自分が作りたいものを創造するのではなく、受け手を想像することがデザイナーの仕事| スキーマ

自分が作りたいものを創造するのではなく、受け手を想像することがデザイナーの仕事| スキーマ

久松

久松

こんにちは、LIGライターズの久松知博です。普段は放送作家&ライターをしています。

移動中やスタジオ収録の待ち時間などはスマホでゲームをして遊ぶことが多いのですが、とくにリズムゲームは何も考えずに楽しめるので大好きです。なかでもリズム芸人として人気を集めるバンビーノのネタをもとにしたアプリ『バンビーノのリズムダンソン』は、お気に入りの1本です。

同アプリの制作を手がけた株式会社スキーマはデザインとアイデアを軸としたクリエイティブ全般を幅広く担当する制作ディレクター集団です。同社のこだわりは、 “+αのクリエイティビティを足して納品する” こと。

ディレクター兼デザイナーとして働く岡永氏は、「バンビーノさんのアプリも、子供から大人まで楽しめるテイストになるよう、何十案と作って試行錯誤した」と話します。今回のインタビューでは、制作物のクオリティを維持するために同社が心がけていることや、クリエイティブな仕事の定義について、岡永氏にお話を伺いました。

Poole:アイコン_スキーマ様 人物紹介:岡永 梨沙氏
武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科を卒業。在学時はワークショップを多数開催し、クリエイティブとコミュニケーションの関係性に重きを置いて活動。2012年に新卒でスキーマへ入社。基本業務はディレクション担当だが、入社後もアナログからデジタルまで幅広いテイストのイラストレーションを描きわける日々。体の半分はビールでできているビール党。

「ポートフォリオを1枚1枚じっくりと見てくれたんです」何を大切にしているか伝わった

実績画像

資生堂『INTEGRATE』アプリ画面/ワコール『Wacoal Brassiere History』

現在の岡永氏はディレクター兼デザイナーとして、先述のバンビーノのリズムダンソンのほか、資生堂『INTEGRATE』のアプリや、ワコール『Wacoal Brassiere History』のサイトなど大手企業の案件に多く携わっています。しかし、2012年に新卒入社する直前までは、Web業界への関心は決して高くなかったそうです。

岡永
小さいころからずっとデザインに携わる仕事がしたかったんです。なので、パッケージとか広告やTVCMなどを手がけるセクションを目指して、就職活動では大手の広告代理店を中心に受けていました。その頃は広告代理店が持つ、きらびやかなイメージへの憧れもあったので。

しかし、就職活動を続けていく過程で、「小さい会社で泥にまみれながら仲間と一緒に会社を大きくしていくことに興味がわきました」と当時を振り返ります。

岡永
大手広告代理店やデザイン会社から内定をいただいたんです。それでも最終的には、就活の求人で偶然見つけたスキーマを選びました。当時のスキーマは従業員が5人未満の規模で、両親や周りの友達からも「そんな小さい会社、潰れるんじゃないの?」と心配されましたね。

「それでも決意は変わらなかった」と話す岡永氏。決心を固く決めたのは、スキーマで面接を受けたときだったそうです。

岡永
美大生の就職活動は、精魂込めて作ったお手製のポートフォリオを必ず面接で持参するんですけど、ほとんどの会社はパラパラっとめくる程度なんですよ。でも、スキーマの面接担当だった橋本だけは、楽しそうに1枚1枚じっくりと見てくれたんです。

会社がどんな仕事をしているか、そして自分がどういう仕事を担当できるかは大事だと思います。でも働く環境において、「一緒に仕事をしているメンバーのことを自信を持って紹介できる会社に入りたい」と当時から思っていました。なので、橋本との面接を終えて、「この会社なら一緒に働きたい人がいる」と確信に近いものを感じたんです。

「頭の中を他人に見せれる人は、良いデザインが作れる」これが意外とみんなできない

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ただ単に依頼された業務をこなすだけでなく、クライアントの期待を上回るアウトプットを心がけているスキーマ。しかし、かつてはそのプロ意識の高さが裏目に出てしまい、岡永氏は制作の手が止まることもあったそうです。

岡永
あるプロジェクトで「世の中にまだないアイデアがほしい」というオーダーいただいたとき、期待に応えようと考えすぎて、完全に手も頭も止まってしまったんです。もともと自分の性格が頑固なのもあるのですが、「こんな中途半端なクオリティでは恥ずかしすぎて人には見せられない」「自分がなんとかしなきゃいけない」と思い込んで、ずっと1人で悩んでいました。

単純作業とは異なり、クリエイティブな仕事は高みを目指せば目指すほど終わりが見えにくくなるでしょう。その反面、クライアントがいる業務は納品日に間に合わせないといけません。岡永氏がこのジレンマに悩んでいたとき、先輩のある言葉に救われたそうです。

岡永
「頭の中をみんなに見せてみたら?」と声をかけてもらったんです。要は完成していないからといって自分のところで止めてしまうのではなく、途中段階でも恥ずかしがらずに見せてよう、と。みんなからアイデアや意見をもらうほうが客観的な目線も入るので、よりクオリティも上がっていくことに気づきました。

その言葉をもらってからはいい意味で開きなおることができて、「ちょっとまだなんですけど……ごにょごにょ……」と言葉を添えることで、途中経過を他人に見られることに抵抗がなくなりました。

