学ぶことは真似ること。お手本を見つけることが、その道を極めるショートカットなり。
このたび「信濃町ライター養成講座」(主催:長野県信濃町役場、協力・運営:LIG)を開催することになったLIGのエディターのきょうこです。
Webライティングを学びたい人、集まれ! ライター養成講座@長野県信濃町を開催します!
大学を出てからかれこれ30年ほどプロの編集者、ライターとして禄を食んできましたが、いざ人に教えるとなると「何を、どう、教えたらいいんだろう?」と悩みました。
そこで頭に浮かんだのが、ゲームクリエイターでライターの米光一成さん。
米光さんは、2010年から宣伝会議「編集・ライター養成講座 即戦力コース 米光クラス」の講師をしていて、米光講座から巣立った教え子たちはプロの編集者、ライターとして活躍中。
そうだ、米光さんに、教え方を教えてもらおう!
昔からの知人である(そして私が駆け出しの頃からお世話になっている編集者アライユキコさんのパートナーである)米光さんに、ライターの育て方について、お話をお聞きしました!
お話を聞いた人:米光 一成(よねみつ かずなり)さんゲームクリエイター、ライター。広島県生まれ。デジタルハリウッド大学専任教授。『ぷよぷよ』『トレジャーハンターG』『バロック』『想像と言葉』など、ゲーム監督・脚本・企画を数多く手がける。新作は『レディーファースト』。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。 Twitter @yonemitsu |
ライターになりたい人に何を教えたらいいの?
──米光さんは宣伝会議でライター養成講座の講師を10年くらいされていますが、米光さんがライター講座をはじめたきっかけは?
米光:宣伝会議の「編集・ライター養成講座 総合コース」の講師として呼ばれて1コマだけ教えたところ好評だったので、2010年から「即戦力コース」として単独の講座を持つことになりました。総合コースは基礎力を養成するコースだけど、即戦力コースはプロになりたい人向けの実践的なコースです。
──この10年くらいを振り返って、ライターをとりまく環境の変化を感じますか?
米光:講座をはじめた2010年頃って、編集部に外部の人が行けなくなってきた時期で。いまは、知り合いがいてアポをとってからじゃないと編集部に入れないですよね。
──あぁ、90年代だとアポなしで雑誌の編集部を訪ねて行って、「ライターなんですが、何か書かせてもらえませんか」って、自分が書いた記事を見せて売り込みができました。
米光:まだメールもない時代ですよね。アライ*に聞くと「ポパイ」編集部でも「この人、だれ?」みたいな人がいっぱいて、渋谷のおしゃれ小僧とかが編集部に出入りして、何かの卵たちのたまり場になっていた。その中からプロのライターになったりスタイリストになったりする人もいて。
──私もそうやって「ポパイ」編集部に潜り込んでライターになったひとりです(笑)。
米光:当時は雑誌の編集部が、ある種の育成機関になっていた。その最後のあたりを僕も経験しているので、それがなくなってしまったのは問題だなと思って。
プロのライターになりたい人は、どうやってなっていいかわからないし、編集部のほうも「書けるライターがほしい」って言いながら、育てる余裕がなくなっている。
じゃあ、そういう場所があればいいのではと思ってやっています。ライターを養成する場所で、編集者とライターがマッチングする場所。
なので、僕の講座には、プロの編集者たちにも遊びに来てもらって、受講生をスカウトしてもらったり、オーディション形式で実際にデビューできるようにしたりしています。
──教えるうえで何が大事ですか?
米光:「教える」のが好きじゃないし、「教わる」のも好きじゃない(笑)。「わが秘技を伝授しよう」みたいなことはことはぜんぜんない(笑)。
手取り足取り教えるんじゃなく、受講生に実際にアウトプットしてもらって、それを発表する場所を見つけてもらう、もしくは見つける手伝いをできればいいなって。
一応、僕自身がプロとしてやっていて知見があるので、少しだけ師弟関係のある仲間みたいな感じです。
昔の編集部みたいに、出会いの場、養成機関みたいなのをつくりたいし、その場でみんなが切磋琢磨できるといいなって。
▲青柳美帆子さんも米光講座の卒業生で、編集者、ライターとして活躍中。現在は『ねとらぼGirlSide』編集長。ライターをとりまく環境が激変、チャンスも多い!
