テクノロジー部の菊池です。
LIGのテクノロジー部ではクロスファンクションという勉強会活動をしており、そのうち僕はブロックチェーン(Web3.0)のチームリードをしています。
チームに所属している4人のメンバーはもともとWeb2.0エンジニアということもあり、ブロックチェーンを学ぶにあたり、かなり抵抗感を感じながら勉強していました。
しかし現在ではNFTなどのWeb3.0案件の要件定義を詰められるまでに成長しました。
先日クロスファンクションの活動で、振り返りとしてどのようにすればWeb3.0やブロックチェーンエンジニアになれるかというディスカッションをしました。今回の記事では、Web2.0エンジニアがブロックチェーン(Web3.0)を学ぶべき理由について、考えたいと思います。
目次
なぜWeb3.0が取り扱われるのか?
メンバーも私も、「そもそもわざわざブロックチェーンを使う意味がわからない。2.0のままでもいいのではないか」と感じていました。Web2.0に慣れ親しんでいるエンジニアの方は、そう思う方も多いのではないでしょうか。
正直なところ、Web2.0でも特定のクローズドなサービス内に閉じられた空間であれば、Web3.0っぽくサービスを見せることはできちゃいます。
例えば仮想通貨のやりとりやトランザクション履歴は、DBのトランザクションに保存してしまうなど、技術者の皆さんであれば、色々と想像を掻き立てることはできるかと思います。でも、それを言ってしまうとそこで思考が停止してしまい、永遠にブロックチェーンエンジニアになることは不可能です。
また逆に技術選定をする際にWeb2.0のアーキテクチャのままで良いにもかかわらず、Web3.0のアーキテクチャを選定してしまうなどのミスをしてしまう可能性も十分にありえます。そうならないようにするためにも、まずなぜ、何のためにWeb3.0が取り扱われるかについて学ぶことに尽きるかと考えます。
結果的には、それが今までのWeb2.0の考え方の癖が取り払われて、新しい知見を身につけ、Web2.0と3.0とで適切な技術選定につながってくると考えます。
折角ではあるので、活用事例について色々と語っていきたいと思います。
NFT
NFTについては最近話題になっていて、プロ野球選手のサインまでがNFT化されているという事態です。ただこれって意味があるのと感じてしまう人も、まだ多々いるのではないでしょうか。正直なところ、うちのクロスファンクションのメンバーですが、誰一人としてNFTを購入している人はいません(笑)。
これについては、購入することによって購入者が応援しているアーティストや選手のグッズを持っているということで承認欲求を満たしているということではないでしょうか。
さらに作成者や購入者の履歴を管理することで、もともとは誰がこれを作ったのか、購入金額がいくらでどのように売買されていったのかということも履歴として確認することができます。
またユーザー同士でNFTを売買することも可能としているのが、NFTマーケットプレイスです。最近だとロイヤリティということで作成者に対しても、売買金額の数%が支払われるとか。
この話を聞いてWeb2.0でもできるのでは? と感じる方もいると思った人もいるでしょう。おっしゃる意味は大変わかりますし、筆者自身は最初はそう思っていました(笑)。NFTの分野で、わざわざブロックチェーンを使う理由は以下の通りとなります。
1.世界中に価値を証明できる(サービスレス)
これが一番の理由ではないでしょうか。NFTは代替不可能な世界唯一のトークンと謳われています! ポイントは、世界というところです。つまり、保有しているデジタルアセットが世界に対して唯一の価値として証明できなければいけないのです。
例えば、ルーブル美術館に飾られているモナリザの絵は、レオナルドダヴィンチが作ったということが証明されているため、価値があります。特に美術のセンスがあるわけでない筆者が言うことになることは、大変恐縮ではあるのですが、日本の美大生にも複製品を作ってもらうことも可能ではあるかと思います。しかしながら、その作品はレオナルドダヴィンチが作った作品と同等の価値があるかというとまったくもってございません(美術関係者の皆さんごめんなさい)。
また、とあるWeb2.0のサービスでは高価なグッズとして認定されていたとしても、サービス外ではその価値を証明する術はないです。
もしデジタルアセットが世界中において共通の価値として認められたいということであれば、Web3.0を採用し、特定のサービス内だけで良いということであればWeb2.0のままで良いのではないでしょうか。このあたりがWeb2.0と3.0どちらを使うべきかという選定ポイントになるかなと考えます。
2.別のサービスでも売買可能
保有しているデジタルアセットの価値が世界中に証明されると何が実現可能になるかというと、あらゆるNFTマーケットプレイスで売買ができてしまうということになります。
つまりAというオークションサイトで購入したデジタルアセットも、Bというゲームアプリを通じて獲得したアイテムも、CというNFTマーケットプレイスでオークションに出せるということです。結果的にはこれによって、何かしらの形で取得したデジタルアセットのNFTを適当なオークションサイトへ売ることが実現できることになります。
夢があるとしたら、世界的に有名となる前のアーティストやスポーツ選手のグッズを取得することで、数年後には有名になった際には、NFTトークンの金額が数倍で売れる可能性があるということです。
具体の実現方法については後ほど解説ができればと思いますが、共通のIF(インターフェース)を使うことでボーダレス化が実現されてなおかつ所有権の移動と支払いが実現されます。売買のボーダレス化をおこないたいということであれば、Web3.0を使ってみましょう。
3.取引の公平性と透明性を担保
先ほど述べましたとおり、ルーブル美術館のモナリザの絵がなぜ価値があるかというと、これはレオナルドダヴィンチが描いたからということを公的に認められているためです。
このようにNFT化されたデジタルアセットも、公共機関によって証明が必要となります。ただそれがどこで管理される必要性があるんだとツッコミたくなりませんか? ご認識のとおり残念ながらデジタルアセットの証明をするための公共機関はないのです。
