気がつけば、ビジネス書や実用書ばかり読んでいませんか?
自分を育てる本はとっても役に立つけれども、そればかりじゃ疲れてしまうもの。仕事に疲れたあなたのこころにほんの少しのゆとりと、明日を生きるささいなヒントを与えてくれる読み物(小説、漫画、エッセイ、Webサイトetc……)を、ご紹介します。
今回のテーマは「日々を生きるための食事について」。
生きている限り、わたしたちは食べることから逃れられない。どんなに暇でも忙しくても、お金持ちでも貧乏でも、食べること、食べるための時間は平等にやってくる。
新型コロナウィルス感染症が世界中に蔓延して、緊急事態宣言で夜の飲食店が閉ざされて、外出できなくなってしまっても、わたしたちは食べることをやめることはできない。
Twitterでは昼時になると「お昼ごはん」という言葉がトレンド入りするようになった。お昼ごはんが大炎上していたり、大フィーバーしているわけではない。その他のあらゆる楽しみを失って、生きることに集中しないといけなくなったわたしたちは、避けられない食事に対して執着し始めた。
1日3食という限られた回数の中で、どんな命をいただき、なにを食べるのか。
ときにそれは豊かで丁寧で、そして、それはときに不完全だったり、粗雑だったりもする。そういった、生活や生きることによりそった食事についてを描く読み物を紹介します。
『忙しい日でも、おなかは空く。 』 平松 洋子
自分だけのためにも、先手を打っておくとずいぶん楽になる。予測をつけて、さっさと先回り。あとであたふたする可能性を自分でなくしておくのである。これもまた、ひとつの知恵ですね。
さて、そこで冷やしなすである。「冷やしなす 先手を打つ」『忙しい日でも、おなかは空く。 』 平松 洋子(文藝春秋)
3ページ程度のエッセイとささいなレシピで構成されたこの本は「忙しい日でも、おなかは空く」わたしたちに、ただただ美味しそうという食欲だけでなく、日々を生き抜くためのヒントを与えてくれます。共感力1000%のタイトルに、赤べこのごとき頷きが止まりません。
この本に出てくる食べ物は、塩トマトや梅干し湯、ささみだしのスープなど、ほんの少し食材に手を加えただけのささいな食べ物。ついつい台所に向かってみようかな、という気持ちになってきます。
忙しくて食事をとることさえも億劫なあなたにおすすめしたい1冊です。
マガジンハウスのファッション雑誌『GINZA』で連載中の「小さな料理 大きな味」もおすすめです。わたしのおすすめは『疲れたときのオマジナイ にらの味噌汁。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.15』
素材がクローズアップされたエッセイは、スーパーに行きたくなっていまいますね。「GINZA」の公式ウェブサイト(https://ginzamag.com/)から読むことができます。
『一汁一菜でよいという提案 』土井 善晴
暮らしにおいて大切なことは、自分自身の心の置き場、心地よい場所に帰ってくる生活のリズムを作ることだと思います。その柱となるのが食事です。一日、一日、必ず自分がコントロールしているところへ帰ってくることです。
それには一汁一菜です。一汁一菜とは、ご飯を中心とした汁と菜(おかず)。その原点を「ご飯、味噌汁、漬物」とする食事の型です。
「食は日常」『一汁一菜でよいという提案 』土井 善晴(グラフィック社)
「一汁一菜」ブームを巻き起こした、テレビや雑誌でもおなじみの料理研究家・土井善晴さんのエッセイ集。「この本は、お料理を作るのがたいへんだと感じている人に読んでほしいのです。」と、土井善晴さんは、この本のはじめに、わたしたちに語りかけてくれます。
仕事が忙しい、夜遅くまで働いているので時間がない、子育てに疲れてしまった、料理をするのが苦手だから、献立を考えるのが難しい、野菜をたくさんとらないと――。
昔の庶民のくらしでは、おかずがつかないことも多かったから、実際には「みそ汁、ごはん、漬物」だけの一汁一菜でもなんら問題はないはずなのです。ごはんとみそ汁を作り、みそ汁を具だくさんにすれば、それで充分「一汁一菜」なると土井善晴さんはわたしたちを諭してくれます。
