コンサルタントの前島です。
マーケティング領域においてMAやCRMといったツールを導入する企業は少なくありません。一方で「導入したものの使いこなせていない」「効果が出せていない」とご相談を受けることもよくあります。
今回は、前職のアクセンチュア時代から10年以上にわたり、コンサルタントとして企業のDXを支援してきた私の視点で、MAやCRMの正しい活用方法をお話します。
目次
MA・CRMとは?それぞれの違い
MAやCRMとはどんなツールなのか、混同しがちですが、機能やできることの範囲が異なります。
MAとは
まずMAとは「Marketing Automation(マーケティングオートメーション)」の略称で、ユーザーのデジタル体験の自動化・効率化を実現するためのツールです。データベースに登録された見込み客や既存顧客に対して、設計したシナリオにもとづき、メール送信やキャンペーンの案内といったアクションを適切なタイミングで自動的におこなうことができます。
年齢や性別、購入履歴や利用履歴といった過去のアクションなど、さまざまな情報をもとにユーザーの属性を設定し、それぞれに違ったアプローチができるため、各ユーザーのニーズや課題感に寄り添った提案が可能になります。
CRMとは
CRMとは「Customer Relationship Management(カスタマーリレーションシップマネージメント)」の略で、顧客との“関係性”を管理するためのツール。
ユーザーの購買や行動履歴といった情報を統合的に管理するデータベースとして活用できます。ユーザーの氏名や性別、住所などの個人情報に加えて、初回コンタクトのきっかけから、その後、誰とどんな商談を経て契約・購入・利用に至ったのかといった詳細な情報を登録することが可能です。これにより、顧客に対して最適なアプローチを検討でき、経営戦略の業務効率化や顧客満足度の向上につながります。
MA・CRMの具体的な活用例
MA・CRMの導入シーンをさらに明確にイメージしていただけるように、どんな業界でどのように使われているのか、活用例をご紹介します。
MAの活用例
MAは、大手通信会社や航空会社などで利用されています。
通信会社では、自社のスマートフォンユーザーの属性を分析し、例えば、契約時のデータ容量を超えて頻繁に速度制限がかかっているユーザーに対しては無制限で利用できるプランを案内するといったアクションもMAで自動化し、ARPU※の向上に役立ています。
※ARPU(アープ):「Average Revenue Per User」の略でユーザー1人当たりの売上金額を表す指標
また、ECサイトでも活用されています。クーポンの利用期限が迫っているユーザーに対してメールを送ったり、誕生日のユーザーに対して「あなただけのお得なクーポン」としてサイトに表示するといった使い方です。
メールやSMS、モバイルアプリやWebなどのチャネルを横断して一貫したシナリオの構築ができるとともに、サイトへのアクセスやクーポンのダウンロード、購入といったユーザーのアクションを分析し、改善することで、より良い顧客体験を実現できます。
CRMの活用例
CRMは、金融機関や保険会社での活用事例が有名です。
銀行の場合、リテールバンキングといわれる個人や中小企業を対象とした小口の金融業務において活用されています。過去の顧客とのやりとりをCRMに記録することで、セールスはこれまでの経緯を踏まえた最適なアプローチが可能に。
営業活動の引き継ぎもしやすくなり、同時に、財務やロジスティックス(物流部門)などの他部署とも連携し、例えば「今期の施策がどれくらい経営にインパクトをもたらしたのか」といった視点での分析にも繋げることができます。
MAやCRMは大企業でなければ導入できない?
