第68話

沙村広明という「絵師」の鉛筆画にとにかくシビれる『無限の住人』


沙村広明という「絵師」の鉛筆画にとにかくシビれる『無限の住人』

こんにちは、外部ライターの無一です。

先日、『京都日本画新展』という展示会に行ってきました。頻繁に絵を見に行くわけでもない自分でも、日本画の美しさに嘆息……してしまいました。好きな絵というのは見飽きないもので、見ているうちにその線がじんわりと生を宿して動きはじめるんじゃないかと思えてくるくらいです。
そういう好きな絵と出会えたときの衝撃はずっと心に残るもので、いつかはこの絵師さんの絵を買って毎日眺めて過ごしたい、という夢が生まれます。

さて、そんな私にとって「好きな絵師」の代表格である沙村広明先生の作品を、今回も紹介したいと思います。

本日紹介する漫画『無限の住人』第1巻

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無限の住人 1(アフタヌーンコミックス)

剣術道場のひとり娘・浅野凜はある日突然、謎の剣客集団「逸刀流」に両親を惨殺される。統主・天津影久を討ち仇をとることを誓うが、いかんせん年端もいかない三つ編みの小娘ひとり。そこで百人斬りの異名を持つ用心棒・卍(まんじ)を雇うこととなる。
この卍こそ、八尾比丘尼によって不死身の身体を与えられた人物であった……。

と、あらすじはこんなところなんですが、とにかく感じていただきたいのは、沙村先生独自の絵の世界観です!

中学生ながらにシビれた! 沙村広明という絵師の殺陣絵

第1巻が発売された頃、私は中学生だったのですが、書店で表紙を見たとき「なんだこれは!」という衝撃が走ったのを今でも覚えています。だって表紙にドン! と描かれている主人公の線、鉛筆描きですよ?

漫画といえば、Gペンとか丸ペンにインクをつけて描かれている……ということは漫画が好きな子どもなら常識です。第一、鉛筆の線って下描きのためのもので、ペンを入れたら消すものですよね?

興味をひかれ読んでみたら、ストーリーが面白いのはもちろんのこと、随所に鉛筆画が挿入されていて、これまでの漫画雑誌やコミックスでは見たことのない「絵画的な表現」に大興奮しました。ジャケ買いならぬ表紙買い、大正解。

更に、各話のクライマックスでの剣士たちの斬り合いシーンでは、見開きや1ページブチ抜きでこの鉛筆画がくるわけです。コマはベタで縁取られ、まるで額装されているようです。斬り合いの最も血湧き肉躍るその頂点、瞬間を切り取り紙面に写し取る技が感じられるんですよね!
そう、1枚の絵画としても成立する見せ方を確立させている、沙村広明という漫画家は、まさに「絵師」。出会えた奇跡ありがとう! この感動はぜひ実際にコミックスをお読みください。

そしてその作画風景が、こちらの動画からご覧いただけます。


こんな風にあの絵が仕上がるんですね・・・。というか、こんな描き方があるんだ! と驚きました。

マッドな浮世絵師・宗理先生に作者自身の影を見る

第1巻で私が特に好きなのは浮世絵師・宗理先生登場の回です。

「絵師」という人種はね・・・お凛ちゃん 常に新しい物に刺激されていないとその感性がすぐにサビついてしまう 私にとってはそうだな・・・例えば西洋の絵画や銅版画だ

表向きは一介の浮世絵師である宗理先生は実は江戸幕府の隠密。自分の「刺激」のために、剣の腕を磨き全国を旅して情報収集をしています。ときには幕府に対抗する不穏分子を斬ったり、ご禁制の輸入モノ(それこそ西洋の絵画や銅版画)を所有していた仲間の絵師をも売ったことでしょう。

そんな宗理先生が長年追い求めてきた赤い絵の具の色(先生曰く「根源の色」)は、まさに人間の生き血の赤だったということを斬り合いの中で発見し、歓喜します。
そんな彼のマッドなところが、「責め絵」を描く参考にと、自らもモデルの女性を傷つけた経験のある沙村先生自身の姿に重なるのです。(ちなみに先生自身はその経験を通し「自分は実際に手を下す側は向いていない」と気づき、それ以降はされていません。)

なんだかヤバいキャラクターじゃないか宗理先生、と思われてしまいそうですが、後に主人公たちを助けてくれたりもするいい男ですのでご安心ください。アブないのは裏の顔だけ……。

さいごに

そんなわけで今回は、沙村先生の絵の美しさと、ちょっと奇抜な世界観をおすすめする回でした。

アブない一面を持つ男に惹かれる……それが女というもの。2巻以降もどんどんアブない男やそれに惹かれるアブない女が登場してきます。これからゆっくり、無限の世界を歩いていきましょう\(^o^)/


この記事を書いた人

無一
主に歌舞伎役者とバンドマンの尻を追いかけています。

実家の両親が娘の名前でリサーチをかけていて、以前ブログが見つかってしまった時には「今後の見合いに悪影響を及ぼすからすべて消せすぐ消せ」と差し迫った勢いで連絡してきたため、顔出しは控えさせていただきます。

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