
『KINGSOFT Office』は、Microsoft Officeとの高い互換性をもちながらも、同製品よりも低価格で販売することに成功したオフィスソフトです。そして、中国のKingsoft Corporation Limitedのジョイントベンチャーとして設立されたキングソフト株式会社は、KINGSOFT Officeの開発と運営を担い、PCを軸としたオフィスソフトやセキュリティソフトの開発事業で大きな成長を遂げました。
また、今年で創業10周年という節目と共に第二創業期を迎えた同社は、アプリの広告事業やスマートフォン(以下、スマホ)のソリューション事業も展開しています。特に現在は時代の流れを見据えて「スマホ×広告」という事業に注力していますが、今後どのようにして市場に大きなインパクトを与えていくのでしょうか。今回は参入の鍵となるモバイル広告配信プラットフォーム『Cheetah Ad Platform』と今後の展望について、デザイナーの田口氏と広報の尾崎氏にお話を伺いました。
※ジョイントベンチャー:共同企業体といわれる。複数の企業が相互の利益のために共同で事業を行うこと。
引用元:ジョイントベンチャー
![]() |
人物紹介:田口 勝之氏 マーケティング事業部/部長代行。1980年生まれ、長崎出身。2007年にキングソフト株式会社に入社。Webサイト、アプリUIデザイン、パッケージ、映像など社内全般の制作の他に、マーケティング事業部の部長代行として全社的なプロモーションの統括も担当している。 |
---|
![]() |
人物紹介:尾崎 真弓氏 マーケティング事業部/マネージャー、広報・PR。1979年生まれ、大分県別府市出身。数社で広報業務の経験の後、2014年にキングソフト株式会社に入社。オフィスソフト、セキュリティソフト、スマホ向けアプリなどコンシューマー向け製品の広報PRとして、公式SNSでの情報発信、プレスリリースの作成、配信など担当。 |
---|
キングソフトは「セキュリティソフトやオフィスソフトの会社」というイメージを払拭していきたい
キングソフトの主力事業であるビジネスに関連したソフトの開発事業は、同社の知名度を上げることに貢献した成果物です。しかし、成功の背景には大きな課題が残っていました。
- 尾崎
- 今までは外部に対するブランディングがあまりできていませんでした。メディアの運営や広告事業も展開しているのですが、社外では「セキュリティソフトやオフィスソフトの会社」という印象をもつ方が多くて。
- 田口
-
あと、“セキュリティソフトやオフィスソフトの会社”というイメージが強いせいか「すごい堅い会社」と思われていたり。中国のKingsoft Corporation Limitedのジョイントベンチャーで成り立った会社が弊社なのですが、Kingsoft Corporation Limitedが5000人規模の組織なので「日本法人だけで1000人以上いますよね?」と言われることもあるんです。でも、うちは今でやっと83人くらいで(笑)その中で、デザイナーは僕を含めて3人しかいません。
本当にベンチャー企業なので、社内の人たちは「ベンチャーで働いてる」という意識は常にもっているんです。だから、企画から実行までPDCAを回すスピードは結構早いですし。
- 尾崎
- こういった従来のイメージを払拭することが、課題の1つになっています。
このように“従来のイメージを払拭する”ことを共通の課題としてもつ田口氏と尾崎氏。しかし、今まで従来のイメージを払拭するようなコンテンツはなかったのでしょうか。そのことについて尋ねると、尾崎氏は2015年2月にリリースされたセキュリティソフトの名前を挙げます。
- 尾崎
-
「セキュリティソフトのもつ固いイメージを払拭したい。そして、関心のない層へもアプローチしたい」ということで、“パソコンは猫と守る”がコンセプトの『猫セキュリティ』というセキュリティソフトを2月にリリースしたんです。基本的なところは変えず、スキンなどに使用する画像を猫にしたり、機能のアイコンを猫にまつわるイラストにしました。それがTwitterでものすごくバズり、Yahoo!の急上昇ワードにも載ったりして。
そういう企画が通る、遊び心がある、というのがキングソフトなんです。
スマホと広告で「日本の企業が海外に発信する力になりたい」
従来のセキュリティソフトとは異なる“遊び心”を取り入れたコンテンツのリリースにより、キングソフトの評価は高まります。しかし、これほどまでに従来の“イメージを払拭する”ことに注力する背景には、今までのPCを中心とした事業とは異なるスマホ事業へ方向転換がありました。
- 田口
-
今までの10年はPCがメインだったので、今後スマホにシフトしていくことは、キングソフトにとって大きな方針転換です。
事業自体も「スマホ×広告」とか、新しい分野で上を目指せるようにがんばっていきたい。そして、商品名と社名がイコールでつながるような自社ブランディングもやっていきたい、という時期なんです。
そして「スマホ×広告」事業の第一手となるアクションは、すでにはじまっていました。
- 田口
-
『Clean Master』という“タスクキラーアプリ”をきっかけに、2014年にニューヨーク市場に上場したCheetah Mobile Inc.という企業があります。
実は、もともと中国のKingsoft Corporation Limitedから独立した企業なんです。なので、今でもつながりがあって。2015年の6月には、全世界の広告主に高精度な広告配信を提供することができるCheetah Ad Platformという、モバイル広告配信プラットフォームをCheetah Mobileと一緒にリリースしました。
このように新しい事業展開へと一歩足を進めたキングソフトですが、この事業の魅力はどこにあるのでしょうか。
- 田口
- Cheetah Ad Platformには、ターゲティング広告ができる『Facemark』というビックデータ分析システムを組み込んでいます。これは個人情報を一切取得することなく、ユーザーの利用習慣をデータ分析できる画期的な手法なんですよ。
- 尾崎
-
ターゲティングできる仕組みを簡単に説明すると、いつもユーザーが使っているスマホアプリからデータを解析します。性別や年代によって使っているアプリは少しずつ違ってきますから、それでターゲットの区分わけができるんです。
広告の表示方法にもこだわっています。例えばアプリの使用後に広告が出てくるというような、ユーザーのストレスにならないユーザビリティを心掛けてつくられています。
Cheetah Ad Platformは海外向けの広告配信にも強みをもっています。この理由を「各国の専任デザイナーがクリエイティブを担当しているため」と田口氏は説明します。
- 田口
- 例えば、フランス向けに広告をつくりたいときにフランス人のデザイナーが文言を考えたりして制作します。細かいニュアンスまでバナーに落とし込めるのがメリットですね。
そして、広告を軸としたスマホ事業の展開は、日本企業が海外へ進出するための窓口となります。
- 尾崎
- 現時点で56ヶ国13、4億のユーザーにモバイル広告が配信できるので、日本の企業が海外に進出する際の情報発信の起点になりたいと考えています。