お客さんと話す前に知っておきたい、UXの超基礎

お客さんと話す前に知っておきたい、UXの超基礎

永松健志

永松健志

こんにちは、LIG Techonology部の永松です。

近年、UI・UXという言葉が当たり前に使われるようになりましたが、「なんとなくは理解しているけれど、説明ができない」「UIとUXの違いがわからない」という方も多いのではないでしょうか。

また、UXの指す内容が人によって違うため、クライアントと制作会社で共通認識が持てていないとトラブルになりかねません。そのため基本的な部分をしっかりと理解しておくことが大事です。

そこで今回LIGでは、UXに関する社内勉強会を開催。Technology部でUXを担当する私から、「UXやUXデザインとは何か、そしてエンジニアにとってUXはどう関係があるのか」をテーマにお話しさせていただきました。

制作会社だけでなく、様々な企業のみなさんにもお役に立てる内容だと思いますので、この記事では講座の一部をお届けします。

UX=UI・UXではない

UX(ユーザーエクスペリエンス)とは何か。

結論からいうと、UXはインターフェース上のユーザー体験を意味する「UI・UX」だけではなく、サービスやプロダクトの「すべて」を指します。

ISO(国際標準化機構)によると、UXとは「製品、システム、サービスを使用した、および / または、使用を予期したことに起因する人の知覚や反応」と定義されています。

つまり、UXは「製品やサービスをこれから利用する、または利用しているときの体験」であり、サービスや商品を知り、使い、使うのをやめるまでのすべての工程を含んでいると言えます。

よく、UI・UXとUXは混同されがちですが、実際のところUI・UXはサイトやLP、アプリ画面の設計などを指します。一方UXは、いわゆる「製品」や「アプリ」などよりもっと広い、サービス全体のことを指します。

たとえば、普段自炊している人が街でフードデリバリーサービスを知り、アプリをダウンロードし、料理を注文して食べる、というすべての体験がUXです。


定義的には、このアプリの部分などがUI・UXにあたり、UIUXは全体のUXの一部ということができます。

また、「サービス」というと製品やアプリを作ってない人には関係がないように思われるかもしれませんが、たとえばLIGは「クライアントワーク」というサービスを提供しているということができます。

この「クライアントワーク」の目的は、サイトやアプリなどを成果物として納品することですが、プロジェクトの進め方や担当者への信頼感といった「スタッフの振る舞い」が、クライアントワークにおけるUXの要素です。

改めて整理すると、UXは「スケール」に応じて次の二つに分けられます。

  • サービス全体のUX(大きなUX):広告から購入体験、サポートまですべて
  • プロダクト自体のUX(UI・UX):アプリや製品

この二つはどちらも重要な要素で、UXデザインにおいては両方の質を高めていくことが大事です。

「UXデザイン」って何?

ここまでのUXの基礎をふまえて、今度は「UXデザイン」について見ていきましょう。

ざっくり言ってしまえばUXデザインとは、理想的な「ユーザー体験(UX)」のサービスをデザインすることです。

たとえば、受託で開発を行う会社は、クライアントから「こういうアプリがほしい」という企画が持ち込まれることが少なからずあります。

その場合、要件定義や基礎設計など「どのように作るか」は検討するものの、「ユーザーは何を求めているのか」の追求は疎かにされがちな傾向にありました。

ですが、それでクライアントの希望通りのアプリをつくったとしても、クライアントが実現したい未来がアプリを通して実現できなければ、早期にアプリのサービス終了してしまうといった結果になりかねません。

こういった事態を防ぐためには、ユーザーの抱える課題を解決するような「良いサービス(大きなUX)」と「その実現方法(UI・UX)」を考えて設計する必要があります。それが「UXデザイン」なのです。

エンジニアもUXに関わっていると言える3つの理由

ここからは「プロダクト自体のUX(UI・UX)」とエンジニアの関係について考えていきます。

たとえば、アプリのUXとエンジニアの関係を見てみると、主に次の3つの理由から密接に関わっていることがわかります。

理由1:ユーザーを意識せずにプロダクトをつくることは不可能

理由の1つ目は、「ユーザーを意識せずにプロダクトをつくることは不可能」だからです。

たとえば図書館の書籍検索システムを開発する場合、「これは何の機能か」→「何を検索するのか」→「どんな時に使うのか」→「どのように探しているのか」といったフローで突き詰めて、仕様を決めていきます。UXデザインの根底には、こういったユーザー視点の発想があります。

