こんにちは、アートディレクターの長岡です。
みなさんはいつも音楽を聴いていますか?
私は普段あまり聴かず、ときどきドライブなどで聴く程度だったのですが、2015年5月に音楽配信アプリ「AWA」が登場したことで、音楽への触れ方や関わり方が劇的に変わりました。
「AWA」に続き「LINEミュージック」や「Apple Music」など同様の音楽アプリがリリースされ、新たなイノベーションが起こりつつあるなと感じる音楽業界。
今回はその先駆けである「AWA」の開発に携わった小野さん、若泉さんにインタビューさせていただきました。
人物紹介:エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社 社長室部長/AWA株式会社 取締役 若泉 久央さん 30歳のときに、エイベックスに転職。着うた黎明期にミュゥモの立ち上げに参画し、同時に外部サービスへのコンテンツ営業を含めた音楽配信全般の事業に従事する。その後、EC事業やMD事業、レーベル事業に携わり、いまに至る。 |
人物紹介:AWA株式会社 取締役 小野 哲太郎さん 2007年にサイバーエージェントに入社後、社長室で藤田さんの運転手を1年ほど経験。その後アメーバ事業で著名人のブログのマネタイズを手掛ける。また、サービスのプロデューサーをしながら藤田ファンドの立ち上げに加わり、再び社長室で勤務後今に至る。 |
「AWA」開発について、小野さんと若泉さんにインタビューしてきました
「AWA」の誕生秘話や名前の由来、ロゴの意味とは?
−「AWA(アワ)」という名称ですが、初めて聞いたときにどうしても違和感を憶えました。どうしてこのような名称にしたのでしょうか?
- 小野
- 2014年8月にプロジェクトがキックオフし、12月の直前に「AWA」という名称に決まりました。
名前を決める上でこだわったことは、それまでに聞いたことのない響きにすることですね。グローバルで新しいことをしそうな、何かやってくれそうという期待感を得られる名称にしたいという想いがありました。
候補としては200個ほど考えて、その中から最終的に10個ほどに絞り込んでいきました。
でも最終的には、藤田自身が考えて最初から藤田一押しだった「AWA」になりました笑
−どのようなビジネスモデルのサービスでしょうか?
- 小野
- 23社のレーベルが参加し、数百万曲の楽曲を月額定額制で楽しめるサービスです。2015年6月現在、iOS/Andoroidで提供しています。
−このアプリを作る経緯として、どのようなことがあったのでしょうか?
- 若泉
- 音楽の違法ダウンロードがどんどん当たり前になっていく中で、アーティストや作り手を守りたいと思いました。どうにか還元できるように、まずは現状を何とかするためにこのサービスを作り始めています。
−どのようなコンセプトで作ったのですか?
- 小野
-
コンセプトは「音楽との出会いと再会」です。ある程度音楽に詳しい人でも検索して知っている曲を聴くという行動の繰り返しは、数十曲を思いつくのが限界です。それだとすぐに飽きてしまう。
世界中の音楽を好きなだけ聴けるAWAのような定額制ストリーミングサービスの良さを余すことなく楽しんでもらうためには、受け身でも「まだ知らない、でも好きな音楽」もしくは「昔好きだったけどすっかり忘れていた音楽」と連続的に出会えることが大事だと考えて開発しました。
−「音楽との出会いと再会」ということですが、その落としこみはどのような形式で進めていったのでしょうか?
- 小野
-
ひたすら作っては壊して、作っては壊してを何度も繰り返していました。
企画もUI/UXもインタラクションもリコメンドエンジンも色々なパターンのモックを作って自分たちで触ってみてはやり直しの繰り返しでした。
そんな中で、「ユーザーが作る多様なプレイリスト」×「リコメンドエンジン」の組み合わせで「音楽との出会い」を実現するという方針に固まっていきました。
−コンテンツはどのように集めたのでしょうか?
- 若泉
-
リリース時からは23社に提供頂いてますが、各レーベルなどを1つ1つまわって、AWAというサービスを理解した上で提供してもらいました。
今後もどんどん増やしていき、年内に3,000万曲を予定しています。
2社のジョイントベンチャーである「AWA」社内の空気感
−AWA株式会社を創るにあたり2社のジョイントベンチャーということで、社内の空気はいかがでしたか?
