
残業問題で会社を訴えることはできないの?社会保険労務士に正解を聞いてみた。
最後に愛は勝つ! 社会保険労務士の勝山です。
労働法とか労務関係の法律って難しいですよね。分からないことは僕に聞いて解決するのが一番です。
当連載「なるほど労務」では皆さんからいただいた質問に対し、社会保険労務士としての見解、アドバイスを加えてできるだけ分かりやすくお答えしてきました。
そんな当連載も今回で最終回となります。たくさんの方にご愛読いただき、社労士冥利に尽きる想いでした。本当にありがとうございます。
またここに帰ってこられるかどうかは、スポンサーであるソニーネットワークコミュニケーションズの来季の予算次第となります。果たしてどうなるでしょうか。
…さて、連載を締めくくる最後の質問はこちらです。
勝山さん、初めまして。
残業に関しての質問です。
私の職場では月40時間のみなし残業代が給料に含まれる労働契約となっておりますが、40時間超過の残業代が支給されません。
他の社員も疑問に思いながらも黙っている状態です。
これは普通のことなのでしょうか?
ご教授願います。
ひぇ〜、最後にイカツイのきたぁ〜
これは日本の労働社会の闇だね。闇を垣間見た! 実際こういう問題で悩んでいる人は多いんだろうなぁ…。
では早速、質問の内容にお答えします。
そもそも「みなし残業」とは造語で、労働基準法には存在しない言葉なんです。
その言葉は、「みなし労働時間制」と「固定残業制度」という2つの制度に由来していると考えられます。
また、「(専門業務型/企画業務型)裁量労働制」もみなし労働時間制といえる。これは、業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる一定に業務に携わる労働者について、労働時間の算定を実労働時間ではなくみなし時間によって行うことを認める制度。
さて、実際に巷で使われている「みなし残業」という言葉ですが、「固定残業制度を別の言葉に言い換えたもの」というニュアンスに近いです。「みなし労働」という言葉があるために、「みなし残業」という造語が生まれたと考えます。
固定残業制度を導入すると、「実際に残業してようがしていまいが、あらかじめ定めた残業時間分の手当が支払われる」ということになりますので、言葉のイメージから誤解を生みやすいのかなと思います。
そして、今回の質問者さんが置かれている状況は「お給料の中に予め固定残業代として40時間分の残業手当が含まれる、という雇用契約を結んでいる」ということになります。
これ自体は、「会社がそう定めて、かつ質問者さんをはじめとした従業員の方々は了承した上で雇用契約を結んでいる」ので、契約自体に問題はないものと思われます。(ただし、基本給の中に含まれるような契約の場合は要注意!)
問題は、40時間を超えて残業した場合です。40時間以上の残業については固定残業時間”外”の話になるので、契約している以上の勤めをしていることになります。すなわち労基法上、残業代は、当然追加で発生します。
先に結論だけ言いますと、質問者さんの状況は単純に残業代の未払いが起きているということになります。
未払い、ダメ。ゼッタイ!
質問者さんの同僚の方も「疑問に思いながらも黙っている」ということですが、なぜ未払いで済まされているのに黙っているのか? という話です。
いやぁ、それはね、言いにくいっていう感情もわからなくはないけどねぇ…。
みなし残業(固定残業制度)自体は、働き方や評価の仕方が様々になっていく中で生まれた社会的な制度なので、特に問題ありません。ただ、賃金の未払いに関しては明らかな法律違反です。
みなし残業代(固定残業制度)自体は、法律上も適法であるとされています。労働時間の適正な管理も進み、働き方や評価の仕方が様々になっていく中で生まれた制度なので、会社運営の一つ形ではあるわけです。
ただ、賃金の未払いに関しては明らかな法律違反。法律上、完全にアウトです。
たとえばこれが残業代ではなくて「いつものお給料が今月払われないんです」ってことになったら、みなさん黙っていますか?