ここまでの説明で「MAやCRMはある程度大きな会社が導入するものなんだ」と思った人もいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
例えば10名以下の人員で営業やマーケティングを担っているような中小企業でも、顧客情報をエクセルで管理していて過去の履歴が追えないといった課題を抱えているケースが非常に多いです。
そういった場合、まずはCRMの導入から進めることをおすすめします。高額なイメージがありますが、安いものだと1IDで月額3,000円くらいから使えるCRMツールもあります。
逆に高価なツールだとオーバースペックで使いきれないといったことにもなるので、課題感に応じて適切な機能性と価格帯のツールを選ぶことをおすすめします。
効果的にMAを活用するための事前設計の3ステップ
顧客の「データベース」としての側面が強いCRMに対して、MAの使い方は少しイメージしづらいかもしれません。
ここでは効果的にMAを活用してユーザーに最適な購買体験を提供するためにおこなうべき、事前設計の手順や考え方について解説します。
ステップ① チャネルの整理
最初にやるべきことは、ユーザーが商品やサービスにたどり着くうえでのチャネルを整理することです。
転職活動を例に出すと、今の職場環境や働き方に疑問を持ち「これからどうしようかな」と考えている人が不意にテレビで求人サイトのCMを見かけ、それがきっかけになってWebで検索するという行動に移ることがあります。
テレビ以外にもラジオやアプリ、広告バナー、対面接客など、行動変容のきっかけとなるチャネルにはさまざまなものがあります。
自社の製品やサービスを利用する可能性があるユーザーにとって、行動変容を与えるチャネルはどれなのかを整理することがユーザーの最適な購買体験を設計するうえでファーストステップになります。
ステップ② カスタマージャーニーの設計
チャネルを整理したうえで、カスタマージャーニーの設計に入ります。
打ち手として提供できるチャネルのなかでペルソナとなるユーザーに何を訴求し、次のアクションに移したユーザーのペインをどのようなストーリーで解消するのか、具体的に体験を設計していきます。
ステップ③ 設計したカスタマージャーニーをMAツールに落とし込む
ここまでのステップを踏まえ、いつどのチャネルでどんな情報を配信するのか、具体的な施策を決定し、それをMAツールに落とし込みます。
ユーザーの属性ごとにカスタマイズされた体験を設計し、効果測定をしながら改善を続けることで、顧客体験を向上し、マーケティングの効率化を推進できます。
「購入させて終わり」ではなく“その先”を見据えた事前設計を
MAツールを活用するための事前設計では、「マーケティング」を広い意味で捉えて設計することが大切です。
本来のマーケティングの意味においては、商品やサービスを買ってもらう前段となるチャネルの整理から、購入後に顧客が再購入をしたり、誰かにおすすめしたりといったところまでを考慮する必要があります。
企業側の都合で目先の経営目標を達成するための発想では、「こうなってほしい、こうであるべき」という押し付けが強まり、「購入させたら終わり」の施策になってしまうため、ユーザーのストーリーを長期的な目線で捉えて設計することが重要です。
MA・CRMを導入する際の注意点
「MAやCRMを導入したのはいいけど使いこなせていない」「効果が出ていない」、多くの企業担当者さまからそんなご相談をいただきます。
MAの場合、マーケティングオートメーションという名前のイメージもあり「入れるだけでマーケの仕事が楽になるんでしょ」と、安易に導入されるケースがありますが、そういった場合はだいたい失敗してしまいます。
例えば、「DXを進めよう!」と、経営者の一声で有名なMAツールを導入し、数ヶ月経ってから使っているのは若手のセールスだけ。MAツールを自分たちで使わずに入力を業務委託し、当然社内の工数は削減できたものの、効果は出ておらず、外注費を消費している。これらが典型的な失敗事例です。
MAツールを活用する本来の目的は「自分たちが楽になる」ためではなく、「顧客と1to1で向き合う」ためです。ユーザーの数が多くなるほど、一人ひとりへの最適なアプローチを人海戦術でおこなうのはかなり大変ですよね。
前述した3ステップを踏んで正しくMAツールを使えば、ユーザーの属性に応じてどのタイミングで何を訴求するのかを定義し、その都度最適な施策を自動的におこなうことができるのです。そして、その結果として、マーケティングの効率が上がると考えると良いでしょう。
CRMの場合は、セールスだけでなく、ロジスティックスや財務といった他部署が連携して活用するケースが多いため、導入の際は社内全体で運用方法を確認・共有しておくことが重要大切です。
CRMの導入とともに社内の業務フローを見直し、関連部署がしっかりと情報を入力してそれを活用することで、業務の最適化が実現できます。
さいごに
DX化が進んでいますが、システムを導入するだけであらゆる課題が解決するわけではありません。なかでも今回紹介したMAやCRMは使いこなせていない企業が多い印象です。
なぜ導入するのか、目的を明確にしたうえで慎重にツールを選び、運用を設計していきましょう。
「MAやCRMを有効に活用したい・マーケティング観点で市場シェアや競争率の確立を戦略的におこなっていきたい」といったお悩みがある方は、ぜひLIGにご相談ください。
サービスコンセプトに沿ってチャネルの整理から、ペルソナ・ジャーニーマップの設計・訴求チャネルの整理・施策の効果検証まで、多面的に1to1のアプローチの再構築をお手伝いさせていただきます。