ご当地キャラなのに町をPRしない?フォロワー総数36万・しんじょう君のファンマーケティングに迫る

ご当地キャラなのに町をPRしない?フォロワー総数36万・しんじょう君のファンマーケティングに迫る

Hiroaki Inoue

Hiroaki Inoue

こんにちは、エディターのあっきーです。

オウンドメディアの運営目的として代表的なものといえば「自社のファン作り」が挙げられます。しかしながら言うは易し、行うは難しでして。様々な企画や施策を実践するも、いまひとつ効果が出ない……と悩む担当者の方も少なくはないでしょう。

そこで、今回は世の中でヒットしているコンテンツの裏側を聞き、ファン作りのアイデアやナレッジを教えてもらうため、とある人物にインタビューしました。

しんじょう君イメージ

その人物がこちら。高知県須崎市のご当地キャラ・しんじょう君

株式会社パンクチュアル守時健さん

……を一躍全国に広めた立役者、株式会社パンクチュアル代表取締役社長、そして元超公務員の守時 健さんです。

しんじょう君とは?

しんじょう君は2013年に誕生した、高知県須崎市のご当地キャラです。「ブログがやりすぎ」「イベントでの姿が無気力すぎる」など話題を集め、他のご当地キャラとは異なる独自の路線で全国にファンを増やしていきました。

2016年には「ゆるキャラ®グランプリ」で総合ランキング1位を獲得。2022年9月末時点でのTwitter、インスタ、Tiktok、YouTubeのフォロワー総数は約36万人と、全国屈指の人気を誇るご当地キャラクターです。

さらに、2019年には突如eスポーツ界に参戦。デビュー会見では須崎市長に忖度なしで圧勝し、その後は芸能界屈指のゲーマーである倉持由香さんなど、錚々たる実力派プレイヤーに勝利を収めています。

そんなしんじょう君の名を全国に広めた立役者となったのが、今回インタビューをさせていただいた守時 健さんです。大学卒業後、2012年に須崎市役所に入庁し、しんじょう君に関する事業をプロデュース。その後、須崎市のふるさと納税事業も担当し、納税額を200万円から20億円と約1000倍に増やした実績から、在職中は超公務員と呼ばれていました。

しんじょう君はどのようにして全国にファンを持つ人気者になっていったのでしょうか。守時さんのこれまでの経歴や、コンテンツ作りの秘訣も混じえながらお聞きしました。

須崎市との出会いは「酔っぱらいのステージ乱入」

守時 健さん

あっきー:本日はよろしくお願いします! 守時さんは高知出身じゃないにもかかわらず、大学卒業後から須崎市で暮らしているんですよね。なぜ須崎に住もうと思ったのですか?

守時さん(以下、守時):大学生のときに、旅行で須崎市の「新子まつり」を訪れたのがきっかけでしたね。

※新子まつり……須崎市の名物である魚「新子」(しんこ)をふるまう一大イベント。年に1回、8月〜9月頃しか食べられない須崎市民のソウルフード。めちゃうま。

守時:そのときに会場のステージでカラオケ大会をやっていたのですが、酔っ払ってステージに乱入して、警備員に連れ去られているおばちゃんがいたんです

あっきー:ほうほう。

守時:それで「須崎って面白そうなところだなー」と思って、この町で暮らそうと決めました。

あっきー:理由、特殊過ぎません?

守時:いやいや! いい意味でこんなに面白い人がいるなら、楽しかった大学時代の延長線上の感覚で暮らしていけそうだと思ったんです。ずっと田舎暮らし自体にも興味がありましたし。それで公務員試験を受けて、須崎市役所で勤務することになったんです。

あっきー:市役所入庁後はどのような仕事をしていたんですか?

