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#27
働き方インタビュー(経営者編)

「ジャパンクオリティーを超えていく」多国籍のスペシャリスト集団が日本で戦う理由| 株式会社マイトラックス

田中雅大

世界各国のソフトウェア開発者が集まり、2011年に創業した株式会社マイトラックス。もともとAndroid向けの楽曲管理ツールの開発から始まった同社は、今では歌詞スクロール付き音楽プレイヤー「music.jp」のほか、ヘルスケア系ソフトウェアの開発も進めるなど幅広い展開を続けています。

10ヵ国以上のスタッフが働く多国籍の職場では、英語はもちろんさまざまな言語が耳に入ります。同社で代表を務めるアドナン・アリ氏は英国人。「クローズドな日本市場だからこそ、チャンスがあると思った」というアリ氏の目には、日本のIT業界はどのように映っているのでしょうか。“外国人”であるために、創業当初に突き当たった壁と、事業に賭ける思いについて伺いました。

Poole:アイコン:マイトラックス様 人物紹介:アドナン・アリ氏
1967年、兵庫県神戸市で生まれ。1997年にハームステッド社(独国)へ入社し、ハームステッド・アジアを立ち上げ、NTTドコモ、電通テック、シンガポール・テレコム、香港テレコムといった企業などと提携、販売チャンネルを拡大。2000年にピクセル・テクノロジーズ(英国)へ入社し、2001年にピクセル・テクノロジーズ株式会社を設立。その後、ピクセル・ドキュメントビューアーの日本市場での成功を主導、国内搭載携帯台数は4,000万台を超える(全世界では4億台超)。2011年7月、株式会社マイトラックスを設立。

「海外企業の参入が難しいからこそ、橋渡しになれると思った」いきなりの音楽アプリの挑戦

マイトラックス様:記事02

前職はスコットランドに本社があるソフトウェア会社で働いていたアリ氏。その後、会社が買収されたことをきっかけに、当時のチームメンバーとともに日本でマイトラックスを設立します。なぜ日本市場を選んだのでしょうか。

アリ
ひとつは、私が日本で生まれ育ったため、カルチャーに馴染みがあったということ。前職では日本支部の責任者を務めていたので、マーケットの知識やパイプもありました。そしてもうひとつは、日本では携帯電話ひとつとっても、“ガラパゴス”といわれるほど独自の技術や嗜好性があり、海外企業の市場参入が難しかったこと。

日本市場の特殊性は世界中で知られていて、だからこそ自分が橋渡し的な存在として、やれることがあるんじゃないかと思ったんです。

また、声をかけたチームメンバーに対する信頼が大きかったことも、マイトラックスの設立を後押ししたとアリ氏は話します。

アリ
前職のチームメンバーはGoogleやAppleなどに転職した人も多く、みんな優秀だったんです。我々のチームメンバーは、エクセルなどのオフィスドキュメントを携帯電話で閲覧できるシステムを開発して、それが約4億台の携帯に導入された実績もありました。日本だけではなく、世界中の携帯に僕たちが開発したシステムが導入されたんです。

ですから「自分たちは、面白いものを作れる」という思いはありましたし、不安よりもワクワクしていましたね。

創業メンバーは5人、自己資金でスタートだったそうです。そんな彼らが最初に選んだのは、音楽アプリでした。

アリ
2011年当時、iPhoneにはiTunesがあったのですが、Androidには代表的な楽曲管理ツールがまだありませんでした。だから、Androidの人はiPodなどの音楽プレイヤーを別途で持ち歩いている人も多かったです。そこにビジネスチャンスがあると思って、ワンプッシュで使える楽曲管理ツールのソフトウェアを開発して、音楽配信業者などにライセンスの提供を行いました。

最初は実績ゼロですし、信用を得るのが難しい面もありました。でも、お客様先へ営業に行って、興味なさそうに「ああ、いいんじゃないですかね」って、ひと言で片づけられる段階から粘り強く提案しました。そしたら徐々にお客様が険しい顔になったんです。そのとき「これはチャンスがあるな」と思いました。

なぜかというと、相手の顔が硬くなるのは、当事者意識が芽生えてきたということ。だから無言で表情が強張っていくのをみて、「よし、いよいよ真剣に検討してくださっているな」と、手応えを感じました。

「お客様のために“ノー”と言えるかどうか」日本の商習慣にとらわれない姿勢

マイトラックス様:記事01

楽曲管理ツールの技術は瞬く間に業界内で注目を浴び、マイトラックスは設立からわずか8ヶ月でライセンス提供先であった株式会社エムティーアイの傘下として買収されます。大きなバックアップを得て順風満帆に思えた漕ぎ出しですが、「外国人であるがゆえの苦労は決してなくならなかった」とアリ氏は話します。

アリ
「ジャパンクオリティーは分からないよね」とか「トラブったときでも“5時だから帰ります”って言いそう」とか、妙な勘違いをされることはありましたし、残念ながら今でもゼロではありません。

自分たちと一緒に仕事をしているのに、弊社には日本人の社員が少なく、会社の規模がそれほど大きくないということで、親会社のエムティーアイとの契約を求められることもある。でも小さな約束をひとつひとつ守ったり、丁寧な仕事を続けたりすることで、国籍なんかは関係なく、信頼関係は徐々に構築できると学びました。

ひとつひとつ丁寧な仕事を続けることで、クライアントとゼロから信頼関係を築いていったマイトラックス。一方で、先方の条件を何も考えずにすべて引き受け、「単純に言われるがまま動くこと」は決してなかったそうです。

