「アイデアが必要なときに一番役に立つ技術ということです」 電通・古川 裕也さんに聞くクリエイティブディレクションの本質


「アイデアが必要なときに一番役に立つ技術ということです」 電通・古川 裕也さんに聞くクリエイティブディレクションの本質

こんにちは、LIGのヨシキ(@moriri_nyo)です。

Webディレクターやアートディレクター、映像ディレクターなど、世の中にはさまざまな種類のディレクターが存在します。そして、いわゆる「クリエイティブ」な要素が必要とされる業界でこそ、ディレクターは活躍しているという印象があります。

その一方で、「クリエイティブに関するディレクションって結局、クリエイターの進行管理をしているだけでは?」というイメージの人も多いのではないでしょうか。
また、現在ディレクター職にある人も「ある程度経験値はあるけど、どうも殻を突き破れていない気がする」「結局何を目指せばいいのかわからない」という、もやもやした気持ちを抱えていることが多いように思えます。

そこで本日は、電通のエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターであり、『すべての仕事はクリエイティブディレクションである。』という書籍を出版された古川 裕也さんに、クリエイティブに対するディレクション、つまり「クリエイティブディレクション」とは何かということについて、じっくりお話を伺ってみました。

furukawa-0 人物紹介:古川 裕也
株式会社電通 CDCセンター長/ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

1980年株式会社電通入社。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、カンヌライオンズ40回、D&AD、One Show、アドフェスト・グランプリ、広告電通賞、ACCグランプリ、ギャラクシー賞グランプリ、メディア芸術祭など国内外で400以上受賞。2013年カンヌライオンズ チタニウム・アンド・インテグレーテッド部門、2015・16年ACC審査委員長など。2016年には日本人初のクリオ・フィルム部門審査員長を務める。

クリエイティブディレクターとは、「課題解決」のすべてを司る存在

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ー 本日はよろしくお願いします。早速ですが、「クリエイティブディレクション」とはどういうものなのか、教えていただけないでしょうか

クリエイティブディレクションとは「課題を解決する」ためのアイデアを考えカタチにする技術だと考えています。

例えば、売れてないからもっと売りたい、知られてないからもっと知られたい、もっと正確に価値を伝えたいというように、あらゆる種類のアイデアを必要としている人たちに、最強かつ最適な答えを出す仕事です。答えの出し方は、ますます高度化複層化してきています。そのすべてを司るのがクリエイティブディレクターという存在です。

 
ー 仕事内容は、具体的にどのようなものになるのでしょうか?

昔は広告のメディアとしてはテレビが圧倒的に強かったので、「CMによる課題解決」とほぼ同義と言えました。しかし最近はメディアやテクノロジーの変化・発展に伴い、従来の「広告」の形ではない手法を採るほうが課題解決につながる機会も増えてきました。
アイデア業の職能としては最上位に属するもので、よく言われる「ブランティング」も、クリエイティブディレクションが一番得意な種目の1つです。
 

ー ただの広告制作の枠には収まらない、ということですか?

そもそも広告自体、課題解決の手段の1つに過ぎないわけです。ある商品をローンチするにあたって、別にCMやデジタルとかじゃなく、ブランディングのために映画を1本制作するとか、メッセージ性のある商業施設を立ち上げるとか、新たにスモール・ビジネスを立ち上げるとか、いち早くコミュニティ化しようとか、広告以外の方法もありえるわけです。
広告以外と言いながら、それだって、広義の広告になると思います。クリエイティビティによる課題解決という意味では。

ブランドが持っている本質的な価値を「定義」することが、最初の大事な仕事

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ー 「クリエイティビティ」というと、つい何か特殊なもののように感じられてしまうのですが……。

そんなことはありません。どんな種類のコミュニケーションにも、不可欠かつ強力な武器だと思います。そして、広告に限らずほぼ全ての仕事に使えるスキルです。
国家プロジェクトであれ、商業施設建設であれ、スタート・アップであれ、例えば「マイナンバー」のような制度導入や、さまざまな法案であれ。