▲米光さんの着ていたTシャツの色が、歩道の紫陽花とシンクロしていたので溶け込んでもらった。
──この10年、20年の大きな変化といえば、ライターの主戦場が、紙の雑誌からWebへと移ったことだと思うんですが。
米光:講座をはじめた2010年頃って、編集者とかライターをとりまく環境が激変していたときで、その新しい動きが面白いと思ってた。Webメディアがどんどん立ち上がってきたり、「電子書籍元年」と言われたりして激動しているときだからこそ、新しい人が活躍できるチャンスだと。
古いものにしがみついてる人は、「出版業界は不況だ」とか「滅びる」とか言ってるけど、新しいことをやっている人もいるし、そっちのほうが面白いじゃん! って思ったので、そっちの道をやることにした。
米光講座の1年目に「電書フリマ」*をやったんです。企画を出して、みんなで電子書籍をつくって販売するシステムをつくって、イベントをやって。編集・ライター養成講座なのに、「プログラマーとしてのスキルが上がりました」っていう人がいたり。だから僕が一方的に教えるというより、「チームでみんなでやってみる」というやり方です。
(「コトバンク」の「電書フリマ」の項より)
──米光講座の受講生は、どんなライターになりたいと思っているんですか?
米光:前は「機内誌に書きたい」とか、それこそ「マガジンハウスの雑誌に書きたい」とか言う人がいたけど、そういう人は減ってきた。
最近だと、会社で広報部とか人事部に配属されて、社員インタビューの記事とかプレスリリースとか、いろんな文章を書かないといけなくなったんだけど、よくわからないままやっているので、誰かにちゃんと教わりたいと思って来ました、というパターン。
あとは、自分でWebメディアを立ち上げたい、文章を書きたいんだけど、アウトプットの仕方がわからない、とか。
Webメディアの場合、量産できるように誰でも書けるようなフォーマットにしているところがある。だから「プロのライターです」という人でも、そういうフォーマットに合わせてマニュアル通りに書けば、取材しなくてもそれなりに記事が書けたと錯覚してしまう。だけど、それをずっと続けていてもライターとして成長してる気がしなくて……という人もいる。
プチ専門を見つけて、その分野のナンバー1になる!
──受講生は目的も文章力もバラバラなので、教える側もむずかしいんじゃないかと思いますが、どういうところから書くトレーニングをするんですか?
米光:プチ専門をつくってもらうんです。たとえば「風車」とか「卵サンド」とか。
──風車? 卵サンド? すごくニッチですね。
米光:わざと専門の領域を狭くしてもらっている。「この半年間の講座の間に(ライターとして)一番になれるものにしてくれ」って。「スポーツ」だとジャンルが広すぎて、すごいスポーツライターはすでにたくさんいるので、「選んだ瞬間に一番になれるものがいい」と言っています。
専門を決めたら、それについて詳しく調べてもらう。「書く」よりも先に、まず「詳しく調べる」というノウハウがない人がほとんどなので、そこをトレーニングしてもらいます。
──ああ、それは納得です。私もライターになりたての頃は「美術・デザイン」を専門にするって決めて「美術ライターです」って名乗っていました。ジャンルを絞ったほうが仕事がしやすかった。
米光:雑誌で何かの特集をやるとき、編集者もライターも、短期間で集中的に調べて勉強してにわか専門家になるじゃない。ファッションでも食べ物でもなんでも。そのノウハウが大事なので、そこを鍛える必要があるし、むしろ鍛える必要があるのはそっちだと思う。
それ以前に「何を書くか」、テーマを見つけることのほうが大事。自分だけのテーマとか専門が武器になるので、それを見つけてもらうことをやっていますね。
たとえば、風車をテーマに選んだ人だったら、知識をバラバラと書いても面白くないから、「切り口をみつけよう」って言います。「風車の記事なんて、需要がないのでは」という懸念に対しては、エネルギー問題や環境問題と絡めるとか、「新しい切り口を考えれば需要はできるよ」って。そういうことはアドバイスできる。
──たしかに「書く」以前にやることがいろいろありますね、「調べる」「観察する」「考える」とか。
米光:自分が興味もっていることを、ちょっと引いて見たり、違う角度から見てみる。ただのファンだと「好き好き」なんだけど、ライターはそれだけじゃなくて、イヤな部分も含めていろんな視点から見る能力が必要。そこに気づくと、成長が早いです。
シーズンの途中から「プチ専門のオフ会をやる」という課題を出すんです。そこで覚醒する人が多い。
──覚醒する!?
