【ロングインタビュー】制作期間「3年」テーマは「葬式」。ラッパー神門に聞いた、楽曲制作の苦悩と制作秘話。

【ロングインタビュー】制作期間「3年」テーマは「葬式」。ラッパー神門に聞いた、楽曲制作の苦悩と制作秘話。

野田クラクションべべー

野田クラクションべべー

 

こんにちは。ラッパーの野田クラクションべべーです。

皆さんは、神門というラッパーを知っていますか? あ、神門と書いて「ごうど」と読みます。

 

2013年4月にライブ活動を休止して以来、楽曲制作に時間を費やしリリースした『苦悩と日々とど幸せ』から、3 年という歳月をかけて完成した8作目のアルバム『親族』

現在、旅と音楽として活動をしている観音クリエイションが 21 もの楽曲を提供したということもあり、アルバムについていろいろとお話を聞かせていただきました。

 

「葬式」をテーマにした作品を作ろうと思った理由

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ー 今作品ですが、「葬式」がテーマになっているとお聞きしました。制作に至る経緯を教えてください。

ひとことで言うと「葬式に感動した」ということが大きな要因です。元々、葬式に対して ” 暗い “” 悲しい “” 怖い “というイメージが強かったんです。おじいちゃんが亡くなったときも、亡くなる恐怖より、おこなわれる葬式に対する恐怖が強くて。なんというか、いつも見ている人の今まで見たことのない姿を見てしまうんじゃないか……と。

ただ、実際は” 暗い “” 悲しい “だけではなく、” 優しい “” 明るい “、ときに” 笑い “という部分さえあったので驚きました。

ー 具体的にどんな部分で” 笑い “を感じたのでしょうか?

そうですね。おばあちゃんが六道銭を入れるときに、「無駄遣いしたらあかんでー」と言って小さな笑いが起きたり。通夜の夜、火葬するときに入れる折り紙にみんなでメッセージを書いていたんです。そのときに孫のひとりが「何を書いたらええん?」とおばあちゃんに尋ねたら「願いごとを書いたらええ」と答え、「いやそこはおじいちゃんへのメッセージやろ(笑)」と笑いが起きました。

自分が思ってる以上に、日常と離れていなかったんです。辛く悲しい二日間になると思っていたのですが、実際に式を終えての帰り道、おじいちゃんのためだけに過ごせた二日間がとても愛おしく思えたんです。そのとき、この二日間で起こった心情の変化は絶対アルバムにしたいと強く思いました。

” 悲しい “” 優しい “” 温かい “” 笑い “。いろいろな感情があり、あらゆる角度からその出来事を表現したい。ひとつひとつの楽曲が追憶と言うか、二日間をそのまま再現したくて、時系列でアルバムを作りました。

 

 

 

レコーディング期間は2ヶ月半。毎日スタジオに通う日々。

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ー『苦悩と日々とど幸せ』のリリースから3年という時間がかかった理由を教えてください。

今までと大きく違うのは、アルバムに道筋があるということ。例えば、こことここの間にこういう場面の曲を入れたいとなれば、どれだけ多くの曲が完成しても、それをテーマに歌詞が書けなければ、そこがずっと空いたままなんです。

ー ここで制作が止まってしまった……という曲はありますか?

6 曲目の『数珠』がなかなか進みませんでした。トラックは早い段階でドンピシャなものが届いていたのですが。

ここでは、儀式が淡々と進んでいく退屈さを歌いたかったんです。だから場面としては、感情の動きがほとんどない。その単調さを歌詞にしたかったので、作詞が難しかったです。

ー 観音さんに楽曲制作を依頼するときは、曲のイメージを歌詞で伝えるのですか? それとも、サンプルとなるような音源を送ったりするのでしょうか?

「こういうテーマで歌いたい」ということを伝えて、トラックを作ってもらいます。それとは別で、観音さんから「こんなトラックが出来た」と送ってもらうこともあります。僕のイメージからトラックを作ってもらったときには、そのイメージを伝えるときに伝えた仮タイトル名で、観音さんから提示していただく際は、先入観をもたないために数字で送っていただきます。

昔は歌詞を全部書き上げてイメージを伝えたりもしていたのですが、最近ようやくトラックから言葉を引き出す感覚を覚えたので、トラックが届くまでは歌詞を書くことはあえて我慢し、トラックが届いてから作詞に手をつけるようになりました。今回成長できたポイントもそこで、トラックが届く前から自分のなかにあった言葉だけでできた歌詞には OK が出せなくなりました。自分も予想していなかったフレーズ、しかもそれが一際光っていないと、できあがったものに面白みを感じなくなりました。

挙げればキリがないですが、具体的にパッと思い出すのが 11 曲目「送迎バス」、12 曲目「御膳」、14 曲目「夕」の歌い出しは、音がなかったら僕のなかからは一生生まれてこなかったと思います。

今回の『親族』の制作期間だけで、観音さんには 200 曲作っていただきました。

 

 

 

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ー 制作で、特に苦労した点はありますか?