アリ
大切なのは、お客様に「ノー」と言えるかどうか。文化にとらわれない最善の道の選び方、と言えばいいでしょうか。海外で仕事をしてきた人と、そうでない人との違いかもしれません。

大きな話になりますが、とくに戦後、製造業が発展を支えた日本の文化は、お客様に対して失礼にあたるのを恐れ、絶対に「ノー」と言わないポリシーがあったと思います。それが大きなブレイクスルーを生んだこともあったでしょうが、双方向の提案や納期スピードが求められるIT業界の商習慣は、必ずしも結果は一致しないと思います。もちろんお客様と対等とまでは言わないですが、ビジネスをスムーズに進めるには、足並みを揃えて、ともに組む姿勢が大切だと思います。

一度引き受けたら責任を持って最後まで全力で取り組むのは当たり前。だからこそ大切なのは、簡単に約束をしないことではないでしょうか。

お客様の意見ばかりを聞いていると、「お客様は、やりたいことが見えなくなってしまうこともある」と話すアリ氏。マイトラックスの仕事とは、提案とともに本当に目指すべきポイントを絞って、まずカタチにすることだそうです。

アリ
まずは勇気を出して作ってみること。Googleも、まずはベータ版をローンチして、その後ユーザーの反応をみてブラッシュアップしたり、アップデートしたりしますよね。「予算を上げてくれたら人日も余裕ができて品質もアップする」というのは誰でも言えることです。まずは与えられた条件内でベストを尽くす。その決断力が、日本と海外の仕事に対する取り組み方の違いかもしれません。

「ジャパンクオリティーは分からない」と言われることがハングリー精神に火をつけた

マイトラックス様_記事00

スタッフの多くは母国語が異なるグローバルな職場で、取り組むプロジェクトもさまざまだそうです。コミュニケーションが希薄になってもおかしくない環境下で、アリ氏はどのように組織マネジメントをおこなっているのでしょうか。

アリ
ウチって、とにかくコミュニケーションを大切にしているんです。正確な人数やテーマが何も決まっていなくても、とにかく半ば強制的にMTGの予定を入れるようにしています。たとえそれが5分でも、メールやレポートと面談の影響力は格段に違います。プライドを持ってみんな仕事に取り組んでいるので。もちろんときどき熱い議論になることもありますが、言語の細かいニュアンスが100%通じ合ないからといって、話し合いを途中で止めることはしません。

あなたが私を説得するか、私があなたを説得するか。どちらかが納得をするまで解決すべき課題はとことん協議します。私が議論の相手になると、だいたい説得されてしまいますが(笑)

コミュニケーションは単純な業務連絡だけでなく、自由にアイデアも提案する。それが大きなプロジェクトにつながったこともあったそうです。

アリ
最近リリースした「Zepp Player」というライブエフェクトの音楽再生アプリは、スタッフとの会話から生まれたスクラッチ開発のプロジェクトでした。これは面白いと思って、スターテック株式会社さんと一緒に我々はまず先に試作を作ってから「こういうのがあります」といって株式会社Zeppホールネットワークさんのところに話を持っていったんです。その場で即決でしたね。ユーザーの反応も上々で、1回の平均プレイが30分前後と、ゲームアプリ以外では極めて長い方だと思います。

我々はスペシャリストの集団なので、受託開発だけでなく、そうやってゼロから仕様書を作って自分たちだけでカタチにできるのも強みだと思います。また海外スタッフとのやり取りも通訳を介さないので、技術的な共通認識も比較的スムーズ。多国籍な人的ネットワークだからこそ可能なそのスピード感も我々の武器ですね。

また働き方について、「プライベートと仕事との切り分けも徹底しているのが特徴」とアリ氏は話します。

アリ
もちろん進行が詰まっているときは深夜に及ぶこともあります。でも、それ以外は夕方定時に帰っている人もいますし、2〜3週間休暇を取って故郷に帰っているスタッフもいますね。いわゆる“寝てない自慢”というのはありません。

だから、新しいメンバーが入社すると「みんな夜になるとオフィスにいないんですね」って驚いてますね。僕も休めるときは「ちゃんと休め」と言っています。

では、マイトラックスが求める人材とは、どのようなものなのでしょうか。

アリ
チャレンジ精神がある人、物事を形にするという経験がある人、もしくは物事を形にしていきたいと思う人。率直にいうと、ウチに依頼される案件のなかには、ほかで断られたような難しいものもあります。

実務スキルは大切ですが、毎回内容も異なるのですべて応用が利くとは限らない。そういう局面で求められるのは、やっぱりチャレンジ精神や物事をつくりあげる創造力だったりするんですよね。ウチは多国籍でインターナショナルな日本企業だけど「外資系企業だからハードル高そう」とか、求職者にも変な思い込みは取っ払ってほしいです。

最後に、今後の展望をお伺いしました。

アリ
音楽アプリから始まった我々ですが、事業規模としては今ではそれ以外の部門が半分近くを占めています。ITは特定のコンテンツやジャンルにこだわるより、時代のニーズにあわせて対応していかなくてはいけない。だから、何かのオタクを必ずしも求めているわけではありません。

我々がやるべきことは、まずお客様の期待を超えるものを作る。そして、我々もともにワクワクできるようなものを作っていきたいですね。

多言語への対応などで、グローバル展開も進めているマイトラックス。国籍もバックグラウンドも違うチームに共通するのは、課題に対してベストを尽くそうとするチャレンジ精神です。また、そういった環境でこそ、国際水準のフィルターを通じて文化の垣根を越えたハイクオリティーな成果物が生まれるのかもしれません。


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