6ヶ月でwebデザイナーになれる|デジタルハリウッド
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2013.05.27

UX設計の基礎と5つのステップ「ダグ・ディーツが小児患者とMRIにかけたデザインの魔法」に学ぶ

YUKI

こんにちは。

仕事帰りにGoogleの自動運転車を見かけ、長年携帯電話も持たなかった超アナログな自分がシリコンバレーにいるという、世の不条理さ不思議さに想いを馳せていたら赤信号になり、急ブレーキを踏んでギリギリセーフで助かった、崖っぷちで生きる浦島放浪民のYUKIです。
この記事を読んでいる皆様も、このような危険と冒険に満ちた現代社会を生き延びながら、スリリングな毎日をお過ごしなのだろうと思います。

さて。

これまでにお話してきたのは、「“Amazon”に学ぶ、4つの観点で考察するUXデザイン」「WEB担当者必見!アクセシビリティで業界を先駆けよう」でした。
どちらかというと左脳寄りの内容が続いたので、バランスを取るために右脳寄りのお話をしたいと思います。
今回は、抽象的で、解釈や意味にも個人差がある【デザインの原点】についてです。

登場してもらう本記事の主役は、GEヘルスケアという医療機器メーカーでCAT、PETやMRIスキャナのデザインを担当されていたプリンシパル・デザイナーのダグ・ディーツ(Doug Dietz)氏。ダグさんは去年に米国講演会グループ「TED」のコミュニティであるサンノゼのTEDxで、自らのデザイン・プロジェクトの失敗と成功を語って、観客総立ちの拍手喝采を浴びました。

恐怖と苦痛を期待と冒険に変えた理由

20年もの経験を持つベテラン・デザイナーのダグさんが、ユーザーエクスペリエンス(UX)のデザインに真剣に取り組むようになったきっかけは、とある少女の涙でした。

ダグさんは、自分がデザインしたスキャナを設置して病室から出ようとしたとき、入れ違いに入って来た子供とその家族の姿を見ました。子供はまだ7歳くらいの幼い少女で、ダグさんのデザインしたスキャナのユーザーとなる患者でもありました。
そして、その少女はスキャナを見た途端、怖がって泣き出してしまったのです。

オリジナルデザインのスキャナ

薄暗い部屋に設置された低い音を立てる見慣れない大きな機械の内部に入るのが、どうしても嫌だと泣いて訴えていました。
そして、そんな少女をどうしてなだめればいいのか判らず、途方に暮れている両親の姿。

患者である子供のほとんどがこの少女と同じような反応を示し、鎮静剤が使用されていることを病院側から知らされたとき、ダグさんの心は打ち砕かれました。

(幼い子供が病気になるだけで十分大変なことなのに、私がデザインしたスキャナのために、その子供や家族が余計な恐怖と苦痛を経験している・・・。)

そして、この問題を解決するために、機能やユーザビリティではなくユーザーの経験(エクスペリエンス)を改善するための新プロジェクトがすぐに開始されました。

デザイン5ステップ

プロジェクトは、ダグさんの提案する以下に挙げた5つのステップに基づいて行われました。

  1. Emphasize(共感)
  2. Define(定義)
  3. Ideate(アイデア化)
  4. Prototype(試行)
  5. Test(試験)

1. 共感

ブレインストーミング中

Emphasizeとは共感能力のことです。【ユーザーである子供たちの気持ちを理解し、どうすれば彼・彼女らがスキャナを楽しく使えるのか 】を追求するために、ダグさんのチームは、地元の保育園で子供達や子供の教育、医療に関する専門家らと数多いブレインストーミング・セッションを行いました。
そして子供達について徹底的に学び、【子供たちが楽しいと思う経験は何か】を明確にしました。

Empathy: Imaginative projection of one’s own consciousness on another person. 共感とは、相手の意識を想像し、自分の意識に反映させる能力。

 

2. 定義

次に、現在抱える問題点や状況などを明確にしました。これが定義に当たります。
定義されたことは以下の3つ。

  • スキャナの外観や環境が、子供たちの恐怖感や不安感を増す。
  • 精神的苦痛を和らげるために、子供たちの80%に対して鎮静剤が使用される。
  • スキャンに必要な数分間、中にいる子供たちは身動きすることができない。

 

3. アイデア化

前ステップで定義された問題点を解決するためにデザインされた新しいスキャナで、一番最初の試行作品となったのが「ジャングル・アドベンチャー」です。
試行作品「ジャングル・アドベンチャー」