毎回の制作の流れなんですが、全曲完成するまでは一切スタジオに入らないんですよ。トラックが揃い、歌詞が全部書けてから初めてスタジオに入る。なので、作詞、レコーディング、ミックス作業、歌詞カード制作、そのどれもが重なることなく、バトンをつなぐように運んでいくんです。

今回の制作では、その作業毎に毎回「ここが山だ」と思っていました。歌詞を書いてるときはまさしくここが大山だと。ここを乗り越えたら下りが待ってると。しかし、レコーディングに入ったらまた鬼のような山が待ってて。盤が完成して、もうさすがに下るだけと思っていた歌詞カード制作でも、発狂するんちゃうかと思いました(笑)。

ー と言いますと?

テーマがテーマだったので、歌詞の表記ミスは作品を台無しにすると思ったんです。

だから、いつも以上に漢字の用法とかにも気を配りました。少しでも気になったら、いちいち調べました。

例えば、「ひつぎ」には「柩」と「棺」というふたつの漢字がありますよね。当初「棺」の方を使用していたのですが、「棺」は人が入っていない箱を指し、「柩」はご遺体が入った状態のことを指すそうなんです。そのことを知り「柩」に変更しました。

絶対にありえないことですが、終盤にはパソコン自身がちゃんと漢字を間違わずに打ててるか? 棒一本多くないか? とか不安になり、辞書と照らし合わせて調べたりしました。発狂手前っすよね(笑)。

ー アルバムのジャケットの色が「真っ白」ですが、何か理由はあるのでしょうか?

実は「空」の写真を撮ってジャケットにしてるんですよ。当初から「白」でいこうと決めていました。観音さんと街を歩き、いろいろな「白」を撮っていくなかで、空がアルバムの内容とつながったんです。曇り空って、雨が降る直前じゃないですか? それが、泣く手前の象徴に思えて。” 流れない涙 “が作中の重要な要素でもあったので。

 

ーなるほど。「柩」の MV の最後のシーンで、写真を撮っていた理由が分かりました。レコーディングの製作日数はどのくらいだったのでしょうか?

2016 年 12 月 20 日〜 2017 年 3 月 1 日の 2 ヶ月半でした。こんなに長くなるとは思わなかったのですが、気づいたらあっという間でした。

まず、年末に2度ラフ録りをして、年明けから本格的にレコーディングを始めていったのですが、なかなかうまくいかず、エンジニアさんとも相談して、1 日 1 曲だけ録ろうということになりました。

ー ということは、最低でも 21 日はかかる計算になりますよね?

そうですね。インストもあるので、正確には 21 曲ではないんですが、そのくらいはかかりますね。

1 曲目「知らせ」はドラムがない曲で、一度迷えば終わりがない気がしたので、初日に録るのはリスクがあると考え、3 曲目「恰好」からスタートしました。1 日 1 曲のレコーディング方法にすることで、今までと比べ物にならないぐらい良くなって。その初日の最後の方で、レコーディングしてる自分が消えるような、経験したことのない感覚を抱いたんですよ。モニターのヘッドフォンから聴こえてる声が今歌われているものじゃないような。ブースから出たとき、エンジニアも同じ手応えを感じてくれていて、「きたね」と一言だけ言ってくれました。僕も「これを OK テイクにします」と。いいものが録れたと、その日一日高揚感が消えなかったです。

翌日からもレコーディングは順調に続き、残り 3 曲ぐらいになったある日、前日に OK が出せなかった曲を、その日録る予定の曲とつなげてレコーディングしたんですよ。あいだに休憩も挟まず、連続して録ってみたんです。ちょうど CD を聴くときと同じ感じです。すると、録ったものがまた違った空気感をまとって。そのテイクを聴いたエンジニアが「 2 曲連続してこの空気感が出るなら、1 曲目から 21 曲目まで一気に流して録ったらどうなるんだろうね?」と。

ー え? いやいや、そんなバカな……。

僕も同じリアクションをしましたよ(笑)。

ー 実際やってみたんですか?

はい。やりました。

ずっと 1 日 1 曲で録っていたので、1 日準備期間を設け、翌日からその方法で録りました。

ー やってみてどうでしたか?

