デザイナーのほそです。
デザインをしていてフォントを選ぶとすると、国内のメーカーではMORISAWAやフォントワークス、Webフォントを使用する場合は、Adobe Fonts、Google Fontsなどが選択肢に入ってくるのではないでしょうか。
しかし、海外のサイトを見ていると、個性的なフォントを購入しているケースが多々あります。興味をもって調べているうちに、普段はあまり接しない海外フォントメーカーの非常に奥深い世界が見えてきました。
目次
Schick Toikka (Berlin/Helsinki)
https://www.schick-toikka.com/
Schick Toikkaは、Florian SchickとLauri Toikkaによって2010年に設立されたインディペンデントなフォントスタジオです。ベルリンとヘルシンキに拠点を置き、高品質の小売用フォント、大小さまざまな組織向けのカスタム書体を作成しているとのこと。
現代的でさまざまな用途に応じたフォントが開発されています。多くの書体がヴァリアブルフォントとしても開発されており、先進的なスタジオであることがわかります。
こちらのスタジオは特定のプロダクトに向けたカスタムフォントも作成しているそうで、ライフスタイルマガジンの「Kinfork」やテキスタイルメーカーの「marimekko」に提供しています。
事例:Kinfolk
Kinfolkは、2011年にアメリカのポートランドで生まれた雑誌。スローライフを掲げる独自の美しい哲学を持つ、世界的に有名な雑誌です。スローライフやさまざまな芸術的カルチャーを扱うこの雑誌は、高品質な写真やデザインで知られています。おしゃれめの本屋さんで見かける方も多いのでは。
こちらの雑誌では、そのものずばり“Kinfolk”というカスタムフォントが使用されています。こちらは、リブランディングの際に、Schick Toikkaが”6つの異なるスタイル、SerifとSansのスタイルで構成されるタイプファミリを作成”とされています。
フォントの組み合わせにより、印象的な見出しから長い記事に至るまで、コンパクトな設計ながら、あらゆる需要に耐えるフォント構成だそう。とくに表紙にも使用されているSans Serif体の方は、非常に優美で美しい曲線をもつ印象的な書体だと思います。
AllCaps (Berlin/Czech)
Allcapsは、チェコに本社を置くフォントスタジオです。the Swiss Design Awards、Morisawa Type Design Competition、the Brno Biennale Awardといった賞を受賞しています。ドットとサンセリフ体が融合したようなユニークな”visual”、かなり攻めたCondencedな書体”Bandit”などを開発しています。
今回は、Yorthというフォントを使用した事例を紹介します。
事例:BRIGHT STUDIO
バウハウスタイプに影響を受けクラシックな雰囲気を保ちつつ、丸い角やX-heightの高さが独特の爽やかなテンポをもつフォントです。柔らかさと硬さの両面の印象を受け、小見出しで使っても印象感があるところが良いなと思いました。
LINETO (Swiss)
LINETOは1998年にスイスで初めて設立されたデジタルフォントメーカーです。Spotify,AirBnB,Google,Nest,Logitech,HP Dell,Polestarといった有名な企業に採用されています。
事例:Spotify
Spotifyは”Circular”というLinetoのフォントを採用しています。こちらのフォントは、自分自身がSpotifyを使っているのですが、歌詞などで表示されるフォントがかっこいいな……と思って探したところ、Circularだったという経緯があります。すごくスマートでちょっと遊び心を感じるチャーミングなフォントですよね。
Circularは、”geometric grotesk”というジャンルのフォントであると説明されています。”grotesk”自体はAktiv Groteskや、Neue Haas Groteskでお馴染みですが、”grotesk”とは、19世紀後半のサンセリフ書体の呼び名であったと、Akzidenz-GroteskのWikiページで説明されています。
“Circular”の公式ページの説明を拝借すると、”Circularは戦前のドイツのグロテスク書体に影響を受け、具体的にはJakob ErbarによるErbar Grotesk (1926–29)、Paul RennerによるFutura(1927–28)、Rudolf KochによるKabel(1927–29)、そしてWilhelm PischnerによるNeuzeit Grotesk(1928–29)といった書体にインスパイアされている”と、述べられています。
