こんにちは、メディア事業部のハマです。
私は以前技術系の出版社で雑誌記者をやっていたことがあるのですが、当時から現在に至るまで、どうにも気が進まない作業の中の1つに「取材音声の文字起こし原稿を編集する」というものがあります。
特に取材やインタビューが上手くいかなかったときの文字起こし原稿は煩雑なものに感じられ、一体どうやれば1つの記事にまとめられるのか、と頭を抱えてしまったものです。
そんな中で生み出した“100点満点とは言えないまでも一定の品質を満たす記事”に仕上げるための応急措置として、私が今でもたまに活用している4つのステップについて本日は紹介していきたいと思います。
取材音声の文字起こし原稿を編集するための4つのステップ
STEP1. 最小限のトピック単位で分解する
まずは原稿データを印刷しましょう。別にPC上で作業をしても同じことかもしれませんが、話の内容がいまいち理解できない文字起こし原稿の場合、紙に印刷して赤ペンを入れていくほうが(個人的に)思考がスッキリする気がします。
原稿の束を出力したら、ひたすら上から読んでいきます。そして、最小限のトピック単位ごとに赤枠などで囲み、分解していきましょう。
STEP2. 共通項を見つけてグループ化する
さきほど分解した単位ごとにハサミを入れ、紙片にして(付せんに書き出してもOK)、全てを貼り出していきましょう。オフィスにホワイトボードがあればそちらに、なければ窓や壁、デスクなどに貼り出してください。
貼り出しが終わったら、紙片同士の共通項を見つけ出し、それぞれをグループとしてまとめていきます。
今回は例として、文字起こし原稿の内容が「恋愛スペシャリスト」へのインタビューで、紙片は以下のようにグループ分けすることができたという設定にします。
グループA:共通項「多くの恋を楽しむべし」
- 紙片たちの例
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- 10代のうちに最低でも5人の異性を見たほうがいい……
- 恋愛対象をグローバルな視点で幅広く探すことが大切……
- 同窓会では、当時の元カレではなく、正反対のタイプの男に注目すべき……
グループB:共通項「真実の恋と出会うべし」
- 紙片たちの例
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- 真実の恋かどうかは5年後に分かると思って、長い目で交際を続けるべき……
- 一人の異性だけを様々な角度から好きになれるというのは重要な能力の一つではある……
- 浮気や不倫はルール違反。恋愛という「ゲーム」が一気に面白くないものになる……
グループC:共通項「恋とは何なのか」
- 紙片たちの例
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- 恋愛というよりは「愛恋」。順番が違うんじゃないかなと、ぼくは思うわけです……
- 愛は「LOVE」。では「恋」を英語でなんというと思いますか……
- ラブじゃなくて「ラヴ」なんです。そのニュアンスの違いは意外と大きい……
グループD「その他(分類不能)」
- 紙片たちの例
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- 先日に出版した恋愛本のアイデアをどう考えたかについてですが……
- 驚かれるかもしれませんが、牛丼をよく恋人と食べにいきますね……
- 恋愛スペシャリストと呼ばれているくせに、実は恋愛体質じゃないんですよね……
STEP3. グループの対立軸を見つける
続いて、グループ同士の関係性を見ていきます。特に「対立(相反)する軸」があるかどうかに注目しましょう。
先ほどのグループ分けの例でいえば、グループA「多くの恋を楽しむべし」と、グループB「真実の恋と出会うべし」とが対立していると考えられます。なぜなら、「真実の恋とは、一人の相手を一途に愛しつづけること」と考えることができるからです。
このように、とある要素を重視すれば、もう一方の要素は疎かにされてしまうものです。
そういった相反する対立軸を、多少無理やりであっても、見つけ出していくようにしましょう。
STEP4. 対立を解消させるアイデアを考える
最後に、どうやったら対立軸を解消できるのかを考え、記事のまとめ部分を作り出していきましょう。
インタビュー対象者がその部分まで言及していれば問題はないのですが、そこまで突っ込んで質問することができていなかったり、明確な回答を得られていなかったりする場合もあるでしょう。
そんなときでも慌てることなく、対立する両グループの論理について打開策を模索してみましょう。
どうしても思い浮かばないというようなときは、以下のような理論で対立軸の解消策を引っ張りだしてみるのも1つの手段です。
「A(またはB)を貫けば、結果としてB(またはA)も得られるわけだし、それでいいじゃないか」理論
- 展開例
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- 多くの恋を楽しみつづけることこそが、真実の恋のカタチに気づく最短の近道ともいえるのかもしれないと、私は感じるのである
- たった1人の相手との恋を一途に貫き通すことこそが、多くの恋の楽しみを知るための最短の近道なのかもしれないと、私は感じるのである
「どちらかではなく、AもBも大切にしていけば、それでいいじゃないか」理論
- 展開例
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- 多数の異性を愛そうとする人間と、一人の異性を愛そうとする人間の双方がいるからこそ、恋愛は難しく、面白いのかもしれない。どちらが正しいかとか、間違っているとか、そんな話を恋愛に持ち出すこと自体が間違っていたような気もする。そんな風に私は感じるのである
「A(またはB)がどのような意味なのかを考えてみたら、そもそも対立なんて存在しないんじゃないか」理論
- 展開例
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- そもそも「真実の恋」とは、いったいどのようなものなのだろうか。そんなことを私は考えてみる。ついつい「一途な恋」というものを安易にイメージしてしまうが、もしかしたら恋というものの真実の姿はむしろその逆であり、移り気なものなのではないだろうか。
つまり、多くの恋を楽しむということと、真実の恋と出会うこととは同義なのかもしれない。そう彼は言いたかったのではないかと、私は感じるのである
- そもそも「真実の恋」とは、いったいどのようなものなのだろうか。そんなことを私は考えてみる。ついつい「一途な恋」というものを安易にイメージしてしまうが、もしかしたら恋というものの真実の姿はむしろその逆であり、移り気なものなのではないだろうか。
これで記事の主要論点(対立軸)と、それに対するまとめ部分が浮かびあがってきました。
あとは、他のグループの活かし方を検討するだけです。
たとえば、グループC「恋とは何なのか」については、相反するAとBの論点を述べる主要部に差し掛かる前段階の冒頭部として使えるかもしれません。
また、グループD「その他(分類不能)」については、記事の全体像が見えてきた時点で、改めて使えそうなものがないかを確認していくようにしましょう。
最後に
いかがでしたでしょうか。
「こんなに都合よく進むわけないじゃないか」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。まさにおっしゃる通りです。
しかし、この編集方法をあらかじめ意識しながら取材やインタビューに取り組んでみるのは有効な方法です。
私が雑誌記者をやっていたときは、毎週のように異なるカテゴリのマニアックな技術を文系出身者なのに担当していたため、いつも相当苦労していました。
そんな中で、どんな分野においても相反する要素(論点)が必ず存在する、ということに気づけた後は少し楽になったものです。
取材対象となる分野の周辺知識をしっかりと把握し、それに対する今後の展望や解決策、妥協策などをインタビューすることができれば、そのあとの編集作業がかなり軽減されるからです。
ただし、今回紹介したような方法はあくまでも応急措置に過ぎません。こんなやり方ばかりでは当然ながら記事はマンネリ化しますし、クオリティも低下してしまいます。使い過ぎにはどうぞご注意くださいませ。
それでは。
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