こんにちは。LIGブログ編集部(LIG広報室)エディターのケイ(@yutorination)です
昨年2018年9月、インディペンデント映画『足りない二人』の主演・監督を務める佐藤秋さん・山口遥さんから、「ネットでの宣伝を爆発させるためにどうすればいいか、ゴウさんに教えてもらいたいです!」とのご依頼をいただき、弊社代表の吉原ゴウがインタビューに応えました。(インタビューの様子は下記の動画リンクからご覧になることができます)
この作品は、もともと俳優をやっていたお二人が「自分たちで映画を作りたい!」ということで始まった完全自主制作映画で、配給会社も自分たちでつくったそうです。なんと今週21日(木)には、新宿ピカデリー スクリーン3(287席)でのプレミア上映も決まっています。
内容は「売れっ子漫画家になるという望み薄な夢を追ってしまう男女二人」をテーマにしているとのこと。私、ケイも、編集者・物書きという、明らかに食いっぱぐれのありそうな人生を歩んでしまっており、まだまだ望外な夢(目標?)をたくさん追っているため、「夢追い系若者」のお話にはすぐ共感してしまいます。
そういった作品の代表例としてまず思い浮かぶのは映画『ラ・ラ・ランド』でしょうし、ほかにも内館牧子の『夢を叶える夢を見た』、オリエンタルラジオ中田敦彦の『芸人前夜』、漫画でいえば『描かないマンガ家』などもなかなか面白いです。
と、いう余談はさておき、LIGとして取材をお受けしたものの、肝心の作品をまだ見ていない! ということで、僕から監督&主演女優の山口遥さんにお願いし、台東区入谷にある社員寮「LIGガレージ」にて、LIG社員限定の上映会を行うこととなりました。
会場は文字通りムサ苦しい場所、LIGガレージ
約束した時間どおりに、山口さん(左)、佐藤さん(右)が来てくれました! ちなみにLIGガレージの真向かいは墓地となっております。
LIGガレージ入口の様子。手前のハーレーダビッドソンは、営業のジョニーさんが高額で購入したものの、ほとんど乗っていないためキレイな状態で保存されています。
LIGガレージの主、岩ちゃんがお酒を用意してくれていたので……
ひとまずみんなで乾杯! 今回参加したのは、ここに住んでいる2人の社員をはじめ、広報室/メディア事業部のメンバー8名でした。
さっそく上映会開始!
プロジェクター×スクリーンで簡易的な上映環境を作りました。最近の映画館はデジタル上映がほとんどですが、こうやって広めの住宅で上映会をやると、フィルム上映っぽい雰囲気が出ていいですね。
ここでネタバレはかませないため、公式サイトから作品のあらすじを引用してみます。
北海道・積丹郡美国町で、同棲生活をしながら共同で漫画を執筆している小山内と楓子。二人の漫画家としての収入は殆どなく、生活を支えているのはアルバイトで稼いだ給料。そんなジリ貧生活の二人に追い打ちをかけるかのように、周りの同業者は売れていき、久しぶりに帰った実家では確実に老いていく家族の姿を目の当たりにしてしまう。
日々の不満をぶつけ合いながら、成功できない理由を相手のせいにしては、悪化していく二人の関係。
そんな行き詰まりの生活から抜け出すため小山内は新たな作品の執筆に取り掛かる。それは、自分たちが主人公の漫画。「二人で描けば、絶対に面白いものになるんだって」
一方で30歳を目前に控えた楓子は、恋人同士で漫画を描いていくことに対する疑問を日に日に膨らませていた。「二人で居るから、うまくいかないことが多いと思う」
いつまで経っても足並みが揃わない、いつまで経っても自分たちのことが見えない二人が、漫画家として生きていくために選んだ道とは——。(映画『足りない二人』公式サイトより)
そして、こちらが予告編です。
上映中は、ほとんどBGMがないのと、みなが食い入るように観ていたので、なるべく物音を立てないよう息を潜めて鑑賞しました。
LIG社員たちの感想は……
上映終了後、山口さんたちから「ぜひ感想を書いてください!」とお願いがあり、みんなで記入しました。念のため、こちらに置いておきますね。
LIGメンバーの感想はこちらから(一部ネタバレがあるのでご注意ください)