…恐らく抗議しますよね。根本は同じことなんですよ。
働いたんだからその分の対価をください! っていうのは、労働者として当然の権利です。
このような状況に置かれた場合、まずは、お給料を出してくれるところ=会社に抗議をするのが筋です。労務に関する相談窓口があるならばそこへ、無い場合は、上長に相談してみましょう。
いきなり「訴えてやる!」といった法的手段に出るのは社会人としてちょっとナンセンスなので、まずは当事者である会社に対して、「超過分の残業代が支払われていないんですが…」と、交渉することです。
過去のなるほど労務シリーズでも、そのような問題を取り上げた回がありました。
残業問題で会社を訴えることはできないの?社会保険労務士に正解を聞いてみた。
ただし、それでも改善が見られず、事態が深刻になってしまった場合には以下の2つの選択肢があります。
一番シンプルなのは、労働基準監督署に相談することです。
労働基準監督署には、法律違反の可能性がある事業者や労働者に対して監督・指導を行う責任があります。そして、事業者・労働者共に労働基準監督署に相談をする権利があるのです。
質問者さんが労働基準監督署に相談する場合、口頭で説明するだけでは根拠に欠けるので、出退勤の記録が残る帳簿や給与の明細書など、客観的に未払いが証明できるものを持って相談窓口にいくことをオススメします。
違反だと判断された場合には、労働基準監督署が事業者に対して速やかに是正勧告を行いますので、改善が図られる可能性は高いです。
全国社会保険労務士会では、“職場のトラブル相談ダイヤル”というのを実施していて、「労働者・経営者双方の話し合い」をもって和解解決を目指しています。労務のプロである社労士に相談するのも手ですね。
こちらに連絡すると、特定社会保険労務士が裁判に頼らず“あっせん”制度を利用した解決を目指すので、仮に企業に顧問の社労士がおらず適正な労務管理が出来ていない場合でも、経営者の方との間を取り持って話し合いでの解決に誘ってくれるかもしれません。
その道のプロに言われちゃあ、普通なら改善せざるを得ませんもんね。これは使える裏技かもしれない。
裏技? 裏技なのかな?(笑)
今回のケースのように未払いが起きていようがいまいが、世間ではみなし残業をさせる会社=ブラック企業といった捉え方をする人も多いです。でも、これには少し誤解があるんじゃないかなと思っています。
勝山、その誤解を解きたい。
もし、みなし残業をさせずに残業時間を厳密に計算するようにしたら、会社としては何がなんでも所定労働時間内にパフォーマンスを求めざるを得なくなります。
たとえば、LIGさんみたいな会社なら特にそうですが、休憩時間も厳密に管理されるようになり、自由な発想を生み出す働き方がどんどん失われるはずです。
休憩時間外にSNSを利用したり、息抜きにゲームをしたり、いきなり社員同士で髪を切りあったり、筋肉トレーニングをしたり、といった面白いカルチャーが廃れてしまう可能性が高いのです。
また、会社からすると「残業によって毎月の人件費の支出に波がある状況」よりも、「固定残業代を支払うことで予め月々の人件費がある程度わかる状況」の方が安定します。
給料の計算もしやすくなるし、細かい残業命令(指示)を出さずに個人の裁量で仕事を任せることができたりと、合理的なことも多いんです。
なので、個人的にはみなし残業自体を悪だとは考えていないんです。
…問題なのは、「みなし分までは所定労働時間を超えて働かなきゃいけない」「働いて当然だ」という認識の人が増えてしまっていることです。
みなし残業がある会社は「固定残業手当をあらかじめ給与に含んだ方が合理的」という判断をしているだけです。所定労働時間+みなし分働くことが労働者の義務というわけではありません。
なので、仕事が終わったら定時でサクッと帰ればいいんですよ。
ただねぇ〜
一番ややこしいのが、労働者側はそういう認識でいても、現場のマネージャーが「みなし分までは働いて当然だ!」って考えになってしまっていることが最近本当に多いんだよ……
「みなし分を含めたこの時間まで、自分は部下を使うことができる」っていう間違った発想ね。
特に現場を預かっているプレイングマネージャーなんかだと、このあたりの線引きができていないことが多い。その判断が難しいことは理解できるんだけど、互いにコミュニケーションを取り合って、健全な環境になるといいよね。
それでは、今回の質問に対する回答をまとめると、
みなし残業時間を超えた分の残業代が支払われないのは、「賃金の未払い」と同じで違法です。
まずは会社と話し合って、正当な報酬が受け取れるように交渉をしてみましょう。
働いた分はきちんと受け取る。これすなわち、労働の基本なり!
以上、参考になりましたか?
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