0.3パーセント。
この数字はベンチャー企業が創業した20年後の生存確率だそうです。今この瞬間せーので1,000社が起業したら20年後には997社が廃業している計算。なんと厳しいビジネスの世界。
今回はそんな環境を生き抜いて創業20周年を迎えた株式会社ジーピーオンラインの社長さんにインタビューをしてきました。ジーピーオンラインは、誰もが知っている大手企業のサイト制作事業やデジタル関連の開発事業を手がけており、多くの代理店からの信頼を得ている老舗のWeb制作会社です。
Web制作会社や広告代理店にお勤めの方だけでなく、コーポレートサイトの制作やリニューアルをご検討中の方にとっても非常に参考になるお話を聞かせていただきました。ぜひご一読ください。
ジーピーオンライン代表:豊永さん創業20年続くWeb制作会社の社長だが、できるなら一日中おふとんにくるまって何もせず死を迎えたいと思っており、「仕事は嫌い」だと明言している。Wantedlyでは自身が経営する会社を「アピール下手」と称し、酒場でアルコールの力を借りて本音を語る記事を連載中。 |
バックエンドエンジニア:づや(LIGの元取締役兼CTO)LIGの共同創業者として長きに渡ってLIGを支えてきたが、昨年末取締役を退任して平社員になった元CTO。高い技術力を持つスーパーエンジニアだが、「人と話すのが怖い」「長野に引きこもりたい」などネガティブな発言も多い。 |
ライター:観音クリエイション人が話しているのを聞くのが好き。口下手で人見知りな二人を取り持つための進行役として呼ばれた。 |
代理店のリピート率はほぼ100% ジーピーオンラインが選ばれる、盤石の制作体制
づや:今日はよろしくお願いします。早速ですが、ジーピーオンラインさんは仕事の案件ってどうやって獲得されてます?
豊永さん:新規開拓は公式サイトからのお問い合わせや紹介、イベントで名刺交換をしてその後のやりとりから、という流れが多いですね。テレアポをする根性がないんですよ。知らない人に電話かけるのがしんどくて。
づや:あー、めっちゃわかります。LIGはブログ経由で仕事の依頼をもらうことが多いんですけど、うちも創業当時から「テレアポなんか絶対やりたくない」という思いが結構強くて。なのでブログを書いて、知ってもらって、そこから仕事をいただく方向性の努力をしてきました。今こそ営業メンバーがテレアポする機会もありますが、ダルいですよね、テレアポ。
観音:え、テレアポなしで20年もやってけるもんなんですか?
豊永さん:うちは一度お仕事をさせていただいたらその後は長いお付き合いになる会社さんが多くて、そのおかげでやっていけてますね。広告代理店さんからのリピート率はほぼ100%というのは、うちの自慢のひとつです。
づや:代理店相手にその継続率はすごい。
観音:継続率の理由って他社と比べてめっちゃ安いから、とかですか?
豊永さん:価格も重要な要素のひとつではあるんですけど、それよりも品質の安定感にご好評をいただいているように思います。クリエイティブの高さを担保しつつ、事故を起こさない制作体制を作るために全力で努力してきたので、そこが評価されるのは嬉しいですね。
づや:その辺り、ジーピーオンラインさんでは具体的にはどんなことをやってます?
豊永さん:まずは組織としてクオリティコントロールをするための専門の部署を設けて、制作したプロダクトの技術度やプロジェクトの進行健全性などを客観的に評価できる体制を作っています。この部署のメンバーはマネージャー陣に加えて、社長の僕も入っています。
づや:社長直々に品質管理に入ってるんすね。制作体制の面で、何か取り入れてる仕組みとかはありますか?
豊永さん:やってよかったと思っていることのひとつに、「ある一定の規模や難易度の案件からは複数人のディレクターをアサインする」というのがありますね。スタッフの精神的な負担を軽減する目的で導入した仕組みなのですが、プロジェクトにゆとりが生まれたことで、結果的に安定したクオリティに繋がっていて。
観音:それって具体的にはどんな効果が出てるんですか?
豊永さん:一番大きいのは案件のデスマーチ化のリスクが潰せることですね。 また、ゆとりがある分、セキュリティ周りのテスティングにも徹底的に時間を投下できるようになったのも大きいです。最近だと某大手メーカーさんのサイトを制作させていただいたのですが、その際に受けた脆弱性診断テストでは100点満点中80点と、合格ラインの60点を大きく超える高得点を得られました。
づや:なるほど。その辺りの体制がしっかりしていると依頼するお客さんとしては安心して発注できますね。
豊永さん:あとよくお褒めいただくことが2つあって。まず1つ目が代理店やエンドクライアントでは気付きにくい、Web制作の進行をする上で不可欠な準備や必要なものをこちらから提示するようにしていること。2つ目は制作中に修正が入った際はその修正だけでなく、関連する修正箇所もチェックして報告を上げるようにしていること。この2つは弊社としては当たり前にやっていることなんですが、「かゆいところに手が届くホスピタリティ」と評価していただいています。
大規模なサイト制作もワンストップで ジーピーオンラインが誇る制作実績
づや:普段はどんな仕事を受けることが多いんですか?