ハチ(メディア事業部 アシスタントエディター/ドラハラ記事で炎上したため現在地下に潜伏中)「他人から見れば『何も起きていない』けど、本人にとっては『多くのことが起きている』ように思える」という登場人物の考えが、しみじみと感じられる作品でした。 雪国で暮らしたこともなければ、漫画家でもなく、同棲したこともないのに、なぜか登場人物の気持ちが理解できてしまうところがあり、鑑賞後はなんとも言えない寂しい気持ちになりました。 |
あやまん(広報室 エディター)物語と現実の境がわからなくなるような不思議な作品。自分とは別の世界で生きる登場人物たちで、場所もシチュエーションも出来事も心情もなにもかも経験したことがないはずなのに、なぜか「既視感」や「共感」がありました。会話も展開もすんなり自分に入ってきて、非常に心地よい時間でした。
ちなみに舞台は冬の北海道だったのですが、LIGガレージが寒すぎてまるで4D映画館のような臨場感を味わうことができました。しかも主演のお二人が隣に座っているという贅沢過ぎる空間。それも物語と現実の境がわからなくなった一因かもです。 |
やぎ(メディア事業部 エディター)描写が生々しく、売れない漫画家2人の日常を写したドキュメンタリーを見ているようでした。途中、ふうこが「何も起こらない漫画の中にも何かが起こっている」という趣旨の話をしていましたが、映画自体も一見何も進んでいないようでいて、2人の人生や関係性は確実に少しずつ変化しているのだろうな、と感じました。仕事も私生活も常に一緒だと、強い絆が生まれる一方で生きる世界が閉鎖的になってしまうとも。アートに近いクリエイティブな仕事ほど、こだわりや執着を手放して商業に寄せるのは難しいとも思いました。 |
たびちん(広報室 エディター)北海道で生まれ育ったため、時間が止まったような景色の中で、この場所以外どこにも行けないんじゃないかという息苦しさを感じながら雪の上を歩いていた頃を思い出しました。誰もが何かになることを目指しながら、くだらないことも、どうにもならないことも、同時に抱えて生きていることをこの映画から受け取りました。見た目に大きな変化やストーリーの起伏はないものの、日々の中でのじんわりとした寂しさ、やりきれなさが成仏していくような、癒やし効果の高い映画でした。 |
監督&主演の佐藤さん・山口さんにインタビューしてみた
僕個人の感想としては、徹底的にアンチクライマックスが貫かれていて、演出も最小限、長回しの多用による張りつめたような緊張感、説明過多を避ける、風景と心情が必ずしも一致しない……等々、主流のエンターテインメント映画の要素ひとつひとつに対する(良い意味での)「抵抗」を感じる作品でした。
そして、映画を観たあとすぐ隣に監督・主演俳優がいるというめったにない状況。せっかくなのでお二人にインタビューをしてみました。
「大劇場で上映する!」を叶えるためにやったこと
ケイ:めちゃくちゃムサ苦しい場所ですみません。極力ネタバレなしで話していきたいんですけど、この映画は自主制作なわけですよね。だから僕、観る前は「エンドクレジット、数行で終わっちゃうんだろうな〜」と勝手に思ってたんですけど、実際にはクレジットに記載されている人の数がめちゃくちゃ多かった。
映画作りってゴージャスな絵を作るためにはエキストラ集めが必要で、大作映画だったらお金かければできるけど、自主制作だとすごく大変だと思うんです。『足りない二人』の場合は、どうやってやったんですか?
佐藤:たしかに、人を集めるのはすごく大変でした……。僕らは当初から「新宿ピカデリー、TOHOシネマズ新宿、新宿バルト9のどれかで上映する!」って言っていて、それって映画業界の人からすれば無謀なことなんですね。
ケイ:「この人たち、大丈夫かな?」って思われちゃう目標かもですね。
佐藤:そういうこと言っていたから東京の映画業界の人たちからは協力してもらえないけど、逆に地方に行くとそういう東京の映画業界の感覚が浸透してないので「いいよ、手伝うよ」って言ってくれる人が多かったですね。
山口:実際に北海道での撮影のときは地元の、本当にたくさんの方に協力してもらっていて。
佐藤:今回、ゲリラ撮影が嫌だったんです。大きな映画館で上映するのが目標だったので、撮影許可を取らずに撮ってあとで怒られて上映禁止になる、みたいなことを避けたくて。だから札幌での撮影のときは警察署にもめっちゃ行きました。でも、警察署が撮影の許可取りに慣れてなくて。
山口:「何の許可を取らせてあげたらいいんだろう?」ってなっちゃってた。
ケイ:警察署の方は、はねつける感じではなく、親身に対応してくれたんですか?