守時:2012年に入庁して、最初は観光関連の部署に配属されました。イベントのPRなどを担当していましたが、当時の須崎市はメディアに取り上げられることもあまりなくて、情報発信が得意とはいえず……。仕事を始めて2日目くらいで「これはまずい」と思ってましたね(笑)。

あっきー:「なにか行動を起こさねば!」と。

守時:そこで目をつけたのがSNSやブログを使った情報発信でした。当時、僕個人のTwitterのフォロワーが1万人以上いたり、mixiで書いていた日記を周囲に面白いと言ってもらえることが多かったので、得意な分野を生かしてなにかできないかと思って。

そこで、ご当地キャラに地域の情報発信をしてもらおうと考えたんです。すでにご当地キャラブームは落ち着いていた時期でしたが、入庁後3ヶ月目くらいの頃に提案し、やらせてもらえることになりました。

町のPRは後回し。キャラクター自身を好きになってもらうことからスタート

守時 健さん

あっきー:ブームが落ち着いたタイミングでご当地キャラを提案されたのはなぜですか?

守時:ご当地キャラには人間にはない情報発信力があると前々から感じていたんです。SNSやブログとキャラクターをかけ合わせたアプローチで町の魅力を発信すれば、面白いことができそうだなって。

あっきー:この頃は色々なご当地キャラが登場していましたよね。

守時:2012年頃って、世間的にはご当地キャラブームの雰囲気がありましたが、実は「ご当地キャラそのもの」はブームではなかったんですよ。

ご当地キャラって、限られたごく一部のキャラに人気が集中していたんです。当時は新しいキャラというだけでメディアに取り上げられることもありましたが、少し経つとすぐに飽きられてしまう。ブームに頼るのではなく、キャラ自体のファンを増やさないと生き残れないんですよね

あっきー:この話はブランディングにも通じますね。しんじょう君といえば、おもしろ系の企画からファンを作っていったイメージがありますが、当初からその路線でやっていくことは決めていたのでしょうか?

守時:そうですね。そもそも、ご当地キャラが地元の特産品を持って「あれ買って、これ買って」とやたらPRするのって無意味だと僕は思っていて。だって、そんなことを言われたところで誰もその町に興味がないじゃないですか(笑)。

だからこそ、まずはキャラ自身を好きになってもらうことから始めたんです。そのつながりで須崎市のことを知ってもらえると嬉しいなと。しんじょう君の役割は地域振興ですが、最初は須崎市のことはほとんどPRせずに、とにかくおもしろおかしく読んでもらえるブログやSNSの発信方法を心がけていました。

ネタにするのは他人ではなく自分

砂浜に埋められたしんじょう君 砂浜に埋められたご当地キャラはおそらく全国のなかでしんじょう君だけでは(しんじょう君オフィシャルウェブサイトより引用)

あっきー:おもしろ系の記事は過激な表現から炎上するリスクも否めませんが、その点で気をつけていたことはありますか?

守時:政治や宗教に関わる話題を絶対にネタにしないこと、誰かを傷つけるような記事を作らないことです。ネタにして落とすなら、しんじょう君か須崎市のことだけにしようって決めています。

あっきー:町を自虐に使うって、ご当地キャラとして斬新ですね(笑)。

守時:実在する人物がやると炎上しそうなことも、キャラクターだとマイルドなテイストに仕上げられるというのもメリットとしてあるかもしれないですね。

あっきー:しんじょう君のブログで特に気に入っている記事はありますか?

守時:う〜ん、選ぶのが難しい(笑)。しんじょう君の、夏休み。の記事はかなり手間をかけたので印象に残っています。某有名アニメのパロディ記事なのですが、すべての記事でちょっとずつ小道具やポーズ、写真の構図を変えているんです。

しんじょう君の夏休み記事の抜粋

あっきー:本当だ! これは裏側を考えるとぞっとするほどの手間がかかりますね……

守時:当時はサブスクもなかったので、元ネタのアニメを見返すためにGEOまで走ったのも思い出です(笑)。

バズるコンテンツと、ファンにウケるコンテンツは違う

あっきー:しんじょう君といえばSNSでよくバズっている印象があります。コンテンツ作りで意識していることってありますか?

