シリーズA調達のany、スピード開発から「チーム開発」に方針転換した瞬間

シリーズA調達のany、スピード開発から「チーム開発」に方針転換した瞬間

Mako Saito

Mako Saito

LIGブログ編集長代理のMakoです。

現在LIGではDX支援を加速させるべく、「サービス開発」に役立つ情報発信を強化しています。

今回はナレッジ経営クラウド「Qast」を提供するany株式会社のCTO 波多野さま、同社を創業期から支援し続けるVC・Gazelle Capital株式会社の代表 石橋さまにお時間をいただき、スタートアップの開発現場でどんな課題が生まれているのか、それをどう解決しているのかを伺いました。

スタートアップや新規事業の開発に携わるみなさん、ぜひご覧ください!

ナレッジ経営クラウド「Qast」
社内に埋もれている個人のノウハウやナレッジを引き出し、組織全体のパフォーマンスを最大化するナレッジ経営クラウド。2022年6月にシリーズAで総額4.5億円の資金調達を実施。導入社数は5,000社を超える。
波多野 雅哉 氏 ゲスト:any株式会社 取締役CTO 波多野 雅哉 氏伊藤忠テクノソリューションズにてエンタープライズ顧客向けにWEBシステム開発を担当。要件定義などの上流工程、PM/PL、開発、保守・運用などを幅広く経験。その後、正社員、業務委託含めスタートアップやベンチャー複数社でフロントエンド、サーバサイド、インフラなど様々な技術から組織づくりや採用などを経験。2020年よりany株式会社へ1人目エンジニアとして参画。同年12月より取締役CTO。
石橋 孝太郎 氏 ゲスト:Gazelle Capital株式会社 代表パートナー 石橋 孝太郎 氏学生時代にNPO組織立上げや、クルーズ株式会社でCVCの立上げに従事。2016年クルーズベンチャーズ株式会社を創業し、取締役に就任。2019年5月にGazelle Capitalを新たに組成。現在は、投資家として一面と、宮崎県拠点で、全国の中小企業を第三者事業承継で引き継ぎをし、グループ経営していく起業家としての一面、2つの顔をもち、独自の視点で事業創出、支援を行い、多方面的に投資先と伴走を行っている。
大山 智弘 インタビュアー:株式会社LIG 代表取締役社長 CEO 大山 智弘新卒にて株式会社ユナイテッドアローズ入社。イギリス留学を経て、株式会社リクルートに入社。その後、ベトナム法人EVOLABLE ASIA Co., Ltd代表取締役社長に就任。退任後は株式会社リンクバル入社。IPOを経験後、株式会社ケアクル創業。2017年より株式会社LIGに参画。2021年10月より代表取締役。

目先の早さをとるか、1年後の速さをとるか

大山:2020年に波多野さんがany社にジョインして以来、開発チームとしてもっとも大変だったのはどんなことですか?

波多野 雅哉 氏

波多野:「目先のリリースの早さ」と「将来的な開発の速さ」、どちらをとるかという問題ですね。弊社ではおよそ1年ほど前から「基盤を変えないとライブラリのアップデートができない」といった技術的負債に露骨にブチ当たるようになっていました。そんなとき、「トップ画面のリニューアル」というビジネス上インパクトの大きな改修の構想が始まったんです。

正直なところ、リリース優先で既存のアーキテクチャのまま強引に進めることも考えました。しかしメンバーから「Qastをゼロから作り直したいです」とまで言われ、悩みに悩んだ結果、基盤も刷新しながらトップ画面をリニューアルすることを決断しました。

結果リニューアルに半年もかかってしまったので、「数ヶ月でもいいから早くリリースしたかった」という反省はあります。リリースが遅れるほどKPIはズレますし、キャッシュも不安定になりますからね。ただ一エンジニアとしては、この決断は間違っていなかったと思っています。アーキテクチャもコードがきれいになり、修正対応も新メンバーのオンボーディングもかなりラクになったはずです。