どの仕事においても、「そもそも何のために存在するのか」「どれだけ皆にとっていいものか」という本質的な価値を最初に定義しておけば、世の中とシェアすることが可能になります。「これをやるおかげで、こういういいことがある」ということさえ設定されていれば、人は基本支持してくれます。少なくとも、存在理由を認識してくれる。
逆にそれがないと、よくわからないまま悪いイメージだけが先行してしまい、どんなにいいアイデアであっても、みんなからの支持が獲得できないということになります。コミュニケーションが不具合だったばっかりに、いいアイデアがちゃんと世に出ず沈没してしまった例はたくさんありますね。

クリエイティブディレクションというのは、全ての物事をいい方向に変化させていくための技術なんです。ブランドやプロジェクトが世の中によく受け入れられ、機能するための。
 

ー クリエイティブディレクションの方法を入れることで、皆が納得しやすい形に変化させる、ということですね。

納得はおそらく後からくるもので、その前にまず驚きだったり共感だったりが先にきます。そのために、「そのブランドのいちばんの価値は何か」という定義をきちんとすることが、クリエイティブディレクターにとっての最初の大事な仕事になるんです。
 

ー 定義することが仕事、ですか?

はい。まず本質的な価値の定義をしなければ、何もできない。ブランドにしても、制度にしても、本質的な価値って実はあまりちゃんと定義されてない。そこを突き詰めないとダメなんです。

逆に、そこさえできてしまえば、あとはシンプルです。その価値をどうやって一人でも多くの人の印象に残るようにシェアするか、ということだけ考えればいいことになるので。

新商品に限らず、新しく世の中に出ていくものは全て、そもそも何のためにあるのか、みんなの日常をどのようによくしてくれるのか、今の世の中のどういう課題をどういう風に解決してくれるのかなどを定義してシェアする、という風に考えていくべきだと思います。そうすれば納得度はずいぶん違うはずです。

新しく世の中に出ていくものという意味では、例えば大統領選挙もそうですね。8年前、バラク・オバマは、“We can change”という明解なメッセージでコミュニケーションを組み立てました。実際にできるかどうかは別にして、少なくともその時点では「何のために大統領になろうとしているのか」が明解でした。方法としては、初めてSNSを駆使して成功した選挙と言われています。

そういう風に考えれば、採るべき手法はいろいろ見えてきますよね。ある意味どうとでもなるというか。だからこそ、本質的な意味を定義するということが、最初にやるべきことになるんです。

「どういう手段で表現するか」「どんな順番で体験させるか」を常に考える

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ー では、クリエイティブディレクターとして判断を下すうえで、一番のコアとして意識していることは何でしょうか

先ほど申し上げたように、大切なのは物事の本質的な価値ということになりますが、次に重要なのが「それをどういう方法で伝えればベストか」というアイデアですね。

アイデアを考え決定するのは、ふつう消去法です。ダメなものって、すぐわかるんですよね。やはりクリエイティブは「0か100か」の世界なので、1ミリでもダメだったら全部ダメなんです。

しかし残念ながら「このアイデアなら絶対」というのは、わからない。なぜ、どのようにアイデアが出てきたかも確定できない。できることと言えば、いいアイデアを思いつくように左脳的論理的消去法的に追い込んでいくことだけです。同じ方法を繰り返すことによって脳の中に筋肉がついてきます。バイパスが通るというか。だから、いわゆる「直感」的なものも、やればやるほど精度が上がるものだと思っています。

 
ー メディア運用というか、編集業務にも似たようなところがありますね。

あぁ、たしかに「編集」に近いかもしれませんね。どちらもいろんな要素をディレクションすることで、統合したクリエイティブを完成させるという仕事ですから。

このとき意識しなければならないのが、「どういう順番で相手の目に触れさせるのか」という問題です。どういう順番でアイデアと生活者とを遭遇させるかという設計が重要になるのも、編集と似ているかもしれません。

9.5合目の景色と6合目の景色は明らかに違う

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ー ディレクションする人間は、全てに通じてないといけないということになりますか?

