CM音楽のプロに学ぶ“人の共感を得るスキル”

榊原


CM音楽のプロに学ぶ“人の共感を得るスキル”

こんにちは。興奮気味のライター、内藤です。
先だってYKK APCM音楽に感動し、その作曲家を探し出して感想を送ったらなんとご返信を頂き、やりとりをしているうちにそのお人柄やプロモーションに携わる「プロフェッショナル」としての実力や意識を垣間見て、取材をお願いしたところ二つ返事で快く引き受けてくださいました。

CM音楽作曲家Eager Lush(イーガーラッシュ)さん

Eager Lushさん 北海道出身、アメリカ・マサチューセッツ州在住で、有名企業のCM音楽を数多く手がけるCM音楽作曲家。
代表的なCMに、
Xperia A
イエローハット
トヨタ カローラフィールダー コレカラの瞳篇 小栗旬
福山雅治 キユーピー ハーフ 「セロリと壁」
Google Nexus7(グーグル ネクサス 7)
などがあります。

などでも、ひそかな話題を呼んでいるEager Lushさん。

CM音楽家としてだけではなく、Brian Mcknight(ブライアン・マックナイト)などのグラミー賞を取ったシンガーのステージバックも務めた演奏家でもあります。
今回は、このEager Lushさんに「人の共感を得るスキルについて」取材をさせて頂きました。

目次

CM音楽制作の流れ

CM音楽制作の流れ

―――私を含めて知らない方も多いと思いますので、まずはCM制作の流れから教えて頂きました。

先ずはプロデューサーの方から連絡を頂いた後に、依頼してくれた方の主張したいテーマ(大概打ち合わせの上で決まってます)、リファレンスにする音楽を聴いてそれをベースにイメージを作り、誰が歌うかを決めて、その人の声のイメージで作っていきます。
それでレコーディング前にカラオケトラックを作ります(大概全部自分でやってしまいます!)。
同時進行でシンガーに連絡、スケジュール調整でレコーディングですが、やはり歌ものCMはシンガー如何で曲が決まってしまいますので、シンガーの人脈と、人選は一番大事かも知れないですね。

レコーディング当日は、シンガーと録音しながらディレクションを出します。
短い時間の中で良いレコーディングのテイクを録る為には、英語での会話スキル、”テンポ良く”ディレクションをするスキル、「この人はわかってるな」と思わせる音楽の実力、とシンガーをその気にさせるパーソナリティも出来るなら必要だと思います。

そして最終的にプロデューサーの方がこちらで録った音を基に調整をしてくださいます。

マネをして実力をつける

苦手なモノを1曲コピーして実践するだけで(ドラクエの)はぐれメタル1匹分に相当すると思います(笑)

興味を持ったら恐れずとにかくやってみる

小さい頃から興味を持ったものに影響を受けやすく、すぐにマネをしたくなるのですが、この感覚は今でも大事にしています。

小学生の時はフュージョンバンドに影響を受け、中学生でジャズに衝撃を受けて、高校に入る頃はビジュアル系バンドのドラムに目覚め、その後メロコア等のパンクにはまってドラムを叩き、卒業する頃にブレイクダンスが好きになり、ブレイクビーツやブラックミュージックに目覚めました。その後本格的にジャズピアニストになりたいと思い、英会話もあまりできない状態でしたが20歳の時にバークリーに入りました。

在学中からあちこちで演奏する機会を頂いていましたが、実はアメリカに来て初めてお金をもらったのは演奏ではなくてダンスでした(笑)。
当初はジャズピアニストを目指していましたが、色々な出会いの中でゴスペルに目覚め、たくさんのご縁の中で、大学の同期であった現ミスターミュージックの代表、吉江さんの長男の健太郎君の導きでCM音楽と出会い、今に至ります。

色々と衝撃を受けて直ぐ真似したがる性格も良い方向に向かったんではないかな?と信じてます(笑)。
結果としてアメリカに渡ることにつながり、たくさんの人と出会うことになり、音楽に関する価値観を”たくさん受け入れる”ことになり、知識や技術などを得て、共感を得るスキルを養うことにもなりましたので・・・。

ちなみに作曲/DTMを始めたのは実は大学を出てからなので、25歳くらいからです。
演奏ばっかりやってたので、他の方に比べかな〜り遅いスタートでした!

マネによって「はぐれメタル1匹分に相当する経験を半年で積む方法」

―――他の方と比べて遅いスタートにもかかわらず、どのようにして今の実力を身につけたのですか?
また、多数のCM楽曲は、それぞれかなりテイストが異なりますが、短い時間で幅広い対象物に対してこれだけのクォリティを保つのは容易ではありませんよね?

