承認欲求モンスターたちを金属バッドで……『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』


こんにちは、外部ライターのかんそうです。
さて、人間というものは皆「承認欲求」を持っています。自身を表現したいと考えている人間と、承認欲求は切っても切り離せないものです。誰かに認められたい、もっと知ってもらいたい、そんな想いが大きくなればなるほど、それは表現者にとってプラスにもマイナスにもなり得ます。
本日ご紹介するのは、そんな承認欲求モンスターの僕たちを、金属バットで正面から思い切り殴りつけてくるような漫画『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』です。
本日紹介する漫画:『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』
カフェでよくかかっているJーPOPのボサノヴァカバーを歌う女の一生 (SPA!コミックス)
表紙からただならぬ雰囲気を醸し出すこの作品、タイトルのとおり、『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』をはじめとする、短編集になっています。
人は夢を持つとそれを誰かに語りたくなるものです。例え、それが身の丈と合っていないものでも、その夢を語っているときだけは、まるで自分が才能あふれる天才にでもなったかのような錯覚に陥ります。
各々の話に登場するキャラクターたちは、カバーバンドのボーカル、お笑いマニアで芸人志望のフリーター、空の写真とBUMP OF CHICKENの歌詞ばかりをアップするアメーバブロガー、自主制作フリーマガジンの編集者など、大きすぎる夢を追い求めて生きている若者。彼らは強すぎる自意識ゆえに、しだいに周囲から孤立していき、最終的には理想と現実のギャップに打ちのめされていきます。
個人的に一番思い入れのある話
「ダウンタウン以外の芸人を基本認めていないお笑いマニアの楽園」という話は、主人公・栗田の一挙手一投足にイラッとさせられるたび、ブーメランとなって自分自身に突き刺さりました。
栗田はダウンタウンが好きでダウンタウンの笑いを理解している自分は人よりもお笑いのセンスがあると勘違いし、
「いまのボケでしょ! ツッコんでよ!」
「せっかくいまダチョウさんのネタできたのに…」
と、周囲にもいわゆる「芸人ノリ」を強要します。そして大好きなダウンタウンについて話が及ぶと、その知識をものすごい早口でベラベラとまくし立て周囲を思い切り引かせてしまうのです。
僕自身、お笑い芸人さんのネタを観ることが凄く好きなので、もしかしたら知らず知らずのうちに栗田のようになっていたのではと思うと、人と接することが怖くなりしばらく布団の中で震えました。
まとめ
本作は、必死で、痛々しく、みっともない登場人物たちの姿に哀れみの感情を抱きつつも、いつのまにかどこか在りし日の自分と重ねてしまう作品です。
特に文章を書くなど、創作活動をする人間にとっては、目を覆いたくなるような描写が盛りだくさん。途中で読むのを断念してしまう、という方も多いでしょう。
しかし、だからこそ目をそらさずに最後まで読んでもらいたい、いや! 読まねばならない作品だと思います。きっと伸びきった僕たちの天狗の鼻を思い切りへし折ってくれることでしょう。
「クリエイター」「アーティスト」の心にズカズカと土足で入り込むような漫画『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』。
一つのことに熱中するあまり、周りのことや自分自身のことさえ全く見えなくなってしまう。気持ちだけが先行して暴走気味になりそうとき、読み返したい漫画です。
とりあえず僕も「PVばかりを気にするブロガーの一生」にだけはならぬよう、気をつけたいと思います。それでは。