「シンプルにすることが、人間にとっての幸福につながる」人の魂に響く体験をデザインする会社| ZEPPELIN

「シンプルにすることが、人間にとっての幸福につながる」人の魂に響く体験をデザインする会社| ZEPPELIN

タクロコマ

タクロコマ

利用ユーザー数1000万人を突破し、グッドデザイン・未来づくりデザイン賞を受賞したNTTドコモの『しゃべってコンシェル』や、CASIOの電子辞書『EX-word』、ワコムの最新のペン技術を搭載した東芝製Windowsタブレットアプリ『TruNote』のデザインなど、テレビ・スマートフォン・タブレット・PCなどの機器(=ハードウェア)の中に組み込まれているソフトウェアの設計をしている株式会社ZEPPELIN

ZEPPELINで代表を務める鳥越康平氏に、起業の背景や同社が掲げる“WE CREATE BEAUTIFUL WORLDS(美しい世界をつくる)”、“100年続くシンプルさ”、“心に響く体験をデザインする”といった価値観について、そして未来に見据える壮大なビジョンについてお話を伺いました。

Poole:アイコン:01 人物紹介:鳥越 康平氏
佐賀県生まれ。京都工芸繊維大学、工芸学部造形工学科卒業後、韓国サムスン電子にてデザイナーとして携帯電話などの最先端機器の開発に従事。帰国後2005年10月にZEPPELINを設立。幼少期からデザインに興味を持ち、独立後は様々なグローバル企業の携帯電話や電子機器のデザイン、ブランディングなどを行う。現在は、デザインを軸に、ビジョン形成や新しい事業の創出、企業の価値を伝えるブランドデザインを行っている。

「シンプルな世界で精一杯何かに打ち込んで生きていくほうがいい」充足感は人を幸せにする

ZEPPELIN様:記事001

2005年に設立され、今年で10年の節目を迎えるZEPPELINですが、いったいどのような経緯で鳥越氏は起業したのでしょうか。

鳥越
前職は大手企業でデザイナーをしていました。起業するきっかけは、私たちのビジョンWE CREATE BEAUTIFUL WORLDSにあります。現代は“情報”や”もの”がどんどん増えてきて複雑化している時代ですよね。製品やソフトウェアも、ものすごく多種多量です。
そんな時代に、どうやって生きていくことが自分たちにとっての“幸せ”なんだろうと。幸せって、明確な答えがありません。
だから、物事が入り乱れた社会でそれを選ぶことは、じつはすごく難しくなっています。この問いを根底に持ちながら、会社という組織で答えを見つけていこうとしたのが起業のきっかけです。

幸せとは、一人ひとりの価値観や考え方で変わるもの。ZEPPELINでは、クルー(=社員)それぞれが“美しさ”を覚える感覚に、幸せになるヒントがあると考えています。

鳥越

僕が考える美しさとは“物事を研ぎ澄ます”ことです。追い求めているのは、さまざまな情報やものの中から、本当に必要な要素だけを選んだ先にある究極のシンプルさ。その先に美しい世界があるのではないか、と思っているんです。
例えば街中の、ごちゃごちゃとした看板や建物、あるいは組織の制度や仕組みをもっとシンプルにできると思う。“シンプル=美しい”という世界になるとしたら、いろんな物事が複雑に絡み合う今の世界が、わかりやすくなる。
そうしたら、どんな世界が待っていると思いますか? 僕は、
わかりやすくかつシンプルにすることが、人間にとっての幸福につながるんじゃないかと思っています。 人間って、じつは悲しくても充足感を感じる生き物なんです。だからやっぱり、複雑な世界であれもこれもとやっていくよりも、シンプルな世界で精一杯何かに打ち込んで生きていくほうがいい。生き抜いている感覚を覚えて、幸せになるんじゃないかなあと。

当時はまだ7名ほどしか社員がいないとき「WE CREATE BEAUTIFUL WORLDSというビジョンは、頭を悩ませながら、みんなで考えた」と鳥越氏は話します。

鳥越
半年ほどかけて、ビジョンとロゴを制作しました。でも、いざWE CREATE BEAUTIFUL WORLDSというビジョンを掲げてみると、それをどうやって実現していくのかわからなくて。自分たちの行動にはまったく起こせなかったんです。
そのまま2年くらいはビジョンだけがひとり歩きしている状態で。「このビジョンは何のためにあるのだろう」「自分たちの日常の業務にどう活かせばいいんだろう」と、僕を含めたクルーは掲げた理想が腹に落ちない感じ。これが原因で、クルー同士の価値観が共有できなくなることもありました。次第に、組織の進む方向がブレていったんです。


前職では大手企業でデザイナーをしていたという鳥越氏。そのため「基本的にデザイナーは経営者には向かない」と、自戒の念を込めて当時を振り返ります。

鳥越
日本のデザイナーが会社をやるときは、組織がブレないように気をつけたほうがいい。なぜかというと、デザイナーは社会のいろんなところを見て問題を探してしまうから。興味関心の幅が広く、しかも多岐に渡るんです。具体的にはウェアラブルデバイスとか、新しいソフトウェアをつくりたいとか。
クルーたちの視点から見ると、リーダーが何を目指しているのかわからなくなってしまうので、組織は崩壊に向かいます。


会社として進む道を指し示し、組織として歩幅を揃えて歩む体制ができたのは、つい最近のことだそう。ビジョンを達成するための「哲学と思考、そして行動指針を言語化した」と鳥越氏。

鳥越


これまではZEPPELINの価値観を表すものは、最高層に位置するビジョンと「こうしてほしい」とデザインを指示する最下層のアクションしかなかった。つまり、ビジョンとアクションをつなぐ“哲学”や“思考”が抜け落ちていたということです。
だから、鳥越康平はなぜこういうことを言い出すのか、みんなわからなかったんです。具体的にいうと、ある日突然「机周りやトイレを綺麗に掃除しよう」と僕が言う。けれども、それがどう“美しい世界”につながっているのかわからない。クルーたちは、ビジョンに向かってそれぞれの感覚でアクションを起こしていました。


組織内で意思を統一し、みんなが同じ方向に歩みはじめるまでに2年の歳月をかけたといいます。

鳥越
美しい世界をつくるというビジョンがあって、「できるだけシンプルに物事を考えていこう。その先に人間の充足感を満たし、幸せが導かれるはずだ」と考える哲学がある。その下層には哲学を実現するための思考があり、ここにはデザインの要素がふんだんに入ってくるんですね。
ここからさらに細かいアクションに落とし込んでいきます。資料のつくり方やお客様への提案の仕方、掃除のやり方とかですね。ここまでを、今やっと言語化できてきたというところです。

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