有り難う御座います!
確かに、未だ自分の芯になっている音楽はジャズや渋い感じのサウンドですし、週末は黒人の教会のアシスタントディレクターですし・・・商業系音楽とは程遠いですね(笑)
引き出しは多い方なんだろうな、と思っています。
ただそれを器用貧乏のアップグレード版?にしようと日々精進はしているつもりです。

音楽でしか僕は胸を張って言える事が恐らく無いのですが、貧乏と言う言葉はさておき、音楽で器用になりたいのならば魔法の様な近道があります。

それは自分が興味を持ったものをひた~~すら耳でコピーする事です。
リズムから何から、自分の手癖を”意識して”出来るだけ無くし、出来るだけ細かく盗む。

これを繰り返して行くと、雰囲気で先が読めるようになります。
ここまできたら、そのジャンルのアウトラインは4~5割掴んだも同然だと思います。
これを半年繰り返すだけでレベルが上がりまくります。もはやこれはチートです。
苦手なモノを1曲コピーして実践するだけで(ドラクエの)はぐれメタル1匹分に相当すると思います(笑)。

価値観の違いを受け入れる

”音楽”、つまり耳で感動するメカニズムは、集約して”共感”、”圧倒”そして”共有”の3つと思います。

「共感を得るスキル」は後天的に身につけられる

基本的に僕自身はアーティストではなく、職業作家と思っています!
自分のキャラクター(自己表現?)は意識せずとも作品に(良くも悪くも)出てしまっているとは思います。
けれども大事な事は、商品となる音楽は自分の評価が絶対では無く、相手の評価が基準になるということなので、例え自分で大変気に入ってる音源とは別に用意した音源が採用されても、へこたれなくなりました(笑)。
アメリカに来てからは、僕の音楽に対する”価値観の違いを矯正する連続”でしたので、それが現在の礎になっていると思います。

ですから、実際にひとつたしかなことは、僕の価値観やインパクトを狙うスキルは、絶対に才能では無くて価値観の違いを受け入れる/矯正してきた事による後天的なものなんです。
CM音楽は”その中から出て来た”僕の中の一つであり、また価値観を矯正する一つの出逢いでした。

”価値観の違いを受け入れる事”や、”そのような事が起こる機会に出逢うまでの道のり”は容易ではありませんでしたが、それらを素直に受け入れる感覚もこうした経験で身につけたスキルの一つだと思います。

出会いを大切にする

これはどのビジネスに於いてもそうだと思いますが、やっぱり人との出会い!
どんなに小さなことでも、出会った人やものを大切にすることはとても大事だと思います。
今まで出会って来た方全て、そしてミスターミュージック代表の吉江一男さん、超敏腕プロデューサーの福島節さん・渡辺秀文さん、吉江健太郎君のお力添えがあったからこそ、共感を得るスキルや感覚を身につけられましたし、日本ではCM音楽に携わる事が出来ています。
本当に感謝してもしきれないですね。

”共感”・”圧倒”・”共有”とは

僕は音楽は心というより表現よりは脳で聴いているモノだと思っているので、やはり”共感”はキーになってきます。

これが一つの音楽による”心(脳)の揺さぶられ方”だと思います。
アメリカと日本では感動する機会・仕組みがかなり違うと思いますが、音楽で感動する脳の仕組みは経験上3つあると思います。

僕は脳に関して全然アカデミックな知識は無いので専門的なことは語れませんが、”音楽”、つまり耳で感動するメカニズムは、集約して”共感”、”圧倒”そして”共有”の3つと思います。

”共感”というのは端的に言うと、記憶に残っている感情や憧憬が、音楽や詩の様な外的要因が引き金になって脳に何らかのアクションを起こす事だと思っています。
つまり、それは自分で(潜在的に)経験や体験として起こった”良かった事・良かった時”をもう一度呼び覚ます感じかな??
「よかった~」「(涙)」「はぁ~」みたいな感じでしょうか。

”圧倒”というのは、興味がある対象やモノが、脳で解析/理解できないレベルのモノを”波状攻撃の様に連続して”自分にインパクトを与えたときに起こると思います。
”自分の期待値を遥かに上回る時”に起こる感情で、カジュアルに言うと「うわ、ヤバイ」です。

最後に、未だに言葉で説明し辛い第三の要因がありまして、これが”宗教音楽”、日本語で言うと”共有”かなぁ・・・僕にとってのゴスペル/ワーシップソングです。
一番説明が難しいものですが、自分の周りの人が祈る(心・脳に描く)対象がひとつのとき、そしてその人達が大勢居れば居る程、さらに言うならその空間が狭ければ狭いほど、その心・脳を揺さぶる感情が伝染する事があります。
教会音楽に於いては宗教色が混ざる為ベクトルが違いますが、トランスパーティーや好きなミュージシャンのコンサートで演奏を聴く事と似てるかもしれません。

