーぬ:ここからは後半戦です。「よくやっているけど意味のない業務」の逆で、「マーケターが成果を出すために取り組むべきこと」について、ぜひ教えてください。

垣内:より売上に近いポイントに取り組んでほしいですね。BtoBだったら営業、ECだったら商品仕入れです。

まこりーぬ:おおおおお……さっそく想像の斜め上をいく回答をいただきました……!

BtoBなら営業・ECなら商品仕入れ

垣内:BtoBの場合、売上に直結するのは明らかに営業じゃないですか。どんなリードを営業に渡したら成約しやすいのか、自分で営業を経験するなかで感覚をつかんでほしい。

BtoBのマーケティングでは、テレアポやって飛び込みやって訪問して仲良くなってようやく契約っていう、そんなオールド営業を自動化するためにデジタルを活用しているわけで。名刺を1枚獲得することの苦しさを知らずに、Webだけ見ていいリードを獲得しようなんて正直甘いです。

まこりーぬ:は……い……!!!(私にはかろうじてオールド営業経験がある……! セーフ……!!!)

どのぐらい営業を経験すべきか、目安はありますか?

垣内:もともと営業経験のある人であれば、1〜2週間やってみて感覚がつかめれば十分だと思います。営業→インサイドセールス→コンバージョンポイントの変更と、売上に近いところから順に経験してみて、ようやくさいごに細かなWebの改善をおこなう。

またECの場合、売上に直結するのは商品仕入れです。何を仕入れたらいいのかわかっている担当者が一番売上を作ることができる。その次は値引きのタイミング。

まこりーぬ:売上を上げることとWebサイトを改善することって、こう見るととても距離がありますね……!(涙)

垣内:そうなんです。マーケティング施策の成果が出なかった原因としてよく「他部署との連携がうまくとれなかった」という項目が挙げられます。しかし、部署の垣根を越えて改善しないと成果がでない。だからこそ、Webだけでなく売上に近い他部署の仕事を経験してほしい。

大きい会社だとなかなか難しいですが、Webと営業、WebとMDなんて切り分けるのはやめて、1つの部署でぜんぶやるのが本当は理想です。当然分業したほうが局所最適は進むんですが、その結果「売上まで見据えてWebを改善する」といった動きがとりづらくなってしまう。それにこの組織体系のほうが目標達成へのコミットは高まりますし、メンバーのレベルも底上げできます。

※ MD…マーチャンダイザーの略。商品の開発から仕入れ、販売計画まで担う人または部署

まこりーぬ:なかなか大変そうですが、分業のときには思いつかないような改善のアイディアがたくさん出てきそうですね(LIGは営業もマーケティングも少人数なので理想の体制を実現できるかも……)。

ユーザー調査

まこりーぬ:すでに多くのマーケターが取り組んでいる業務のなかでも、優先順位高くやるべき仕事はありますか?

垣内:「ユーザー調査」は大事ですね。どの場所に、どういう理由で、どんなユーザーが集まっているのかを把握しておくことは、次なる投資先を判断する上で必要不可欠です。3〜5人でも十分傾向はつかめるので、まずは身近なお客様から聞いてみてください。

Webの改善であれば、ぜひユーザーが実際にサイトを使っているところを関係者全員でモニタリングしてみてください。制作側の意図とはまったく異なる動きをされるので、自分たちが妄想の世界で生きていたことに気づかされますよ。

まこりーぬ:目の当たりにするっていうのがポイントなんですね。がんばって作ったバナーまったく見られてないじゃん! などリアルにショックを受けそうです……(笑)。

コンテンツ制作

垣内:その他だと「コンテンツ制作」も大事で、BtoBのコンテンツマーケティングはコンバージョン獲得につながります。こちらの点についても、弊社から研究レポートを出しています。

広告は競合が増えるばかりで伸びしろがないですし、SNSも特定の業種以外はなかなか成果が出しづらいですが、いいコンテンツは、作り続ければ必ず成果につながります。

まこりーぬ:コンテンツ制作! 言うは易しですが、記事を1本書くにしてもすごくエネルギーが必要なので、なかなかうまく推進できていない企業様が多い印象です……。

垣内:経営者が腹を決めて、金を突っ込んで制作を外注するなり、経営者自身が記事を執筆するなりして、背中を見せながら前進させるしかないと思いますね。

たしかに文章を書くのは大変なので極力好きな人にお任せしたいところではありますが、もしABテストやアトリビューションに時間を割いているメンバーがいるなら、「それはいいからコンテンツ作れよ」って間違いなく伝えますね(笑)。セミナーを無限に開催するのも効果があると思いますし。時間を割くべきは、コンテンツ作りです。

