『孤独のグルメ』の本当の見所
主人公・五郎は食に対して貪欲だ。グルメに対する美意識は人並み以上だ。だが、この漫画の見所はそこではない。
本当の見所は、五郎のコメント力の「低さ」だ。グルメ漫画に必須の「味を伝える」コメント能力が、五郎には致命的に欠けている。
注目すべき五郎のコメント力
たこ焼きを食べながら、はふ……もぐもぐ……と頬張り、最後に「おいしいです、ほんとに、これ」という。
このあたりのコメント力の低さなんかは見事なものだ。
豚肉炒めライスを食べながら「小学校の土曜日に家で食べるお昼のようだ」という、いまいちキレの悪い微妙な比喩を繰り出したり。ウィンナカレーを食べての感想で「辛くて、味もなにもよくわからない」と言ってみたり。
……衝撃的なコメントだ。僕はこのシーンを思わず二度見した。「味を伝える」を主軸に置くことが王道のグルメ漫画において、「味を伝えること」を放棄する五郎。衝撃的だ。恐ろしい漫画である。だが、そこが最高に面白い。
ちなみにその回、最後は親戚の子供を暑いから全裸になって応援するという、もう何がなんだかわからない状況に。もはや感動的だ。
五郎は食べ続ける。ひたすらに食べ続ける。
食べ続けながら、「うどんの汁と、味噌汁と。……汁物がかぶったな」など、すごく「どうでもいいこと」を考える五郎。
コンビニの味噌汁のカップを眺め「ほほう、生味噌仕立てか」と、「どうでもいいこと」に感心する五郎。
「どうでもいいこと」に五郎はよく感心する、そして時に口に出す。
飯を食って、「どうでもいいこと」を言って、タバコをふかし、去っていく。(しかもその本人は、どこか誇らしげ)
それが、五郎だ。
まとめ
サブカル詩人のように「食」を語るが、言ってることは全然面白くない。だって、うどんを食べたあとのコメントが「あったまる」である。そりゃ、あったまるよなーと深い感動が心から湧いてきた。「切ない」。
こういう中年オヤジの味も素っ気もないコメントがじわじわくる。と同時に、「切ない」気分にもなる。ただ、そこが面白く、クセになる。
……あなたにぴったりの漫画かも知れない。
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ライター紹介:ドリー 25歳。自称ライター。 「引きこもり文化人」を名乗り、大学を中退後、4年間、引きこもり、Web上に「恨み辛み」を書き続けている。 ブログ:埋没地蔵の館/Twitter |
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