豊永さん:キャンペーン系、ブランドサイト、あとはコーポレートサイトのリニューアルが多いですね。20年前の創業当時は「10ページで5万円」というような簡易的なサイト制作のお仕事がメインだったのですが、実績として残せる仕事に注力するようになって。今では技術力が高いメンバーも多数在籍してくれていますので、システム構築をしながらの大規模な制作といった案件にも対応可能になりました。
ジーピーオンラインの直近制作実績
Peach Aviation株式会社採用サイト。構成提案からライティング、撮影、CMS構築までワンストップで制作を手がけた。推しコンテンツである「Peach語録」では、エアラインでよく見られる掲示板の動き(反転フラップ式案内表示)をCSS3やJSを駆使して再現。
世界各国に拠点を持つ総合商社、丸紅株式会社のコーポレートサイトリニューアル案件。世界中からのアクセスを考慮し、回線速度の速い国や遅い国に合わせて表示を変更するなど、ユーザビリティを優先した処理をおこなっている。
HondaJet Japanブランドサイト。参考となる既存サイトがなかったため、入念なヒアリングと緻密なフィードバック収集による制作フローを確立。動線設計や動きのある演出など、細部までこだわり抜いた。
離職率108%だった7年前の転機。ブラック体質から脱却できたのは社員が腹を割って対話してくれたから
観音:ここからはちょっと聞きづらいことをあれこれ質問させてください。
豊永さん:聞きづらいこと。
観音:離職率とか、これまで会社を経営してきた中でのピンチとか、ぶっちゃけトーク的なやつとか。
豊永さん:いきなりヘビー過ぎません?(笑)
観音:そう言われると思って、強めのお酒を用意しておきました。豊永さんが連載されている『酒場で語る、社長の本音』に「大好きな酒を飲みながら話せばなんとかなるんじゃないか」とあったのですが、これでなんとかなりますか?
豊永さん:最高。飲みましょう。いただきます。何でも聞いてください。
観音:さて、20年も会社をやっていたら、経営の危機に遭遇することもあったかと思うのですが、これまでで一番のピンチってなんでしたか?
豊永さん:7年前、社員が一気に辞めてしまったときがあって。あのときはマジでしんどかったですね。当時はまだ30名に満たない組織で、現場のスタッフが毎月2〜3名のペースで去っていくんですよ。それに加えて、営業、ディレクター、制作部門のマネージャークラス3名が同時期に退職してしまって。会社としては大きなダメージでした。ちなみにそのときの東京オフィスの離職率が108%とかで。どんな経営したらそんなひどい数字になるんだって話ですよね。
づや:当時の離職の理由ってなんだったんですか?
豊永さん:一番は労働環境だったと思いますね。当時は日付を跨いだ深夜残業でクライアントにメールの返信をしたり、月曜コンペの案件を前週の金曜日の夜に請けて土日返上で対応したりと、ブラック企業と言われてもしょうがない会社でしたから。
づや:それはなかなか……。その問題にはどう対応されました?
豊永さん:徹底的にコミュニケーションを取りました。スタッフとしては過酷な仕事をしながら「なんのためにこんなしんどい思いをしているのか」と出口が見えない状態だったと思うんです。そこで毎週1対1のミーティングを設定して、社員全員と話して、経営陣の僕たちと現場がお互いに感じていることを汲み取れるように心がけました。
観音:サクッとおっしゃってますが、現場の社員とトップの社長のサシミーティングで本音って引き出せるもんですか? 立場の違いがありすぎて、上辺だけの会話で終わっちゃいそうな気が。
豊永さん:そこに関しては属人的になってしまうのですが、僕は普段から「こんなことあって落ち込んでさー」とか「あのプレゼンめっちゃ緊張したわ」とか、弱みを自分からさらけ出すタイプだからか、結構遠慮なくあれこれ言われやすいキャラでして。スタッフとの対話の中で「豊永さん気付くの遅いんですよ」「お前社長としてどうなんよ」などなど、割とズバッと意見を言ってもらえましたね。
観音:みんな思った以上に本音言ってる。
豊永さん:当時は社長としての自信がなくなっていた時期だったので、正直それなりに傷つきましたけどね。居酒屋で号泣した日もありましたし。ただ、僕個人としてもトップダウンで決めるよりはみんなと相談して決めたい性格なので、率直な意見をもらえるのはありがたかったです。先ほどお話しした弊社の「ある一定の規模や難易度の案件からは複数人のディレクターをアサインする」という制作体制も、当時の1対1のミーティングの中でスタッフが提案してくれたアイデアのひとつですね。
づや:サシミーティングが功を奏したと。
豊永さん:はい、そう思います。まあ今「昔のあのひどい状況から持ち直せてよかったよねー」って話題になると、スタッフからは「私たちが頑張っただけです」って言われちゃうんですけど(笑)。
仕事は正直やりたくないが、求めてもらえるなら全力で貢献したい
観音:豊永さんはWantedlyの記事で、「できるなら一日中おふとんにくるまり、何もせず死を迎えたい」「今も変わらず仕事は嫌い」とおっしゃっていましたが、あれって本心ですか? キャラ作りとかではなく?