佐藤:いや、最初の方はそんなに親身にはなってくれてなかったですね(笑)。こっちとしてはすごく急いでいて。道路の専有許可って、本当は三脚とか移動できるものであればわざわざ取ったりしなくてもいいんですが、それも「取りなさい」って言われてこっちから説明したり、本当はしなくてもいいこともやらされてしまった(笑)。
山口:人生で一番、許可取りしましたね(笑)。
佐藤:映画産業自体、今は商業映画だけではやっていけないから、小さい規模で作った映画も取り入れられつつありますし、自分たちなりのやり方で商業映画と肩を並べたかったんですよね。
「移住でハッピー!」にはしたくなかった
ケイ:ありきたりな質問ですけど、そもそも漫画家志望の二人の移住先をなんで北海道の、しかも積丹(しゃこたん)にしたんですか? 生活費を抑えて住むなら、東南アジアのそれこそセブとかでもいいんじゃないかと思っちゃったんですけど。
山口:それだと二人がハッピーになっちゃうじゃないですか。北海道で生き抜くのは本当に大変(笑)。灯油代がすごくかかるんですけど、暖かさが命につながっているんですよね。
佐藤:予算がなさすぎて車中泊しようと思ったんですけど、周りから「凍死するからやめろ」って猛反対されました。
山口:あと、単純に私が雪の北海道が好きで、「どうせ映画撮るなら好きなところでやろう」っていうのもありました。
佐藤:積丹って「陸の孤島」って言われてて、電車が通ってなくて、途中のトンネルで崩落事故が起こったら行けなくなっちゃうんですよ。で、撮影当時の僕って「もう周囲からシャットダウンしたい」って感じになっていて、だからああいう囲まれた場所に行きたいって思ったんですね。
山口:電車が通ってないのがいいなって。最初は石狩、岩見沢、あと旭山動物園のある旭川とか、朝里ダムがある小樽とかも考えたんですけど。
ケイ:映画のロケ地に使っちゃうと、見栄えがしすぎるかもしれないですね。
佐藤:こだわったのは「観光地を映す気はない」ってことなんですよね。
山口:観光地じゃなくて、そこで暮らしているところを映したかったから。
ケイ:フィルムコミッションが映画を誘致して、それで聖地巡礼とかが起きて地域活性化につなげる、というのは地域側からは求められることでしょうね。でも「映画で地域活性」って、映画が手段として使われているみたいで、クリエイティブとしての純粋さは失われてしまうかもしれないですね。
ハリウッド型三幕構成と『足りない二人』のストーリーライン
ケイ:商業映画との比較でいうと、とにかくアンチクライマックスなんだなと思いました。自主制作映画でヒットしたものだと入江悠監督の『サイタマノラッパー』(2009年)なんかがモデルケースになると思うんですが、あの作品はほとんどのパートで淡々と日常を描きつつ、最後に長回しのエモいシーンでカタルシスに持っていく。『足りない二人』でも、そういうのが来るかなって思ったら……ああなるじゃないですか。
佐藤:うーん、そこまで商業映画的な手法に抵抗があるわけじゃないです。参考にした映画も、最近のもあるし、昔のもあるし、海外のもあるし、いろいろですね。
山口:自分たちとしては、好きな映画で「いいな」って思ったことを思い描いて組んでるんです。
佐藤:オマージュはかなり多いよね。木皿泉さん脚本の『すいか』(2003年放映のテレビドラマ)に出てくる絆さんの、あるエピソードが好きで、あんな感じを入れていたりとか。あとは構成に関しては『おくりびと』(2008年)はかなり参考にしてるかもですね。
山口:ハリウッド映画の基本的な脚本の書き方として「三幕構成(※)」っていうのがあるんですけど、それどおりになっている代表作が、日本映画だと『おくりびと』だったんです。でも、それどおりにやってみようと思ったら、むしろそれだと自分たちがやりたいことができなかった。
ケイ:たしかに、『足りない二人』は三幕構成というよりは展開がシームレスになっていますよね。
山口:みんな知らないうちに三幕構成に慣れていると思うので、この映画を観たら「なんかちょっと気持ち悪いかも」みたいに、ちょっと歪みを感じると思うんです。
佐藤:終わり方に締まりがないかもしれませんね。作品全体として「締まった感じ」になることを重視しなかった。
ケイ:そこにはある種の意図があるってことですよね。でもこういうアンチクライマックス的なやり方って果たして、たとえば若い人にちゃんと魅力が伝わるのかなって思うんですけど……。
山口:いえ、そこは意外とそうでもなくて、これまでやってきた上映会のなかで「これが好き!」って言ってくれる若い人たちも多くて、それは私たちも嬉しかったところなんです。
クリエイティブは「二人でやるから、うまくいく」?
