第25話

「お笑い」というテーマだからこそ描けるプライドと葛藤『べしゃり暮らし』vol.1


「お笑い」というテーマだからこそ描けるプライドと葛藤『べしゃり暮らし』vol.1

こんにちは、外部ライターのズイショです。

この度LIGブログより「漫画を題材に記事を書いてみないか?」との打診を受けまして、「ひとつの作品についてしつこく何度でも何度でも言及していいですか?」と質問をしてみたところ「1万1回目は何か変わるかもしれない」という大変ポジティブな回答を頂きました。

そんなわけあるかよ、賽の河原で1万回ほど小石を積ませたろか。それでお前は1万1回目には牛鬼が小石を崩しに来ないと本当に思えんのか、と問い詰めたくなりましたがグッと飲み込みました。

というわけで掲題の通り、気が済むまで漫画の話をする寄稿を「連載」として始めることと相成りました。
今回取り上げますのは森田まさのり作『べしゃり暮らし』です。どうぞみなさまよろしくお願い致します。

『べしゃり暮らし』とは?

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べしゃり暮らし 19 (ヤングジャンプコミックス)

『べしゃり暮らし』は、主人公・上妻圭右(あがつま・けいすけ)と後に相方となる辻本潤(つじもと・じゅん)を中心に、「お笑い」に情熱を注ぐ若者たちを描いた青春群像劇です。

作者は不良漫画の金字塔『ろくでなしBLUES』や、実写ドラマ化・映画化でも記憶に新しい高校野球漫画『ROOKIES』でお馴染みの森田まさのり先生。
禁煙始めて20年近く経ってるのに、未だに柱コメント(ページ両サイドの余白にあるスペース)に禁煙継続日数を書くあたり、かなりお茶目でかわいい人なんだと俺は信じてます。

2005年に週刊少年ジャンプで連載をスタートし、その後ヤングジャンプへ移籍。不定期な連載ペースにどぎまぎさせられながらも今年2015年、遂に大団円を迎えた作品です。

「お笑い」というテーマのハードルの高さ

『べしゃり暮らし』連載以前からも、ダウンタウン・松本人志さんへのリスペクトを表明するなど、お笑いへの関心の強さを覗かせていた森田先生。
それゆえ「お笑い」をテーマとした本作を描くに至ったのもある種自然な流れであったのですが、それでもやはり、いちファンなりの不安もあったわけです。

連載が始まった当時、世はまさにお笑いブーム。2001年から始まったM−1が年末の風物詩として定着し、「お笑い」を題材にした漫画も各誌でちらほらと始まるも、その「笑いを描く難しさ」ゆえにひっそりと終わっていく。そんな時代でした。

例えば「お笑い漫画」では、作中の笑える台詞もすべて「面白いとは何か?」という作品全体を貫くテーマ踏まえ、読まれてしまいます。それだけで「面白い」のハードルはぐぐっと上がってしまう。作中でお客さんにウケていても、読者が笑えなければどうにも嘘くさい。お笑いを描くのって、きっととても難しいんです。

そんな不利な条件のなか、果たしてほんとにうまく描けるの? うまく描いたその先にいったい何があるの?
それまで立て続けに人気作を手がけていたヒットメーカーであればこそ、シリアスなストーリー展開の合間に絶妙なユーモアを織り交ぜる森田先生であればこそ、わざわざ『べしゃり暮らし』なんて難しい作品に挑む必要があるのだろうか?

そんな疑問すらもが伏線の一つなのではないかと疑いながら、僕は10年に渡る連載を追いかけ続けました。

「譲れないプライド」と「ウケるが勝ち」

連載を読み進めれば読み進めるほどに、そこにはある種の必然があったのだということを僕は痛感します。
それまでも男の信念と情熱を描き続けてきた森田先生、彼にはどうしても「お笑い」で描かなくてはならないことがあったのだと。

考えてみれば男がやってることなんて、人間がやってることなんて、いつだって同じです。自分の中で決して曲げられない思い、「譲れないプライド」と、その前に立ちはだかる現実。立ちはだかる現実というのはまた、別の誰かの曲げられない思いが形になっているだけなのかもしれません。

そんな現実をただ力任せにぶっ飛ばせればどれだけ気持ち良いことか。
しかし実際にはなかなかそうもいかず、それは相手もまた同じ人間であればこそ。

自分をただがむしゃらに貫き通すのではなく、一番守らなくてはならない自分のプライドは何かを絶えず確認しながら、変化を恐れず曲げられるところを曲げながら生きていくのが、人間という生き物ではないでしょうか。
そう考えた時に、どう思われようと内心どう思ってようとともあれ「ウケるが勝ち」の世界に身を投じる「芸人」という人種はどれほど潔いものでしょう。

まとめ

貫きたい自分と、捨てなくちゃならない自分。僕らみんな、まるっきりそんなことばかりで悩んでるよなと、僕なんかは思うんです。
そう考えたとき、俺は面白いんだという絶対に捨てられないプライドを胸に秘めながら、ウケるなら他のものなんか全部捨てちまえと考える芸人って、その究極みたいな存在なんだと思うんです。

この作品には、そんな相反する二つの思いを綯交ぜに抱えながら自分の生きる道を模索し、覚悟し、決断する人々が数多く登場します。
次回以降はそんな『べしゃり暮らし』に登場する人物たちの魅力を、グダグダと気が済むまで語っていく予定です。

どうかお付き合いのほどよろしくお願い致します。以上です。

 

zuishoaki (2) ライター紹介:ズイショ
貴方の寿司に僕の寿司をぶつけたい憎らしい白い犬。白い。
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