米光:お茶会でも飲み会でもなんでもいいので、オフ会を企画して、Twitterとかで集客して、というのをやってもらう。すると、集まった人がいろんな視点をもっているので、そこで「読者に会う」という体験をするんです。新しい出会いがあったり、意外なことがあったりして視点が多面的になるんですね。
「自己満足じゃなくて読者を意識して書く」「多様な読者がいることを実感する」ことが難しいんだけど、それがオフ会を主催することで体験できる。
──自分が伝えたいことを一方的に書くのではなく、読者の視点が必要と。
米光:あとは、講座の後半でインタビュー会をやっていて、米光講座の出身者でプロのライターや編集者として活躍している人を10人呼んで、受講生がインタビューして原稿を書く。受講生が30人なので、3人で1チームになって、3人で同じ人にインタビューして、同じ録音データから原稿をつくって、それを比べるんです。
すると「この人はここを生かすんだ」「ここをカットするんだな」「この人のほうがうまい」って気づいて、僕が教えなくても、お互いに学んでくれる。
事前にインタビュイー(インタビューする対象の人)をリサーチして質問項目を考えてしっかり準備してくる人と、そうじゃない人がいるので、実際にやってみると、他の人のやってることを見て「こうすればよかったのか」というのがわかる。
僕がやることは、そういう環境を整えること。1つ気づくと、ドミノ倒し的にガーッて伸びる人もいる。だから「(講座の期間は半年なので)この半年は、歯を食いしばってやってみてよ」って言ってます。
1つのセンテンスは33文字以内に!
▲いいオフィス池袋にて。後ろに見えるのはWebクリエイター養成スクール「デジタルハリウッドSTUDIO池袋 by LIG」
──先日、米光講座を見学させてもらって、米光さんが合気道の達人みたいに、受講生の質問に対してサッと一言で投げ飛ばす、みたいなやりとりが面白かったです。とくに印象的だったのは、何を質問されても、米光さんが迷わないで即答かつ断言してたこと。
米光:迷うと、迷ったことだけが伝わるんですよ。講座をやっていて気づいたのは、断言しないとダメってこと。
たとえば「一文は短く」って言ったあとで、「でも、長くても、いい文章もあるんだけど」って例外を言うと、逃げ道として例外を覚えちゃう。で、冗長になってるのに「長くてもOK」って思ってしまう。
「一文を短く」って言っても、初心者には「短い」がどのくらいかがわからない。だから「33文字以内」ってルールを決めると、そこからやっと推敲するようになるんです。
僕の講座では、1つのセンテンスは33文字以内というルール。これは必須。すると「無駄なものを削って」って言わなくても、33文字っていうルールのために、無駄なものを省くようになる。「指示代名詞はなるべく削って」とか「主語は省略して」とか1つ1つ言わなくても、「一文は33文字以内」と断言するほうが、伸びるってことに気づいて。
最初は、例外もいろいろ教えるほうが親切だと思ったんだけど、それは基本ができるようになってからのほうがよくて、「まずはトレーニングだから、33文字以内のルールでやってみて」って言います。重いリストバンドをつけてトレーニングするみたいな感じ。
▲宣伝会議「編集・ライター養成講座 即戦力コース 米光クラス」シーズン10の授業風景。
──「33文字」という数は、何に基づいて決めたんですか?
米光:自分で書いてみて、33文字くらいがいいだろうと。僕の講座で出す課題は、原稿の文字量が1,200字なんですけど、「養成ギブスをつけてるな」って読者に気づかれる(違和感を感じる)ことなく読めるのが、33文字くらい。
これが2,000字、3,000字とか、もっと長い文字量の原稿になってくると、例外も必要になってくるんだけど、1,200字の原稿だったら、これが養成ギブスとしてすごく有効。
──教えてみてわかったことって、他にもありますか?