書体の特徴としては、「純粋さと暖かさが融合し、機能性、概念的な厳密さ、熟練した職人技、測定された特異性の間のバランスがとれた幾何学的なサンセリフ」と説明されています。
フォントの魅力を言葉で説明するのは難しいのですが、一見して現代的、かつ音楽に求められるようなわくわくする印象も受ける点が、音楽配信サービスにすごくマッチしているのかなと思います。
Optimo (Swiss)
Optimoは、1998年にスイスのローザンヌで学生のプロジェクトとして始まったフォントメーカーです。さまざまな時代の活版印刷の特質を調査し、永続的に価値のあるフォントを生み出すことをコンセプトとしているそうです。
事例:BIRDIE Design
穏やかなテイストのデザインに似つかわしい、そのものずばり“Plain”というフォントが使用されています。
Plainは、「あらゆる言葉が、ロゴタイプになりうる」という思想のもとに、プレーンな見た目、モダンな簡潔感を目指しているとのこと。線の太さに統一感があり、ストローク感のないフォントを探している時に役立ちそうです。
フォントファミリーとして、Hairlineの一つ下に極細のSkelton、Blackの一つ上に極太のSuperがサポートされており、これも非常に使いやすそうです。
Swiss Typefaces (Swiss)
https://www.swisstypefaces.com/
Swiss Typefacesは、2006年に設立されたスイスのフォントメーカーです。”cutting-edge(最先端)”なアプローチで、音楽/ファッション/ストリートカルチャー/アートなどを融合させる、ということをコンセプトにしており、刺激的なアプローチのフォントが並んでいます。
事例:Daniel Spatzek Portpholio
https://www.danielspatzek.com/home
Daniel Spatzekというデザイナーの方のポートフォリオサイトです。いいですねー、こういう感じ、個人のこだわりの強い制作って感じがします。そのものずばり、“Swiss”というフォントが使用されています。
“Swiss”は、スイス・グロテスクと呼ばれる書体を参考に制作されています。スイス・グロテスクについてSwiss Typefacesのサイトから引用すると”1950年代にバーゼルとチューリッヒの学校を中心に現れ、情報を客観的に提示することを目的としたフォント。インターナショナル タイポグラフィックスタイルとも呼ばれ、グリッドベースのレイアウトで、通常は左揃えに設定されるサンセリフ体が特徴です”とされています。
現代的なフォントメーカーを見ていると、古い書体を現代的に解釈しようというアプローチがありますが、古い時代のグロテスク体といっても、前出のLINETOのようにドイツ・グロテスクを参考にするものと、スイス・グロテスクを参考にするものでアプローチが異なるのが面白いですね。
WELTKERN (Swiss)
WELTKERNはスイスのORBEで2021年に生まれた、まだ新しいフォントメーカーです。”Lausanne”というフォントを調べていて辿り着きました。個人的には、“Ghost”というフォント、名前がかっこよくて使ってみたいですね。
事例:EXOAPE Design
lausanneというフォントが使用されています。”Lausanne”は、Momaやスイス国立博物館、メキシコのタマヨ美術館などに採用されています。
“Helvetica”を意識しつつ、小さなサイズの視認性を担保する、デジタルタイポグラフィーとしての最適性を目指しているとのこと。具体的な特徴として、”ascending and descending lines are very short and give a compact appearance”つまり、「アセンダーとディセンダーが非常に短く、コンパクトな印象を与える」、と説明されています。
個人的には、小文字の”g”が非常に特徴的で、人の顔のように見えるのが面白いなと思いました。
最後に
今回取り上げたメーカー以外にも、調べれば調べるほど無数の素晴らしいフォントメーカーがありました。そして、それぞれに歴史を参照しながら、新しい現代的なフォントを作り上げようとしています。
非常に面白いので、お気に入りのフォントメーカーがあれば、教えてくださいね。