はじめまして。これから数回にわたり、フィリピンのアートシーンに関する記事を書かせていただきます。ケロリンこと相宮康人です。よろしくお願いいたします。
今回は、フィリピンのマニラにある大手ギャラリー「Finale Art Gallery」で、日本人で初めて個展を開催した画家・近藤太一さんに、フィリピンのアートシーンについてお話を伺いました。
人物紹介:近藤 太一(こんどう たいち)氏 日本とフィリピンのハーフ。大学卒業後、製造メーカーで海外営業を担当しながら、アートスクールで絵を学ぶ。2015年に「Finale Art Gallery」のオーナーに絵を気に入られ、個展を依頼される。自身のルーツでもあるフィリピンの進出が決まったことにより、心機一転して会社を退職。2016年4月6日〜30日迄、同ギャラリーとしては日本人初の展覧会を開催。 |
フィリピンでの生活が豊かになったいま、アートが注目されている
− フィリピンでのアートシーンに変化が起きていると伺いましたが、具体的にどのような変化が起きているのでしょうか?
4月3日にマニラで開かれたアートフェアに参加したのですが、一般のフィリピン人が、CDを漁るかのように絵を探しては、気に入ったもの見つけて買っていました。アートフェアでは、ポスターサイズから壁にかける大きな絵まで、上限が15,000ペソ(約35,000円)で販売されていました。
−15,000ペソとは、フィリピンではどれほどの価格なのでしょうか?
例えば、フィリピンの大学教授の平均月収は30,000円、フライトアテンダントで20,000円、看護師が9,800円、バスの運転手が8,000円と言われています。もしかしたらもうそれも古くなりつつあるのかもしれませんが、生活自体はあまり豊かではありませんでした。しかし、今ではセブ島のヘアサロンでも日本人と同じ価格で現地のお客さんが来るという話を聞いたことがありますし、ひと昔前では考えられないほど、フィリピン人が豊かになっているのだと思います。
— 個展を同時開催したアーティストが有名な方だったとお聞きしましたが……。
フィリピン流通で最大の財閥「SMグループ」の創業者の孫で、ロンドンを拠点に活動しているアーティスト・Nicole Cosonさんと同時開催でした。また、デンマークで学び、ロンドンを拠点に活動しているKristian Kragelundさんと一緒に展覧会をさせていただきました。
150名を超える来場者が会場に溢れ、Nicoleさんの作品は、18時のオープニングパーティー開始直後に全作品が完売。プライスリストをチラッと見ただけで、100号(162cm×112cm)近い大きな作品が一瞬で買われる光景を見て、驚きを隠せませんでした。
— ご自身の作品についての反応はどうでしたか?
「ピカソのような絵を描くね」と言われました。ある人には、悪い意味で「キッズアート(子どもが描くような絵)だね」とも言われました。Nicoleさんの絵は、余計なものが描かれず洗練されているのに対し、僕の絵は明るい色で物語性の強い作品です。この2つの作風を対比する意味で、僕を呼んでもらえたのかとも思いました。
— ご自身の作品の売れ行きはどうでしたか?
オープニングの日は作品が1つも売れなかったので、どんどんと売れていく彼らを目の前にして、焦りました。結果的には、後日予約が入ったのですが、その日はとても悔しい思いをしました。
日本人代表として覚悟をもってフィリピンに乗り込んだので、自作のインビテーションカード(招待状)を配って、なんとか自分の絵を見てもらえるように努力しました。
— 日本では、絵がバンバン売れるという印象はあまりありません。フィリピンで絵が売れるのは、どうしてなんでしょう?
Nicoleさんの場合、本当に彼女の絵の価値が認められて作品が買われているのか、正直なところわかりません。大きな財閥グループの関係者ですから、お付き合いで、ということもあるかもしれません。
しかし、フィリピンのお金持ちは、フィリピン人のアーティストにお金を使って応援しようとしているそうです。現在のフィリピンは、日本の高度経済成長期に似ているとのこと。僕たち日本人が出稼ぎに行くくらいですから、フィリピン人のアーティストの方で、日本人でも高いと感じるほどの値段で絵が売れたら、こちらでは大出世を意味します。アーティストになりたい側にも、夢のある話だと感じました。
— 今回の個展では、実の妹でテラスハウスに出演され、各種メディアで現在活躍しているタレントの「近藤あや」さんが応援してくれていたそうですね。
僕の個展の情報をSNSでシェアするなどして応援してくれたので、助かりました。
妹は現在、フィリピン大手の英会話学校「QQイングリッシュ」とコラボした「近藤あやプラン」という留学プランを作り、フィリピンと日本をつなぐ活動をしています。彼女もまた、フィリピン人と日本人のハーフとして、フィリピンへ愛があるんですね。
— 今後、フィリピンのアート市場はどうなっていくと思いますか?
日本の東大にあたるフィリピン大学の学生にも、アーティストを目指す人がいます。「アートバーゼル香港」というアジア有数のアートフェアにも、フィリピン人によるギャラリーは増え、注目を集めています。他の国の作家よりも値段設定が高くなっていること多いんです。
アート市場は確実に広がりを見せているので、僕も妹と力を合わせて、フィリピンのアートマーケットに食い込んでいけるように頑張っていきたいですね。
まとめ
わたしは美術系の大学に通っていたので、たくさんのアーティスト仲間がいます。しかし、展覧会をおこなって作品が売れることは滅多にありせん。近藤さんは、初の個展、しかもアウェイであるフィリピンでそれを成功させました。
作品の魅力はもちろんですが、フィリピンにまで作品を持って飛び込みアピールをするという、行動力が引き寄せた結果なのだと思います。正攻法でだめなら、他の方法を考え、実践する。まさにアーティストだと感じました!
また、フィリピンで活動されているアーティストで、インタビューさせていただける方がいらっしゃいましたら、下記にあるわたしのTwitterまでお問い合わせくださいませ。