もっと良い職場環境で働きたい! というのは、この業界に限らず誰もが考えていることじゃないでしょうか?
なかでもデザイナーなどのクリエイティブ職はどうしても過酷な環境に陥りがち。しかも、せっかく作ったものが、デザインを知らない人たちの意見から最終的におかしなことになってしまうことも少なくありません。
今回お話を伺ったのは「デザイナー募集!」と声を上げている、株式会社ジェナ。CCO(Chief Creative Officer)が取締役を務めることもあり、デザイン、UI/UXに力を入れてアプリ開発を行っている同社ですが、どうやらデザイナーが歯車にならない環境づくりを行っているのだそう。一体どんな会社なのでしょうか? 創業者で代表取締役社長の手塚康夫さん、取締役/Chief Creative Officerの鈴木勝則さんにお話を伺いました。
手塚康夫(てづか・やすお)さん 慶応義塾大学環境情報学部在学中より複数のモバイル関連ベンチャーに参画し、2006年に株式会社ジェナを設立。創業時より法人向けのモバイル事業を展開。現在、株式会社ジェナ代表取締役のほか一般社団法人iOSコンソーシアムの理事も務める。全国各地で多くのモバイル・IoT・ロボット・AIなどの最新技術に関する講演を行い、日々最新技術のビジネス活用の普及に努めている。 |
鈴木勝則(すずき・かつのり)さん 2006年からジェナの共同創業者としてクリエイティブを統括。現在、株式会社ジェナ 取締役クリエイティブディレクターを務め、モバイルはもちろん、Pepper、IBM WatsonなどのAI、ウェアラブルデバイス、IoTデバイス、など様々な分野でそのクリエイティブを発揮し、新たなUXの在り方を多様な業界のクライアントと共に創り出している。 |
デザインに徹底的にこだわったアプリ開発で、業界ナンバーワン実績を獲得
ー今お二人ともすごく楽しそうにお話されていましたが、何を話していたんですか?
手塚:う○ことか、小学生みたいな話をしてました(笑)
ーうわ……。
手塚:いや、撮影のために「爆笑して」なんて言うからですよ(笑)
ーそうですね。たしかに無茶振りでした。では、まずジェナがどんな会社かを教えていただけますか?
手塚:2006年に創業し、2016年現在で11年目ですね。もともとモバイルのビジネス活用をテーマに事業展開していたのですが、2009年頃にiPhone、2010年にiPadが普及し始めた頃から、スマートフォンやタブレットをビジネスで使うための法人向けアプリ開発を始めました。現時点で200社以上のお客様に700を超えるアプリやサービスを提供し、おそらく日本ではナンバーワンの開発実績を持っています。
ーなるほど。どんなアプリ開発を得意としていますか?
手塚:デザイン、UI/UXにこだわりを持って作っていますね。直感的で使いやすいアプリを作るように心がけています。法人向けのアプリというのは、衝撃的につまらない見た目や、文字が小さすぎて読めないとか、はてには「タップできるわけないだろこのボタン!」っていうとんでもない使用感のものが多いんですよ。
ーなんとなく想像がつきますね……。
鈴木:我々としてはそういった概念を破壊したいと思いながら開発を行ってきました。「ビジネス用だから」ということで、デザインに重きをおかず作られるアプリが多いのですが、ビジネスの世界でも仕事で使いたくなるようなワクワクする、心地良さを感じる“使いたくなるアプリ”が必要だと思ったんです。そこに取り組んできたことが評価されているんだと感じます。
▲SoftBankが営業部門向けに提供する「SoftBank Brain」。IBM Watsonを活用し、音声コミュニケーションをベースとした営業支援アプリ。UI/UXデザインと、フロントアプリの開発をSoftBankと共同で推進した。
ーデザインにこだわるための具体的な取り組みはありますか?
