生成AI時代のデザインとクリエイターの未来とは?【戦略顧問の梶谷氏が語る】

生成AI時代のデザインとクリエイターの未来とは?【戦略顧問の梶谷氏が語る】

Kakeru Yanagi

Kakeru Yanagi

こんにちは、LIGの「生成AIコンサルティング」チームのかけるです。

LIGでは、AIを活用した企業のDX支援をおこなう「生成AIコンサルティング」事業のスタートに伴い、生成AI活用の専門家である梶谷 健人さんを戦略顧問としてお迎えしました。

先日、梶谷さんによる生成AIについて学ぶ社内勉強会を実施しました。今回は、社会人向けWebデザインスクール「デジタルハリウッドSTUDIO by LIG」を運営するデジタルエデュケーション部のメンバー向けに、生成AI×クリエイティブ領域の現状やデザインの未来などさまざまなパネルテーマでお話しいただきました。

本記事ではその勉強会の様子を一部お伝えします! 「生成AI時代のデザインの未来について知っておきたい」「クリエイティブ領域の生成AI活用を模索したい」とお考えの皆さま、ぜひご覧ください。

ico 株式会社POSTS代表 梶谷 健人 氏生成AIなどの先端テクノロジーやプロダクト戦略を軸にしたアドバイザーとして10社以上の顧問に従事。株式会社VASILYでのグロース担当や、新規事業立ち上げとグロースを支援するフリーランスを経て、2023年8月まで株式会社MESONの代表としてXR/メタバース領域で事業を展開。著書『生成AI時代を勝ち抜く事業・組織のつくり方』『いちばんやさしいグロースハックの教本』Twitternote

非デザイナーでも80点のデザインが作れる時代へ

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、「デザイン領域」における生成AI活用の現状についてお話しいただきたいと思います。

梶谷:まず「デザイン」では、デザインに精通していない“非デザイナー”でも、およそ80点ぐらいのクオリティのものはすでに作ることが可能だと思っています。

具体的な生成AIツールの例をいくつか挙げると、まずデザインツールの「Figma」では、AIがテキストからデザインを一発で生成する機能「Figma AI」が注目されています。

▲Introducing FigJam AI

ゼロからデザインを生成することはもちろん、生成したデザインのフレームを選択して「もっとこうして」と指示ができるので、一定レベルのデザインを簡単に作れます。まさに「Text-to-Design」を体現した機能です。

他にも、大手ソフトウェアのAdobeでは、テキストから人物や物体を生成&合成する「Generative Fill」やテキストからベクター画像を生成するFireflyの「Vector AI」も話題になっています。

▲モックアップでベクター画像を合成

また、Fireflyの「モックアップ」機能を使えば、Vector AIで生成したベクター画像を数秒で完璧に合成できます。これはデザイナーにとって大幅な効率化に繋がりますし、デザインの知識がない方にとっても簡単にここまで作ることができるようになりました。

もちろんプロである現役のデザイナーからすると、生成AIのクオリティをそのまま仕事で利用するのはまだまだ難しいです。ただ、生成AIによって非デザイナーができることが大幅に広がったのは間違いなく、今後もその差は縮まっていくと思います。

動画生成はすでに「実用レベル」に到達

ーー「動画領域」における生成AI活用の現状はいかがでしょうか?

梶谷:動画生成は、最近の生成AIでも注目されている領域の一つであり、すでにこの領域は実用レベルに達していると思います。

▲Volvo – For Life // AI generated commercial

これはVOLVO XC60の架空のCMですが、一部ナンバープレートの部分などを除いて、すべて動画生成AIの「Runway Gen-3」で作られています。動画を見るとおわかりになるかと思いますが、今世の中で流れているCMに引けを取らないクオリティです。

しかも、この動画の制作時間は24時間以内だそうです。このクオリティの動画を実際に撮影して作るとなると、制作時間やコストはこの何十倍にもなるはずです。

また、最近では中国の大手SNS企業の快手(Kuaishou)がリリースした「KLING」も注目されています。

▲Kling AIで生成

欧米発の動画生成AIは、どうしても西洋人顔もしくはステレオタイプなアジア人顔に収束する傾向がありましたが、「KLING」ではより自然なアジア人を再現することができるようになりました。もちろん動画のクオリティも高く、髪の動きもなめらかです。

こういったハイクオリティな動画生成AIが今まさに誕生しているなかで、生成AIを活用した動画クリエイターは、さまざまな生成AIを組み合わせて動画を作っています。

▲さまざまな生成AIサービスを組み合わせて作られた作品

今後も生成AIを活用した動画生成の領域は、注目のトレンドになるでしょう。

AIによってデザインの単位が「ユーザー」から「You」に変わる

ーー続いて、「生成AIによって“ユーザー体験(UX)”がどう変わるのか」について伺えればと思います。

梶谷:UXでは、デザインの「単位」が変わると思います。これまでのデザインは「ユーザーセンタード・デザイン(UCD)」や「ユーザーエクスペリエンス・デザイン(UXD)」などと呼ばれるように、基本的に「ユーザー」という単位が一般的でした。

そしてこの「ユーザー」という単位は、これまで技術的な制約によって仕方なく定義された、ざっくりとした粒度でしかありません。

しかしこれからの時代は、生成AIという新しい技術を活用することによって、「ユーザー」という単位から、個人に合わせた体験を提供する「You」という単位へと変化していくでしょう。

たとえば、AIライティングツール「Jasper」は、Jasper上で得たいアウトプットを最初に入力すると、Jasperがそのアウトプット生成に最適なインプットフィールドのユーザーインターフェース(UI)を、都度生成するようになっています。