- 若泉
-
松浦も会社として、5年くらい前からサブスクリプションサービスをやろうと言っていたんです。いろいろな要因があり海外と組もうと考えたこともありましたが、国内の有力企業とやりたいとずっと思っていたので、温めていました。
今回は松浦の方から藤田社長に声を掛けたようで、社風も合っていて、お互いにマッチしそうだとプロジェクトが始まる前から感じていました。
私自身も良いコラボレーションができるのではないかと思っていました。エイベックスが制作してきた今までのアプリとは違い、納品して終わりの関係ではなく、家族のような関係で、親近感・一体感があり、一緒に作っている感じがしてとても幸せでした。
アプリが出来上がり関係者で完成披露パーティをおこなったのですが、発表直前に上手くアプリが動かないという事態となり(笑)、パーティ中にその場でで開発メンバーがバグ修正をするということがあったんですね。いまではとても良い思い出です。
サブスクリプションサービスとは、提供する商品やサービスの数ではなく、利用期間に対して対価を支払う方式のことである。多くの場合「定額制」と同じ意味で用いられている。
参照元:IT用語辞典バイナリ
サブスクリプションサービス
AWA開発の裏側とは?
−インターフェイスが特徴的でスゴイな……!という印象だったのですが、デザインFIXまでに大変だったことは何でしょうか? また、譲れなかった点は何でしょうか?
- 小野
-
こだわった点は、説明的にならずに直感的に使いやすいサービスであることと音楽に没頭できる世界観です。
大変だったところは、徹底的に階層構造やインタラクションに矛盾が生じないようにするところです。
直感的で使いやすく、かっこいいサービスを作ることも大変ですが、それ以上に、ある程度出来上がったサービスの矛盾や欠点を探して治していく地道な作業に苦労しました。
若くて伸びしろのあるメンバーを集めた
−開発メンバーはどのように選抜したのでしょうか?
- 小野
-
初期メンバーの6名で、エースクラスのエンジニアを選抜しました。
選抜する上での判断基準は、ネイティブアプリの開発経験はあまり考慮せずに乾いていて、勢いと伸びしろのあるメンバーを選びました。
最終的には、ネイティブアプリをやったことのない24~27歳のメンバーで構成されることになりました。
−初期メンバーの役割分担を教えてください。
- 小野
-
チーム組成時は10名ほど。
サイバーエージェント側は6名。
- 若泉
- エイベックス側は4名でした。
- 小野
-
サイバーエージェント側のチームが主にサービスの企画と仕様、開発をおこない、エイベックス側チームがビジネスモデルの構築と楽曲調達の交渉という棲み分けでした。
現在は、開発は30名ほどで、エイベックス側が10名ほどの体制になっています。【開発メンバー内訳】
- プロデューサー:1名
- デザイナー:0名
- ネイティブアプリエンジニア:3名
- サーバーサイド:2名
−未経験のメンバーで、このクオリティーのアプリを制作できた秘訣はなんでしょうか?
- 小野
-
やはり、実際に手を動かして作るエンジニアとデザイナーの思いの強さが大事だと思います。
絶対にユーザーに喜ばれるいいものを作るという意思を、開発メンバー一人一人が持っていたことでそれぞれに自主性が生まれました。
あとは、疲れてきた時でも、“妥協”は絶対しない!という気合ですね笑
- 若泉
-
やはり、藤田社長の目の前にデスクを構え制作させたこともモチベーションの向上につながり、最終的によいものを制作できた原動力になったのではないかと思っています。毎日社長に見られているという状況は、とても刺激的ですから(笑)
藤田社長もメンバーの「目つきの鋭さ」や「真剣さ」から良いものができるだろうと確信していたようですね。
- 小野
-
また、チームを作った際に「先進、洗練、極限」というテーマを立てて、とことんモノ作りに妥協しないという取り決めをしました。
そのため、言語やツールにも新しいものをどんどん取り入れてチャレンジしていきました。
参考までに、使っていたツール・開発環境などはこちらです。【使用ツール、プログラミング言語、開発環境など】
- Golang
- ProtocolBuffers
- Webp
- Bigquery
- Spark
- Realm
- RxJava
- Terraform
- Packer
- DocBase
- Slack
UI/UXにこだわり抜き、数十パターンのモックを作成
−初期のメンバーにはデザイナーが0名とのことですが、デザイナーがいない状況で、
あのデザインのクオリティですか?驚きました。その秘訣は何だったのでしょうか?
- 小野
-
デザインも含めてアプリエンジニアメンバー全員でモックをいくつも作ってテストを繰り返したことが大きかったと思います。
インタラクションや操作感を触って検証するためにフルコードでモックを作っていました。
その後本番開発が始まっても、モックは裏側で作り続け、フルコードモックで作って触って本番に反映していくという流れで開発していきました。
−デザイナーのアサインはいつからおこなったのでしょうか?
