事例から学ぶ、優れたキャッチコピー10選。最終回「情景が浮かぶコピー」

事例から学ぶ、優れたキャッチコピー10選。最終回「情景が浮かぶコピー」

John

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こんにちは、ジョンです。
おそらく、このシリーズは今回で最後になると思います。

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情景が浮かぶコピーとは?

見た瞬間、思わず脳内にシーンが浮かび上がってくるようなコピーです。
ですが、ただ単にシーンを描けば良いかというとそうではなく、広告主の「伝えたいこと・思わせたいこと」を表現できていることが大前提としてあります。また、これはなかなか解説が難しいのですが、ただの状況説明になっているだけでは、心動かされる表現にはなりにくいとぼくは思っています。

どういうことかは、実例を見ていただくのがいちばんですね。
さっそくご紹介していきましょう。

1. 青春18きっぷ

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いうまでもなく、受け手にきっぷを買って旅をしてもらうことが目的になるわけですが、こちらのコピーは思い出の地を巡ることで体験できるノスタルジーのことを言っています。

これが例えば「駅に着いたら、懐かしい気持ちになれた。 」だったらどうでしょうか。ぼくだったら、いまいち心が動かされないと思います。ぼくのなかの “ただの状況説明” とはこういうことで、「懐かしい気持ちになれた」はどこか押し付けがましく、心に届かない表現になってしまいがちです。一方でこちらのコピーは、情景が浮かぶだけ理解度が違います。つまり、コピーとしての深度が違うような気がするのです。

2. 村田葬儀社

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お葬式に参列された方であればなんとなくその場の情景が浮かぶと思うのですが、ぼくの場合、喪主をはじめとするご遺族の方が、参列者への対応でバタバタしているところが思い出されました。

この葬儀屋さんが言いたいこと(届けたいこと)は、おそらくこの会社がケアしてくれる範囲なのでしょう。こんなことを言ってくれるのだから、きっと私たちがお葬式当日に慌ただしくしないで済むのかな、と思わせてくれる力があります。

3. 日本郵政グループ

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こちらのコピーを見てパッと思い浮かべたのは、日本全体の画です。
あぁ確かに、ポストをつなげると日本のかたちになりそうだなぁと思わせてくれます。同時に感じるのは、郵便事業の意義深さや必要性です。「郵便事業は欠かせないものです」なんて言われるより、よっぽど届きますよね。

4. ホンダ ステップワゴン

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情景を浮かび上がらせるための手法として、セリフ調も有効です。
こちらのコピーは、ワゴン車のメインユーザーであるご両親の心を代弁してくれています。その中でも、とくにアクティブで、お出かけ好きの人たちに向けて書かれたものなのでしょう。(このクルマに乗って)こどもといっしょにどこいこうと言ってくれるステップワゴンへの好感度は、グッと高まったはずです。

5. 集英社文庫 ナツイチ

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これ好きだなぁ。これ、すごく好きなんです。たしかにそうなんですよね。ほんと、ただ言葉がならんでいるだけなのに、ぼくらは心動かされるわけです。言葉ってすごいなぁって、思ってしまうわけです。
ぼくはこちらのコピーを見たときに、(ものすごくベタですが)カフェの窓際の席でひとり小説らしきものを読む若い女性を思い浮かべました。ただひたすら文字を追って、眉間にシワを寄せたり、目に涙を浮かべたりする女性が脳内を支配してくるのです。

言いたいことは文庫本がもたらしてくれる喜怒哀楽だと思いますが、そこまで言い切らないのに伝わってしまう不思議。これも、情景が残してくれる余韻があるからこそ成立する表現なのかな、と思ってしまいます。

6. 奈良新聞社 創刊60周年記念啓発広告キャンペーン「敬老の日」

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こちらはもう、完全にぼく自身の記憶の断片と一致しました。その昔、祖父母の家に遊びに行き、クルマに乗って帰るときにぼくは後部座席から手を振っていましたが、米つぶほどの大きさになっても祖父母は手を振ってくれていました。

普段、なかなか思い出すことのない人たちですが、こちらのコピーをきっかけにすごく会いたくなって、その週末にはお墓参りに行ったほど心を動かされました。今でもお墓に行くたびにこの言葉を思い出します。大好きなコピーです。

7. レッドバロン

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ぼくはバイクに乗らないのですが、そんなぼくですらバイク好きの人の気持ちが痛いほどわかる表現になっています。
たしか採用活動で展開されていたコピーだったと記憶していますが、バイク好きなら一度は体験したことがあるだろう思い出を引っ張り出して、「わかる!!」とおもわず膝を打つ人が、レッドバロンで働く上での条件のひとつだったのでしょう。

急に私事の話になりますが、かつて三国無双にハマっていたときは、「もう一回、黄忠のレベル上げてから、寝よ。」とよく思ったものです。

8. JT Roots “それでも、前を向く。” シリーズ

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日々、仕事に奮闘するビジネスパーソンの哀愁をシリーズ化した、大好きなコピーです。「それでも、前を向く。」という締めのコピーは共通して掲げられているので、次の仕事へ向かう前の癒やしのひとときを与えてくれる缶コーヒーとしての役割は、大前提として押さえられています。

こちらのコピーのほかにも、

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それでも、前を向く。

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それでも、前を向く。

roots3

それでも、前を向く。

roots4

それでも、前を向く。

roots5

それでも、前を向く。

など、秀逸な情景が次々に展開されていきます。「次はどんなコピーなのかな?」と楽しみになるような時間を与えてくれました。もうそれだけで、「Roots」という商品の好感度はじゅうぶんに上がっているわけですね。

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John ディレクター/コピーライター / 西山 ジョン

「いい加減ブラウザをひとつに統一しませんか?協会」で理事を務めています。 個人的な夢は吉井和哉に会うことです。

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