こんにちは、ライターの菊池(@kossetsu)です。
ぼくらは国友やすゆきと生きている。
国友やすゆきとはどういう漫画家か
さまざまな漫画家がいる。心理ドラマを描く漫画家。バトルを描く漫画家。恋愛を描く漫画家、etc.
国友やすゆきはセックスを描く漫画家だ。
少なくともここ30年は一貫して取り入れている要素である。
前回取り上げた『社買い人岬悟』は仕事の合い間にセックスする男だった。その次に連載された『総理の椅子』(全9巻)は違う。
政治改革とセックス
総理の椅子(1) (ビッグコミックス)
- 著者国友やすゆき
- 出版日2009/01/30
- 商品ランキング115,142位
- Kindle版ページ
- 出版社小学館
2008年のことだった。小泉純一郎の退陣のあと、短期政権が連続した。
そんなときに発表されたのが『総理の椅子』だ。
野望のためのセックス
青年・白鳥遥は政治家を志している。
政治家のボランティアに始まり、秘書を経て、選挙に立候補する。
彼には野望があった。総理大臣となり、日本を破滅させるという野望が。
白鳥は野望を達成するために、どんな手段も使う。
セックスもする。
銀座のママとセックスする。テレビ局のレポーターとセックスする。政治家の秘書とセックスする。野党の女性議員とセックスする。
『総理の椅子』はそんな物語だ。
シリアスとセックスの均衡が崩れるとき
「岬悟」の場合、仕事とセックスは別だった。『総理の椅子』は仕事とセックスが一致している。仕事の一部が、セックスなのだ。
この違いは作品の雰囲気にも大きく影響を与えている。『総理の椅子』はポリティカル・フィクションの度合いが高く、国友やすゆきにしてはシリアスな内容になっている。
以下、『総理の椅子』におけるセックス or Not セックスを表にしてみた。「●」がセックスのある話、「×」セックスのない話だ。
『総理の椅子』のセックス率
物語の約1/3がセックスのある話に当てられている。興味深いのは、1〜3巻はバランスよくセックスが取り入られていることだ。シリアスのあとにセックス、セックスのあとにシリアス、と偏らないように配慮されている。
しかし、4巻の前半、連続的にシリアスが続く。後半はそれを取り戻すかのようにセックスが4連続でくる。そこからバランスを崩してしまう。
この漫画の連載中に出演した『西原理恵子の人生画力対決』で、国友やすゆきはこう発言している。
「結局総理もね〜ハメた回が一番人気が高くってさ」
シリアスを続けながら、カンフル剤のようにセックスを挟む。『総理の椅子』はそういう構成になっていく。
最終巻はほとんどセックスがない。終わることが決まってシリアスに振り切ったようだ。ここに国友やすゆきの特徴が出ている。彼は本質的にはシリアスを描きたいのだ。しかし幸か不幸か、彼はセックスを描くことに抜群の才能がある。
『社買い人岬悟』のセックス率
ちなみに「岬悟」では1巻でシリアスを続けてから、 2巻で怒涛のようにセックスが続く。その後はバランスを取りながら、最後はセックスで終わる。会社の屋上でセックスする。
時代を反映させたセックス
『総理の椅子』は小泉改革が念頭に置かれたストーリーだ。主人公の白鳥遥には小泉純一郎が反映されており、後継者として指名された小泉進次郎のイメージも、途中から取り入れている。
新党を結成して与党を狙うところは、連載中に政権が民主党に移ったことが影響している。白鳥が中東へ視察に行き、現地のゲリラに襲われるところは、当時の国際情勢を組み込んでいるのだろう。
現実の政情は激しく移り変わっていき、国友やすゆきはそれを取り入れていった。
時代は変わる。だけど、変わらないものが1つだけある。
セックスだ。
「政治」というシリアスな題材でも、セックスを描く国友やすゆき。描かざるを得ない国友やすゆき。
国友やすゆきが同じ時代に生きて、時代を反映させたセックスを描く。そういう世界に、ぼくらは生きている。
【定期】国友やすゆき先生ありがとう、いつも面白い漫画を描いてくれて。
— 菊池良 / Kikuchi Ryo (@kossetsu) 2015, 1月 24