守時:実はバズるコンテンツと、ファンにウケるコンテンツは明らかに性質が違っていて、それを使い分けながら投稿しています。

バズるコンテンツには浅く広く、どんな人にでも受け入れられるわかりやすさや目新しさがあります。逆にファンにウケるコンテンツは、一般の人にはわかりにくい狭く深いものが反応がいいんですよ。

▲バズったコンテンツの例。中四国に住んでいる人が共感できる内容となっている
 

▲ファン向けコンテンツの例。こちらは高知県に住んでいる(または住んでいた)人のみが共感できる内容

守時:バズったコンテンツがファンにウケるとは限らないんですが、ファン向けの内容のコンテンツがバズることもあまりないんですよね。そのバランスを取るのが重要なのですが、今のしんじょう君のTwitter投稿の場合だと、99%ファンに向けたものを意識しています。

あっきー:しんじょう君の場合は土台となるファン層をしっかり獲得できているからこそ、数値にも表れているんですね。ですが、スタート段階でのファン作りは苦労されたのでは?

守時:正直、最初のほうはご当地キャラにファンがいるということ自体思いもしなかったんですよ。ですが、香川で行われたイベントに参加したとき、「うどん脳」というご当地キャラに会うためにわざわざ東京から来た人がいたんです。

香川県のご当地キャラ・うどん脳(写真左)としんじょう君 香川県のご当地キャラ・うどん脳(写真左)としんじょう君

あっきー:東京から香川まで!

守時:衝撃的でした(笑)。「ご当地キャラにそんなファンがいるんだ!」って。そのあたりから、ファンになってもらうためにどうすればいいかをかなり意識するようになりましたね。

ファン作りはリアルとネットの掛け合わせが重要

あっきー:具体的にはどんなことが重要なんでしょうか?

守時:リアルとネットのかけ合わせですね。ファンビジネスって、ネット上で完結するのは難しいんです。ミュージシャンを例にすると、ライブに行かずネットで曲を聴いたり、動画でライブ映像を見ているだけの人をファンといえますでしょうか。

あっきー:もしかしたら「にわか」と思われてしまうかもですね。経営側の視点だと、サブスクの再生料金だけじゃなくて、ライブのチケット代やグッズ代も重要な収益になるでしょうし。

守時:キャラクターの場合だと、Twitterのフォロワーは多いけど、リアルのイベントに参加したら全然集客ができないというパターンもありがちなんですよ。なので、ネットでキャラに興味を持ってくれた方たちが、どうすればリアルの場に行きたくなるかを考えるのが大切なんです。

あっきー:ネットとリアルのファン作りで、すぐに真似できる方法みたいなのはありますか?

守時:ネットのコミュニケーションだと、SNSでもらったコメントには全リプするとか、「しんじょう君」に関する投稿にいいねを押すとか、地道ですが重要です。リアルの場での交流は、僕の場合は結構特殊なのであまり参考になるかどうか……

あっきー:特殊?

守時:ご当地キャラがイベントに参加するときは「アテンド」と呼ばれる担当職員が常に隣にいるんですが、僕はその役割でした。最初に参加したイベントで須崎市出身の方に話しかけられて、「あなた、もっと須崎のことを積極的にPRしてよ!」と怒られてしまって。僕はそんなに熱いキャラでもないので、正直「そんなこと言われても……」と思ってしまったんですよね(笑)。

で、次のイベントから一般の参加者に紛れ込めるよう、私服で参加するようになったんです。

イベントに参加したしんじょう君と守時さん

あっきー:すごく私服だ。

守時:普通、アテンドは自治体のハッピやキャラのグッズを身につけているんですよ。完全に私服のやつって僕しかいなかったので、「しんじょう君の隣にいる、やる気のないお兄さんがおもしろい」みたいな噂が広がって(笑)。でもありがたいことに、そのおかげでイベントのときにしんじょう君だけじゃなくて僕に会いに来てくれる人も増えたんですよね。

あっきー:集客のシナジーがすごい……!