石橋:私たちはVCとしてさまざまなスタートアップ企業を支援していますが、もっとも予実がズレるのは開発計画、および開発にまつわる人員計画なんですよね。たいていの場合後ろ倒しになり、早まることはまずありません。そのままリリースを遅らせるのか、それとも残キャッシュを減らしてでも採用してリリースを急ぎ、売上を出して次のファイナンスをしやすくするのか。限られた残キャッシュをどう活用するのかは、本当に難しい問題です。

大山:一経営者として、キャッシュアウトを想像すると胸が苦しくなります(笑)。目先の売上にはつながらない「技術的負債の解消」にいつ向き合うのかは、どの企業も頭を抱えるポイントですね。

波多野 雅哉 氏

波多野:私自身はスタートアップでの開発に慣れてしまっていたこともあり、コードが汚くてもある程度はスピーディーに開発できます。でもほとんどのエンジニアはそうではありません。コードがぐちゃぐちゃだととにかく改修に時間がかかる。下手すればエンジニア1人で開発していたころより、3人で開発したほうがスピードが落ちるなんてことも起きるんです。

なのでいつまでも「いち早くリリースして目の前のKPIを達成したい」とは言ってられないんですよね。エンジニアチームを拡大し向こう1〜2年の開発スピードを上げるためには、コードの品質を改善するしかありません。そこで昨年意を決して、「スピード開発」から、みんなでナレッジを共有したり品質を高め合いながら進める「チーム開発」へとガラリと方針転換することにしました

CEOの吉田からすると当然「スピード開発」を優先してほしい気持ちがあったと思いますが、経緯をきちんと説明したところ「今はそういうフェーズなんだね」と受け入れてくれましたね。

大山:CEOとCTO、それぞれの立場から「いまなにを優先すべきか」を建設的に議論できるのはすばらしいことですね。

開発を成功させる秘訣は「開発しない」

大山:続いて石橋さんに質問です。多くのスタートアップ企業のサービス開発を間近で見ていらっしゃると思いますが、どこでつまずくケースが多いでしょうか?

石橋 孝太郎 氏

石橋:IT業界出身ではない、もしくはエンジニアではない起業家さんが創業期にもっとも陥りやすいのは、社内にエンジニアがいない状態で開発をすべて外注し、失敗するケースです。社内にテックリード人材がいないと成果物の品質チェックもできませんし、たいていその後エンジニア採用がうまくいかず詰んでしまうんですよね。

もう一つは、逆にエンジニアがいるからこそ「とりあえずモノを作ってみよう」と最初から開発してしまい、失敗するケースです。最初のMVP(Minimum Viable Product)はノーコードツールで開発したものでも、もはやパワーポイントの資料でもいいんです。大事なのは、いち早くお客様のところに持っていってニーズを検証すること。とりあえず開発してしまうと、本来1ヶ月でできた検証に3〜4ヶ月もかかってしまいます。

創業期においては、エンジニアであってもモノを作るのではなく、ぜひ現場に出ていただきたいですね。お客様が求めていることを直に理解したうえで、その後の要件定義を一緒に進めていけるのが理想です。

波多野:私もエンジニアは現場に出るべきだと思います。スタートアップの開発を成功させるためにもっとも重要なのは、顧客解像度を上げて、作るものを減らすことなんですよ。顧客理解ができていないと、つい要件を膨らまし過ぎてしまう。要件が増えれば当然開発は複雑になります。設計も失敗しやすいし、品質も崩れやすい。だからこそお客様のニーズを押さえたうえで作るものを見極め、シンプルな要件で開発し、最短でリリースする。これが一番の成功の秘訣だと思います。

大山:現場で活躍されているお二人がおっしゃるからこそ、非常に説得力のあるメッセージですね。とても参考になりました。

「内製化すべき」はどこまで本当?

