25.時を超えて
波打ち際に、スティーブンが倒れています。
大気圏に突入したスティーブンは、太平洋に落っこちました。
そして、海岸まで流されてきたのです。
「寒い・・・寒いよぉ、父さん・・・」
すぐさま病院へと運ばれ、入院生活に入りました。
*
その後のスティーブンがどういう生活を送ったかは定かではありません。
マスコミから姿を消し、隠居生活を始めました。
時おり新作の噂が流れては、噂のまま流れていきました。
*
50年の月日が流れました。
「スティーブン・タイラーはカリフォルニアの山奥で暮らしているらしい」
そんな都市伝説がインターネットの掲示板にまことしやかに書かれていました。
ニューヨーク大学のジャーナリスト学科に通っているケントは、その噂を検証して卒業制作にしようと思い立ちます。
ケントは夏休みを利用し、ビデオカメラを持ってカリフォルニア中の山という山を回りました。
「あなたはスティーブン・タイラーさんでは?」
それっぽい人に会うたびに聞きましたが、みんな首を横に振りました。
「あの噂はデマだったのかもな・・・」
それっぽい人に100人以上会っても見つからないので、ケントはそんな考えが頭をよぎりました。
*
そんなときです。
「ああ、わしがスティーブン・タイラーじゃよ」
見つかりました。
スティーブンは人里離れた山の中で、3人の孫と林業をしながら暮らしていました。
「木はええよ。どんどん伸びる。限界まで伸びたら切る。その繰り返しじゃな」
ケントはカメラを向けてインタビューします。
「スティーブンさん、いったいどうして音楽業界から姿を消したんですか」
50年間、ファンがずっと聞きたかったことを、聞きました。
「大気圏突入の後遺症で、絶対音感が失われたんじゃ」
「えっ・・・!?」
「わしは絶対音感で歌ってたんじゃ。それが失われたんじゃから、前のようには歌えんのじゃ」
「まさか大気圏突入にそんな負の側面が・・・」
初めて明かされる真実に、ケントは倒れそうになりました。
実際、少し倒れました。
「じゃあ、今は歌うことのない生活なんですか?」
「いや、たまに孫たちと暖炉の前で歌うよ。下手くそじゃがな」
ケントはその様子を撮らせてもらいました。
火のついた暖炉。ふかふかのソファー。笑顔の孫たち。
スティーブンは音程の外れた調子で、楽しそうに歌います。
娘さんよく聞けよ 山男には惚れるなよ
山で吹かれりゃよ 若後家さんだよ
山男よく聞けよ 娘さんにゃ惚れるなよ
娘心はよ 山の天気よ
娘さんよく聞けよ 山男に惚れたらよ
息子たちだけはよ 山にやるなよ
息子たちだけはよ 山にやるなよ
山の中を、スティーブンの優しい歌声が響きました。
*
その動画がYouTubeにアップされると、すぐさま話題となりました。
再生数はグングンと伸び、あっという間に5000万を超えました。
その動画を一人の少年が見ていました。
ジャスティン・ビーバーです。
「すごい・・・歌ってすごいなぁ・・・僕も歌いたいなぁ・・・!」
新しい音楽が生まれようとしていました。
(おわり)
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