「マーケティングやりたい人」がマーケターに向いていない理由とは?ディノス・セシール石川氏&WACUL垣内氏が世のマーケター像をぶった斬る!

「マーケティングやりたい人」がマーケターに向いていない理由とは?ディノス・セシール石川氏&WACUL垣内氏が世のマーケター像をぶった斬る!

Mako Saito

Mako Saito

みなさんこんにちは、マーケターのまこりーぬ(@makosaito214)です。

マーケター大先輩取材シリーズも10記事目を迎えることができました! いつも本当にありがとうございます!!! Twitterにいるマーケティング界隈のみなさまを中心にたくさんご一読いただいておりますが、なかでも圧倒的なPV数を誇るのは、垣内節が炸裂したこちらの記事でした。

そこで記念すべき10記事目は、おなじみWACUL垣内勇威さん(@yuikakiuchiと、その垣内さんが「この人は本当にすごい!」と太鼓判を押すディノス・セシールCECOの石川森生さんに取材の機会をいただきました!

BtoBからBtoC、大手からベンチャーとさまざまな企業におけるマーケティングを経験・支援されているお二人に、全マーケターが気になるテーマである「マーケターのキャリア」についてお話をうかがうことに。いったいどんな切れ味鋭い言葉が飛び出てくるのでしょうか……!(震)

マーケターとしてスキルアップしたいみなさま、これからマーケターを目指すみなさま、心してご一読ください!

株式会社ディノス・セシール CECO 石川森生 さん1984年生まれ。SBIホールディングス入社後、SBIナビ(現ナビプラス)の立ち上げ。その後、ファッション通販・マガシークでマーケティング責任者として、サイトリニューアルやサイト改善PDCA確立、広告CRM最適化、海外の最先端ソリューション導入推進。株式会社タイセイのWeb部門を分社化し株式会社TUKURUを創業。2016年2月にディノス・セシール入社と同時にCECOに就任。既存の枠組みを超える、サスティナブルなECビジネスを構築するというミッションを実践、現在に至る。

垣内さんからの紹介コメント:同い年でこんなにすごいビジネスマンを見たことない。とても信頼していてなんでも相談できます。

株式会社WACUL 取締役CIO 垣内勇威 さん東京大学経済学部卒業後、株式会社ビービット入社。大手クライアントのWeb改善コンサルティングに携わる。2013年株式会社WACUL入社。AIでWebコンサルをSaaS化したWebマーケティング改善ツール「AIアナリスト」を生み出し、現在は取締役CIO(Chief Incubation Officer)兼WACULテクノロジー&マーケティングラボ所長として、さらなる新規プロダクトの創出を担当。

石川さんからの紹介コメント:天才。自分と世の中のギャップを埋めるコミュニケーション術を持っているのでタチが悪い(笑)。

マーケターになりたい人はマーケターに向いてない!?

まこりーぬ:石川さん、垣内さん、貴重なお時間をいただきありがとうございます! 本日は「マーケターのキャリア」というテーマで、お二人のいままでのご経験やマーケターに求められる素質など、いろいろと質問させてください!

 

石川:僕、実は自分のことをマーケターだとはあまり思っていないんですよね(笑)。

垣内:あ、それ僕もです(笑)。

石川:たしかにビジネスを構成する要素のなかでマーケティングと呼ばれる領域が得意だとは思います。ただ正直なところ、マーケティングの力だけで商品が売れることはないので、僕がやっていることはマーケティングだけじゃないんですよね。

垣内:そうそうそう。実際にやっているのは営業だったり組織調整だったりしますよね。マーケターというと戦略を描いて……みたいなおしゃれなイメージがありますが、そんなことは一切やらない。

石川: マーケティング研修とかってフレームワークに自社の経営資源を当てはめて、わかりきった回答を1日がかりで導き出して終わりですからね。そんなの必要ないから、まず目の前のビジネスの穴をふさぎましょうよ、っていう(笑)。

垣内:毎日営業に出かけてたらSTPなんて5分で決まりますからね(笑)。

※ STP:セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング。フィリップ・コトラーが提唱したマーケティング戦略の基本的なフレームワークの1つ。

まこりーぬ:さ、さっそくキレキレなコメントをありがとうございます(笑)。たしかに、一般的なマーケター像と、マーケティングにめちゃめちゃ強いお二人が実際に取り組まれているお仕事には大きなギャップがありますね……!