石橋 孝太郎 氏

石橋:その他のつまづきポイントとしては、やはり「エンジニアがとれない」という採用課題です。anyさんのようにプロダクトを拡大していくフェーズにおいては、ほとんどの企業が頭を抱えていますね。豪華なオフィスや働きやすい環境を整えて積極的に広報してもなかなかうまくいかない。たとえお金があったとしても、人が集まらないんです。

波多野:エンジニアの採用市場は本当に厳しくなっていますよね。うちも本来は正社員比率をもっと高めたいんですが、実際は業務委託のみなさんの力を借りながら開発を進めています。

大山:業務委託を迎え入れる場合「あまりコミットしてもらえない」という悩みを抱えている企業様が多くいらっしゃいますが、any社ではどのように業務委託のメンバーを巻き込んでいるのでしょうか?

波多野:今のところ業務委託もリファラル経由が多いんですよ。なので前提として、関係性が築けている人に協力してもらっているのが成功要因の一つだと思いますね。あとは事前に、「うちは業務委託であっても正社員と変わらず、アーキテクチャ設計やコードレビューに携わってもらいますし、社内のイベントにも参加してもらいます」としっかり説明するんです。それを「おもしろそうですね!」と捉えてくれる人にだけ、参画してもらうようにしています。

大山:弊社が大事にしている価値観の一つに「Build Team Together」という言葉があるんですが、やはり「発注者と外注先」ではなく「一つのチーム」にならなきゃいけませんよね。社内でも社外でも国内でも国外でも、一緒のチームだという感覚でやれないとプロジェクトを成功させるのは難しいと感じます。

石橋:投資家はみな一辺倒に「内製化しろ」と言うので、外部パートナーとうまく協業できていないスタートアップは多いでしょうね。私自身、サービスのコアとなる開発を “すべて” 外注するのは賛成しかねますが、社内にテックリード人材がいる状態であれば、外部パートナーをうまく頼りながら開発リソースを確保するのはアリだと思います。
大山 智弘

大山:弊社が拠点を置いているフィリピン・ベトナムは、日本国内よりもまだ優秀な人材を採用しやすい状況にあります。こうした海外リソースを活かしながら、「エンジニアが集まらない」という慢性的な課題を解決していきたいなと、お二人のお話を聞いて改めて感じました。

スキルはあっても “発揮” できないと意味がない

大山:外部パートナーをうまく頼るにしても「テックリード人材だけは必ず社内に立てるべき」という結論でしたが、こうしたハイレベル人材を採用するうえで成功した施策があればぜひ教えていただけませんか?

波多野:弊社はまだテックリード人材は採用できてないのが現状ですが、ベストなのは「副業」から参画してもらい、そのあとに採用するのが一番間違いないと感じます。ただ副業だとどうしても月40時間、営業日換算で4〜5日程度の稼働しかとれないので、欲を言えば、業務委託として週3〜5日ほど入ってもらって見極めるのが理想です。

よく面接で「スキルを見極めよう」とするじゃないですか。でもいくらスキルを見極めたところで、「それって本当に入社後に発揮されるの?」という疑問がついてまわります。スキルがあっても、発揮されなければどうしようもない。だからこそ、自分たちの環境で実際にコードを書いて成果を残してもらい、相性を判断していくのがよいと思いますね。

大山:スキルの話、まさにおっしゃるとおりですね。ぜひ自社の採用やお客様の支援に活かしていければと思います。波多野さん、石橋さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!

さいごに

波多野 雅哉 氏、石橋 孝太郎 氏、大山 智弘
LIGブログでは今後も「サービス開発」に役立つ情報をお届けしてまいります。

また、弊社はスタートアップ企業様の開発支援もおこなっています。「これからサービスを成長させていきたいのに、エンジニアが足りない」とお悩みの企業様は、ぜひ気軽にご相談ください。
 

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Mako Saito
Mako Saito LIGブログ編集長 / 人事部長 / 齊藤 麻子

1992年生まれ。2014年九州大学芸術工学部卒業後に採用コンサルティング会社へ新卒入社。法人営業から新規事業推進、マーケティング業務に従事したのち、2018年にLIGへ。2023年にLIGブログ編集長、2024年に人事部長に就任し、現在は自社のマーケティング・人事業務を担う。副業ではライターとして活動中。あだ名は「まこりーぬ」。著書『デジタルマーケの成果を最大化するWebライティング』(日本実業出版社)

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