まこりーぬ:その点、LIGは社長を筆頭にコンテンツ作りに意欲的な人が多いので、めちゃめちゃ恵まれている環境かもしれません……!!!(涙)

垣内:弊社でもオウンドメディアである「AIアナリストブログ」を運営しています。立ち上げ当初は社員みんなで一生懸命記事を書いていました。試行錯誤を繰り返す中でコツがわかってきて、今では“アクセス解析”など自社プロダクトと関係性のあるさまざまなキーワードで上位をとれるようになり、そこからたくさんのリードが獲得できています。

また、自社でためたノウハウを社内ツールに落とし込み、効率的に制作できる体制を整えたので、今では「AIアナリストSEO」として外販も提供しはじめました。

+α 定期的な振り返り

まこりーぬ:本日の取材もありがたいことにたくさん有益なお話をうかがえました。さて、どこから取り組んでいこうか……。垣内さん、日々の過ごし方において意識すべきポイントはありますか?

垣内:「振り返る」って、すごく重要だと思っているんですよ。僕の場合は「今会社にとって一番やらなきゃいけないことはなにか」を1週間に1回は論点を出して整理するようにしてます。それを踏まえて自分のカレンダーを見て、「あぁこんなことに時間使ってる場合じゃないわ、この仕事やめよう」って捨てていく。

これはどなたでもできることだと思います。週に30分でいいから、自分のミッションに対して今やらなきゃいけないことを洗い出して、一歩引いたところから見てみる。優先順位に対して時間配分が適切かどうかを検討する。

どんなに忙しくても週に30分時間がとれない人なんていないので、飲みながらでもいいからぜひやってみてください。つまらない仕事を捨てておもしろい仕事が増えると、毎日のやる気もでてきますよ。

まこりーぬ:垣内さんクラスであっても定期的な振り返りを大切にされているのですね……! バタバタしていると振り返りが適当になりがちな自分が恥ずかしい……!(涙)

それにしても、仕事を捨てるのってけっこう勇気がいりませんか? 一度始めた業務はついズルズルと引っ張ってしまいがちです……。

垣内:捨てるのが苦手な人は多いと思いますよ。業務を止めるだけでなく、別のメンバーにお願いしたり、お金を出して外注したりする方法もあるので、ぜひ捨て方も工夫してみてください。

あとはやはり、目の前の業務に一生懸命取り組んでいるメンバーの視点から、必要のない仕事を見極めるのは難しい場合もあると思います。そんなときは全体を見ている上司こそが、「この仕事やめよう」と判断すべき。これは、上司にしかできない仕事だと思います。

まこりーぬ:なるほど……ありがとうございます! 自分でも振り返りつつ、より広い視野をもった上司とともに振り返ることができると、その後の仕事も進めやすそうですね。

さいごに

相変わらずキレッキレな垣内さんのお話に、一マーケターとして「あぁ頑張らねば……!」と奮起しました。と同時に、

  • 成果を上げる上でインパクトの大きいポイントはどこか見極めること
  • 取り組んでいる業務が成果につながっているのか客観的に疑うこと

この2つを、典型的なマーケティング業務の枠を超えて実践していかないといけないなぁと強く感じました。

また、これらを体現されている垣内さんは「振り返り(論点整理)」を習慣にしていることも発見でした……!

目の前の仕事に追われていると毎日慌ただしく過ごしてしまいがちです。しっかり振り返りをして、仕事をしているふうではなく、きちんと仕事ができる人間となれるよう引き続き精進いたします!

以上、まこりーぬがお届けしました!

 
▼さらに垣内節が聞きたい方はこちらから

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Mako Saito
Mako Saito LIGブログ編集長 / 人事部長 / 齊藤 麻子

1992年生まれ。2014年九州大学芸術工学部卒業後に採用コンサルティング会社へ新卒入社。法人営業から新規事業推進、マーケティング業務に従事したのち、2018年にLIGへ。2023年にLIGブログ編集長、2024年に人事部長に就任し、現在は自社のマーケティング・人事業務を担う。副業ではライターとして活動中。あだ名は「まこりーぬ」。著書『デジタルマーケの成果を最大化するWebライティング』(日本実業出版社)

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