Jasperのように、その瞬間のためだけにあなた(You)だけが使える“使い捨て”のUIを提供する生成AIツールが今後確実に増えていくことでしょう。

そのような未来が予想されるなかで、今の大量生産、大量消費的なUX(あらかじめ用意された1つのプロダクトを“セルフサービス”のように不特定多数のユーザーが消費する体験)ももちろん残りますが、AIがプロダクトとユーザーの間に入り、プロダクトのデータや機能を基にユーザーのその瞬間の要望や好みに合わせた新しい体験の提供も生まれるでしょう。

つまり、この新しい体験はAI自体が今後の新しいユーザーインターフェースになると捉えられることもできます。

今後、AI×デザイン論のシナリオでは、①デザインの単位が「You」に変わる、②AIが新しいユーザーインターフェースになる、この2つが重要な変化になると予想されるので意識しておくべきです。

 
ーーちなみにデジタルエデュケーション部に近い「教育」の領域を例にすると、AIによって学習コンテンツのユーザー体験はどのように変わるのでしょうか? 

梶谷:個人的には学習のあり方も大きな変化が予想されます。たとえば、すべての学生や学習者に無限の忍耐力とあらゆる知識を持ったAI家庭教師やAIパーソナルトレーナーがつくでしょう。また、教材自体もAIが一人ひとりのレベルに合わせて最適なものを生成してくれます。

すでに実現している範囲では、生徒がiPadで数学の課題をやっている最中に、その画面をGPT-4が認識します。そして、解き方や答えを教えずにヒントを出しながら、音声対話で教えてくれるデモが存在しています。

▲Math problems with GPT-4o

そして、このシナリオは今からでも実現できるすぐそこの未来だと思っています。技術的にはすでに可能ですので、教育事業に関わる方は、今からAIを活用した取り組みを検討しても良いでしょう。

 
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生成AI時代のクリエイターに必要なこと

ーー生成AI時代にクリエイターに必要な考え方やスキルはありますか?

梶谷:今後、クリエイターの方々が悩みそうなテーマとしては、「クリエイティブのスキルがどこまで必要なのか」「生成AIツールをどこまで学習すべきか」といったハードなスキルと、人やAIとの「コミュニケーション」などといったソフトなスキルにおいて、その優先順位とバランスの比重かと思います。

▲生成AI時代にクリエイターが意識して磨くべき4つの領域

これはそのスキルの優先順位と比重を整理したピラミッド図ですが、クリエイターが意識して磨くべきはこの4つの領域だと考えています。ピラミッドの下層に位置するほど重要であり、下層のスキルの高さが上層のスキルの土台になっています。

  1. 地力となる各領域の具体スキル
  2. →デザインやコーディング、ライティングといった基礎的なスキル

  3. コラボレーションスキル
  4. →人とコラボして仕事を進めるスキル

  5. 言語化力
  6. →人やAIを思いを伝える、動かすために言語化するスキル

  7. 生成AIツール力
  8. →個別の生成AIツールを使いこなすスキル

生成AI時代でもやはり一番重要なのは、「地力となる各領域の具体スキル」です。どんなに生成AIツールに詳しくて使いこなせても、地力となる具体スキルがなければ、生成AIのアウトプットだけをベースにしたクオリティになってしまったり、そもそもAIのミスに気付けなかったりしてしまいます。

そして、土台となる下層のスキルがなければ上層のスキルも身につきません。たとえば、周りの人たちと仕事を進める「コラボレーションスキル」は、具体スキル(=実力)がなければなかなか難しいと思います。下層から上層へとスキルを磨いていくこの順番がとても重要です。

また、比重のバランスの話では、「いま学んでいるデザインの勉強は少なめにして、生成AIツールの勉強をしましょう!」のような論調も時折耳にしますが、前述の通りそれは違うかなと思っています。

個人的には、「地力となる各領域の具体スキル」が全体の5割、「コラボレーション」と「言語化」を合わせて3割、「生成AIツール力」が2割が理想的でしょう。

もともとは生成AIツールがなかった時代は、「地力となる各領域の具体スキル」が7割、「コラボレーション」が2割、「言語化」が1割のようなイメージでした。AIが生まれたことによって今そこの比率のバランスに調整が起きていますが、やはり一番の比重は「地力となる各領域の具体スキル」に置くべきです。

現状は人によってそれらの考えがバラけてしまっている状況ではありますが、まずはこの4つの領域に絞って考えてみたり、Webデザインスクールの受講生に伝えていったりすることが大切だと思っています。

まとめ:生成AI時代を勝ち抜く組織になるためには

今後、クリエイターはもちろん、あらゆる職種の人々が生成AIの基本的な使い方を身につけ、自身の業務に活用していくことが求められています。

同時に、AIに頼りすぎることなく、地力となる具体スキルを磨き続けることの重要性も再確認されました。生成AIと人が協調しながら、より効率的でクリエイティブな仕事を生み出していく未来がもうすぐそこまで来ています。

この勉強会を踏まえ、各自が自分の業務や学習にどのように生成AIを取り入れていくか、具体的なアクションプランを立てることが次のステップとなるでしょう。

また、組織としても、AIリテラシーの向上やAI活用のためのインフラ整備など、取り組むべき課題を明確にすることが重要です。

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大学卒業後、IT系上場企業に新卒入社したのち、2021年にLIGにジョイン。メディアディレクターとして、おもしろ企画からCVを狙ったストレートな企画まで幅広く担当。現在はインハウスマーケティング部にて、生成AIの社内推進・生成AIコンサルティング事業を担当。

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