エンジニアの方であれば同じような進め方されてる方が多いと思いますが、ユーザーのニーズに合ったプロダクトの作成・設計・実装するためためには、このように「このサービス・画面・機能・仕組みは何のためにあるのか」といった背景を考えることが大事です。

さらに言えば、上記画像のパターンでは、まず「検索機能ありき」で話を進めていますが、本来は「検索機能が必要かどうか」がまず最初に精査されるべきです。「この機能は必要だよね」と関係者だけで決め打ちする前に、まずはユーザーに聞くことが重要です。

この工程が不足しユーザーの課題が洗い出せていないと、不要な機能を付けてしまうといったことになりかねません。

理由2:エンジニアは「UX」と「開発」の妥協点を見つけなければいけない

一般的に「実装のしやすさ」と「良いUX」はトレードオフの関係で、その妥協点を見つけるのはデザイナーの仕事だと思われがちですが、私はこの擦り合わせのプロセスをエンジニアが主導できるようになった方が良いと考えています。

ところが、エンジニアにUXの知識がないとデザイナーを納得させられるだけの提案ができず、ビジネス要件を踏まえたUXでつくられた重たい実装が押し通されてしまうことがある。

そうなるとエンジニアは大変な思いをするでしょう。そのためエンジニアにUXの知識は必須です。

理由3:自分の決定がプロダクトのUXに影響する

そもそもプロダクトは一人でつくるものではありません。エンジニアはもちろん、デザイナーもディレクターもUXに関係しているのです。

「エンジニアはUXには関係していない」と考える方もいますが、エンジニアが実装したアプリのすべての要素がサービスのUXに影響しています。実際、たとえば処理速度や多言語対応のしやすさなどの部分は、エンジニアとユーザーとの接点といえます。

エンジニアにとって、UXは決して他人事ではなく、むしろエンジニアの決定がUXに与える影響は大きなものになります。

UXの範囲は多岐にわたるため、UXデザイナー一人ですべて対応するのは困難です。良いUXのサービスをつくるためにはエンジニアを含めたみんなの協力が必要です。

今日からUXについてできること

UXは今後ますます需要が高まっていくでしょう。そこで今日からUXの力を身につけていくためにできることをレベル別にご紹介します。

初級:マインドセット

  1. 迷ったらユーザーに聞く
  2. ユーザーの発言や行動にはヒントがあります。迷ったらまずはユーザーに聞いたり観察したりしてみましょう。

    なおクライアントの見解にはクライアントのバイアスがかかっている可能性があるため、必ずユーザーに聞いてください。

  3. ユーザーが正しく自分のほしいものを理解しているとは限らない
  4. ユーザーが自分自身が本当にしたいこと・やりたいことを理解できていないことは少なくありません。ユーザーの発言や行動の根底には何があるのか、掘り下げてみましょう。

  5. ユーザーの行動や選択が常に自分の理解が及ぶものとは限らない
  6. ユーザーが自分の理解を超える行動や選択をすることがありますが、そこにはユーザーなりの理由があるはずです。その背景を客観的に分析する姿勢が大事です。

中級:「UX検定」

出典:UX検定

2022年に始まった検定で、企業のUX人材育成の指標として作られており、UXを網羅的に理解するためには非常に効果的です。

これですべてをまかなえるわけではありませんが、まず何を勉強したらいいかわからない人にとっては地図のように使うこともできるでしょう。

ただし、いわゆるUIUX以外の分野も含まれているため出題範囲が広く、勉強はハードになるでしょう。

上級:他分野への知見を深める

今回解説した内容をすでに知っていたという人は、UXの知識・理解を深めていくためにぜひ次のような分野を学んでみてください。

文化人類学・現象学

UXデザインを学ぶ過程で「妥当なリサーチとは何か」「いかに他者の存在を理解するか」という問いにぶつかった際に参考になります。

SDL(サービス・ドミナント・ロジック)