この作品では、ユーザーである子供たちの五感を楽しませるように、以下のように経験がデザインし直されました。

  • ジャスミンの香りが立ちこめられている部屋に入ると、そこにある踏み石が並べてある道の上を歩く。
  • 上部から流れる青い照明の下にある、その道を歩いていくと、 横には鯉が泳ぐ池が見える。
  • スキャナの中にはカヌー・ボートが置かれており、子供たちは 「池の中から鯉が飛び跳ねるかもしれないから、この中に横たわって動かずじっとしていてね」と聞かされる。

 

4. プロトタイプ

このジャングル・アドベンチャーのデザインが導入されたとき、それまで嫌がっていた子供たちが、自分から進んでスキャナの中に入っていくようになりました。
機能的には全く同じスキャナですが、ユーザーである子供達の経験は劇的に変わりました。スキャナの中でじっとしていなければならない間も、「一体自分には何が起こるのだろう」という恐怖と不安から 「いつ鯉が池の中から飛び出してくるのだろう」という期待と喜びに変わったからです。

ダグさんは、新しいユーザー経験をデザインすることで【恐怖と苦痛】を【期待と冒険】に変身させたのです。

5. テスト

ジャングルアドベンチャーに続き、ダグさんは海賊アドベンチャーや珊瑚シティ、コージー・キャンプなどというデザインを創り出し、それらも大成功させました。どちらも根底にあるコンセプトはジャングル・アドベンチャーと同じですが、各自のテーマに合わせて、以下のような独自の工夫がなされました。

海賊アドベンチャー

「海賊アドベンチャー」

  • スキャナを船と見立てて内部に操舵装置するためのハンドル、外部には海を見立てた池のようなものを設置。
  • ティキ像があり、ピナコラーダなどの飲み物が入ったグラスが置いてある南国のバー風のインテリア。
  • 子供達は入室するときに海賊の帽子を渡され、看護婦さんは全員海賊の衣装を着ている。

珊瑚シティ

珊瑚シティ

  • ディスコのミラーボールの白い照明を利用し、泡のように見せる。
  • 海中にいるような感覚を生み出すための光を落とした照明。
  • ハープの音楽。
  • スキャナを黄色い潜水艦のように見せるようなヴィジュアルデザイン。

コージー・キャンプ

コージー・キャンプ

  • 天井や壁一杯に星が輝いているようなヴィジュアルデザイン。
  • テントに見立てたスキャナの中に、子供達が入る寝袋を設置。

まとめ

これら新デザインのスキャナを導入した結果、ユーザーである子供達の経験は「怖くて恐ろしいもの」から180度変わった「楽しくてワクワクするもの」に変わりました。
その結果、鎮静剤を使う子供の数は激減し、子供が嫌がらないために時間や労力も短縮され、ユーザーである子供や、その家族の精神的負担を減らしただけではなく、病院側の利益も大幅に上昇しました。まさに相乗効果でウィン・ウィン(Win-Win)ですね。

再デザインの効果

これらの新デザインが大成功を収め満足していたダグさんは、あまりにも楽しかったので「明日もまた来たい」と泣く女の子を見て「自分のデザインは、いつもユーザーを泣かせてしまう」と苦笑いしました。

すると、その泣いている子供を見ていた病院のスタッフの人も、涙を流し始めたのです。
それを見たダグさんは焦り思わずその方に謝りましたが、その方はダグさんにこう言いました。

「いいえ、違います。私はあの子供を見て、何故自分が医療業界に入ったことを、今ようやく思い出したのです。私は技術的なことや、問題処理のためにではなく、ああいう病気の子供を助けたい、幸せにしたいと思ってこの業界に入ったことを、すっかり忘れてしまっていました。 大切なことを思い出させてくださって、ありがとうございます。」

さいごに

ダグさんは、これらの実体験について語られたあと、デザインに携わる全ての人に幾つかアドバイスを残しました。
以下は、それらを私が個人的に解釈し意訳したものをまとめたものです。

我々は、まず金銭的などの目的を重視してデザインし、【大切な意味】が、後からついてくると思いがちだが決してそうはならないんだ。
だから、初めから【大切な意味】のためにデザインしよう。そうすれば、必ず良い結果が出る。

あなたが何かをデザインしようとするとき、それを動かす鼓動は、ユーザーへの共感能力であるべきだ。

私が自分のデザインを評価するのは、数字ではない。ユーザーである子供やその家族の人生に「どれだけ良い影響を与えられたか」ということだ。私は子供や家族の苦痛を和らげることだけを考えデザインした。そして、彼らの経験が改善したことで、自然に病院側の利益も上がったんだ。

 

人間は感情に支配される生き物です。

これから、どのように時代や技術が変わっても、我々が人間であり続ける限り、お互いの【共感能力】は重要なもので在り続けると思います。これから一体どんな分野で、どんな媒体を通じ、どんな物を創り出そうが、お互いデザイナーとして、ダグさんが提唱するこの【デザインの鼓動】を常に感じ続けていたいものですね。