ケイ:サイトとか予告編を見た段階では、若者たちの「将来の希望と不安」がテーマだと思っていたんですが、僕個人としてはすごく技巧的な作品だと感じました。でも、お二人としては「将来の希望と不安」というテーマに強いこだわりがあるわけですよね?
佐藤:映画内では漫画を作っている二人、実際の僕らは映画を作っている二人。作品そのままではないけど、僕たち二人の実際の姿もあれに近いです。もともとは、作中で二人を成功させて「やったぜ!」っていう映画にしようかな……という気持ちもうっすらあったんですけど、現実の僕らが映画で成功していないのに、そんなの描けないなって。
ケイ:普通だったらフィクションの方がうまくいったりするものなのに、映画の中の二人よりも、現実の二人のほうが先を行っているというのがちょっと面白いですね。だって、お二人は映画を完成させて、こうやって新宿ピカデリーでの上映まで持って行けているわけじゃないですか。で、気になるのは現実の佐藤さん・山口さんと映画のなかの二人がどう違うかってことなんですけど。
山口:私が先に脚本を書いて、佐藤さんが構成していくという作り方だったんですけど、私が書いてて気づいたのは、自分の弱いところがあんまり書けないんだなってことです。映画でも佐藤が演じている小山内(おさない)の方が可愛げがありますよね。ああいうダメなところが可愛く映ると思うんですけど、それが自分のことになると書けなかったんだなって後から気づきました。
ケイ:なるほど。漫画家の東村アキコさんとかも、自分と自分の周囲をよく題材にしているけど、結局なんの描写が一番優れているかっていうと他人の描写のほうなんですよね。自分に刃(やいば)が向かっていかない。でも自分に刃を向けるって辛いから、それを責める気にはならないですけどね。
最後に、僕もたとえば物書きとしてやっていくときに、最初は仲間と一緒にイベントとか本を作るとか、そういうこともやったりしたんですけど、だんだん「結局、一人のほうが動きやすいしやりやすいな」と思うようになっていきました。劇中でも山口さん演じる楓子が「二人でいるから、うまくいかない」って言っているじゃないですか。クリエイターってそう考える人が多いんじゃないかと思うんです。でも、現実のお二人は「一緒にやる」っていうことを選んでいるわけですよね。
佐藤:僕らに関しては「二人でやったほうがいい」って思っているんですね。根拠はあまりないんですけど、二人でやった方がうまくいくという光が最初から見えていたんです。
山口:私は最初はどうかなぁと思っていたんですけど、実際に二人でやってみて、どちらかが諦めそうになったときもどちらかが粘ることができたりして、そういう点は良かったと思っています。
佐藤:そうですね。お互い長所とか得意分野が違うので、補え合えるというか。あとは、一人より、二人でやることで得られるものの方が絶対大きいって信じている部分がありますね。
ケイ:そうなんですね。僕にはまだピンと来てないですけど(笑)、そういうこともあるのかなと、これから咀嚼して考えてみます。今日はありがとうございました!
まとめ
さて、この映画『足りない二人』は、今週2/21(木)18:50〜より、新宿ピカデリー スクリーン3(287席)にてプレミア上映が決まっています。ご興味をお持ちの方は、新宿ピカデリーのチケットページを覗いてみてください!(すでにほぼ満席なのでお早めに!)
また、今後も上映予定はあるそうなので、ぜひ公式サイトの情報をチェックしてみてくださいね。