劇的に変わりました! 印象としては柔らかくなった? 作り物である感じがなくなった気がしました。時系列のアルバムだけに、よりこの方法がマッチしたんだと思います。びっくりするぐらい良くなりましたし、びっくりするぐらいしんどかったです。

このレコーディング方法を採用した時点で、それまでレコーディングしていた1日1曲のテイクは全て没になるわけですが、1 日 1 曲を録る作業があったからこそ、曲毎に使う筋肉の切り替えが瞬時にできたり、このレコーディングに対応できたんだと思います。そこから毎日通い “ 結局 21 回 “録ることになります。

ー ストイックすぎるというか、もう変態的ですね(笑)。

僕もはじめてこの作業をしたとき、これはそう何度もするものじゃないなと。というかできるもんじゃない。あと、2 〜 3 回で決めようと思いました。ですが、録るたびに良くなっていくんです。それも昨日と比較して今日の方が良いよねとかそういうレベルじゃなく、録るたびに良さの根本が変わるぐらい良くなっていって。エンジニアともその感覚は共通で、「肉は腐る寸前が一番旨い。こうなったら、腐らすところまでとことん録って、腐った手前を引き上げよう」ということになり、そこから毎日通い詰めました。

このレコーディング方法は、ある意味潔かったです。ブースに入り、呼吸を整え、僕の合図で 1 曲目が流れ始めます。そこからは、歌詞を間違えようが、咳をしようが、何があってもノンストップです。レコーディング時間は 65 分と決まっています。録り直しや 2 回通すこともなしです。それを CD に焼くのに 30 分かかり、そのあいだに今日の手応えをエンジニアと話し合う。ある日は「今日はセリフにカギカッコがついて見えた」と言ってくださったり、毎回録った直後のお互いの感想がことごとく一致してて。

繰り返しの作業ですが、後戻りしている感覚は一切なかったです。エンジニアの言葉を借りるなら、確実に” 腐る “その日に向かって進んでいってると。CD が焼けたら、それを受け取り帰宅。録ったものを聴きながら、時には聴かず、明日のイメージを膨らませる。毎日スタジオには二時間も居ないです。

ー やっていくなかで気づいたことや学びなどはありますか?

たくさんありました。たとえばある日、後半までノーミスで録れてて、もしかして今日で終われるんちゃうん? と一瞬思ったんです。そしたら一気に崩れて。作業が終わることに充実感を感じたらあかんなと。作業のなかに充実感を見つけ出さなあかんなと思いました。

2 月末に OK が出せ、これだけ通い詰めたから試しに最後、「すべて作業が終わった精神状態で録ってみよう」と、おまけ的な要素も含み、3 月 1 日に正真正銘のラストとしてレコーディングに入ったんですよ。21 曲目のアウトロが流れ終わったとき、「明日からここに通うことはないねんな」と思ったら、ちょっと寂しかったですもんね。しばらく放心状態でブースにこもり、そこから出るとき、マイクやヘッドフォン、照明やスタンドなどを「しばらくバイバイ」って意味でさすりましたもん(笑)。

 

 

1曲作るのに1年かかった『郷愁』の苦労とは

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ー アルバムで特に印象に残っている曲はありますか?

18 曲目の『郷愁』ですね。作るのに、1 年かかりました。

というのも、たとえば漫画『 HUNTER X HUNTER 』の幻影旅団に例えると、18 曲目は、それらをまとめるクロロを作りたかったんです。アルバム中唯一、時系列を外れる曲なんです。観音さんにもこの一曲だけで約 60 曲トラックを作ってもらいました。

正確には違いますが、歌詞も一曲丸々書き上げて、それを一行にする。そうしてできた一行を積み重ねて構築していく。それぐらい作業が重なり、ようやく一曲が形になりました。

ー はじめてアルバムを聞いたときに、郷愁のアウトロの盛り上がり方がめちゃくちゃカッコいいと思っていたのですが、1 年もかかっているとは驚きました。「郷愁」「和菓子」「敬慕」とアルバムの最後を締めくくる 3 曲ですが、どのような意図があるんでしょうか?

『親族』はひとつの時系列になっていて、映画のような空気感のなかで「和菓子」で完結します。「敬慕」はエンドロールのようなイメージです。最近の映画でよく見かけるのですが、ラストのエンドロールではじめてタイトルが出てくる。その空気感をイメージして、歌詞カードの最後のページは「敬慕」の歌詞を掲載せず、『親族』の文字だけで締めくくっています。タイトルを見ながら 21 曲の物語が閉じていくような。

 

 

最後に

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※真っ白のようですが、アルバムのジャケットです。クリックしてみてくださいね。

 

そんな、神門さんの8作品目のアルバム『親族』

ぜひ、一度聴いてみてください。

 

以上、野田クラクションべべーでした!

 

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野田クラクションべべー
野田クラクションべべー LAMP野尻湖 支配人 / 野田 クラクションベベー

初めまして。野田クラクションベベーです。 以前はアメリカ横断をしたり、Tシャツ販売したり、日本一周をしながらLife Is Goodな仕事や人に出会う旅をしていました。 現在は長野で「The Sauna」というアウトドア・サウナが楽しめる施設を作っています。サウナを通して、一人でも多くのサウナー(サウナ好きの人)を増やしていきたいです!

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