BtoBマーケティングは結局「なんかよさそうな会社」と思わせることが大事!?行動経済学の専門家・松本健太郎氏インタビュー

BtoBマーケティングは結局「なんかよさそうな会社」と思わせることが大事!?行動経済学の専門家・松本健太郎氏インタビュー

Mako Saito

Mako Saito

こんにちは、LIGのマーケターのまこりーぬ(@makosaito214)です。

みなさん、読書してますか? 私は正直なところなかなか読書タイムを確保できておらず自分をビンタしたいところなんですが、話題の本はかろうじて手にとるようにしています。今回なんと、最近読んでおもしろかった本の1冊である『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』著者・松本 健太郎さん(@matsuken0716に取材のお時間をいただけることに!!! マーケター大先輩取材シリーズ第13弾です!!!

株式会社JX通信社 社長室 マーケティングマネージャー 松本健太郎さん1984年生まれ。龍谷大学法学部卒業後、データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院で”学び直し”。その後、株式会社デコムなどでデジタルマーケティング、消費者インサイト等の業務に携わり、現在は「テクノロジーで『今起きていること』を明らかにする報道機関」を目指す報道ベンチャーJX通信社にてマーケティング全般を担当している。政治、経済、文化など、さまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とし、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌にも登場している。

松本さんの行動経済学の本のなかでは「この消費財はなぜ売れたのか」「この報道はなぜ炎上したのか」などなど、生活に身近な例がたくさん取り上げられているのですが……

「もっと日頃の業務に落とし込みたい!」という圧倒的なワガママから、行動経済学はBtoBマーケティングにどう活かせるのか? というテーマで突撃取材してきました!!! 全国のBtoBマーケターのみなさんは必見です。ぜひ、お楽しみください!

※ 行動経済学……合理的とは限らない、人間の意思決定を研究する学問。記事内でも詳しく解説いただいています!

行動経済学はBtoBマーケティングに活かせるのか?

まこりーぬ:松本さん、本日はお時間いただきありがとうございます! さっそくですが、大前提として行動経済学はBtoBマーケティングにも活かせるものでしょうか……!?

 

松本:BtoCはその場のテンションで直感的に製品サービスが購入される、一方でBtoBは企業間取引なのでしっかりと比較検討され自社に最適な製品サービスだけが導入される……って思われがちなんですけど、ぜんぜんそんなことないと思うんですよ。

人間は集団であっても合理的な判断をするとは限りません。深く調べることなく判断してしまう場面もたくさんあります。よってBtoCであろうとBtoBであろうと、人間を相手にしているのであれば行動経済学はマーケティングに活かせる、と思いますね。そうじゃなかったらきっとLIGさんもネタに振り切ったLPや記事なんて作っていないでしょう?

まこりーぬ:たしかに……! 弊社まさに非合理的なアプローチをしている代表例ですね……!(汗)

行動経済学の観点からBtoBマーケティングを語る

「きちんと説明すればわかってくれる」というスタンスは悪

まこりーぬ:実際に行動経済学的にも有効といえるBtoBマーケティングの例を教えていただけないでしょうか?

松本:この取材シリーズを読まれている方に馴染みのありそうな例でいくと、WACUL垣内さんがおっしゃる「LPは情報をたくさん盛り込むより、ファーストビューからコンバージョンに直行させることがなにより重要」というお話は行動経済学の観点からもその通りだな、と思います。

ダニエル・カーネマン著の『ファスト&スロー』という書籍にもあるように、人間はほとんど「ファストモード」、つまりあまり深く考えずに物事を見ている状態なんです。それは当然仕事中、情報収集のためにLPを眺めているときも同じです。業務時間中ずっと「スローモード」で真剣に物事を考えていると脳がおかしくなってしまいますからね。この人間の性質を踏まえると、LPをパっと見て「なんかよさそう」とすぐに資料請求ボタンをクリックする行動にもより納得できるのではないでしょうか。

※ ファストモード / スローモード……ファストモードとは直感的で早い思考。つねに無意識に働いている。スローモードとは、論理的で遅い思考。ファストモードでは処理しきれず熟考が必要なときに働く。

松本:これはつまり「きちんと説明すればわかってくれる」というスタンスでおこなうBtoBマーケティング施策は総じて失敗しやすい、ということでもあります。大量の情報が盛り込まれたLPや営業資料は、誰も読まないと思ったほうがいいですね。

まこりーぬ:垣内さんがデータに基づき提言されている内容を新しい視点で見ることができて非常におもしろいです! ……「なんかよさそう」というキーワードが飛び出ましたが、これを実現するためには具体的にどうしたらよいでしょうか?