- 小野
-
チーム結成後、2ヶ月ほど経ってからアサインしました。
その際に僕とエンジニアで考えたデザインが200パターンほどありましたが、ジョインしてくれたデザイナーが全て壊して、また一から作りなおしました(笑)
でもすでにモックが複数パターンあって、実現したい世界観が明確だったので、デザインはどんどん進んでいきました。
−デザインする上で、こだわった点を教えてください。
- 小野
-
こだわった点は、たくさんある曲の中から、ユーザーが作り上げたプレイリストというリコメンドの塊と、テクノロジーを利用した二重のリコメンドをどのようにデザインで表現していくか。
また、デザインをおこなう上で、命とも言えるジャケットをどうしたら綺麗に見せられるか。
文字をジャケットの上に重ねることが困難だったため、その点にとても苦悩させられました。
−フルコードのモックというのはどういったものでしょうか?
※実際に作られたモック。(素材提供:AWA株式会社)
- 小野
-
モックを実装しながらも
- 音楽の世界に入り込める
- 格好良く動きも滑らか
- 使い勝手・操作感
という点において、とことん妥協せずに作り上げていきました。
上記のモックやラフデザインですが、Mock1~4が開発初期段階で、AWA開発メンバーがそれぞれの思いで作ってみたアプリのモックの一部になります。
実際これらのモックはフルコードで書かれていて、動きもします。Mock5は小野作成の仕様書とそれぞれの開発者が作ったモックの構想をマージした際に出来上がったモックです。
だいぶ今の形に近づいてきています。横フリックで各機能を遷移できます。
Mock5までの時点ではデザインも私と開発メンバーで協力して作っていました。
この後にデザイナーがジョインして、構想はこのままにデザインを一新しました。デザイナーがジョインしてからは、Rough1でプレイリストの表現方法がかなり固まってきました。
ただ、全体の見え方が洗練しきれていなかったため、試行錯誤を重ねてRough2が出来上がりました。
ただ、プレイリストの表現はRough1を採用しました。
−UI/UXでこだわった点を教えてください。
※手書きで書かれた階層構造図。(素材提供:AWA株式会社)
- 小野
-
上記の図は、階層構造図のラフですが、とにかくサービス全体の階層構造に矛盾が生まれないようにすることにこだわりました。
UIデザイナーを中心に、コードを書いては動かしてチェック、矛盾のあるインタラクションや階層構造を徹底して排除する。これを繰り返しおこないました。また、操作している際の指の速度の計算に関しても、現実的な動きにこだわり、妥協せずに開発を進めました。
負荷対策とアプリの改善は?
−音楽の配信ということで、負荷が高いのではないかと思うのですが?
- 小野
-
サーバーはAWSを利用し、負荷分散をおこなっています。
インフラのメンバーは、サーバーサイドが3名、インフラエンジニアが4名の構成で運用していますが、負荷の面で現状特に問題はありません。
−改善はどの程度の頻度でおこなっていますか?
- 小野
-
2週間に1回アプリはアップデートしていて、細かい改善は1日最低1個はおこないPDCAを回しています。
今後もドンドン新しい機能を追加していく予定です。
AWAの今後の展開とは?
−今後、集めたビッグデータは、外部に対してどのように活用していきますか?
- 若泉
- レーベルさんにデータ提供をしており、アーティストサイドのマーケティングにも活用いただいておりますが、これについてももっと良質なデータ提供をしていきたいと思っております。
−今後、ビッグデータを活用して、AWA内ではどのようなことをおこなっていこうと考えていますか?
- 小野
-
より多くの切り口で、データ分析を行うことで、リコメンドの多様性に活かしたいと思っています。
現在は音楽を聴いているユーザー同士の趣味趣向の類似性を活用する強調フィルタリング、と音楽やアーティスト間の類似性を活用するという2つの手法を用いていますが、さらに新たな切り口でのリコメンドを模索していきたいです。
最後に
−弊社の印象はどのような感じでしょうか?
- 小野
-
仕事の邪魔をしないでください(笑)
冗談ですが、いつも楽しく記事を読ませてもらっています。
今のスタイルをどうか崩さずに尖ってほしいと思っています。
これからも楽しみしています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
インタビューを通して、お二方とも、新しいイノベーションを作り上げていくこと、困難なことへのチャレンジをとても楽しんで仕事をされているなと感じました。
私はこれまで、Webに関わる事業についてさまざまな経験をしてまいりましたが、今回のインタビューを通して、新規事業の作り方やチームの作り方、新しいイノベーションの作り方など、アプリ制作以外にも色々なことをお伺いすることができ、とても勉強になりました。
今後に活かしていけたらと思います。
おまけ
本日、サイバーエージェントさんの方でも「AWA」スペシャルインタビューが公開されたそうです。エイベックスとサイバーエージェントの現場トップが語るリアルな舞台裏。ぜひ併せてご覧ください。