いつしかわたしたちは、なにものかに強制されるように、そうであらねばならないと義務感を感じ、料理をすること、食事をたべることを不自由にしてしまった。そんな不自由な呪いから、自分を解き放つために、おすすめの一冊です。
『わたしを空腹にしないほうがいい 改訂版』くどうれいん
あなたは今日何を食べましたか?どんな味がして、どんな気持ちになりましたか?生きている限り必ずお腹がすいてしまうことを、なんだかとっても不思議で可笑しく思います。
菜箸を握ろう。わたしがわたしを空腹にしないように。うれしくても、寂しくても、楽しくても、悲しくても。たとえば、ながい恋を終わらせても。
「芍薬は号泣するやうに散る」 『わたしを空腹にしないほうがいい 改訂版』くどうれいん(恵文社)
誰にでも、どうしても元気がないので自分を蘇生するために、心身労力を一生懸命注いで自分のために菜箸を握ったことがあるのではないでしょうか。わたしたちは生活の中でなにかを感じて、いろいろ気持ちになり、――とくにひとりで生きているわたしたちのような独身の若い世代は、自分のために菜箸を握る。
あの日、あの時、あの頃の思い出と、そのときに食べた食事。
日記形式の、1遍1〜2ページ程度のささやかなエッセイ集。お湯を沸かしたり、レンジで食べ物をあたためている間におすすめの一冊です。
一般流通していないので、セレクトショップやブックストアで購入できます。京都に思い入れがあるのでこの改訂版の版元になった恵文社のリンクを貼っておきます。
また、新しいエッセイ集も最近発売されました!
『うたうおばけ』(書肆侃侃房)という本で、こちらの本はわりかし一般流通しているので、Amazonなどで購入できます。書肆侃侃房の公式noteでも少し読めるようなので、ぜひ読んでみてください、
『舞妓さんちのまかないさん』小山 愛子
―たまたまどこも休みでお弁当買うてこれへん日があって。けどもう皆、食べとおない言うしごはん抜きでええかとなったら… キヨが。ーーああ、その16歳の子「キヨ」ゆうんどすけど。
―うん。
―ささーっとうちにあるもんで、こしらえてくれはったんどす。親子丼を。
―ほお。それが外で食べるより絶品やったんかいな。
―や、普通どした。こっちの味やないし、特別なもんもなんも入っとらん…普通の親子丼なんどすけど、なんや、あの時みんなほっとしたんどす。
第2話 まかないさんは16歳『舞妓さんちのまかないさん』小山 愛子(小学館)
舞妓さんは、わたしたちが当然のようにしている「ふつうの生活」というのができない人たちです。曲げのゆっている間は、町中のファンシーショップや洋服屋さん、ゲームセンター、カラオケ店には入れない。花街では家庭を思い出させる食べ物であるカレーライスが食卓に出されることはない。少し散歩をしたくても、舞妓であるという視線が常に彼女たちにはつきまとう。
そんな彼女たちにとって、働くこと、日々の暮らしのオアシスは「日々の食事」。視線から守られ、彼女たちが唯一気をゆるめられる家庭での1日3食の食事とおやつや夜食は、彼女たちが舞妓であることを忘れて、ありのままでいられる唯一の時間。
晩ごはんを楽しみに一生懸命舞妓の仕事をがんばったり、食べ物に目をキラキラ輝かせたりと、一喜一憂するすがたがすっごく可愛らしい。
そしてこのマンガのもうひとつのテーマは「誰かのための食事をつくること」。
今日は何を食べたいかな、あれ好きだよな、糖質は抑えたほうがいいかな、今日は疲れてそうだなとか。明日は休みだからにんにくをいれようか、とか。
誰かに作ってもらうごはん、食卓に並んだ食事のうしろには、さまざまな思惑がかくれている。誰かにごはんをつくってもらえるということは、誰かに思われているということだということにも気づかせてくれる。わたしのイチオシの一冊です。
さあ今日も、誰かのため、そして自分のために、
励まし、元気付け、なぐさめ、勇気づけるための、ごはんをつくろう。
以上てらみ(@teramin_min)がお送りしました。
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