孤高の小説家カミムラ・カズキラ氏に北千住でインタビューして失敗した話

ひゃくいち


孤高の小説家カミムラ・カズキラ氏に北千住でインタビューして失敗した話

<本記事は、ひゃくいち(@tanabe101)がお伝えします>

カミムラ・カズキラ氏に会ってきた。「そんなまさか」と笑われてしまうかもしれないが、あのカミムラ・カズキラ氏に会ってきたのである。

メディアに一切登場しないことで知られる孤高の小説家と対面する舞台に指定されたのは、足立区・北千住駅前のとある大衆居酒屋。土曜日の昼下がりで、人はまばら。座敷の四人席に彼は座っていた。

具体的な容貌については書かない約束になっているので省略するが、かなり特殊なタイプ(いい意味で)ということだけは伝えてしまおう。

ひゃくいち「お久しぶりです。まさかインタビューさせていただけるとは思いませんでした。これ、記事として公開されちゃいますが、ほんとにいいんですか?」

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彼は「どじょうの唐揚げ」を水割り焼酎で少しずつ流し込みながら「うんうん」とうなずき、「足立区出身同士。しかも、天然記念物モノの性癖を持ち合わせてしまった数少ない同志とあれば協力しますよ」と答えた。

わたしと彼とは足立区の東六月町という、ピンセットでつまめそうなほど小さな同じエリアで、ほぼ同じ時期に育った。それが原因なのかは知らないし、詳しくも言えないが、共通の性癖を持ち合わせてしまったというわけだ。で、奇特な性癖の共有というものは、時として何よりも強固な絆になる。

ひゃくいち「では、確認の意味も込めまして、名前、年齢、性別、出身地、職業をお聞きしてもよろしいですか」

カミムラ「カミムラ・カズキラ、33歳、男、足立区、小説家。なんだか、職務質問みたいだね」

ひゃくいち「すみません。インタビューってどうも苦手で」

カミムラ「苦手なのに、よくきたね。まあ、ぼくも苦手だけど。苦手なもの同士がやったってうまくいくわけないな、こりゃ」

ひゃくいち「いちおう、質問は考えてきたんですけど」

カミムラ「どれどれ、見せてごらん。カズキラと『ら』がつくことから複数人のユニットではとの見方もありましたが、どうなんですか。いえ、一人ですね。新作『オイルとリス』では、これまで描くことを避けつづけてきたはずの濃厚な性描写が過剰に盛り込まれていますが、その意図はなんですか。特にありません、一時的な気分ですね。ほら、やっぱり面白くない」

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彼は「とりあえず、何か飲みなよ」と焼酎のロックを作ってくれ、どじょうの唐揚げをおかわりする。

カミムラ「ちなみに、今、当たり前のようにやっていることのなかで、心の底では死ぬほどやりたくないなあって思ってることってなにかある?」

まさかの逆インタビューがはじまった。

ひゃくいち「そうですね。朝起きて、夜寝ることでしょうか。睡眠時間をなくして、その分、寿命を縮めてもらっても構わないので、さっさと生きたいです」

カミムラ「ふむ。奇抜さを狙っている感じがプンプンしてつまらないね。他にはないの? もっと一般的なやつで」

ひゃくいち「……やっぱり、会社へ行くことでしょうか」

カミムラ「働きたくないってこと?」

ひゃくいち「いえ、仕事は好きなんですが、会社へ通うのがどうも苦手で」

カミムラ「なんだ。苦手って程度の話か」

ひゃくいち「いえ、死ぬほどイヤです」

カミムラ「なるほど。きみの『苦手』は『死ぬほどイヤ』なのか。さっき、インタビューも苦手って言ってたけど?」

ひゃくいち「はい、死ぬほどイヤです」

カミムラ「ほう。ちなみに、会社へ行くのはなんで死ぬほどイヤなの?」

ひゃくいち「まあ、個人的な事情で中国やら京都やらを行ったり来たりしなければいけなくて、場所に縛られる生きかたから一刻も早く脱しなければってどこかで思っているからかもしれません。でも、そもそもーー」