頭の中に閉じ込めている状態では何もしていないことと同じです。外に出さなきゃ何も伝わらないし、とにかく大小問わずアウトプットをしていくことがクリエイティブの作業では大事だと思います。それに気付かせてくれたのはちゃんと責任ある仕事も任せてくれているうえで、しっかりフォローもしてくれるというスキーマの環境のおかげだったと思います。

そしてもう1つクリエイティブな仕事をするうえで、岡永氏は大学時代から心がけていることがあると言います。

岡永
デザインは必ず誰かのために作られているものだということ。そのことを知るきっかけは大学時代のゼミで、ある地域の人達と一緒に行ったワークショップでした。そのワークショップは、地域に暮らす方と障がい者の方に協力してもらって、地域活性や生活改善についての施策を考えるというものだったんです。

そこで駅前の広場に、周辺のお店や施設にミニチュア模型を作って、地域の方が「いいね!」と思うところに旗をさしてもらったんです。凝ったものではなかったのですが、誰が見ても分かりやすいもので伝えたいことがすぐに皆と共有できました。

このワークショップを行う前までは、デザインもイラストもただただカッコいいものが好きだったんです。でも、そうじゃない。小さな商店街に暮らす人にも、障がいのある方にも、子供にも、それぞれに伝わるものでなければ意味がない。“かっこいいかどうか”はあまり関係なく、デザインは “伝えたい人に伝わっているかどうか” が大事。自分が作りたいものを創造するのではなく、受け手を想像することの大切さは、今の仕事にも通じる部分が大きかったと思います。

日本だけで仕事をしていると価値観が狭くなる。いろんな視点で考えられたほうがいい

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少数精鋭のスキーマでは、1人ひとりのビジョンや想いが会社に与える影響力は大きいそうです。そんな職場において、「自分のやりたいことが明確に見えている人の方が会社との相性はいい」と岡永氏は語ります。では、会社が求めるのはどんな資質を持った人材なのでしょうか。

岡永
まず、コミュニケーションがちゃんと取れる人ですね。それは日常会話とか一般的な話ではなく、自分のやりたいことや想いがしっかり出せる人かどうかということです。

やりたいことがないと、頼まれた仕事を単に片付けるだけの業務になってしまう。逆にやりたいことが明確だと、本人だけでなく周囲も楽しさを共有できるから、職場が明るくなるんですよ。

また、ウチは純粋なデザインやイラスト制作というよりかは、発想力を軸としたトータルディレクションをする会社です。なのでひたすら作品づくりや作業に没頭したい人よりかは、デザインを通じて何かしら伝えたいことや考えがあって、そこに向けて周囲とコミュニケーションを取りながら走れる人と働きたいですね。

制作物のクオリティを高めるため、できるだけ多角的な視点を広く持つことを意識しているというスキーマ。その考えを象徴する社内イベントが、毎年行っている海外旅行です。

岡永
旅行というか仕事ですね(笑) ほかの会社の社員旅行だとバカンスに近いものがあると思うんですけど、ウチは美術館に行ったり現地のデザイン会社に訪問します。それ以外はホテルでも移動中でも仕事しているので、旅行っていう感じはしないです。

ただ、海外だと現地でしか知り得ない多くのことを学べるし、目的があるので楽しいんですよね。

またスキーマを発展させていくうえで、「海外での経験はいろいろなところで活きてくる」と岡永氏は語ります。

岡永
製品やサービスの着眼点だけでなく、ワークスタイルも含めて、日本だけで仕事をしていると価値観が狭くなると感じています。できれば、海外の良いものを直に見て、どんどん取り入れたい。

以前、研修でアメリカのデザイン会社を訪問したとき、オフィス内の照明が異常に暗かったんですよ。気になって理由を聞いたら、「これはモニターが一番きれいに見える明るさなんだ」と言われたんです。業務に対して “何を最善として考えるか” 、こういった柔軟な考え方は日本とまったく違って衝撃でしたね。

何より仕事に取り組むうえで、そういった新しい体験や知識を自分から取りにいく姿勢が重要だと思っています。

さらに今後は「海外に向けた案件をやっていきたい」と話す岡永氏。ただ、発信する媒体やプラットフォームに関しては、こだわりがないそうです。

岡永
デザインのアウトプットは、Web以外にも雑誌やパッケージ、プロダクトやイベントなど多岐にわたります。ウチの会社は型にはまらずいろいろな挑戦をすることが多い。そのために必要なのは、まず自分が常に幅広い対象に興味を持ち続けることだと考えています。

固定観念にとらわれず、多方面に関心を持つこと。長くデザインの仕事に携わっていくコツは、この “尽きない関心” にあるのかなと思います。

社内の雰囲気について、「相手が社長であっても、なんでも言い合える雰囲気がある」と岡永氏は笑顔で話します。失敗を恐れて手を止めるよりも、まずは自由に形づくってみること。社員の発想を縛り付けないスキーマの企業風土には、楽しい仕事を生み出すヒントがありそうです。


furture_bnr

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1981年9月12日生まれ。出身は大阪。マスコミの専門学校を卒業後、大阪でADの仕事を経験。25歳で上京、株式会社スリーカーズに就職して雑誌の編集に携わりながら、放送作家への道を歩む。現在は放送作家兼ライターとして株式会社ペロンパワークスに所属。ライター、アニメのシナリオ「ゾンビ猫」、テレビの構成「とくダネ!」、舞台の脚本など幅広く活動。

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