豊永さん:めちゃくちゃ本心です。そもそも仕事なんて、やらなくて済むならやりたくないですよ。Wantedlyの記事で「少しずつでも挑戦していく精神を創業から大事にしている」とかいかにも社長が言いそうな、もっともらしいことを言ってますが、心の底では「挑戦なんかせずに目立つことなく世の中の片隅でひっそり生きてたい」と思ってます。僕、他人が怖くて、周りからの目をものすごく気にしてしまう性格なんですよ。大学の文化祭のときにバンドで出演して、演奏中に自意識過剰の緊張のあまりギターのシールドを踏んで抜いちゃって、音が鳴らなくなって頭パーンって真っ白になったときのミスを今でも引きずってるんです。もう僕みたいな人間は何か調子乗ってやっても成功することなんてないんです。人前に出たり見られたりするのってほんとに嫌なんですよ。
観音:豊永さん酔ってます?
豊永さん:まだ大丈夫です。ありがとうございます。
づや:でも人が怖いっていうの、わかります。僕は学生時代にバイトの応募の電話をかけるっていうのがずっとできなくて。「電話がつながってもちゃんと喋れないんじゃないか」「言葉が詰まって怒られるんじゃないか」「こんな電話1本すらまともにできないんだから社会に出ても俺はきっとだめだ」「誰かに迷惑かける前に30歳で死のう」ってずっと思ってました。実際、Googleカレンダーの30歳の誕生日にずっと「自殺する」っていう予定を入れてたんですよ。しかも会社のアカウントの、みんなが見える状態のところに。結局30歳の誕生日を迎えた後も自殺せず生きていて、同僚や取引先の人に会うたびに「お、まだ生きてるんですかw」とか「死ななかったんですねw」って茶化されて、それでなんかどうでもよくなって。そこから人が怖くなくなってきたんですけど。
観音:突然なんなんですかその謎エピソード。
豊永さん:づやさんの気持ち、わかります。
観音:なんでわかるの?
観音:てか豊永さんってそんなネガティブで人前に立つのが苦手な性格なのに、社長業やっててしんどくならないんですか?
豊永さん:今はさすがに慣れましたけど、最初はほんと「俺向いてないな」って思いながら仕事してましたよ。もともとそんな器じゃないから小っ恥ずかしくて、当時社員に向けて「社長に就任しました」っていう挨拶もできなかったですからね。
観音:さすがに人の目を気にしすぎでは?
づや:その気持ち、めっちゃわかります。
観音:だからなんでわかるの?
……これまでどういうモチベーションで社長やってこられたんですか? お話聞いてると、「俺向いてないな」の気持ちのまま退任してもおかしくないタイプの人ですよね?
豊永さん:これは綺麗事に聞こえるかもしれないんですけど、仕事してて嬉しく感じるときって、誰かに貢献できたときだと思ってて。誰かの役に立ちたい、貢献したいという想いが、今も社長をやれている原動力になっている気がしますね。ほんと、綺麗事ですが。
観音:普通に良いこと言ってるのに照れ隠しで自分の発言を「綺麗事」のオブラートで包みまくるあたり、豊永さんの人柄が出てますね。
豊永さん:恥ずかしいところを言語化しないでください。
創業から20年続いたジーピーオンラインのこれからについて
豊永さん:最後に僕から質問なんですが、LIGさんはこれから、どんな感じで事業を進めていく予定なんですか?
づや:LIGはデジタルクリエイティブの分野で広くやっていく方針ですね。これからは「ただサイトを作れる」ってだけだとマジで生き残れなくなるだろうなという危機感があって。がっつり上流から入って、お客さんの課題解決に深く関わっていきたいなと。ジーピーオンラインさんはその辺り、どうお考えですか?
豊永さん:うちもLIGさんと考えは似ています。ただのホームページ屋さんからは脱却して、デジタルの領域を幅広くカバーしていきたいなと思っています。
現在お取引させていただいているお客さんからも、その方面での動きを期待されているのを感じるので、しっかり応えていきたいですね。
Web周りや、現在新規事業で進めているデジタル系のツール開発ではお力になれると思っています。もしこの記事をご覧の方の中でお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。