松本:有名で信頼が厚い人や企業から推薦してもらうことは1つの手ですよね。わかりやすい例でいうと「IKKOさんオススメの化粧水」みたいな。これってなんの根拠にもならないんですが、「IKKOさんが言うなら間違いなさそう」ってみんな思うじゃないですか。

結局のところ、物事を0から10までしっかり調べようとするとしんどいし、時間も足りない。人間はできるだけ思考をショートカットしたいんですよ。よって自分にとって身近な情報やすぐに思い浮かぶ知識だけで判断してしまう傾向があります。これを「利用可能性ヒューリスティック」と呼びます。

まこりーぬ:たしかに……! 導入事例コンテンツがBtoBマーケティングで有効とされるのも、利用可能性ヒューリスティックの観点で正しいと言えるのかな、と思いました。

松本:そうですね、導入事例は「同調バイアス」も絡んでいると思います。人間は大勢が選んでいる選択肢に合わせようとする傾向があります。選択することに対して担当者が不安な場合はとくにそうですね。他社が導入している=安心を得られるということなんでしょう。

まこりーぬ:なるほど。徐々に行動経済学が日頃の業務に活かせそうな気がしてきました!!!

プロダクトを売る会社ではなく、仲間だと思われるポジションをとる

まこりーぬ:現在松本さんはJX通信社のBtoBマーケターとして活躍されていらっしゃいますが、実際に行動経済学の知見を取り入れた施策は実行されているのでしょうか?

松本:実はまだなんですよ。というのも、JX通信社のBtoBマーケティングがちゃんと立ち上がったのは本当に最近の話なんです。私が2020年3月に入社した直後、新型コロナウイルス感染症の流行にともない弊社のニュース速報アプリ『NewsDigest』がめちゃめちゃダウンロードされまして。しばらくその対応に追われていました。ここ1〜2ヶ月でようやくBtoBマーケティングの基盤を整えることができたので、これからいろんな施策を打っていきたいと思っています。

まこりーぬ:そうだったんですね。これから挑戦しようと構想されているもの、可能な範囲で少し教えていただけませんか?

松本:「内集団バイアス」はうまく使っていこうと考えています。自分が所属している集団には好意的な態度をとる傾向のことですね。

我々のBtoBサービスの営業対象は企業の防災担当者という、非常に限られた職種の方々です。少ないからこそ社外の横のつながりを欲しているんですよね。そこで「その立場大変ですよね。でも私たちがいるから大丈夫ですよ!」と共感し、サポートしていく。プロダクトを売っている会社ではなく、仲間だと思ってもらえるようなポジションをとっていきたいと考えています。

まこりーぬ:顧客あるいは見込み客のコミュニティ化も行動経済学上よい施策といえるわけですね。参考になります!

人を動かすカギは「信頼の量」を増やすこと

まこりーぬ:マーケターの仕事の一つは社内を動かすことだ! ともいわれていますが、もしかして行動経済学は社内調整にも使えるのではと思いました。松本さん的にはいかがでしょうか?

 

松本:社内を動かす、つまり人を動かすためには信頼を得ることが大事だと思いますが、人間って最終的に「信じる」「信じない」「留保する」といういずれかのスタンスをとるんですよ。ポイントは、一度「信じる」にガチャッとレバーが入ると、たとえ論理的に間違っていることであっても簡単には意見を変えないという点です。「信念バイアス」ともいえますね。よって大切なのは、どうしたら相手がまず信じてくれるのかを観察して、積極的に働きかけることだと思います。

まこりーぬ:信頼のレバー……! そのレバーがガチャッと入るきっかけは人それぞれなのでしょうか? なにか共通点はありますか?

松本:人によりけりではありますが、「行動を積み重ねて信頼の “量” を貯めること」は共通点といえるかもしれません。たとえば、まこりーぬさんは取材活動を続けることで信頼のレバーを自分へと引き寄せていらっしゃるじゃないですか。まさに行動の積み重ねの結果ですよね。きっと100回に1回ぐらい自分に有利な発言をしたとしても、バレないと思いますよ(笑)。

まこりーぬ:なんと! 恐縮です!(涙) 信頼の量を増やし人を動かすことって、社内調整に限らず営業やマーケティングの現場においても大切ですね。「なんかよさそう」と思ってもらうことにも直結しそうです!

行動経済学で人の心はどこまでコントロールできるのか

まこりーぬ:いろいろとお話うかがってきましたが……行動経済学の知識がつくとよくも悪くも人々の意思決定をコントロールできてしまうのではないか、と思ってしまいました。若干悪いことをしているような気分になるのですが、一体マーケターはどのように行動経済学と向き合うべきでしょうか?

 

松本:行動経済学や認知心理学、認知療法全般にいえることなんですが、相手をコントロールできるっていう前提には立っていないんですよ。

人間って基本的に認知が歪んでいる生き物です。四角を四角として見れない、丸を丸として見れない。行動経済学とは、その人間の歪みをただすのではなく「歪みを理解する」学問です。また、行動経済学には「ナッジ」という言葉があります。歪みを理解した上でひじでポンポンとつつき相手に行動を促すっていう意味なんですが、これが非常に大事だと思っています。

AとBという選択肢において相手にはAを選んでほしいと思っている場合、絶対にAを選ぶようコントロールはできないが、Aを選びたくなるようなアイディアを出して働きかけることはできる。そんなイメージですね。

まこりーぬ:なんだかモヤッとしていた気持ちが晴れました、ありがとうございます! あくまで相手の行動はコントロールはできず、促すという視点なんですね。

BtoBマーケターに必要なスキルは……とくになし!