 

垣内:今日の取材項目のなかに「どんな人がマーケターに向いていますか?」という質問がありましたけど、世の中におけるマーケターのイメージが本質からズレている以上「マーケターになりたい」って言っている人はマーケターに向いていないかもしれませんね(笑)

石川:それは真理な気がするな……。「マーケティングやりたい」より「とりあえず利益出したい」という人のほうがよっぽどマーケターに向いている気がします。

まこりーぬ:えー……この記事はまさに「マーケターになりたい」「マーケティングやりたい」と考える人にも届けることを想定していたんですが……あー……

石川:いきなり企画潰しな展開にしてしまいすみません(笑)。

まこりーぬ:いえいえ! 石川節に垣内節は想定の範囲内です。取材を、続行します!(笑)

イケてるマーケターの代表例は「八百屋」

まこりーぬ:キャリアがどうこうの前に、そもそもマーケターとは何者なのかをまず具体化する必要がありますね……! お二人にとって「イケてるマーケター」とは、どんな人でしょうか?

垣内:石川さんがよく話されている「八百屋」の例が僕は好きですね。八百屋さんって日々目の前のお客様と会話をして、売上を見ながら商品をコントロールする、すばらしいマーケターなんですよ。これがEC担当になった瞬間にお客様のことを「PV」と呼んでしまう。

石川:よいキャベツを仕入れられたらまず人目に触れる店頭におく、興味をもってくれたお客様にはオススメの調理方法なんかを伝えることでさらに買ってくれる人を増やす……みたいな、売上を伸ばすためにやるべきことって、極端なはなし越後屋の時代からなにも変わっていないと思っています。

この根っこの部分なくデジタルマーケティングの技術だけでなんとかしようとすると、たいてい失敗しますよね。そう考えると、イケてるマーケターって「いま江戸時代にタイムスリップしてもモノが売れる人」かもしれません

まこりーぬ:八百屋さんの例、シンプルでわかりやすいですね! ふだんの細かなマーケティング業務がいかに商売から遠いのかを痛感します……。ちなみに、「イケてないマーケター」とは、いったいどんな人でしょうか?

 

石川:「昨日売上が伸びたのはなんで?」という会話があったときに、イケてない人からは「セッションが多かったんです」「広告からの流入が増えたんです」という、答えになっていない回答が返ってきます。「昨日のキャベツはマジでおいしかったんです!」って言われればなるほどねとなるのに。

自分のビジネスをコントロールするポイントがつかめている人かどうかは会話した瞬間にわかりますね。ただ、往々にしてマーケティング部門の業務範囲外にそのポイントはあるんですよ。

垣内:ミッションや部署が細分化されていると、どうしても理想である八百屋の仕事からほど遠くなってしまいますよね。前回の取材でも話しましたが、Webだけでなく営業や商品仕入れなど売上に近い仕事を経験し、全体を見るよう心がけることは大切です。

まこりーぬ:イケてるマーケターになるためには、いわゆるマーケティング部門の仕事だけやっていてはダメだ……ということですね……! 売上の上がり下がりについて的を射た回答ができるよう、精進します!(涙)

各論はアフィリエイトで稼ぎながら学べ

まこりーぬ:マーケターとしてレベルアップするためには商売に真摯に向き合うのみ! と重々承知のうえでお聞きします。「これからマーケティングを学ぶにはどうしたらいいですか?」というよくある質問に、みなさんだったらどう答えますか……?

 

垣内:総論はビジネスの現場で経験を積むのみですが、デジタルマーケティングの各論はアフィリエイトをやって学ぶのがおすすめですね。サイト構築もSEOもSNSもアクセス解析もコンバージョンの動線設計も一通りやるので、主要な各論のほとんどが学べます。なにより、5,000円でも報酬が入ると嬉しいのでやる気を維持しやすいですよ。

まこりーぬ:なるほど、アフィリエイトですか! たしかにただひたすらインプットするよりも楽しく勉強できそうですね。

石川:各論はトレンドも仕様もどんどん変化していくのでずっと学び続けるしかないですよね。僕もいま「Shopify」というECのプラットフォームを勉強中で、英語の文献を読むこともあります。

まこりーぬ:石川さんクラスであってもそうして日々学ばれているとは……! 背筋が伸びます(涙)。

……さてさて、ここからは実際にお二人がどのような経験を経て今に至ったのかをうかがっていきましょう。マーケティングに強くなるためのエッセンスをさらに探ってまいります!

ディノス・セシール石川さんのキャリア

BtoCは正直ほんとツラい。だからやる

まこりーぬ:石川さんはBtoB営業からスタートして、EC領域でがっつり経験を積まれ社長業も経たのち、2016年からディノス・セシール社でCECO(Chief E-Commerce Officer)を務められていますよね。一番のキャリアのターニングポイントはどこでしたか?

