「アイデアが必要なときに一番役に立つ技術ということです」 電通・古川 裕也さんに聞くクリエイティブディレクションの本質

「アイデアが必要なときに一番役に立つ技術ということです」 電通・古川 裕也さんに聞くクリエイティブディレクションの本質

ヨシキ

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「どういう手段で表現するか」「どんな順番で体験させるか」を常に考える

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ー では、クリエイティブディレクターとして判断を下すうえで、一番のコアとして意識していることは何でしょうか

先ほど申し上げたように、大切なのは物事の本質的な価値ということになりますが、次に重要なのが「それをどういう方法で伝えればベストか」というアイデアですね。

アイデアを考え決定するのは、ふつう消去法です。ダメなものって、すぐわかるんですよね。やはりクリエイティブは「0か100か」の世界なので、1ミリでもダメだったら全部ダメなんです。

しかし残念ながら「このアイデアなら絶対」というのは、わからない。なぜ、どのようにアイデアが出てきたかも確定できない。できることと言えば、いいアイデアを思いつくように左脳的論理的消去法的に追い込んでいくことだけです。同じ方法を繰り返すことによって脳の中に筋肉がついてきます。バイパスが通るというか。だから、いわゆる「直感」的なものも、やればやるほど精度が上がるものだと思っています。

 
ー メディア運用というか、編集業務にも似たようなところがありますね。

あぁ、たしかに「編集」に近いかもしれませんね。どちらもいろんな要素をディレクションすることで、統合したクリエイティブを完成させるという仕事ですから。

このとき意識しなければならないのが、「どういう順番で相手の目に触れさせるのか」という問題です。どういう順番でアイデアと生活者とを遭遇させるかという設計が重要になるのも、編集と似ているかもしれません。

9.5合目の景色と6合目の景色は明らかに違う

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ー ディレクションする人間は、全てに通じてないといけないということになりますか?

専門性と統合性の両面が必要になるのですが、「専門がなくても統合はできる」という考えは間違いです。統合するということは、上手にまとめるということではありません。今回達成すべきミッションを発見し、コアになる大きなアイデアを確定するのが仕事で、そのアイデアをカタチにするまでがクリエイティブディレクターの役割です。

そして、どんな分野でもいいんですが、「ある専門のジャンルで95点以上をとったことがある人」でないと、優れたクリエイティブディレクターにはなれないと思っています。
 

ー それはなかなか厳しい条件ですね。その理由について教えてください。

そうじゃないと、チームメンバーからリスペクトされないので。「なんか言ってるけど、あいつ何の実績もないじゃん。何偉そうに言ってんだよ」って、現場の人間なら全員心の中で思います。

あと、ひと昔前のように、「CMさえおもしろければいい、逆にCMがおもしろくないと0点」ということはありません。デジタル、メディア、PR、プロモーション、コンテンツなど、今は様々な手段を駆使できます。
 

ー しかしそれでは、全ての分野で実績が必要になるのでは?

いや、1つの専門分野でいいんです。クリエイティブにおける優れた専門性っていうのはどんな分野でも、基本的に原理は同じなので、応用が効くんですよ。

もちろん、その全てを自分一人で100%できるわけではありません。だから統合的にディレクションするといっても、自分の持っている何か1つのスペシャリティを基礎に全体をディレクションする以外、やりようはないんですね。
高度な1つの専門性があって、はじめてクリエイティブディレクションができるということです。

いろんなことを70点ずつぐらいできる人になっても、所詮「上手にまとめる人」にしかなれません。実際そういう人はたくさんいますが、いい仕事には全く結びつかないんです。
 

ー なぜ「平均より高い点」を全てのジャンルで取っていても、ダメなのでしょうか。

クリエイティブで重要なのは「どんな山の高さから物を見ているのか」ということに尽きるんです。

いろいろな山に登っていたとしても、6合目までしか登ったことがない人というのは、「6合目の景色」しか見えません。そしてそれは、優秀なチームメンバーであればあるほど、すぐ見抜かれてしまいます。「こいつ、6合目までしか登ったことないな」って。
9.5合目と6合目は、全然違うものですから。
 

ー なるほど。6合目までの実績しかなければ、いいクリエイティブの完成形の想像すらできないということでしょうか。

そうです。高さを知らないと。
9.5合目の世界は、それまでと景色も空気も違いますし、周りにいる人も違う。専門の違う、別々の山の9.5合目にいても、お互いわかるんです。ついでに言うとそういう人たちは、意外とお互い仲がいい。リスペクトがあるから。そういうもんなんです。
 

ー なるほど。本日はありがとうございました。

インタビューを終えて

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今回お話を伺った中で一番強く印象に残ったのは、クリエイティブに対するチェックの目線を高く持つことの重要性でした。

ディレクションをするとき、コンテンツであれデザインであれ「クリエイター」と呼ばれる人たちが仕上げたものに対し、深く考えずOKを出してしまうことは多いと思います。
それは、クリエイターを信頼しているという気持ちの一方で、「それがどう変わると、もっといいクリエイティブになるのか」というイメージを持てていないことが要因となっているのかもしれません。

しかし、冒頭で古川さんが仰っていたように「ディレクション」とは「課題を解決する」ためのものであり、そこを厳しく持たなければいいクリエイティブには成り得ません。もちろん、まずは9.5合目の景色を見るだけの実力を身につけるために精進しなければならないのですが、そこを目指す理由のようなものを今回のインタビューで学ぶことができたように思います。

古川さん、本当にありがとうございました!

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ヨシキです。かつてLIGの3代目広報を担当しておりました。 イノベーティブな存在を目指し、大きさ以上に大きく進化しながら、LIGを再発明したいと思います。

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