まこりーぬ:取材もあっという間に終盤です。エンジニアにデータサイエンティスト、ブロガー、マーケターとあらゆる職能を横断している松本さんが考える、BtoBマーケターに求められるスキルやマインドを教えてください!

松本:難しい質問ですよね。少なくとも、スキルはとくにないなと感じました。僕からまこりーぬさんに質問なんですが、なんでみんなそんなにスキルを気にするんでしょうか?

まこりーぬ:えっ……!? 当たり前のように気にしていましたね。就職活動で問われるポイントですし、「このスキルが足りない」「このスキルを伸ばしたい」といった発言をよく耳にするからですかね……?

松本:マーケターでもライターでもエンジニアでも、なろうと思えばこの瞬間から誰でもなれるじゃないですか。note書けばライターだし、手順通りコードかけばエンジニアですよ。……本当に気にしないといけないのって、スキルではなくて実績ですよね? どんなスキルを持っていたとしても、結局は勝つことが大事です。スキルは、勝負を積み重ねていくなかで結果的に身につくものだと思いますね。

まこりーぬ:なるほど、スキルを気にすること自体を疑ったことがなかったです……。スキルがどうであれ実績が大事、おっしゃるとおりですね。精進します!!!(涙) マーケターが持つべきマインドのほうはいかがでしょう?

 

松本:「バランス感覚」なんじゃないかなと思いますね。具体と抽象を行き来する、主観的にも客観的にも見る、固定観念は理解はするけど持たない……みたいな。バランス感覚がめちゃめちゃ大事な職業な気がします。

まこりーぬ:いろんなバイアスがあることを深く理解されている松本さんだからこそのご回答ですね。そのバランス感覚って、身につける方法はありますか……?

松本:「引き出しを増やす」と表現してしまうと経験値の多い年上が有利になっちゃうので嫌なんですが……そうですね、自分の脳内でたくさんの登場人物を作ったらいいのではないでしょうか。

たとえば先日ユニクロの『+J』シリーズが大行列になるほど人気だったじゃないですか。「お前らそんなにジル・サンダー好きちゃうやろ!」と突っ込む自分もいるし、「なんでこんなに売れてるんやろ?」って知りたい自分もいる。「なぜヒットしたのか分析する的なコンテンツが出てくるんやろうな」みたいな自分もいます。頭の中でいろんな自分が登場して、会話し合って、バランスをとっていく感じです。

まこりーぬ:脳内に小さい松本さんがたくさんいるんですね(笑)。たしかにそのトレーニング方法だとイメージがしやすく、すぐに実践できそうです! 松本さん、本日は貴重なお話を本当にありがとうございました!!!

さいごに

BtoBマーケティングは結局「なんかよさそうな会社」と思わせることが大事!? ……というタイトルにてお届けしましたが、今回の取材を通じて私が学んだことはこちらです!

  • 人も企業も合理的な判断をするわけではない。非合理的な意思決定の理由を行動経済学の観点から理解すれば、行動を促しやすくなる。
  • “なんかよさそう” と思ってもらうためには、信頼ある人からの推薦や日々の行動やコミュニケーションの積み重ねが重要。 “なんかよさそう” な状態は一朝一夕には作り上げることができないが、もし作り上げることができれば強固な武器となる。

私自身もしっかりと行動を積み重ね、実績と信頼の量を増やしていきたいと、改めて気持ちが引き締まった取材でした。

以上、まこりーぬがお届けしました!



おまけ「松本さんがこれからチャレンジしたいこと」

まこりーぬ:松本さんがこれからチャレンジしたいことを教えていただけますか?

松本:『ヒルナンデス!』に出て飯ロケしたいですね。それかフワちゃんと一緒に無人島脱出したいです。

まこりーぬ:え!?!?(笑)

松本:僕がめっちゃ本を書いている理由は、いつかテレビに出たいからなんです。冷静に考えて「本を出す」という行為って本当に割に合わないんですよ。こんなに苦しく悲しい思いをしているのに印税これだけ!? って。でも今度こそ本が売れたら『世界一受けたい授業』に出れるかも、あわよくば『情熱大陸』や『プロフェッショナル』に出れるかも、って思っちゃうんですよね。つまり僕はただミーハーなんです。

おかげさまで先日本の発売を機に業界の著名人である足立光さんや田端信太郎さんともイベントで共演できました。田端さん、30分遅刻して登場しましたけどね。これ、しっかり記事に書いといてください!(笑)

まこりーぬ:承知しました!(笑) 松本さんがテレビ出演される日を楽しみにしてます!!!

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Mako Saito
Mako Saito LIGブログ編集長 / 人事部長 / 齊藤 麻子

1992年生まれ。2014年九州大学芸術工学部卒業後に採用コンサルティング会社へ新卒入社。法人営業から新規事業推進、マーケティング業務に従事したのち、2018年にLIGへ。2023年にLIGブログ編集長、2024年に人事部長に就任し、現在は自社のマーケティング・人事業務を担う。副業ではライターとして活動中。あだ名は「まこりーぬ」。著書『デジタルマーケの成果を最大化するWebライティング』(日本実業出版社)

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