 

石川:「BtoCを一回経験しないとバリューアップしない」と強く感じ、BtoBからBtoCへ移ったときですね。当時の僕の判断は正しかったと思います。きっといま新卒に戻ったとしても、同じようにBtoBからスタートしてBtoCに移るでしょうね。

いつかBtoCで培った武器をもとにBtoBに返り咲いてやろうと、昔から変わらず今でもそう思っているんですけど、まだまだBtoCでの修行が続きそうです。

まこりーぬ:ECのイメージが強い石川さんがBtoBに戻りたいとおっしゃるのは意外です! どうしてですか?

石川:……BtoBの方が、楽なんですよ(笑)。

垣内:僕はBtoBもBtoCも両方コンサルしていますけど、ECは本当に大変だと思います。やること多いのに儲かんないっていう。

石川:そう。語弊のないようちゃんと説明すると、僕らの最終的な利益率って平均1〜3%なんです。大人数のチームを組まないと回せないし、時には我々ではどうしようもないようなクレームを浴びることもある。こんなに大変なのにここまで薄利ってちょっと報われないな……と正直思います。一方、昔立ち上げたBtoBサービスは営業利益50%みたいな世界でした。

垣内:そのせいでムダにテレビCMとか打ち出すわけですね(笑)。

石川:そう、交通広告ジャックするとかね(笑)。どう考えてもBtoBのほうが効率がよくて、BtoCは本当につらい。……だけど社会的な機能として必要なんですよ。飲食店もそうですよね、なくなったら結構みんな困るじゃないですか。誰かがやらないといけないんです。僕個人としては、できれば楽したいんですけどね。

垣内:楽しようと思えばいくらでも楽できるけどそうしないあたり、だいぶMですよね。

まこりーぬ:たしかに(笑)。つらいと言いながらも、石川さんはなんだかんだBtoCの世界が好きなのではないか!? と感じてしまいました……!このお話を聞いて、BtoCにチャレンジしたいと思うマーケターが増えそうですね。

「これだけやれば大丈夫」は10年かけても見つからない

まこりーぬ:これから何年後にはBtoBに戻るぞ! という具体的なキャリアプランは決めていらっしゃるのでしょうか?

 

石川:残念ですが、BtoBには結局戻れないんだろうなっていう気はしています(笑)。やってもやっても「これだけやれば大丈夫、売上が伸びる!」っていう成功パターンにたどり着かないんですよ。

とくにマーケティング部門だと「この施策の成功によって一発でセッションが増えCVRが改善しKPI達成しました!」と施策と成果をつなげたがりますが、それは幻想だと思います。実際はめちゃめちゃ変数が多いですからね。月並みですけど、毎日のさまざまな施策の積み重ねが気づけば成果となっている……という感覚です。

成果を出すためには、施策よりもマインドのほうが大切かもしれませんね

まこりーぬ:なるほど……。成果を出すためのマインドとは、先ほどお話にあった八百屋的マインドといえるかと思いますが、石川さんはどのように身につけられたのでしょうか?

石川:僕はたまたま新卒のころから事業責任者に近い立場で仕事をさせてもらっていたので、ビジネスを自分ごと化せざるを得ない環境だったんですよね。自分の財布だと思ってP/L(損益計算書)を見ているので、いまだに出張に行くときは安いビジネスホテルを探しちゃいます。たいした話じゃないんですけど、ムダは嫌なので(笑)。

まこりーぬ:がんばって◯◯するではなく、◯◯せざるを得ない環境に自分の身を置くことって、なにかを身につける上で大切ですよね……! ありがとうございます!

WACUL垣内さんのキャリア

軟弱な東大生がベンチャー企業の取締役になるまで

まこりーぬ:おまたせしました、垣内さんのターンです! 東京大学卒業後に株式会社ビービット、現職という流れですよね。最初にビービット社へ入社されたのはどうしてですか?

 

垣内:僕もともと大学生のころからビービットでアルバイトをしていたんですね。就活がはじまるころに戦略ファームの早期選考を受けたんですけど、なにも準備していかなかった僕は高圧的な面接官に叩きのめされてしまって。「あぁもうダメだ外資系コンサルこわい、ビービットにしよう」と思いそのまま入社しました(笑)。

ビービットって、1日に十数人ものユーザー行動観察調査をおこなう会社なんですよ。Webサイト上でユーザーはこう動く、企業の思いどおりにはならない、そして企業はユーザーのことをよくわかっていない、と知ることができたのは自分の資産となっています。ただ、新卒のころは営業をしていなかったので軟弱に育ちました。

石川:もともと営業やっていなかったんですね! いまこんなに営業マンなのに。

垣内:はい。営業しはじめたのはコンサルに飽きてきたビービット後半からで、「ウェブアンテナ」というツールを売っていました。最初はアジェンダなく話すのに慣れず苦労しましたね(笑)。営業って結局お客様のニーズを探ることだし、ビジネスそのものなので、このタイミングから経験できてよかったと思っています。

まこりーぬ:営業としてのキャリアも無事スタートしたなかで、創業まもないWACUL社へ転職されたのはいったい……?