手塚:どのプロジェクトにも、鈴木をはじめとしたクリエイティブディレクターがアサインされ、ユーザー体験を最大化するためのデザインについて、ビジネス上のゴールを達成できるかどうかも含めて考えるようにしています。
鈴木:うちが他社と決定的に違うのは「デザイナーが歯車の一部にはならない」体制になっているということですね。自ずとプロジェクトのディレクション、開発パートナーとの調整やスケジュール管理などもやらなければいけないので、大変ではあるんですけど、自分ですべてコントロールできます。だから制作現場でよくありがちな“最初は良かったのに、いつのまにか変なデザインになっている”ということがありません。
▲ミキモトで扱っているエンゲージリング/マリッジリングのアプリ。iPadアプリは接客時に使用される店舗専用だが、一般ユーザー向けiPhoneアプリはこちらよりダウンロードが可能。
ーそれはアートディレクターがプロジェクト自体のディレクターになっているということですか?
鈴木:その通りです。デザインや開発のことをあまり分かっていない営業担当者がクライアントと調整するのではなく、デザイナー自身がクライアントとお話をしながら、画面設計や画面遷移、必要に応じては機能のデザインまで対応させていただくというかたちです。もちろん各プロジェクトに営業担当者は必ず立ちますし、システム開発大部分を占める業務アプリ開発の場合は営業よりのコンサルタントもディレクターとして一緒に立つことになりますが。
起業即楽園。でも気付いたら死にかけていた波乱の創業期
―“デザインにこだわるアプリ開発会社がデザイナーを求めている”ということはよく分かりました。次はジェナがどんな会社なのかを知るためにも、手塚さん自身が創業しようと思ったきっかけを教えていただけますか?
手塚:20歳でライフプランを建てたときに、60歳で死ぬとして仮定すると、25歳には起業して、30歳で業界トップになって、40歳になったらお酒の飲みすぎでまともに働けなくなるだろうからアドバイスする側になろうと思ったんです。
―すごいスピーディーなライフプランですね! 実際のところはどうでしたか?
手塚:25歳の頃には人脈やノウハウなど、起業するのに必要なものが揃っていると思ってたんですけど、実際は何もなかったですね(笑)
―ですよねー。
手塚:でも、先送りにすると何も始められないので、勢いというか気合いで起業しました。その頃は中二病じゃないですけど、とにかく単純に世の中を良くしたいという思いがあって、自分でビジネスを起こすことによって主体的に世の中を良くしたかったんです。社名のジェナはアラビア語で「楽園」というんですけど、まさに「世の中を楽園にしたい。もっと良い世界にしたい」という思いの表れなんですよね。
―モバイルを事業として選んだ理由はなんだったんですか?
手塚:単純に新しいもの好きというのと、もともとモバイルが大好きだったんですよ。僕自身「この小さなデバイスで何ができるんだろう」とずっと考えていたくらいで。その後iPhoneが普及してきた頃に「これは世界が変わった。これで仕事も劇的に変わるんじゃないか」と思いました。
―鈴木さんは共同創業者なんですよね?
手塚:はい。もともと仕事のつながりがあって、しかも偶然家が近かったので情報交換をしていたんです。それで起業しようとしたタイミングで「やってみない?」と声をかけてみました。
―そうして2人で創業したわけですが、やはり最初は苦労したんじゃないですか?
鈴木:いえ、全然苦労はなかったですね。
ーえっ?
鈴木:むしろ楽でした。というか「楽そうだな」と思って入社したくらいです。最初の頃は、昼に出社して17時に仕事を終わらせて、その後はジム行ったりしてましたから。
手塚:しかも週4日くらいしか働いてなかったですからね。
鈴木:週 1日はスキルを高めるインプットデーという大義名分で仕事をしていませんでした(笑)
ーまさに楽園!
