21.音楽は国境を越えて
「5、4、3・・・」
CM開けを告げるADのカウントダウンが聞こえます。
スティーブンは舞台袖で自分の名前が呼ばれるのを待っていました。
「ワラッテイイトモ」と呼ばれる日本のTVショーに出ることになったのです。
司会役のサングラス男がスティーブンを呼ぶのが聞こえます。
「郷ひろみさんからのご紹介。スティーブン・タイラーさんです」
出たばかりのアルバムのポスターを片手に舞台に出ると、割れんばかりの拍手が起きます。
「きゃー」
観覧席から黄色い歓声があがります。みんなスティーブを目当てに来ているのです。
スティーブンがクインシー・ジョーンズと出したアルバム「絶句・・・」は発売するやすぐさま大ヒット。
各国盤も制作され、全世界で2000万枚を超える売り上げを出していました。
スティーブンは一躍、世界的なミュージシャンへと変貌しました。
22.きみの歌は・・・
ニューヨークの高層マンションの最上階。
スティーブンはレコード印税を使って、アメリカで一番家賃の高い賃貸マンションに引っ越していました。
もちろんオートロックです。
「うん・・・うん・・・ありがとう。暖かくして寝るよ、母さん」
スティーブンが電話を切ると、部屋のチャイムが鳴りました。
「こんばんは、高級寿司です。握りに来ました」
スティーブンは毎晩、アメリカで一番の寿司職人に部屋まで出張してもらっていました。
「もう寿司を食べ続けて1ヶ月になるのか」
そうつぶやきながらスティーブンが玄関を開けると、そこにいたのは寿司職人ではありませんでした。
アメリカ大統領です。
「失礼させてもらうよ」
黒服を引き連れて、有無を言わさずズカズカとスティーブンの部屋に入ってきました。
「ちょ、ちょっと!」
入ってくるなり、黒服は何やら端末を部屋のあちこちに向けます。
「気にせんでくれ。盗聴されていないかチェックしているだけだ」
大統領は部屋のソファーに座ると、スティーブンに向かいへ座るよう促します。
「いったいどうしたって言うんです、大統領?」
「きみの歌を聞かせてもらったよ。実に力強い歌声だった」
大統領はソファー・テーブルにレコードを置きながら言いました。
「国のトップがそれだけを言いに?」
「焦らないでくれ。慎重な話なんだ」
大統領が手をパンパンと叩くと、黒服が大判の写真を広げます。
そこに映っていたのは巨大な隕石でした。
「地球に隕石が近づいている。大きさにすると木星の20倍。激突した惑星を巻き込むようにしてどんどん巨大化している」
「な、なんだって・・・」
「もし地球に激突したら・・・おい」
黒服がポケットからリンゴを取り出し、渡します。
「・・・ぐしゃっ、だ」
「なるほど・・・状況は理解しました。だけど、僕に何ができるって言うんです?」
「きみの歌で地球を救ってほしいんだ」
大統領はポケットからあるものを取り出しました。
「これは・・・!」
そのコップにスティーブンは見覚えがありました。
「覚えているかな? きみが子供のころに割ったコップだよ」
「懐かしい・・・でも、なんで・・・?」
「このコップはきみの歌が破壊したんだ。きみの歌には物理的な攻撃力があるんだよ」
その言葉を、スティーブンはすぐに飲み込むことができませんでした。
(つづく)
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