米光:最初は、提出された課題の原稿は、いくら下手でも最後まで赤入れしてあげてたんだけど、リード(導入文)がど下手だと、赤入れしないようにしてる。
「リードで読者の気持ちをしっかりつかんでください。Webでは冒頭がつまらないと読者はすぐに離脱するから、リードはとくに推敲してね」って教えるんだけど、なのに、つまんないリードを書いてくる人には、冒頭だけ赤入れして、あとはしない。
親切に赤入れしてあげると、なんだかんだ読んでくれるんだと勘違いしちゃって、次もまた気をつけない人が続出する。そういう意味では厳しい環境でやってるけど、実際にプロとしてやっていくのはもっと厳しいわけだから。
──教えることが難しいなと思うのは、同じことを言っても、誰が言うか、どういうシチュエーションで言うかで、相手に響くかどうかがぜんぜん違いますよね。米光さんを尊敬している人は、米光さんの言葉を養分として素直に吸収するけど、同じことを私が言っても響かないとか。
米光:僕の講座も、僕のことを知らない人も来ますよ。もちろん僕の文章を読んでくれてて、僕のつくったゲームをやってくれてる人もいるけど、宣伝会議の講座だから来てる人もいて、僕の言葉が届かないことも、多々ある。
それで、講座を何シーズンかやっていくうちに途中から始めたんだけど、修了した先輩に来てもらうようにしてるんです。先輩の言葉のほうが響くことが多い。ロールモデルとして近いから。僕が言うと、ベテランの人が言っていることとして、ちょっと離れた感じになる。
数年前に同じ講座で学んでプロのライターになっている先輩の言葉のほうが説得力がある。「オグマ(ナオト)*先輩にこう言われたので、がんばりました」とか。「オレもまったく同じこと言ったよね!」って(笑)。
卒業生や僕の知り合いの編集者、ライターに声をかけて遊びに来てもらってるのは、そういう理由もあります。同じ内容でも、誰が言うかによって変わってくるんだなって実感があるけど、誰の言葉が響くかわからないし、同じ内容のことを複数人が言うと響くってこともある。「言い方はちがうけど、結局、同じことを言っているんだな」って気づいたときの腑に落ちる力って大きいから。
▲この日の講座には、人気コラムニスト・石原壮一郎さんの姿も。業界の大先輩ですが、気軽に受講生の質問に答える大人力をここでも発揮。
──伸びる人の特徴ってありますか?
米光:課題の原稿をちゃんと書く人は、最初は下手でも伸びますね。課題の提出は2週間に1本なので、それが書けないとなると、プロとしてやっていくのは厳しい。書くことを習慣化できるかどうかが大きいし、書いたものを人に見せられない人は向いていないかもしれない。
資質として「書くことが苦じゃない」「書いたものを、人に見せることが嫌じゃない」というのが必要。
──米光さんはゲームクリエイターとしても活躍してますが、ライター講座をすることとは、どうつながっていますか?
米光:ゲームでいちばん好きなのは、インタラクション(双方向性)。将棋なら、相手が指したのを見て、こっちが指すみたいなやりとり。お互いにやりとりするコミュニケーションのピュアな状態がゲームの面白さだと思っているので、ライター講座もインタラクション重視でワークショップ形式にしています。
ゲームは、仕組みをつくって、そこでプレイヤーに遊んでもらうんだけど、講座でもそれをやってる感覚ですよ。僕が一方的に教えるんじゃなくて、僕が投げかけて、それに対して打ち返してもらう。で、また僕が打ち返す。
長年ライターをやっていると、「(初心者は)ここがわからない」っていうのがわからなくなってるから、それに気づいたり、「こう伝えると、伝わるんだ」って気づいたり。あと、卒業生たちも来てくれるから、今の現場がどうなっているのかについても聞けるので、僕のほうが教えてもらうことが多い。
「この講座は、卒業がない」と言ってて。受講生にはFacebookグループに入ってもらっているんだけど、卒業したあともそのままグループにいてつながっているから、連絡をとりあったり、飲み会をやったり、情報交換もできる。
──9月から米光講座のシーズン11がスタートしますが、あらためて思うことってありますか?
米光:講座をはじめたときからずっと言っているのは「これから編集者とライターが増える」と。編集者とかライターって、ますます必要になってる職種だと思うし、多様化しているので、いろんな道がある。
ライターの定義を「言葉を使って表現する人」とすれば、Webでも紙でもYouTuberでも、言葉をつかって表現する人だし、イベントを企画したり、コミュニティの運営も、すべて編集とかライティングに直結してる。新しいことができるチャンスがあるから、そっちを活性化したほうが面白いし、そこに自分もいたいと思います。
▲米光さんがデザインした話題のカードゲーム『はぁって言うゲーム』。声と表情だけで「はぁ」を表現して意味を当てっこするゲーム、パーティでやると盛り上がります!
まとめ
大切なことをいろいろお聞かせくださって、米光さん、どうもありがとうございました。
米光さんのような師匠をもてた人は幸運だと思います。
すべての企業がメディア化する時代、アマチュアが気軽に発信できる時代だからこそ、プロフェッショナルとして仕事ができる編集者やライターの希少価値がますます高まっていますね。
私も「信濃町ライター養成講座」で、受講生のみなさんから逆に教わりながら、一緒に学んでいきたいと思います!