鈴木:でも、おもしろそうなプロジェクトを引き受けたり、お客様が増えてきたりすると、週4日勤務なんて言ってられなくなって「気づけば全然楽じゃなくなってるよ!」というのが今ですね。
手塚:まあ、25歳くらいで起業したので言っちゃえば「世の中をナメてた」という感じですね(笑)でも、起業から数年は色々回り道していた我々なんですけど、iPhoneの登場によって運命が変わりました。
ー成功への道が開けた、と。
手塚:いえ、むしろ死ぬかと思いました。
―死ぬかと思った?
手塚:その頃、iPhoneは普及こそ始まっていましたが「iPodに携帯がついただけじゃん。こんなのビジネスで使えないよ」と言われていた時期だったんです。そうした状況で法人向けアプリ開発をしようとしたから、1年ほどはまったく売上がなくて、その頃はもう会社を畳むことばかり考えていました。
ー楽園から一転して地獄じゃないですか……。
手塚:ただ、その後iPadが登場したあたりで潮目が変わって。
ーおお!
手塚:タブレットという、PCともスマートフォンとも違う市場が生まれ、ビジネス利用も考えられるようになったんです。そこからスマホもビジネス利用が注目されるようになり、ようやく伸びていきましたね。その後は開発実績を伸ばし、現在では200社以上のお客様に700を超えるアプリやサービスの提供実績があるという状況になりました。
ー創業して10年経ち、現在11年目ですが、今後の展望はいかがですか?
手塚:モバイルのアプリ開発という分野では、非常に多くのお客様と取引させていただきナンバーワンになれたこともあり、ひとつの事業として完成に近づいたかなと思っています。ですが、ここ数年でまたテクノロジーがどんどん新しくなり、ITという業界自体が変革期に来ています。だから、今は次の10年を見据えなければいけない時期だと思います。
▲「第44回東京モーターショー2015」 の公式アプリ。約600個のBeaconを会場内に設置し、会場のナビゲーション、混雑具合を可視化するヒートマップなど、様々な新機軸を搭載した。
ーAIやVRなどお茶の間レベルでも毎日のように話題が飛び交っていますもんね。
手塚:ええ。我々もすでにAIやVR、IoTなどの分野ですでにプロジェクトに取り組みマネタイズできています。もちろんモバイルのアプリ開発は変わらずベースとなりますが、どんどん新しいことにチャレンジしていかなければならない“第2創業期”に入ったのかなと思います。
どんな職場?→小学生より冬休みが長い、インプット豊富な環境
「俺たちの新しい冒険が始まる!」ということで、現在は求人にも力を入れはじめているジェナ。今回、募集する職種は「デザイナー/アートディレクター」とのこと。その人物像やスキル、労働環境などについても伺ってきました。
- 基本情報
- ▼求める人物像
・妥協しない人
・ひとつひとつの仕事に意味を見出して取り組むことができる人▼求めるスキル
デザイナーとしてアプリケーションを最低限使えればOK。
それよりも大切なのは、妥協しないというマインド。それがあれば、必要なものは後からついてくる。教育やスキルアップについても、社内で支援できる状態にしたいと考えている。▼教育面での取り組み(過去の事例)
・勉強会やイベントへの参加(自己申告制)
・デジハリなどスキルアップのためのスクール費用の負担▼社風
・フラットな環境づくりを重視している
・「正しいことを正しいと言える文化が必要。ジェナは、僕が何かおかしなことを言ったらみんなから総ツッコミ受けるという環境です」by手塚さん▼現在の社員構成
・デザイナー3名、エンジニア3名、ディレクター6名、営業3名、そのほか、総務や営業アシスタントで合計20名ほど。
・男女比、7:3
ー労働環境について特筆すべきことなどはありますか?