SDLは、すべての経済・経営活動を「サービス」として包括的にとらえ、企業は「顧客と価値を共創していく」という観点でマーケティングを考えるべき、という論理のことです。

UXデザインを突き詰めていく中でアイデアが現実離れしてしまいそうなときに、この観点を入れることで思考が整理されます。

生成系AI

最高のUXを実現するために、高度な効率化手段であるAIが役立つことは多いと考えています。今後のサービスを支える基盤になるでしょう。

DDD(ドメイン駆動開発)

DDDはユーザーの業務を考えて開発を進める設計手法です。UXデザインのアウトプットがDDDの基礎となります。

UXに関してクライアントからよくある声や質問

Q.すでにユーザーの声を反映してUXデザインをしているので、これ以上は不要でしょうか?

ユーザーの声を反映していたとしても、そこには「真にユーザーが求めていること」が反映されているとは限りません。

UXデザインにおいてはユーザーの声だけでなく、深度のあるリサーチや全体のUXの整合性の検討、継続的な最適化が大事です。当たり前ですが「なんとなくUXデザインをする」のと「意識的にUXデザインをする」のは大きく違います。

Q.自社でUXデザインをやってみたのですが、あまり意味がありませんでした。

UXの手法を表面的になぞるだけでは、良いUXは実現できません。間違ったUXデザインのプロダクトはユーザーのニーズと乖離しているため、ローンチしてもヒットはしにくいです。その結果、「UXデザインは意味がない」という結論に至ってしまうことがあります。

ただ、それはUXデザインのアウトプットの質が低いだけであり、UXデザインを行う意味がないとは言えないと思います。

Q.プロダクトをつくる前にUXデザインを行うと、コスト増加やスケジュールの遅延につながりませんか?

短期的にはYESですが、中長期的にはNOです。

リサーチをしっかりしておくことで、途中で大きな方針転換があっても改修を避けられます。事前リサーチで判明することも多いため、開発前にいかにユーザーの行動を想定できるかがUXデザインの肝といえます。

Q.UXデザインにどのような費用対効果がありますか?

定量的な効果を示すのは難しいのですが、良いUXのサービスは顧客満足度やリピート率が高くなる可能性があります。

またユーザーにとってわかりやすく使いやすければ、結果的にカスタマーサポートのコストが下がるというメリットもあります。

Q.競合がUXに力を入れていないなか、UXを導入する必要はあるのですか?

社会全体がサービスやプロダクトに対して良いUXであることを求める方向に変わりつつあるため、今のうちに力を入れておけば、この先確実に競争力を持てるはずです

Q.ドメインへの専門知識が乏しいUXデザイナーに任せるメリットは何ですか?

UXデザイナーはユーザー中心の設計方法に関する知識や技術があるため、ユーザーを深く理解し、真のニーズや課題をビジネス価値に還元する設計が可能です。

Q.UXデザインの質とは何ですか?

UXデザインの質とは「いかにユーザー視点に立って真のニーズを掘り下げられたか」につながる「適切なリサーチとアウトプットの質」と、「ニーズをプロダクトに反映できたか」につながる「柔軟な発想力と提案力・実現力」だと考えます。

まとめ

今回は初めての社内勉強会だったため、まずはUXの基礎知識をお伝えしました。次回はUXデザインを取り入れた実際のプロジェクトの進め方について解説します。

LIGでは定期的にこういった社内勉強会を開催するなど、メンバーのUXに関する知識レベルの向上、業務への反映に取り組んでいます。UXデザインを意識したサイト制作に興味をお持ちの企業の方は、ぜひお気軽にご連絡ください。

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UXデザイン/サービスデザイン/デザイン思考などに専門を持ちつつ、LIGでは大型開発案件での要件定義や開発工程のディレクターなどを横断的に経験。プロジェクトの際はいかにユーザーに寄り添えるかを重視し、現象学や文化人類学への知見も取り入れながらUXデザインを行う。最近は、「最高のUX」を実現しうる方法としてAI活用にも興味津々。UXへの知識とAIを使った効率化の二軸で戦う。

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