そこで代わりとして利用されるようになったのが、ブロックチェーン技術なのです。Ethereumなどブロックチェーン PF(プラットフォーム)はどこかの国や企業によって開発されて管理されているわけではありません。そして、デジタルアセットの作成者と所有権の移転履歴もすべて台帳として残りますし、改竄が困難となっております。所有権の移転のロジックもスマートコントラクトとして定義されており、プログラムコードもブロックチェーン上に公開されています。
このような公共性と透明性があるため、デジタルアセットの価値を保全する目的でブロックチェーン並びにNFT技術が使われているということになります。
4.取引がスピーディー
想像してほしいのが、不動産の登記です。わざわざ所有権を移転するだけで、どんだけ時間がかかるんだと突っ込みたくなりませんか(ちなみに筆者は以前は不動産会社に勤めており、登記移転の場に居合わせたことがあります)。
不動産を例にとると、所有権を移転するために、妥当性のチェックなど入力作業などをおこなうと予想しますが、とにかく時間がかかります。また手数料も多くかかったと記憶しております。
この問題に対処するべくすべての取引のロジックについては、スマートコントラクトによって実施されます。前述のとおり、スマートコントラクトのロジックは公開されております。手数料についてもGas代支払いのみとなります(サービス経由で移転する場合は別途手数料はかかります)。
このようにスピーディーな取引を実現するためにWeb3.0が採用される理由の一つです。
DAO
DAOとはDecentralized Autonomous Organizationの略で、日本語に訳すと分散型自律組織といいます。要は中央集権的な管理を持たない組織で、各自の同意形成にもとづいて組織やコミュニティの意思決定をしていくという組織形態です。一言でいえば、無政府主義によるアナーキーということです。
具体的にDAOによって今現在実施できているサービスについて語ると、最たる例としては組織内の意思決定に対する議決権行使です。
わかりやすい例で言えば、みなさんの住んでいるマンションで、ケーブルテレビを導入するか否かの議論をおこなうとします。その際に議決権行使とか良い例でしょうね。
これも最初は正直DAOもWeb2.0のアンケート機能でいいのではないか? と思っていた次第です。ではなぜDAOもブロックチェーン技術が必要なのか解説します。
1.取引の公平性と透明性が担保されている
これはNFTと同様の部分です。選挙で大事になることは、投票内容については改竄されない第三者に委ねることです。改竄という観点では、アンケートフォームを運用したとしても、運用する人が必要になってきてしまいます。もしアンケートフォームを使って集計者している人が被選挙人の息がかかっている人でしたら……結果は大変悲劇的な内容になるかと考えます。
DAOを使うとどうなるかというと、以下の通りとなります。
- 国や企業などに所属しないため、不正処理がおこなわれることはない
- スマートコントラクトのロジックによって一定の選挙処理(投票と集計)がおこなわれる
- 投票の履歴が台帳化されて確認することができる
1つ目については、ブロックチェーンと呼ばれるネットワーク技術を使うことによって、中央管理不要なネットワークに選挙処理やデータを委ねることになります。つまりこれは、NFTと同様に公的機関以上の第三者に選挙管理を委ねることを意味します。公的機関以上の第三者機関というのがブロックチェーンの最大の強みではないでしょうか。
2つ目について、バグがないことが前提にはなりますが、投票のロジック(スマートコントラクト)をオープンにします。スマートコントラクトを作るのは、紛れもなく人間です。スマートコントラクトを公開することで、その人が不正なバックドア的なロジックを仕込んでいないか検証することが可能です。Web2.0ですとプログラムロジックがすべて隠秘されているので、不正しようと思えばできてしまいます。
3つ目については、ブロックチェーン技術によっていつ誰が投票結果したかについて台帳化することができるようになります。これらの台帳はブロックチェーン技術によって改竄自体が難しいので、選挙結果の改竄も不可能でしょう。これによって、選挙結果が視覚化されて公平性と透明性が担保されていると言えるのではないでしょうか。
2.意思決定がスピーディー
日本の国政選挙結果がなぜ翌朝にならないとわからないかというと、投票について検証している作業があるからだと考えます(記載内容の精査など)。
しかしながら前述のとおり、選挙のロジックについてはスマートコントラクトによってプログラム化されており、公開もされている状況です。また改竄もされづらく、トランザクション履歴についてもクリアになっております。
つまり、プログラムによって集計が可能な状態となり、ありとあらゆる意思決定の速度を速めることになります。Web2.0の世界では、透明性や公平性が担保されておらず、このようなことは不可能な状況です。
また意思決定が早くなることで、より市民などがコミュニティに参加する意欲が、結果醸成されるのではないかと予想します。
DeFi
DeFiとはDecentralized Financeの略で、日本語で分散型金融といいます。要は銀行などの金融機関を介さないで、お金の貸し借りなどをおこなうことですね。
わかりやすい例で言えば、当事者間によるお金の貸し借りです。お金の貸し借りやら取引を当事者間でやって良いのだろうかと感じられた方もいると思いますが、なぜ金融までブロックチェーンを使うメリットがあるかについてもお話ししたいと思います。
1.手数料が安い
最近はGas代が高いという問題に直面しておりますが、これからはよりPoS(Proof of Stake)によって安くなる可能性は十分秘めているので、その前提でお話ししたいと思います。
例えばAさんからBさんへお金を送金するとなると、中央である銀行を介する必要性があります。そして、その銀行が手数料という形で徴収されるケースがあります。日本国内並びに同一銀行内であれば、手数料が100円程度か無料となりますが、例えば海外の方と取引するとなったら、どうなりますでしょうか?
