こんにちは、コンサルタントの山根です。
今回のテーマは金融機関のサービスを変革する仕組みとして、大きな注目を集めている「BaaS(バース)」です。
少子高齢化やデジタル化の影響で、金融機関、特に地方銀行は変化の波にさらされています。追い討ちをかけたのが新型コロナの流行。これまで店舗を使っていた利用者がネットで手続きするようになり、店舗や人員を減らす銀行も出てきています。
帰路に立つ銀行が、生き残っていくための一つの方策と考えられているのがBaaSです。そこで今回はBaaSについて詳しくご紹介します。
目次
銀行以外が銀行になる?「BaaS」とは?
BaaS(バース)とは「Banking as a Service」の略で、金融機関が提供してきた「預金」「為替」「融資」といったサービスを、金融機関以外の事業者にAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を使って提供することです。
そもそも銀行業を行うためには、銀行業の免許が必要です。もちろん、免許は簡単に取れるものではありません。だから融資など銀行の本丸の業務は、いわば専売特許。免許なしにサービスを提供するのは違法です。
それを異業種でも、銀行業の免許がなくても、金融サービスの提供ができるようにしたのが「BaaS」なのです。
大まかな仕組みとしては、まず金融機関が自社のAPIを公開します。APIとは、企業間でお互いのソフトウェアを接続し、データのやりとりができるようにする仕組みのことです。契約事業者はそこに接続し、自社サービスに金融機能を組み込み、ユーザーに預金やローンなどのサービスを提供します。実際に融資の審査などを行うのは銀行なので、事業者はいわば銀行の“ふんどし”を借りている状態です。
たとえば中古車販売事業者が、金融サービスを組み込んだアプリを開発したとします。ユーザーはアプリを使って車を探し、購入。そのままアプリ内でローンを申し込みます。APIを提供している銀行がローンの審査を行い、ユーザーにローンを実行するといった形式です。
ユーザーにとってはアプリ内ですべての手続きが完結するので非常に便利です。購入の心理的ハードルも下がるでしょう。
なお提供するサービスにもよりますが、「銀行代理業」の取得が必要です。
BaaSが注目されている理由
BaaSが注目される背景は大きく分けて二つあると考えられます。
世界的なオープンバンキングの潮流
欧州を中心に、銀行がAPIを公開し事業者がアクセスできるようにする「オープンAPI」が広まっています。利用者からもスマートフォンなどでできるだけ手間を少なく、便利に金融サービスを使いたいというニーズが高く、今後もこの流れは続くでしょう。
日本でも2018年に銀行法が改正されてオープンAPIの実装が努力義務となり、すでに多くの銀行が対応。フィンテック企業などが銀行とAPI契約を行い、新たなサービスを展開しています。
銀行間の顧客の奪い合い
少子高齢化やネット銀行の台頭により、銀行間で顧客の奪い合いが熾烈になっています。特に地方銀行の環境は厳しく、再編や業務提携が進んでいます。
今や残高確認も送金もネットで簡単にできて、キャッシュレス決済も当たり前になりました。店舗やATMに行く必要がないなら、どの銀行でも同じと考える人は少なくない。そうなると手数料の安いネット銀行に利用者が流れるのは自然なことです。手数料勝負となると、体力のない中堅や地方銀行には不利といえます。
手数料以外の面で利用者の心を掴み、利用者を増やしていくためにはどうしたらいいのか。既存のサービスにとらわれず、銀行の新たな価値を創出する。その一手段として、BaaSが注目されているのです。
BaaSの活用メリット
ではBaaSを導入することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。銀行と事業者、それぞれの視点から考えてみましょう。
金融機関にとってのメリット
- 利用者が増える、接点が生まれる
- データが収集できる
- 収益源になる
金融機関にとっては、自社のAPIをサービスに組み込んでもらうことで金融サービスの利用者が増えます。収益アップにつながるのはもちろん、既存のサービス以外に新たに接点が生まれることで、ほかの金融サービスにも興味を持ってもらえるかもしれません。
また取引データが集められるというのも、大きなメリットです。近年、世界的にプライバシー保護の動きが強まっていて、ファーストパーティーデータの重要性が増しています。APIの提供で得た取引データを分析することで、サービスの改善や新サービスの創出につながると期待できます。データはビジネスチャンスの宝庫ですからね。
もちろん、APIの利用に関する手数料や契約料も大事な収益源です。
事業者にとってのメリット
- 開発不要
- サービスの利便性アップ
- ユーザーとの接点が増える
事業者にとっては、金融システムの開発なしに金融サービスが提供できるようになるという点は最大のメリットといえます。お金や個人情報などセンシティブな内容を扱う金融システムは特に堅牢なセキュリティが必須です。構築は簡単ではありません。BaaSであれば銀行が保有するシステムを使うことができるため、開発にかかる手間や時間、費用が省けます。
また自社サービスに金融機能が加わることで利便性がアップ。ユーザーの満足度が高まり、利用者増につながる可能性があるというのも大事なポイントです。他社サービスとの差別化もできます。
またユーザーとの接点が増えるのも見逃せない点です。たとえば旅行会社の場合、ユーザーは夏休みや年末年始などの旅行シーズン以外は、なかなかサービスサイトにアクセスしませんよね。でも金融サービスが組み込まれれば「残高確認のためにサイトを訪れて、ついでに旅行商品もチェックする」なんてこともあり得ます。
BaaSの事例
よく紹介される例ではありますが、国内のBaaSでは住信SBIネット銀行や新生銀行、ふくおかフィナンシャルグループ傘下のみんなの銀行などが有名です。
JAL NEOBANK
JAL NEOBANKのご案内|JAL Global WALLET
住信SBIネット銀行は「NEOBANK」というブランドで打出しをしていて、日本航空(JAL)とタッグを組み、外貨預金などができてマイルがたまる銀行サービス「JAL NEOBANK」や多通貨プリペイドカード「JAL Global WALLET」を開発しています。
T NEOBANK
さらに住信SBIネット銀行は、カルチュア・コンビニエンス・クラブのグループ会社Tマネーと「T NEOBANK」を開始。T会員向けに、アプリで口座開設や振込、ローンなどの機能を提供しており、サービスによってはTポイントも使えます。
BANKIT
新生銀行では「BANKIT」を展開。「カフェテリア方式」でウォレットやコード決済、送金、分割後払いなど、サービスパーツから必要なものだけをピックアップして取り込むことができます。
まとめ
BaaSは事例にあげたような銀行が先行していますが、まだまだ参入している銀行は多くありません。早めに取り組むことで知名度アップが期待できますが、実例が少ないために不安も大きいと思います。LIGはBaaSのご支援もおこなっておりますので、ぜひLIGにご相談ください。
LIGはオウンドメディアで培ったコンテンツ制作力、マーケティング力、Web開発の知識とスキルをフル活用してユーザーストーリーの設計やUX支援、プロジェクトマネジメントなど幅広くサポート可能です。実際にBaaSに関する支援実績もありますので、お気軽にお問い合わせください。