垣内:もっと攻めた人生を送りたかったんですよ。コンサルとしてお山の大将やっててもダサいじゃないですか。ちょうど結婚するぐらいのタイミングで、このままじゃ子どもに背中見せらんないな、と思いベンチャーにいきました。

まこりーぬ:かかか垣内さんにもそんな人間らしい一面が……!? いいお話をありがとうございます(涙)。これらのエピソードのなかで、ターニングポイントはどこにあたりますか?

垣内:やはり膨大な数のユーザー調査をおこなったことと、営業をはじめたことですね。これらは成果を出すためのマインドに直結すると思います。

加えて僕が成果を出すために大切だと思うのは、ときに自分を否定しながらも新しいチャレンジをすること。「その施策はやっても意味がない」とよく発信していますが、ABテストもアトリビューションも嫌というほど自分でやり尽くして失敗してきたことなんですよね。チャレンジすれば、それが成果につながるのかつながらないのか正しい判断ができますから。

まこりーぬ:いやぁ、なんだか今回の取材記事では垣内さんのファンがますます増えてしまいそうですね……!

デジタルマーケティングの聖書を作りたい

まこりーぬ:垣内さんご自身はこれからどんなキャリアを描いていきたいですか?

 

垣内:昔から「デジタルマーケティングの聖書を作りたい」と思っていたんですよ。デジタルマーケティングで一定の成果を出す方法はここまでわかりきっているのに、どうしてみんなやったりやらなかったりするんだ、という思いがずっとあって。最近ようやく「デジタルマーケティングの定石」という1冊の本を出すことができました。

石川:僕も読ませてもらいましたけど、たしかにバイブルっぽい本ですよね。一つひとつの施策がどうっていうよりは、デジタルマーケティング全体において何を信じて動くべきかが学べると思います。

垣内:本の内容については石川さんにもたくさんアドバイスいただきました。ありがとうございます。

これから先でいくと、このまま運よく進めば会社や事業がさらに大きくなって経営者としてさらなる激流にさらされるわけですが……ひとまずは引き続きこの流れにのってがんばろうと思っています。ヒリヒリするような経営者人生に意外とここまで耐えられているので、もう少しいけるんじゃないかなって。こう言ったあとにすぐ方向転換するかもしれませんけどね(笑)。

石川:思考や経験のレイヤーがめっちゃ上の先人たちから「まだまだ自分は道半ばなんで」とか言われると、「えぇこれどこまで行くんですか、僕もう山登りたくないんですけど……」って思いますよね(笑)。

垣内:登りたくないんですけど、1週間ぐらい沖縄でぼーっとしていると飽きて嫌になってくるんで、結局山を登っちゃうんでしょうね……。

石川:マーケターにはMっ気が必要だということかもしれません。ぜんぜん仕事したくないのに、結局僕もずっと働いてますからね(笑)。

まこりーぬ:な、なんという結論に(笑)。お二人とも、本日は貴重なお話を本当にありがとうございました!

さいごに

石川さんと垣内さんのお話を聞いていると「マーケターっていうかもう経営者じゃん!」とツッコまれそうですが(私も心の中でツッコんでいますが)、いわゆるマーケティング業務の中だけであがいていても、イケてるマーケター、成果を出すマーケターには一向になれないんだなぁと、思い知らされた取材でした。

いくつになっても自分に負荷をかけチャレンジし続けるカッコいいお二人のお話を聞きながら、私も「マーケター」を名乗る以上、大先輩方に少しでも近けるようもっともっと精進せねば……と改めて気合いが入りました。ほどよくMっ気を発揮しながら(笑)、健康第一に、がんばります!!!

以上、まこりーぬがお届けしました!

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Mako Saito
Mako Saito LIGブログ編集長 / 人事部長 / 齊藤 麻子

1992年生まれ。2014年九州大学芸術工学部卒業後に採用コンサルティング会社へ新卒入社。法人営業から新規事業推進、マーケティング業務に従事したのち、2018年にLIGへ。2023年にLIGブログ編集長、2024年に人事部長に就任し、現在は自社のマーケティング・人事業務を担う。副業ではライターとして活動中。あだ名は「まこりーぬ」。著書『デジタルマーケの成果を最大化するWebライティング』(日本実業出版社)

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