筆者自身も経験がありますが、そこそこお金がかかっていた記憶があります。送金ルートがブラックボックス化されており、細かいルートまでは存じてはいないのですが、予想としては送金先の口座にお金が渡るまでに複数の金融機関やら関所的なところを通る必要性があり、結果手数料が高くなっていると思われます。
一方ブロックチェーン技術を使ってお金の送金をすると、このような関所的な部分がなくなり、直で当事者間でのお金の送金が可能となります。結果的には、基本はGas代だけの支払いになり、送金という観点では世界共通の手数料になるということになります。
2.決済ロジックについての透明性
NFTやDAOと同様に、決済については、スマートコントラクトで定義されたロジックにもとづいて、当事者間へのお金の送金や利支払いなどが実施されます。つまりこれによって、貸した側はお金を返されないなどのトラブルを防ぐことができます。
またスマートコントラクトは前述のとおり、ブロックチェーン上で公開かつ不正な改竄はされない形になっているため、闇金融的なことについては防ぐことが可能とです。
ブロックチェーン上でお金を預けることは、銀行と同等もしくはそれ以上の強力な信頼度と言えるのではないでしょうか。
コンソーシアム
今まで記載してきたサービスについては、誰でも参加が可能なパブリックネットワークと呼ばれるサービスです。ただ、サービスやシステムによっては、誰でも参加させたくない場合もしくは必要もないケースもあるかと思います。
そこで使うブロックチェーンをコンソーシアム型のブロックチェーンといいます。
コンソーシアム型のブロックチェーンを使うことで、コンソーシアムネットワーク内に参加しているユーザー間のみで取引が可能となります。コンソーシアム型のネットワークに参加するためには、当ネットワークに参加している組織から認証並びに許可が必要となります。
コンソーシアム型のブロックチェーンによって、社内外や団体内外における各種情報管理が可能となり、以下のようなサービスを実現できるようになると考えております。
- 医療業界における患者の通院履歴管理
- 不動産業者による物件情報管理
- アライアンスパートナー同士における個人情報提携管理
すべてについて共通として言えるのが、会社内外における共通データを取り扱うというところではないでしょうか。同一社内のみであれば、今まで通りのWeb2.0型のSaaS型のアプリを使えば、事足りると思います。また会社間同士でデータを連携するとなった場合も、Web2.0のWebアプリケーションに各パートナーを招待することで事足りるのも事実です。
しかしながら、わざわざこれらをブロックチェーン化する目的は何かというと、一番の理由は、管理者が存在せず平等という考え方ではないでしょうか。平等管理というところがあるがゆえに、共同管理されているこれらの情報を自社用に自由利用ができるようになります(例えばデータをAIに学習させるなど)。そのような背景もあり、ブロックチェーンが使われているのではと考えます。
おまけ
おまけですが、Move to earnと呼ばれる動くだけでお金がもらえるという素敵なサービスもあります。具体的にはNFTスニーカーと呼ばれるものを購入して、歩いた分だけ仮想通貨が報酬が報酬としてもらえるシステムですね。
恐らくですがこれは、その靴の価値はどれだけ使われたかトレースできるようにするということを価値においているのでしょうかね。確かに普通の靴ではとうていできない代物ですから。
そういった普段何でもない消耗品まで、NFTによって価値化する可能性をWeb3.0の世界では含んでいると言えるのではないでしょうか。
さいごに
今回はWeb2.0エンジニアがWeb3.0・ブロックチェーンを学ぶべき理由についてお話ししました。
次回の記事では具体的に学ぶべきことについてお話ししますのでお楽しみに!
▼後編はこちら Web3.0においてエンジニアが身につけるべき技術とは?