手塚:基本的にはお休みを多く設定しています。年末は12月20日頃からお休みに入って、1月の6日から7日くらいまでお休みです。他にはゴールデンウィークは全部繋げちゃうとか、お盆休みは好きな日に3日取得でき、入社日付近でお休みしていいという入社日休暇、あとはバースデー休暇などですね。色々とこじつけてお休みを増やしてます(笑)
ーおお! 年末年始休暇なんて小学生よりも長いじゃないですか。
手塚:クリエイティブな仕事って、どうしても期日があるから残業が生まれちゃうんですよね。でも、そういうのが続くとアウトプットの質が落ちてしまうんです。だから、意識的にリフレッシュとインプットをするための休みを取れるような仕組みにしています。実際にそうした制度をうまく使って一週間とか長期旅行に行くスタッフも多いですし、休みが取りづらいということもありません。
鈴木:でも、僕自身もよく休んだりしますけど、単純に「休む=良いこと」でもないんです。要はインプットの問題なんですよね。1年ほど前に、出来上がったデザインを手塚に見せたら「最近インプットちゃんとしてる? 作るものがテンプレ化されてきてる気がする」と言われたんです。最初はそんなことはないと感じたのですが、俯瞰して見ると「テンプレ化しているかもしれない」と思う部分がたしかにあったんです。
手塚:インプットは必ずしも専門書を読むとかセミナーに参加することだけじゃなく、場合によっては旅行に行って見た景色かもしれないし、そこで体験したことかもしれないんですよね。
鈴木:うん。そうして休みの日にインプットすることも重要なんですけど、それ以外にも、うちではデザイナー全員にデスクトップPC、ノートPC、それからiPad、iPhone、Apple Watchを支給しています。そうしたデバイスを日々使うことによって、それぞれの便利さや不便さを感じて、新しいアイデアを浮かべられるようにしてほしいんです。
ーオン/オフ問わずインプットの機会が多くなりそうな環境ですね。入社したらどういう性質のプロジェクトをやることになりそうですか?
鈴木:もちろん入ってくるプロジェクト次第ではありますが、現在のところバランス良く色んな仕事があると思います。コンシューマー向けスマートフォンアプリのデザインや、アパレルブランドのWEBサイトのデザインもあれば、都市銀行や証券会社向けのUI/UXコンサルのようなカタめのプロジェクトまで。デザイナーの将来やりたいことにつながるプロジェクトがあれば、そのプロジェクトに積極的にアサインしてもらうようにしています。経験値と内容次第ではありますが、やりたいことができる職場、そして将来につながる職場であると思います。
▲ハイアットリージェンシー東京向けに、Pepperのアプリ開発、及び設置場所の造作設営を含めた空間設計もジェナがプロデュースした
ーでは、最後にジェナの今後目指すところ、将来展望について教えてください。
手塚:ベンチャーである以上、新しいものにチャレンジし続けたいですし、自分たちにしか出来ないことをやっていきたいと思っています。まだ市場がないところに対して、自分たちだけでなくお客さまと一緒に市場を作っていきたいんです。我々の企業理念として「共に未来をつくる」というものがあるのですが、ロボットやAI、IoT、VRなどの新しい領域に対して主体的に興味を持ち、お客様を巻き込んで新しいものを創れる人が来てくれたらうれしいです。
インタビューを終えて
新しもの好きという性分と「世の中を良くしたい」という思いから、勢いで走り始めた手塚さんと鈴木さん。一度は楽園とも言える環境を築いた2人ですが「もっと楽しい仕事をしたい」と、その環境を壊し、途中で死にかけながら(本人談)も業界ナンバーワンの業績を獲得しました。
しかし創業10年の節目にやってきた、IT業界の変革期を前に、さらに新しい分野への挑戦を決意。自分たちの環境や地位に甘んじることなく、新しいチャレンジを続けようとする彼らの姿は、まるで毎日が冒険だった小学生の男の子たちのようです。
そんなチャレンジを支える武器が、デザインの重用と、インプットを積極的に行える環境づくり。モバイルだけではなくロボットやAI、IoT、VRなどの分野など新しい領域への挑戦も含め、デザイナーが未来に向かうためには、株式会社ジェナはひとつの理想的な環境かもしれないと感じました。