専門性と統合性の両面が必要になるのですが、「専門がなくても統合はできる」という考えは間違いです。統合するということは、上手にまとめるということではありません。今回達成すべきミッションを発見し、コアになる大きなアイデアを確定するのが仕事で、そのアイデアをカタチにするまでがクリエイティブディレクターの役割です。

そして、どんな分野でもいいんですが、「ある専門のジャンルで95点以上をとったことがある人」でないと、優れたクリエイティブディレクターにはなれないと思っています。
 

ー それはなかなか厳しい条件ですね。その理由について教えてください。

そうじゃないと、チームメンバーからリスペクトされないので。「なんか言ってるけど、あいつ何の実績もないじゃん。何偉そうに言ってんだよ」って、現場の人間なら全員心の中で思います。

あと、ひと昔前のように、「CMさえおもしろければいい、逆にCMがおもしろくないと0点」ということはありません。デジタル、メディア、PR、プロモーション、コンテンツなど、今は様々な手段を駆使できます。
 

ー しかしそれでは、全ての分野で実績が必要になるのでは?

いや、1つの専門分野でいいんです。クリエイティブにおける優れた専門性っていうのはどんな分野でも、基本的に原理は同じなので、応用が効くんですよ。

もちろん、その全てを自分一人で100%できるわけではありません。だから統合的にディレクションするといっても、自分の持っている何か1つのスペシャリティを基礎に全体をディレクションする以外、やりようはないんですね。
高度な1つの専門性があって、はじめてクリエイティブディレクションができるということです。

いろんなことを70点ずつぐらいできる人になっても、所詮「上手にまとめる人」にしかなれません。実際そういう人はたくさんいますが、いい仕事には全く結びつかないんです。
 

ー なぜ「平均より高い点」を全てのジャンルで取っていても、ダメなのでしょうか。

クリエイティブで重要なのは「どんな山の高さから物を見ているのか」ということに尽きるんです。

いろいろな山に登っていたとしても、6合目までしか登ったことがない人というのは、「6合目の景色」しか見えません。そしてそれは、優秀なチームメンバーであればあるほど、すぐ見抜かれてしまいます。「こいつ、6合目までしか登ったことないな」って。
9.5合目と6合目は、全然違うものですから。
 

ー なるほど。6合目までの実績しかなければ、いいクリエイティブの完成形の想像すらできないということでしょうか。

そうです。高さを知らないと。
9.5合目の世界は、それまでと景色も空気も違いますし、周りにいる人も違う。専門の違う、別々の山の9.5合目にいても、お互いわかるんです。ついでに言うとそういう人たちは、意外とお互い仲がいい。リスペクトがあるから。そういうもんなんです。
 

ー なるほど。本日はありがとうございました。

インタビューを終えて

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今回お話を伺った中で一番強く印象に残ったのは、クリエイティブに対するチェックの目線を高く持つことの重要性でした。

ディレクションをするとき、コンテンツであれデザインであれ「クリエイター」と呼ばれる人たちが仕上げたものに対し、深く考えずOKを出してしまうことは多いと思います。
それは、クリエイターを信頼しているという気持ちの一方で、「それがどう変わると、もっといいクリエイティブになるのか」というイメージを持てていないことが要因となっているのかもしれません。

しかし、冒頭で古川さんが仰っていたように「ディレクション」とは「課題を解決する」ためのものであり、そこを厳しく持たなければいいクリエイティブには成り得ません。もちろん、まずは9.5合目の景色を見るだけの実力を身につけるために精進しなければならないのですが、そこを目指す理由のようなものを今回のインタビューで学ぶことができたように思います。

古川さん、本当にありがとうございました!

この記事を書いた人

ヨシキ
ヨシキ メディアディレクター 2014年入社
ヨシキです。かつてLIGの3代目広報を担当しておりました。
イノベーティブな存在を目指し、大きさ以上に大きく進化しながら、LIGを再発明したいと思います。