Strategy&Consulting 部長の前島です。
私は前職のアクセンチュア時代から10年以上にわたり、コンサルタントとして企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援しています。
2022年に発表されたガートナージャパン社の調査結果において、「DXの取り組み」としてもっとも多く挙げられたのは「既存ビジネスにおけるコスト削減やオペレーションの効率化(74%)」でした。
Gartner、日本企業のデジタル・トランスフォーメーションにおけるソーシング動向に関する調査結果を発表
この結果から、世の中一般的に「DX=コストカット」「DX=効率化」だと認識されていることがうかがえます。
たしかにデジタルを活用すれば、アナログなオペレーションが効率化され、コストが下がります。しかしこれらはただのデジタル化(デジタライゼーション)に過ぎません。
本来のDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、文字どおり従来のビジネスモデルをデジタルによって “変革” することです。
なぜDX=コストカットと誤解されるのか
DX(デジタルトランスフォーメーション)とデジタル化(デジタライゼーション)の最たる違いは、ビジネスのどこに着目するのか、すなわち “着眼点” にあります。
DXは、その企業のコア・コンピタンスに着目し、ビジネスモデルを変革します。コア・コンピタンスとは、競合他社にはマネできない企業の核となる強みのこと。企業の存続価値そのものと言っても過言ではありません。一方、その企業のコンテキスト(商品サービス)に着目してしまうと、ただのデジタル化に留まってしまいます。
いったいなぜ、コア・コンピタンスではなくコンテキスト(商品サービス)に着目してしまう企業が多いのでしょうか。
たとえば、急にあなたが経営者から「DXを推進してください」と指示されたとします。事業部門の方であれば、その事業部が提供している商品サービスに着目して、売上利益を伸ばそうとするでしょう。コーポレート部門の方であれば、管理業務のオペレーションに着目して、ムダを省き効率化を目指そうとするでしょう。
このように、DXとは本来なにかを定義することなく推進を現場に丸投げすれば、目の前の商品サービス、目の前の業務に着目してしまうのは当然のことです。つまりDXが正しく推進されていないのは、経営者自身がDXの本質を理解せず、着眼点を見誤り、そして自ら率先していないからだと言えます。
DXで生き残った企業の具体例
DXを正しく推進できている企業とそうでない企業の間には、近年ますます大きな差が生まれてきています。とくにコロナ禍において業績の明暗がハッキリ分かれてきている店舗ビジネスの具体例をいくつか紹介しましょう。
フィットネス
店舗に足を運んでなんぼのフィットネス業界においては、顧客接点をデジタル化できないことで多くの企業が苦境に立たされました。みなさんもご存じであろうアメリカの「ゴールドジム」も経営破綻しています。
しかし、同業界でも成功した会社はあります。アメリカの「ペロトン」は、ランニングマシーンをサブスクで貸し出し、コロナ禍でも急成長を遂げました。マシーン上のモニターで数千のフィットネス講座が配信され、ユーザーは自分が受けたいものを自由に受講できるのです。
このように、デジタルを活用しながら顧客接点を変革できている会社は生き残っていますし、変革できなかった会社は売上が低迷し、倒産に至っています。
小売
アパレルや家具といった小売業界では、コロナ禍においてEC化が急速に進みました。小さな街の古着屋さんであっても急ぎネットショップを立ち上げ、オンラインで商品を購入できるよう仕組みを整えたことでしょう。
しかし2022年現在、顧客は少しずつ確実にリアル店舗に戻ってきています。EC全体に “陰り” が出はじめているのです。
そんな状況下でも、「しまむら」や「ニトリ」は会社全体の売上を伸ばしています。これらの企業は「BOPIS (Buy Online, Pick-up In-Store)」という仕組みを取り入れていました。BOPISとは、ネットで商品を注文して店舗で受け取る仕組みのこと。顧客は好きな時間に送料無料で商品を受け取れますし、企業にとっても店舗内で「ついで買い」を誘発できるという利点があります。
このように、「顧客接点をデジタル化しよう」と安易にEC化するのではなく、自社のコア・コンピタンスを見失わずに適切な一手を打った企業が生き残っています。
これからは顧客理解・顧客提案の時代
今後は、顧客接点をデジタル化することで得られたデータをもとに、より深く顧客を理解すること、さらにはそのデータを活用して顧客が欲しい商品サービスを推察し、オンライン上やリアル店舗上でレコメンドしていくことが強く求められていくでしょう。
イメージとしては、スーパーに足を運ぶと「この間ネットでお刺身を注文してましたよね。今日は新鮮な魚を入荷していますが、おひとついかがですか?」とデジタルサイネージに表示されるような、そんな世界です。日本だと個人情報保護規制等の兼ね合いからまだここまで進化していませんが、中国ではどんどんこういった店舗が生まれています。今後、全世界的にオンラインとオフラインの融合(OMO)は増えていくはずです。
逆に、顧客理解や顧客提案を伴わない、“顧客接点をただデジタル化しただけのビジネス” は、これからかなり苦戦を強いられるでしょう。
最後に
コロナ禍・ECの普及により、顧客接点のデジタル化は一気に加速しました。しかしその先にある顧客理解・顧客提案は、これから着手する企業が多いはずです。もし進め方にとまどう場合は、弊社LIGへぜひともご相談ください。
我々は、AIベンダーと協業し顧客データのプロファイル化をお手伝いします。また、そのデータをもとに「どういう情報を提案すべきか」「具体的にどのような施策に落とし込むか」をコンサルタントが支援します。
コストカットや効率化ではない本来のDXを実現し、顧客に選ばれる企業を目指したいという企業様は、ぜひ気軽にお問い合わせください。