僕自身はもっともっと経験やインプットが必要だと思っていますし、共感を狙って得る為にはまだまだやる事が山積みだなぁと思っていますが、多くの人や価値観との出会いは必ず糧になると思っています。

状況(空気)を読む

誰だってある程度の実力があれば、一緒に仕事をして楽しい方を選びます。

全体の一部として自分の役割を見る

演奏に於いては、自分の演奏している空間の、空気の張りつめ方を多少なりコントロールするコツはあります。
空間を作るというか、行きたい方向に引っ張るというか・・・端的にいうと周りの空気を読んで何が求められているか客観的に把握するスキル、求められているものを与えられるだけの技術と実力が大事だと思います。

そして、自分が担当する部分に意見があった時、言った方が良いのか、むしろ何も言わない方が良いのか、相手や案件、状況によって見極めるようにしています(演奏/作曲両方です)。

例えば音楽で言うと、演奏の仕事の場合、仕切る人が仮に譜面を間違えて仕切っていたとしても、理に適っていればリハ中はそれを敢えてつっこまずにその人の意図を読んで合わせることで、全体の流れが重要なリハーサルの流れを断ち切らないようにする。

音楽をやっていない方にも分かり易いように言うと・・・例えばチームで一つのことに取り組む場合に、自分が引っ張る事によって得られる効果と、敢えて他人のアイデア(自分以外のパートの意見)を尊重して(そのクオリティが低いのが分かっていても)チーム全体の士気というか流れ?を上げて行く効果とを、その状況によって考えることが大切だと思います。
最初はできなくても、心がけるだけでも違ってくると思います。

気持ちよく仕事をする

これはビジネスではきっとアメリカでも日本でも共通していると思いますが、よっぽど天才では無い限り、性格が悪い/人当たりが悪いと仕事が少ないと思います(笑)
誰だってある程度の実力があれば、一緒に仕事をして楽しい方を選びます。
こういった意味でソーシャルスキルは非常に大事だな、と思います。
アメリカはよく実力社会と称されますが、”え?なんでこの程度の実力の人がこの仕事とってるの?” なんてグラミー賞をとってるシンガーのサポートバンドでも幾らでもある事です。

本当にお恥ずかしい話、特に大学時代は僕自身傲慢だったので、常日頃気を付ける様にしています。

15分後の「ド、ド、ドリランド」

GREEのドリランドというCMを一昨年~去年まで制作させて頂いたのですが、とにもかくにも印象に残るドリランドという携帯ゲームのテーマを作ってくれ!!と既に期待値が高い依頼を頂いた時の心境は「何か面白い事言え」と居酒屋で強要されるシチュエーションと似てるなぁ~と思った事を覚えています。

で、何が日本ぽくていいかな~と思ってたら飲みの時のコールみたいのはどうだろう・・・と思ってて、15分後「ド、ド、ドリランド」になりました。(他にも3つ4つ違うアイデアはありましたが、採用されたのはこれです。)
僕自身はこういった分かり易いノリが大好きですし、上手く行った?事も印象に残っています。

未だにCM音楽なのに反響が多いのは有り難い事です。
とても日本ぽいユーモアというかシュールさ???が良く出てるCMだと思います。

確かにYKKの様な情景を描く楽曲とは大分違いますが(笑)、でもこういった音楽の幅は自分でも漸く自信になりかけているところです。

―――快く取材に応じてくださって、本当にありがとうございました。

まとめ

Eager Lushさんとのやりとりで思ったのは、Eager Lushさんが良い記事にしたいという思いに共感してくださったこと、それがとても印象的でした。
突然のお願いにぱっと共感できるというところに、プロの実力(ポイント)があるように思いますが、それが先天的な才能というより、努力で身につけた技術や実力だということも印象的です。

「共感を得る」スキルは「自分自身が相手に共感するスキル」ではないかと、私自身は感じました。
多種多様なものに共感できることは、どういう状況で共感が生まれるかを知るということに他ならないように思えるのです。

共感を得るプロになるヒント

  • 共感を得る技術は後天的に修得することができる
  • 共感を得るためには自分が共感する経験をたくさんする
  • そのために興味をもったことはとにかくやってみる
  • 違う価値観にたくさん触れて、素直に受け入れてみる
  • そこでの出会いを大事にする
  • 苦手なものを徹底して真似してみる
  • 自分の出力が自己満足になっていないか客観視できるようにする
  • 全体の流れをつかむように頑張る
  • 最終的には・・・相手を思う気持ちと感謝が究極的な基礎の基礎?!

ありきたりのようで実践は難しいですが、これからでもEager Lushさんのようなプロのスキルを身につけられるチャンスがある!
そのために海賊王になるくらいの勢いで流浪してみようと固く決意するのでした。

榊原
この記事を書いた人
榊原

外部ライター 鎌倉

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