株式会社LIGのCTO、高遠(たかとお)は、目が覚めると見知らぬ場所にいた。
足は頑強な鎖で繋がれ、手の届く所にはノートパソコンが一台、置いてある。そして少し離れた所には中年男性の死体が横たわっている。頭から夥しい量の血を流し、まるで熟れたトマトが潰れたような形で死んでいるその男の姿を目の前にして、高遠は不思議と冷静だった。
「ここは…一体…」
人は、自分の置かれた状況が理解の範疇を超えた時、ある意味一番冷静になれるのかもしれない。
目覚めたばかりの重い頭を総動員して、自分が今置かれている状況を理解しようとするが、納得のいく答えは見つからないでいた。
明らかに致死量を超えているであろう血液を流して、男は絶命している。
この男の身に何があったのか、高遠はその貧相な想像力で思い描いてみるが、何も思い浮かべる事が出来ないでいた。
ピロリーン♪
静まり返った空間に、メールの着信を知らせる音が鳴り響く。
突然の事に一瞬戸惑うが、普段の仕事でもメールに対してはすぐに反応する事が癖になっているので、条件反射的にメールを確認する。
メールの差出人は「ダンダソウ」。
まったく見覚えの無い名前だ。
怪しいな…
そう思いながら記載されているURLをクリックすると、画面には動画サイトが表示され、不気味なお面の男が映しだされた。
「Hello 高遠…」
「君はこれまでの人生を無為に過ごし、顧みず、感謝をせずに生きてきた。生きる事に意味を見いだせていない君にふさわしい舞台を用意した。このゲームをクリアしない限り、君は一生この鎖に繋がれ続ける事だろう。」
「ルールは簡単。君がいつもやっているように仕事をするだけ。それだけだ。19時の定時までに、すべての仕事を終わらせる。それで君は自由になる。」
「I want to play a game…」
………。
一体、この不気味な男は何を言っているのだろうか。理解するまでに数秒、高遠は考える。
この鎖に繋がれた身動きが取れない状況で、ましてや目の前に惨たらしい死体があるような状況で普段通りに仕事をするなんて、正気の沙汰とは思えなかった。
「不可能だ…」
そう、思わず口からこぼれてしまうのも無理はなかった。
空調が効いたオフィスで、アーロンチェアに座りながら優雅に仕事をしていても、19時に退社する事など起業してからの7年間で1回も無いというのに、この劣悪な環境下できっちり仕事を終わらせるなど、無理に決まっている。そもそも、処理しなければならないタスクが多すぎるのだ。
「チャットワーク…」
極限状態である高遠の口から思わずこぼれ出た言葉。それはタスク管理を行う為のウェブサービスの名前だった。
「もしかしたら…チャットワークなら…」
絶望の渕に立ちながらも、男の瞳にはチャットワークという希望の光が差し込んでいた。
「そうと決まれば…」
高遠はさっそくチャットワークを起動し、今日やらなければいけないタスクを確認する。
チャットワーク上で指示や要望をやり取りし、その指示を”タスク”として登録する事で、漏れがなく、効率の良い仕事が出来るようになる。
普段から多数の人間の要望を聞き、その全てに対応している高遠にとって、残業は当たりまえだった。だが、そんな膨大なタスクを見える化し、優先順位をつける事でしっかりと仕事を進められるようになったのは、紛れもなくチャットワークの力によるものだろう。
チャットワークでは、プロジェクト毎にチャットに参加するメンバーを選びグループを作る事が出来る。この機能のおかげで、多人数での作業においてもコミュニケーションロスを最小限に抑えた進行が可能となったのだ。
作業者は、タスクをひとつづつ確認しながら、丁寧に、スピード感を持って仕事をこなしていく。
仕事に集中してくると、硬い床も、むせ返るような湿度も、無造作に転がる死体も全く気にならなくなるから不思議だ。
彼のこの仕事に対する集中力こそが、LIGという会社を支えているといっても過言では無いだろう。
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「よく…働いたな…」
作業の手を止め、軽く伸びをする。
絶望と呼べるような状況に置かれながらも仕事を全てやりとげた高遠は、まるで陽だまりの公園を散歩するような、そんなあたたかい気持ちに包まれていた。
時刻は、ダンダソウに告げられていた約束の19時に、あと5分でなろうとしていた…。
胸ポケットから薄汚れたタバコを取り出し、ゆっくりと火をつける。
紫色の煙がゆらゆらと揺れながら、頭の上に漂い、消えていく。
「まるで、儚いエンジニアのようだな…」
誰に言った訳でもなく、そう呟くと高遠は自嘲気味に笑う。
「さて…と。」
高遠はおもむろに足に繋がれた鎖に手をかけると、ゆっくりと力を込めた。
バチンッ!
乾いた音が、湿った空間に響き渡る。
生まれつき筋肉が異常発達している高遠にとって、この程度の鎖を引きちぎるのは、実は造作も無い事だったのだ。
己を繋ぎ止めていた無機質な鎖から開放され、高遠はゆっくりと立ち上がる。
どんな状況下でも、常に最高のパフォーマンスで仕事をする。
これこそが、高遠が唯一無二の存在としてLIGに君臨し続ける理由なのだろう。
そしてまた、高遠をタスク管理の面からサポートし、冷静に仕事を遂行させたチャットワークというサービスも、同様に唯一無二の存在と言えるだろう。
多忙を極める現代人にとって、複雑化するタスクをどのように管理し、向き合っていくのかを考える事は、非常に重要な意味を持つ。
メールという、数十年前に開発されたツールに頼りきった仕事のあり方から決別し、チャットワークという新たな解決方法を試みるのは、決して無駄な事では無いだろう。
タスクに追われ、忙しさで周りが見えなくなる前に、もう一度思い返してみて欲しい。
一体、誰のために、何のために仕事をしているのかを。
そして、「忙しくて帰れない」と嘆く前にもう一度、自らの働き方を見直して欲しい。
忙殺。
呼んで字のごとく、”忙しさに殺されて” しまう前に、どうかチャットワークを使ってみて欲しい。
きっと、そこに救いはあるのだから…。
『Game Over…』
撮影協力:湯どんぶり栄湯(台東区)