漫画チャンネル
第43話

名ゼリフに見る『ワールドトリガー』の冷静と情熱 太刀川さん篇vol.1


名ゼリフに見る『ワールドトリガー』の冷静と情熱 太刀川さん篇vol.1

どうも、外部ライターのほあし(@hoasissimo)です。

漫画を読んでいると、心に強く残る「名ゼリフ」に出会うことがありますよね? 今回はそんな「名ゼリフ」を軸に、『ワールドトリガー』という作品の魅力を掘り下げて語ってみたいと思います。

(以下、一部ネタバレを含みます)

白熱するB級ランク戦『ワールドトリガー』

61YClFmhMtL._SX320_BO1,204,203,200_ 2
ワールドトリガー 12 (ジャンプコミックス)

単行本10巻以降では、B級ボーダー隊員らによる「B級ランク戦」を中心にストーリーが展開されます。

「ランク戦」とはボーダー隊員としての実力を高めるための模擬的な戦闘訓練であり、B級ランク戦で優秀な成績を得たチームだけがA級昇格への挑戦権を得られる、という仕組みになっています。そして、A級に所属するチームだけが「近界(ネイバーフッド)」遠征部隊に選抜されるチャンスが与えられます。

ランク戦は他の隊員たちも観戦可能で、さらにスポーツのテレビ放送のように「実況」と「解説」役が毎回設定されています。
解説役になるのはA級部隊の隊員が多いのですが、高い戦略眼を持つ彼らの解説を聞きながら観戦することで、他の一般の隊員たちの戦略眼を養おうという狙いによるものです。

今回取り上げるのは、そんな解説役としてB級ランク戦を観ていた太刀川慶(たちかわ けい)というキャラクターの名セリフです。

「気持ちの強さは関係ないでしょ」

太刀川さんは、A級1位部隊「太刀川隊」の隊長にして、ボーダーNo.1攻撃手(アタッカー)。つまり、通常のボーダー隊員としてはほぼ最強と断言していいキャラです。

そんな彼が解説役として観戦していたのが、「玉狛第二」「鈴鳴第一」「那須隊」の3チームによる「B級中位ランク戦」。その中で、鈴鳴第一の攻撃手・村上鋼(むらかみ こう)と、那須隊の攻撃手・熊谷友子(くまがい ゆうこ)が激突します。

実力でいえば村上のほうが完全に格上なんですが、「ボーダーを脱退することになったチームメイトのために意地でも勝ちたい」という事情がある熊谷は、普段以上に気迫のこもった戦いを展開。
これを見た実況役は「今日の那須隊の戦いにはいつもよりさらに気持ちがこもっているように感じます!」と称賛するんですが、これを聞いた太刀川さんは一言、

「気持ちの強さは関係ないでしょ」

という、作品内の最強キャラが口にするにはあまりにも不穏当な言葉で一蹴。そして

「勝負を決めるのは戦力・戦術、あとは運だ」
「気持ちの強さだけで戦力差がひっくり返ったりはしない」
「気合いでどうこうなるのは実力が相当近いときだけだ」
「もし気持ちの強さで勝ち負けが左右されるってんなら、俺が1位になれるはずがない」

という身も蓋もない、夢も希望も救いもない言葉を続けます。
結局、彼の言葉通りにというんでしょうか、熊谷は粘りに粘って善戦したものの、村上にほとんど何の手傷も負わせられないまま敗北します。

『ワールドトリガー』に漂う「アンチ少年漫画」的冷静さ

これ、わたしが最初に読んだときはあまりのカッコ良さに本当にシビレたんですが、いわゆる「普通の少年漫画」の文法としてはありえない流れなんですよね。

普通なら「気持ちの強いほうが勝つ」って言うに決まってるんですよ。

そもそも、本来なら遠く及ばないはずの強敵を“気持ちの強さ”で乗り越えるというのが、少年漫画というジャンルの大きな魅力のひとつ。その展開を逃す手はないわけです、普通は。

しかし、前回の記事で書いたような「地に足つきすぎた地味な設定」「クレバーなバトル」「集団戦の面白さ」という推しポイントも含め、この作品は普通の少年漫画的な面白さへのアンチテーゼに溢れまくっています。

従来の少年漫画が描いてきた魅力とはほぼ正反対の、地味で堅実で論理的で現実味が強いアンチ少年漫画的冷静さをその魅力として打ち出しているわけです。

ただし、こういうタイプのバトルを描く作品が少年漫画の主流ではなかったというだけで、決してこの手法が邪道というわけではありません。
「強いキャラはそう簡単に負けたりせず、きちんと強くあってほしい」「“気持ちの強さ”などの曖昧なもので実力差がひっくり返ったりしたら興醒めだから、納得できる筋書きで勝負を描いてほしい」という気持ちもまた、読者のなかには当然あるわけです。

『ワールドトリガー』は、まさにそういう方面の面白さを深く追求した、少年漫画らしからぬ少年漫画なのだと思います。

まとめ

次回は、太刀川さんのセリフの「続き」をご紹介します。これ、実はもう少しだけ続きがあるセリフで、そこでは今回語ったような「冷静さ」とは少し違った、本作の「情熱」とも言えるような一面が見えるんです。

この記事を読んで「この太刀川とかいうやつちょっと冷酷すぎるでしょ、好きになれないわ」と思った方、たぶんいらっしゃると思います。そんなあなたにこそ読んでいただきたい内容なので、乞うご期待!
 

hoashi ライター紹介:ほあし
関西に住む、少年マンガをこよなく愛する男。とりわけ『BLEACH』については尋常ではない思い入れがある。『BLEACH』についてひたすら語るための個人ブログ「Black and White」を更新中です。よろしければこちらもぜひ!

この記事を書いた人

ほあし
関西に住む、少年マンガをこよなく愛する男。とりわけ『BLEACH』については尋常ではない思い入れがある。

ブログ:Black and White(http://hoasissimo.hatenablog.com/)