カミムラ「なんだ、今のはただの前置きか。で、なに?」

ひゃくいち「わたしは学校も行ってないんですよ。いや、正確には行ってたんですけど。朝のホームルームの出席確認のときだけ顔を出して、そのあとは校舎の隅っこにある男子トイレの個室に入って、なぜか裸になって、帰りのホームルームまでこもって自習してたんです。その時期に形成された人格が、今も残っているのかもしれません」

カミムラ「なるほどね。とりあえず、『裸になって』っていう情報で気を引こうとしたのかもしれないけど、それって余分だよ」

ひゃくいち「すみません」

カミムラ「いえ。まあ、たしかに、学校のあの強制的な一体感みたいなのはぼくも苦手だったかもしれない。学園祭のときなんて特に。『みんなで力をあわせてがんばろう』みたいなこと言い出す男女っているじゃない?」

ひゃくいち「ああ……いましたね」

カミムラ「放課後も遅くまで残ってがんばってる俺たち、わたしたちはえらい!みたいな。で、学園祭のあと、その男女のあいだに子供ができたとかできないとかの噂が流れたりして。結局、イチャイチャやってただけじゃねえかっていう、あの空気感」

ひゃくいち「わたしの学校もそんな感じでした」

カミムラ「わたしの学校って。学校にちゃんと行ってないくせに、自分の所有物みたく言えるなんてすごいね。でもさ、それは学校の話であって、学校と会社は違うんじゃないの? ぼくはどこかの組織に属した経験ってのがなくて、今も小説家として生きているから、会社のことはよくわからないんだけど」

ひゃくいち「うーん。もちろん、違うでしょうね。でも、まあ、似たような部分もありますよ。というか、なんでこんな質問をされたんですか?」

カミムラ「いや、『死ぬほどイヤ』っていうコトバを聞くとさ、『そんなにイヤなら、やらないか、あるいは死ぬか。どっちかにすりゃいいじゃない』って思うんだよね。だから、ウジウジしてる奴を見ると、不思議で不思議で」

ひゃくいち「なるほど。まあ、やめることもできないし、死ぬこともできない。そういうことなんじゃないですかね」

カミムラ「なら、『死ぬほどイヤ』とか気軽に言うなよ。そう思いません?」

ひゃくいち「なんか、すみません」

カミムラ「どじょうってさ、本来はヌルヌルしてるわけじゃない? でも、こうして唐揚げにするとおいしい。サクサクしててさ。高温の油で揚げられて、本来の自分自身の姿を消し去られた末の成果だよね。そういうことでしょ」

ひゃくいち「でも、どじょうって踊り食いもありますよね。ヌルヌルのまま。あと、高温の油で揚げられた時点で、死んでしまってるわけですし」

カミムラ「じゃあ、死ねよ」

ひゃくいち「え」

カミムラ「とりあえず、『死ぬほどイヤ』ってぼくに対して言ったからには、会社を辞めるか死ぬか、どっちかにしてくれたら大丈夫ですよ。どっちも選ばないようだったら、ぼくが殺しにいきますから

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わたしの「ははは」という乾いた笑い声のなか、彼は真顔のままじっとわたしのことを見つめつづけ、不意に「やれやれ」といった大げさな感じで肩をすくめて、立ち上がった。どうやら、彼の心をつかむことはできなかったようだ。

さっさと立ち去ってしまおうと二人分のお会計を済ませ、店を飛び出していく彼にしがみつくように、「じゃあ、あなたは当たり前のようにやっていることのなかで、心の底では死ぬほどやりたくないなあって思ってることってなにかあるんですか?」と聞き返した。

カミムラ「しつこいな。死ぬほどやりたくないなら、当たり前のようになんてやるわけないでしょ。どうしてもやれっていうなら、やらないか、死ぬかだ」

そう言うと、彼は意外にも笑った。その笑顔はあまりにも清々しく、実は「当たり前のようにやれているのなら、その時点で死ぬほどイヤというわけじゃないんだよ」という彼なりのエールなんじゃないかと感じられたほどだ。

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わたしは彼に殺されるのかもしれない。

ひゃくいち
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ひゃくいち

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