今後は「世界と戦える地域創り」に注力

あっきー:そんな守時さんですが2020年に市役所を退職し、株式会社パンクチュアルを起ち上げたんですよね。

守時:はい。「世界と戦える地域創り」をミッションに掲げていて、しんじょう君関連の事業や自治体のECサイト運営支援、ふるさと納税事業の支援をしています。

あっきー:世界と戦える?

守時:いまは東京一極集中の時代でよくないと言われていますが、個人的には全部が全部悪だとは思っていません。ただ、地方から都会に人口が流出すると、地方の過疎化は進む一方です。地方の人口が減ると、ゆくゆくは都会の人口も当然減る。このままだと日本全体が疲弊しきっちゃうんですよね。

あっきー:ふむふむ。

守時:都会が元気であるためには、地域が元気である必要があります。だから地域にいながら世界と戦える町を創っていきたいなと。田舎にいても都会より面白いことができる、田舎にいても都会より高い給料がもらえる。そんな地域を実現したいと思っています。

▲コロナ渦で迎えたパンクチュアルの一年目。飲食店が休業に追い込まれ、行き場を失った20万匹の養殖カンパチを「須崎勘八」とブランド化し、ECサイトに出品。1億2000万の売上を達成した

守時:僕らのやっていることは、実はDX推進でもあるんです。地域で素晴らしい特産物をつくっている農家さんや事業者さんのなかには、ECサイトはもちろん、FAXの使い方もわからないという人たちも実は少なくありません。

以前知り合った農家さんに「ちょっとパソコン使ってみません?」とお願いしてみると、「じゃあ孫に聞きながらやってみるね」と言ってくれて。数年したらECサイトを運営するくらいまで使いこなしていましたよ。

あっきー:自治体だけじゃなくて、事業者の方たちもがっつり支援しているんですね!

守時:地域の人たちも巻き込んで成長していくのが不可欠ですからね。うちでは依頼をいただいた町に営業所をつくって、スタッフが常駐するようにしています。いまは香川と静岡に営業所がありますよ。

あっきー:これまで培ったノウハウを全国に広めているんですね。今日は色々とお話を聞かせていただきありがとうございました。最後に、なにかPRしたいことがあればどうぞ!

守時:2023年にしんじょう君は生誕10周年を迎えます。まだ考案中ですが、10周年を記念していろいろ企画をやりたいなと思っています。あと、扶桑社より『日本一バズる公務員』という書籍を上梓しましたのでぜひ読んでみてください!

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今回守時さんからお聞きした話は、キャラクタービジネスだけでなく、あらゆるブランドのマーケティングに応用できる要素が詰まっていました。UGC(ユーザー自らが制作したコンテンツ。インスタの投稿などがあたる)がマーケティングにおいて重要といわれる昨今、ファン作りはブランディングの最重要課題といっても過言ではありません。

最後に、今回の記事のポイントをまとめて終わりたいと思います。守時さん、ありがとうございました!

まとめ
  • 最初から売ろうとしない。まずはブランド自体を好きになってもらうことから始める
  • ネタにするなら自身に関わることで! 誰かを傷つける笑いは無用
  • バズるコンテンツは浅く広い。万人ウケするわかりやすさや目新しさがある
  • ファンにウケるコンテンツは狭く深い。一般の人にはわかりにくいものこそが、ファンが喜ぶコンテンツとなる
  • 全リプ、積極的なリアクションなどSNSでの地道な努力も重要
  • 真のファン作りは「リアルとネットの掛け合わせ」がポイント

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Hiroaki Inoue
Hiroaki Inoue In-house Marketing / SEO Marketer / 井上 寛章

愛媛県の出版社で、地域情報誌の編集者として6年半勤務。グルメ、レジャーなどライフスタイルに関わる雑誌・WEBアプリの記事制作や、広告制作を行う。2020年にLIGへジョインし、クライアントのオウンドメディア運営支援を経験。その後、LIGブログのPR記事制作ディレクターとなる。

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